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「女性が梅毒」を発症するとどんな「症状」が現れる?初期症状も解説!【医師監修】

 公開日:2025/07/10
「女性が梅毒」を発症するとどんな「症状」が現れる?初期症状も解説!【医師監修】

近年、日本では梅毒の患者さんが急増しており、特に若い女性の感染が大きな問題となっています。一方で梅毒は気付きにくく、ほかの病気との区別が難しい病気です。梅毒は早期に治療を行えば多くの場合後遺症を残さず治癒することが期待できますが、放置すると重篤な合併症を引き起こすリスクがあります。本記事では、梅毒の基本的な知識や症状、どのような後遺症がおこりうるかなどをわかりやすく解説します。

高橋 孝幸

監修医師
高橋 孝幸(医師)

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国家公務員共済組合連合会 立川病院 産婦人科医長。大阪市立大学卒業後、慶應義塾大学大学院にて医学博士号を取得。足利赤十字病院、SUBARU健康保険組合 太田記念病院、慶應義塾大学病院の勤務を経て、現職。理化学研究所 革新知能統合研究センター 遺伝統計学チーム/病理解析チーム 客員研究員。診療科目は産婦人科、消化器内科、循環器内科。日本産科婦人科学会専門医・指導医。専門は婦人科腫瘍、がん治療認定医、日本産科婦人科学会内視鏡技術認定医(腹腔鏡)、ロボット支援下手術など。診療科目は産婦人科、消化器内科、循環器内科。

梅毒の概要

梅毒の概要

梅毒はどのような病気ですか?

梅毒梅毒トレポネーマと呼ばれる病原体が引き起こす感染症です。主に性的な接触によって感染します(性感染症)。梅毒という名前は、患者さんに現れる赤い発疹(ほっしん)が楊梅(ヤマモモ)に似ていることにちなんで付けられました。梅毒は、さまざまな全身の症状を引き起こし治療が遅れると重大な合併症を起こすことのある病気です。

梅毒の原因と感染経路を教えてください

梅毒の原因は梅毒トレポネーマと呼ばれる病原体です。この細菌に感染している方は、皮膚や粘膜に潰瘍(かいよう)や発疹(ぶつぶつ)などがあり、これらの場所に梅毒トレポネーマがたくさん存在しています。主に性的な接触で皮膚や粘膜が触れ合うことで人から人へ感染します。

具体的には、陰茎や膣(ちつ)、肛門、口などの粘膜どうし、あるいは粘膜と皮膚どうしが直接触れる性交渉(性交、オーラルセックス、アナルセックスなど)でうつります。まれにキスでも相手の口の中に梅毒の病変があれば感染することがあります。

妊婦さんが梅毒に感染すると、胎盤を通じて赤ちゃんにも感染してしまうことがあります(母子感染)。

1年間の女性梅毒感染者数は何人ですか?

国立感染症研究所感染症疫学センターの発表によると、1年間の女性梅毒感染者数は令和4年(2022年)は約4500人でした。令和5年(2023年)には約5300人過去最多の報告数でした。梅毒が発生した場合、日本では1948年から報告する制度がありますが、梅毒患者さんの報告数は年々増加しています。女性の患者さんの数は男性に比べ割合は低いものの、若い方を中心に増加傾向が続いています。令和3年(2021年)は約2700人であったため、わずか2年で倍増しており、政府からも注意喚起がなされています。

女性が梅毒に感染したときに現れる症状

女性が梅毒に感染したときに現れる症状

梅毒に感染した際の初期症状を教えてください

梅毒の初期はⅠ期といわれ、梅毒に感染してからおおよそ3週間前後初期症状が現れます。典型的な初期症状は、感染が起きた部位(唇や口の中、陰部、肛門)にしこりや潰瘍(かいよう)ができます。潰瘍はただれて深い傷のようになっている病変を指します。また、そのほかには、鼠径部(そけいぶ)といわれる足の付け根部分のリンパ節が腫れることがあります。

梅毒の症状はどのように進みますか?

梅毒の症状は段階ごとに変化していきます。治療をせずにⅠ期を過ぎ、感染から約3ヶ月以降になると、Ⅱ期となります。この時期には、病原体である梅毒トレポネーマが血流に乗って全身へ広がっています。手のひらや足の裏、胸・お腹・背中など身体の中心部分など、全身の皮膚にさまざまな発疹が見られることがあります。小さなバラの花びらに似た発疹(バラ疹)が現れることがあります。発疹は梅毒が治らなくても数週間でいったん消えたり、また出て来たりを繰り返すことがあります。

その後、Ⅱ期を過ぎてから、しばらく症状のない期間が続きます。この期間は数年から数十年とさまざまです。この症状のない時期は潜伏梅毒と呼ばれ、感染力は大幅に低下しますが、感染から1年以内の早期潜伏期では他者や胎児へ感染する可能性が残ります。

梅毒はこのように症状がなくなり治ったかのように見えながら進行していきます。しかし、治療がなされないまま無症状の期間が過ぎると、静かに病状が進行していた梅毒によってさまざまな合併症が引き起こされます。

女性特有の梅毒の症状はありますか?

梅毒の病態そのものは男女で違いはありません。ただし女性の場合、初期症状であるしこりや潰瘍が腟の中など外から見えにくい場所にできることがあります。痛みもないため自分では気付きにくく、初期の症状を見逃してしまうことも多いとされています。

梅毒と間違えやすい病気を教えてください

梅毒は偽装の達人とも呼ばれるほどさまざまな症状がみられ、ほかの病気とよく似た見た目や経過をとることがあります。梅毒と間違えやすい病気は数多くあるため、代表的な病気をいくつか説明します。

まず代表的なものが単純ヘルペスウイルス感染症です。口の周囲や陰部に小さな水ぶくれや潰瘍が現れます。見た目で区別することは難しいくらい大変似ています。ただし、ヘルペスによる水ぶくれは強い痛みを伴うのが特徴です。一方、梅毒のⅠ期では痛みを伴わないことが多いとされています。

次に挙げられるのが、軟性下疳(なんせいげかん)です。こちらも細菌による性感染症で、陰部に潰瘍がみられます。軟性下疳も強い痛み伴う点が梅毒との違いです。

また、尖圭(せんけい)コンジローマという病気もしばしば梅毒と似た症状を呈します。ヒトパピローマウイルスによる感染症で、陰部や肛門の周囲に小さなイボ状の病変が現れます。梅毒のⅡ期にも扁平コンジローマといわれるイボのような病変をつくり、見た目が似ているのでしばしば混同されます。

梅毒のⅡ期の発疹は、一見して風疹や麻疹などウイルス感染症アレルギー性の湿疹などの症状と似ていて、診断が難しいことがあります。そのほかにも次のような病気が梅毒との見分けがつきにくいとされています。

  • 伝染性単核球症(EBウイルスの感染症)
  • 悪性腫瘍(がん)
  • 悪性リンパ腫(リンパ節が腫れる血液のがん)

このように梅毒と間違えやすい病気はたくさんあるため、気になる症状があるときは自己判断せずに病院に相談するのがよいでしょう。

女性の身体に梅毒がもたらす影響

女性の身体に梅毒がもたらす影響

初期の梅毒を治療した場合、女性の身体に後遺症は残りますか?

初期の梅毒で適切な治療を受けた場合、多くの方は後遺症を残さず治癒できるといわれています。治療は第一選択としてベンザチンベンジルペニシリン筋注(長時間作用型ペニシリン)で行われます。治療を最後まできちんと受ければ、梅毒トレポネーマは体内から排除されます。骨や神経などに不可逆的な障害が生じる前に治療できれば、将来的な健康への影響はほとんど心配ありません。重要なのは症状が軽快しても自己判断で治療を中断しないことです。医師の指示どおり十分な期間治療を続けることで多くの方は後遺症なく治すことができます。

梅毒による将来の妊娠や出産への影響を教えてください

梅毒そのものは早期に適切に治療して完治すれば将来の妊娠や出産に大きな支障をきたすことはないといわれています。ただし、妊娠中に梅毒に感染していると妊娠や出産に大きな影響を与えます。

妊娠している方が梅毒に感染していると、胎盤を通じてお腹の赤ちゃんに梅毒トレポネーマが感染します。これは先天梅毒といわれ、早産や死産につながったり、赤ちゃんの神経や骨などに異常を起こしたりする可能性があります。生まれてきたときに異常がなくても、後から症状がでる場合もあります。なお、日本では妊婦健診で梅毒の検査が行われており、妊娠の初期に治療すれば、胎児への感染リスクを大きく下げることができるといわれています。

このように梅毒は初期のうちに治療を行えば、妊娠や出産で大きな問題はないことが多いですが、治療せずに放置すると母子ともに重大な合併症を引き起こすおそれがあります。

進行した梅毒にはどのような後遺症がありますか?

治療をせずに数年から数十年が経過すると、晩期顕性梅毒(ばんきけんせいばいどく)といわれる段階になります。この時期には、ゴムのような腫瘤(ゴム腫)が皮膚や筋肉、骨にできて、組織を破壊することがあります。また、次のような心臓や血管神経の症状がみられることがあります。

  • 大動脈という大きな血管に瘤が生じる(大動脈瘤
  • 記憶力が低下したり、判断力が低下する
  • 認知症の症状がみられる
  • イライラや錯乱などの精神症状がみられる
  • 歩行が不安定になったり、背中と足に刺すような痛みがみられたりする
  • 視力が低下し、ときに失明する

このように梅毒は進行すると、心臓や脳など複数の臓器に病変がみられます。しかも、この時期に起こった臓器の障害はもとに戻ることはなく、後遺症として残ってしまいます。命に関わる状態になることもあります。

編集部まとめ

編集部まとめ

梅毒は近年、若い方で増えている性感染症です。早期に適切な治療ができれば、多くの場合治癒が期待できます。ただし、初期には痛みなどを伴わないため、気付かず放置してしまうケースが多くみられます。梅毒は胎盤を介してお腹の赤ちゃんに感染してしまうため、特に妊娠を希望する女性や妊婦さんは注意が必要です。正しい知識と行動によって、梅毒から自分自身と大切なパートナーを守りましょう。

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