インターネットを中心にコミュ障やアスペと呼ばれる言葉が登場してから、「自分が当てはまるのでは」と不安を抱く方がいます。上記は他人の気持ちに配慮できず、対人関係のトラブルを起こす人を揶揄する表現です。
医学的な観点からみたアスペルガー症候群の定義とは、必ずしも同じではありません。今回はアスペルガー症候群の特徴や高機能自閉症との違い、治療法について紹介します。
自分が当てはまらないか不安を抱えている方や、疑いを抱く家族や同僚がいる方に参考になれば幸いです。
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専門領域分類
精神科(心療内科),精神神経科,心療内科。
保有免許・資格
医師免許、日本医師会認定産業医、日本医師会認定健康スポーツ医
アスペルガー症候群の原因や特徴

アスペルガー症候群とはどのようなものですか?
アスペルガー症候群は社会性や協調性、コミュニケーション力に支障を来たす先天的な障害です。患者さんは他人の気持ちを汲み取りにくく、空気を読むことが苦手な傾向があります。言葉の裏にある本意を察せず額面どおりにとらえるため、円滑なコミュニケーションができず対人関係でトラブルを抱える局面が多々あります。言葉の遅れや知的発達には支障がなく、学校の勉強は通常どおりこなせるため、幼少期の間は発覚しないパターンも珍しくありません。大学生や社会人になり集団生活が求められると対人関係が苦手な特性が影響して、生活に支障を来たす場合があります。コミュニケーションが苦手といっても、程度や症状は人それぞれです。ほとんど話さない無口な方から、双方向の会話が不得意な方、相手の考えや表情から本心を読み取れず苦労する方などがいます。また、アスペルガー症候群は得意なことと不得意なことの差が激しい傾向にあります。ある領域では専門家に匹敵する知識量を持ち、周囲から一目置かれるパターンも珍しくありません。アスペルガー症候群の患者さんは対人関係でトラブルを起こしやすい反面、得意な領域を活かして活躍できる方もいます。完治が難しいため、長所で短所を補うことで問題に対処するアプローチをとるパターンが一般的です。
アスペルガー症候群の原因を教えてください。
アスペルガー症候群は生まれつきの脳の特性が発症に大きく関わる、遺伝性が強い疾患です。患者さんにはDNAの欠損や重複、変異がみられるケースもあり、親が発症している場合は子どもも発症する可能性があります。兄または姉がアスペルガー症候群の場合、弟や妹も同じ病気と診断されるケースが珍しくありません。さらに二卵性双生児よりも一卵性双生児の方が発症する確率が高いこともわかっています。
アスペルガー症候群の特徴や症状を教えてください。
アスペルガー症候群の患者さんには冗談や皮肉が伝わらず、建前の発言を本心だと認識されるケースが少なくありません。前後の文脈や相手の価値観に配慮して行動を制御することも苦手です。今の状況や相対する人の身振り手振りから適切な言動を選択できず、本人に悪気はなくても周囲を不快にさせる場面があります。特定の事柄に対する強い関心や興味もアスペルガー症候群の特徴です。興味がある事柄には異常なほど熱中する一方、関心がない事柄にはまったく興味を示しません。規則性を重要視し、物の配置場所や作業の進め方に他人では理解できないこだわりをもつ患者さんも少なくありません。マイルールを適用できない状況に出くわすと強いストレスを感じて、かんしゃくを起こす場合もあります。
アスペルガー症候群の方への接し方を教えてください。
アスペルガー症候群の患者さんと接する際は特性を理解し、苦手なことに配慮した言動をとりましょう。雰囲気や空気を読むのは難しいと念頭に置き、曖昧な指示は避け、具体的に伝えると誤解が減ります。想定外の事態が起きた際の対処法や、段取りの仕方まで時間をかけて丁寧に指示しましょう。また、アスペルガー症候群の患者さんは急な予定変更が苦手です。臨機応変な対応が求められる業務の依頼は極力避け、万一変更がある場合は図や文章を用いて視覚的にわかるように伝えましょう。
アスペルガー症候群と高機能自閉症の違い

アスペルガー症候群と自閉スペクトラム症は同じですか?
アスペルガー症候群は自閉スペクトラム症の一種す。発達障害の症状の程度や日常生活に与える影響は、患者さん一人ひとり個人差があります。以前は知的障害の有無や言葉の発達の遅れを考慮して、カテゴリに分けて異なる病名をつけていました。その一つがアスペルガー症候群です。しかし各グループは程度の差に過ぎず、対人関係やコミュニケーションに問題を抱えること自体は変わりません。明確な境界線を設けるのは難しく、次第にスペクトラムという連続性を意味する概念が浸透しました。これにより自閉スペクトラム症の呼称が登場し、アスペルガー症候群はという名称は統合され、正式な名称ではなくなりました。
アスペルガー症候群と高機能自閉症の違いを教えてください。
高機能自閉症の患者さんはアスペルガー症候群の特徴に加えて、
言語の発達に遅れがみられます。相手の表情や感情を読み取り適切な返答をしたり、集団内で良好な人間関係を形成したりするのが困難な点は、アスペルガー症候群と共通です。アスペルガー症候群は言語能力に問題はなく、ときには健常者を凌駕するほどに流暢な喋りをみせる場合もあります。一方、高機能自閉症は知的な発達に遅れはないものの、以下の特徴を備えています。
- 言語発達の遅れや偏り
- 活動や興味の限定性
- 対人関係の困難
上記の特徴が3歳以前から発現するのが特徴です。高機能自閉症の患者さんは言語発達に偏りがあるとはいえ、アスペルガー症候群と同様、会話は通常どおりこなせます。両者は医学的な名称は異なりますが、基本的な症状や支援が同じのため厳密な分類はなくてもよいととらえる見方もあります。
アスペルガー症候群の診療科や治療法

アスペルガー症候群が疑われる場合の診療科を教えてください。
診療科は子どもの場合は脳神経小児科・児童精神科、大人の場合は精神科・心療内科です。なかには二次的な病気の影響や検査に対する恐怖心から病院に行けないと悩む方もいます。通院できないときは、保健所や地域相談支援センターなど公的機関の活用が効果的です。在宅診療をはじめ、一人ひとりの症状や特性に応じたきめ細やかな対応が期待できます。
医療機関ではどのような検査を行いますか?
医療機関ではヒアリングを通じて発達の過程や現在の様子、困りごとを把握した後に知能検査を実施する流れが一般的です。てんかんの併発が疑われる場合、脳波検査を行うときもあります。医療機関がアスペルガー症候群の診断に用いる代表的な診断基準はDSM-5です。複数の状況における対人的な相互反応やコミュニケーションの持続的な欠陥、発達に応じた対人関係や職業機能の障害などが診療項目として掲げられています。
大人でもアスペルガー症候群の検査を受けられますか?
大人の発達障害を診断できる病院を受診すれば、AQ(自閉スペクトラム症指数)テストや知能検査を受けることができます。アスペルガー症候群は知能や言語に発達の遅れがないため、小さい頃には発覚せず本人も気付かないまま成人するケースも珍しくありません。しかし、対人的な関わりが顕著で密な集団生活が求められる社会人になってからトラブルが勃発して、障害や病気を疑うケースがあります。
アスペルガー症候群の治療法を教えてください。
サポーターを付けて、トラブルや失敗が起きたときの対処法を学ぶ認知行動療法が行われます。完治せずとも医師・看護師・身近な方のサポート・本人の努力次第で生活の困りごとがなくなり、日々の暮らしが楽になるケースも珍しくありません。何よりも患者さん自身が感じ方や理解の仕方を把握して、無理なく過ごせる環境を整えることが大切です。うつ病や双極性障害、統合失調症などその他の神経発達症の併発がある患者さんには精神疾患に応じた向精神薬を処方する場合もあります。
編集部まとめ

アスペルガー症候群は対人関係の問題と特定の領域における強いこだわりが特徴の疾患です。知的発達や言葉の遅れはなく一見健常者にみえることから、治療や診断を受けず大人になる方も多数です。
しかし職場で同僚との関係がうまくいかない、仕事でミスが目立つなどの問題が起きて、病院に駆け込んで発覚するケースが目立っています。アスペルガー症候群と診断を受けた方には医療機関で投薬治療や認知行動療法が行われます。
周囲の献身的なサポートや本人の取り組みによって病気の影響を緩和して、日常生活の困りごとを減らすことが可能です。自分がアスペルガー症候群ではと不安を抱える方は早めに心療内科や精神科を受診しましょう。