ワキガとは、いわゆる脇の下の強い体臭のことです。思春期以降に男女を問わず発症しうるもので、本人にとっても周囲にとっても深刻な悩みとなりえます。特に日本人は体臭が少ない方が多いため、ワキガ体質の方は少数派であり、日常生活で強いストレスを感じることもあります。本記事では、ワキガの原因や診断方法、治療としての手術の種類と具体的な方法、効果や合併症、そして術後の経過や皮膚の状態について解説します。
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山梨大学卒業。昭和大学藤が丘病院 形成外科、群馬県立小児医療センター 形成外科、聖マリア病院 形成外科、山梨県立中央病院 形成外科などで経歴を積む。現在は昭和大学病院 形成外科に勤務。日本乳房オンコプラスティックサージェリー学会実施医師。
ワキガの概要

ワキガには正式な病名がありますか?
はい、ワキガの正式な医学的名称は腋臭症です。腋臭症とは、腋の下から独特の不快なにおいを放つ状態を指します。ワキガ体質のにおいは遺伝的な要因もあり、実際優性遺伝によって親子で現れることが多いことが知られています。日本人を含む東アジア系では患者さんは全体の約10%ですが、白人や黒人ではほとんどの方にワキガがあります。このように、日本では腋臭症は珍しく周囲の目も厳しくなりがちなため、治療を検討する方も少なくありません。重度の腋臭症と医師が診断した場合は健康保険が適用され、手術による治療も可能です。
ワキガの原因を教えてください
ワキガのにおいの直接の原因は、
アポクリン汗腺という汗腺から出る汗と皮脂が皮膚表面の細菌によって分解され、におい物質が生じることです。アポクリン汗腺は脇の下や外耳道、乳輪、陰部などに分布する汗腺で、思春期以降に性ホルモンの影響で活発化します。
アポクリン腺の汗そのものは無臭ですが、脂質やタンパク質を多く含みます。この汗や皮脂が常在菌(主にコリネ菌など)の作用で分解されると、3-メチル-2-ヘキセン酸などの臭気成分が発生し、特有の強い体臭となります。ワキガ体質の方は一般にアポクリン汗腺の発達がよく数も多いため、汗の分泌量が多く、臭いも強く出る傾向があります。なお、耳の中にもアポクリン腺があるため、耳あかが湿ってベタつく方はワキガである可能性が高いことが知られています。
ワキガはどのように診断しますか?
ワキガの診断は、患者さんの自覚症状と医師による他覚的評価を総合して行います。まずは皮膚科や形成外科の医師による問診で、本人や家族の耳垢の状態、家族歴、日常で他人から指摘されたことがあるか、といった点を確認します。加えて、診察室で実際ににおいの強さを評価する検査を行うことがあります。典型的なのはガーゼテストと呼ばれる方法で、患者さんの脇にガーゼをしばらく挟んで運動などで発汗させた後、そのガーゼの臭いを医師や看護師が嗅いで判定します。臭気の強さは5段階(レベル1〜5)で評価されます。
ワキガ手術の種類と方法

ワキガ手術にはどのような種類がありますか?
ワキガの治療には手術以外の方法も存在しますが、ここでは
手術的な治療法を中心に説明します。大きく分けると、
皮膚を切開して直接汗腺を除去する方法と、
小さな穴から器具を用いて汗腺を破壊・吸引する方法、そして
メスを使わないエネルギー機器による治療に分類できます。
このように複数の治療法がありますが、それぞれ効果や持続性、ダウンタイム(術後の安静期間)、傷跡の大きさなどに違いがあります。次の質問では、それぞれの方法の具体的な内容についてもう少し詳しく説明します。
ワキガ手術の種類別に方法を教えてください
ワキガ手術の種類は、皮膚を切開して直接汗腺を除去する方法と、小さな穴から器具を用いて汗腺を破壊・吸引する方法、そしてメスを使わないエネルギー機器による治療に分類できます。
順に説明すると、まず代表的なのが直視下剪除法(せんじょほう)(直視下皮弁法とも)と呼ばれる従来からある手術法です。これは脇の下を数cm切開し、皮膚の裏側から医師が直接アポクリン汗腺を目で確認しながら取り除く方法です。もう一つは吸引法に代表される小切開による手術で、脇に数mm〜1cm程度の小さな切開を入れて細い管(カニューレ)を挿入し、皮下組織内の汗腺を掻爬(そうは)・吸引する方法です。
加えて、手術とは少し異なりますが、皮膚を切らずにマイクロ波エネルギーを照射して汗腺を破壊する機器治療(ミラドライ)や、ボツリヌストキシン毒素の注射療法も選択肢として存在します。これらの治療法のなかで、現在、保険適用となっているのは剪除法のみで、そのほかは自由診療となります。
ワキガ手術の効果と合併症

ワキガ手術をすればにおいが気にならなくなりますか?
はい、適切に治療を行えば多くの場合で臭いの大幅な軽減が得られます。特に、剪除法のように直接汗腺を除去する手術では、1回でほとんど臭わない状態になる患者さんがほとんどです。ただし、完全に100%の臭いをゼロにすることは難しい点には留意が必要です。というのも、脇には広範囲に汗腺が分布しており、外科的に可能な範囲で汗腺を取ってもごく一部は残存しうるためです。そのため手術後にわずかに残った臭いを本人が敏感に感じる場合もあります。
ワキガ手術の効果を測定する方法を教えてください
ワキガ治療の効果判定には、術前後の臭いの強さを比較する評価が用いられます。臨床的には、先述のガーゼテストを再度行い、術前はレベル5だった方が術後にレベル2になった、といった形で臭気レベルの低下を確認する方法があります。患者さん自身の体感や、家族など周囲の方の反応の変化も重要な指標です。一方、臭いの感じ方には主観が入るため、より客観的に測定する試みもなされています。例えば専門の医療機関では、臭い成分を分析する装置で揮発性化学物質の量を数値化したり、臭気判定士が関与して評価したりするケースもあります。
ワキガ手術後は再発しませんか?
適切な手術が行われれば再発のリスクは低いとされています。剪除法の場合、先述のように一度の手術で大部分の汗腺を取り除けるため再発はまれであり、経験豊富な医師のもとでは再発率を限りなくゼロに近づけることも可能です。ただし、完全にゼロとはいい切れず、わずかに残った汗腺が肥大化したり活発化したりすると将来的に臭いが気になる可能性は否定できません。特に若年のうちに手術を受けた場合、その後の思春期でアポクリン腺がさらに発達すると再度臭いを感じるようになるケースもあります。一方、吸引法や機器治療(ミラドライなど)は剪除法に比べて汗腺の除去が不完全になる場合があります。そのため、必要に応じて追加治療を行うこともあります。
ワキガ手術の合併症を教えてください
ワキガ手術も外科手術である以上、いくつかのリスクや合併症が存在します。主なものとして下記の合併症が挙げられます。
- 傷跡(手術痕)が残る
- 出血が溜まって血腫ができる
- 感染症を起こす
- 皮膚の壊死
- 傷口が開く
以上のような合併症はゼロではありませんが、術式の工夫や適切なアフターケアで多くは防ぐことができます。不安な点があれば事前に十分相談し、納得したうえで治療に臨んでください。
ワキガ手術後の経過と肌の状態

ワキガ手術は入院が必要ですか?
手術法や病院・クリニックの方針によって異なります。クリニックではワキガの手術を局所麻酔で片側もしくは両側行い、その日のうちに帰宅できる日帰り手術が一般的です入院施設のある病院では、剪除法術後の出血や血腫などの合併症リスクを減らすために、数日程度の入院をすすめる場合があります。全身麻酔で手術を受ける場合や患者さんが遠方から来られる場合などは、安全のため短期入院とするケースがあります。
ワキガ手術後の経過を教えてください
ワキガ手術(特に剪除法)を受けた後は、
一定期間安静を保つことがとても重要です。術式やクリニックの方針によって多少異なりますが、一般的な経過の一例を示します。
手術直後~翌日
手術後は脇の下を厚くガーゼや包帯で圧迫固定します。傷からの出血や腫れを防ぐため、最低2日間程度はこの圧迫を維持します。両脇を開いた状態で固定するような姿勢となり、腕を大きく動かすことはできません。
術後1週間前後
10~14日ごろに抜糸を行います。まだ、腕を肩より上に挙げる動作は禁止で、重い物を持つなど負荷のかかる動きも避けます。
術後2週間
徐々に日常生活に復帰していきます。術後約2週間は両腕を高く上げたり激しい運動は控える必要があります。
術後1ヶ月以降
日常生活の制限はほぼ解除され、通常どおり腕も動かせます。傷の赤みは徐々に茶色っぽく落ち着き、術後3ヶ月頃から傷跡が周囲の皮膚になじみ始めて目立ちにくくなってきます。
以上は一例ですが、術後経過には個人差があります。医師の指示を守り、傷が完全に治るまで無理をしないことが大切です。万一、強い腫れや痛み、発熱や傷からの膿が出るなど異常があればすぐ受診しましょう。
ワキガ手術で傷痕は残りますか?
まったく傷跡を残さないことは難しいですが、術後合併症なく順調に治った場合、時間経過と適切なケアでほとんど気にならない状態にまで改善することが多いです。剪除法の場合、脇の下にできる切開線の傷跡(長さ数cm)は避けられませんが、前述のとおり脇のしわと同じ方向に切開するため、傷跡はしわに紛れて目立ちにくくなります。もちろん、体質や術後の傷のケアによって傷の治り方や傷跡の経過は異なり、なかには瘢痕がやや厚く残ったり皮膚がひきつれて伸ばしにくくなったり(拘縮)、色素沈着が完全には消えなかったりすることもあります。
編集部まとめ

ワキガで悩む方は少なくありません。その程度が強ければ、治療の選択肢はさまざまです。特に症状が強い場合は、ワキガ手術を行う方もいます。ただし、手術にはリスクも伴うため、信頼できる医療機関で十分に相談してから受けることが大切です。術後の安静や傷跡ケアをきちんと行えば、合併症の予防と傷跡の軽減につながります。