冬になると調子が悪くなり、無気力になったり気持ちが落ち込んでしまったりすることはないでしょうか。
冬になるたびにこのような症状に悩まされているのなら、それは冬季うつ病(ウインターブルー)かもしれません。季節によってうつの症状が出たりでなかったりするうつ病は、季節性感情障害と呼ばれます。
その中でも、10月~3月頃にかけて症状がでるうつ病を、冬季うつ病といいます。
今回の記事では、冬季うつ病の主な症状、原因や予防方法などについて解説していきます。
冬がくるたびに体調が悪くなり悩んでいる方やその原因を知りたい方はぜひ本記事を参考にしていただければ幸いです。
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東京慈恵会医科大学医学部医学科卒業。現在は「東京慈恵会医科大学附属病院」勤務。専門は精神神経科。日本精神神経学会専門医・精神科指導医、日本森田療法学会認定医、精神保健指定医。東京慈恵会医科大学精神医学講座准教授。
冬季うつ病の症状

冬になると過食気味になるのですが冬季うつ病の可能性はありますか?
冬季うつ病の代表的な症状の1つに、過食があります。お米やパンなどの炭水化物やチョコレートなどの甘いものに対する欲求が強くなり、特に午後から夜にかけて強くなる傾向があります。冬になるといつも以上に炭水化物や甘いものが食べたくなる場合、冬季うつの可能性が高いでしょう。寒い時期は特に運動不足になりやすいため、体重が増えることもあります。
冬になると過眠の症状が出るのですが冬季うつ病の可能性はありますか?
睡眠時間が長くなる、日中も眠気を感じるなどの症状がある場合、冬季うつ病の可能性はあります。ただし、冬は寒暖差が激しく日照時間も短いため、冬季うつ病ではなくても眠気を感じることはあります。朝起きれない方は寒くて布団から出ることができないのか、眠たくて起きれないのか、考えてみましょう。寒暖差による自律神経の乱れや睡眠に関するメラトニンやセロトニンと呼ばれるホルモンが日照不足により減少することで眠気を感じるといわれています。極度に眠気を感じたり過食の症状が見られたりする場合は冬季うつ病の可能性が高いため、医療機関で相談しましょう。過食や過眠の症状が見られる冬季うつ病は、冬眠しているようだといわれることもあります。
冬季うつ病の一般的な症状を教えてください。
過食・過眠・体重増加以外においては、一般的なうつ病と症状はほとんど変わりません。
- 気分の落ち込み
- 気力低下
- 物事を楽しめない
- イライラする
- 疲れやすくなる
主に上記のような症状が出ます。冬季うつ病は季節性のうつ病のため、春から夏にかけては健康な状態である方は少なくありません。
一般的なうつ病と冬季うつ病の症状に違いはありますか?
一般的なうつ病と冬季うつ病の違いは、過食・過眠・体重増加です。一般的なうつ病は食欲が低下し、疲れていても眠れないケースが多いです。食欲が低下するので、体重も減る傾向にあります。うつ病は年齢や性別に関係なく発症しますが、冬季うつ病は20代の若い女性がかかりやすいといわれています。症状以外では、うつ病になる原因が異なります。冬季うつ病の原因については後述しますが、うつ病の原因はストレスや環境の変化などが要因となり発症します。
冬季うつ病の原因や予防法

初期症状にはどのようなものがありますか?
冬季うつ病の原因は、日照時間にあると考えられています。これには、セロトニンやメラトニンが関係しています。セロトニンは脳内で働く神経伝達物質の一つです。精神を安定させる作用があり、別名「幸せホルモン」と呼ばれています。朝起きて太陽の光を浴びると目を通して脳に信号が届き、セロトニンの合成が活発になります。メラトニンは睡眠に関係するホルモンです。セロトニンの合成が活発になるとメラトニンの分泌が抑制されます。この仕組みによって体内時計が調整されているのです。太陽の光を十分に浴びることができないとセロトニンの合成が促されず、脳の活動も低下します。メラトニンも正常に分泌されなくなるため体内時計が狂い、睡眠リズムの乱れにつながります。そのため日照時間が短いと冬季うつ病を発症する可能性が高いです。実際、冬場の日照時間が少ない北欧では冬季うつ病は一般的な病気とされています。
在宅ワークなどで外へ出る機会が少ないと冬季うつ病になりやすいですか?
在宅ワークなどで外へ出る機会が少ないと、冬季うつ病を発症することもあるでしょう。出勤している方は通勤時に太陽の光を浴びることができます。しかし在宅ワークの場合は朝も家にいるため、太陽の光を浴びることがほとんどありません。また、昼夜の区別が付きにくく、体内時計が狂いやすい傾向にあります。朝散歩したり、陽の光が当たる窓際で仕事をしたりなど、意識的に太陽の光を浴びるようにすることをおすすめします。
冬季うつ病を予防する方法はありますか?
冬季うつ病を予防する方法として、以下の3つが挙げられます。
- 太陽の光を浴びる
- トリプトファンを摂取する
- 運動をする
まずは規則正しい生活を心がけ、朝起きたら太陽の光を浴びるようにしましょう。太陽の光を浴びることが難しい場合は、部屋の照明を明るくすることでも大丈夫です。セロトニンはトリプトファンと呼ばれる必須アミノ酸が原料です。トリプトファンは体内では作られないため、食べ物から摂取します。タンパク質に含まれているので、肉類・魚介類・豆腐などを積極的に取るようにしましょう。まぐろやサケ、ゴマなどに含まれるビタミンB6や、青魚やかつお節などに含まれるビタミンB12はトリプトファンの吸収を助ける作用があります。運動をすることで抗うつ作用のあるホルモンが脳から分泌されるため、運動をするのもおすすめです。屋外なら太陽の光を浴びることもできます。家事や家の片付けなど、外での運動が難しい場合でも積極的に身体を動かすことでも効果はあります。
冬季うつ病の治療方法

冬季うつ病が疑われる場合に相談する診療科を教えてください。
冬季うつ病が疑われる場合は、精神科もしくは心療内科で相談してください。冬季うつ病か判断がつかない場合はかかりつけ医に相談し、適切な医療機関を紹介してもらってもいいでしょう。
冬季うつ病の治療方法を教えてください。
冬季うつ病の治療ではまず高照度光療法が検討されます。これは1〜2時間程度、2,500〜10,000ルクスの高照度の光を照射するというものです。治療の効果は比較的早く出ることが多く、1週間程度で改善することも少なくありません。しかし、中断すると再発することがあるため、冬の間は治療を継続することが推奨されています。抗うつ症状が強い方や光療法で効果がなかった場合は、抗うつ薬を併用します。しかし冬季うつ病の患者さんのなかにはうつ状態と躁状態を繰り返す双極性障害の方もいるため注意が必要です。症状がなくなる春先までは光療法や薬物療法を行い、症状が落ち着いてきたら外出する機会を増やし自然の光を浴びるようにしましょう。
冬季うつ病の治療中も今までと同じように仕事ができますか?
冬季うつ病の治療中でも仕事はできます。しかし、うつ病の症状によっては、今までと同じように仕事をするのは難しいこともあります。朝なかなか起きれなかったり昼間に眠くなったりすることもあるので、職場の人に相談し、勤務時間を調整してもらうなどの対策が必要になることもあるでしょう。仕事に行くことがきついと感じるほど症状が重い場合は、休むことも大事です。ストレスを受けると症状が重くなることもあるため、無理をしないようにしましょう。
編集部まとめ

冬になると体調に違和感を覚える方は少なくありません。これは日照時間や寒暖差によるもので、自律神経の乱れなどによって引き起こされます。
眠気を感じたり甘いものを食べ過ぎてしまったりするのも、冬場ならよくあることです。寒さを乗り切るためにエネルギーを蓄えるためです。
しかし異様に眠気を感じる、炭水化物や甘いものを強く欲してしまうなど、不調以外にも違和感がある場合は冬季うつ病の可能性が高いです。
不調が長引いたり症状が重いと感じたりした場合は専門機関で相談し、治療を受けましょう。
冬季うつ病は太陽の光を浴びることで、予防ができる病気です。冬は日照時間が短く寒いため、外出の機会が減りますが積極的に外出し、太陽の光を浴びるようにしましょう。
スキーやスノボなど、ウインタースポーツを楽しむのもいいかもしれません。