ノロウイルス感染症は、冬場に発生のピークを迎えます。生涯に何度も感染する可能性があり、学校や施設などの集団生活の場で蔓延するケースも少なくありません。
日頃から感染予防を行いつつ、感染してしまった場合は家庭内で感染を広げないようにする対策が必要です。
今回は、家庭でできるノロウイルス対策について解説します。感染を予防する方法や家族が感染した場合に感染を広げないための方法について紹介しますので、ぜひ参考にしてみてはいかがでしょうか。
監修医師:
久高 将太(琉球大学病院内分泌代謝内科)
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琉球大学医学部卒業。琉球大学病院内分泌代謝内科所属。市中病院で初期研修を修了後、予防医学と関連の深い内分泌代謝科を専攻し、琉球大学病院で内科専攻医プログラム修了。今後は公衆衛生学も並行して学び、幅広い視野で予防医学を追求する。日本専門医機構認定内科専門医、日本医師会認定産業医。
ノロウイルス感染症の感染経路・症状
ノロウイルスの感染経路を教えてください。
ノロウイルスの主な感染経路は、
経口感染です。感染者の便や嘔吐物には大量のノロウイルスが含まれています。ノロウイルスの経口感染の例は、以下のとおりです。
- ノロウイルスに汚染された食品を加熱が不十分な状態で食べる
- 感染者が調理した食べ物にウイルスが付着し、それを食べる
- 感染者の便や嘔吐物に直接触れる
- 感染者の嘔吐物から飛び散ったウイルスの飛沫を吸いこむ
- 感染者の便や嘔吐物に含まれたウイルスが乾燥して空気中を漂い、吸いこむ
ノロウイルスには、長期間安定して存在する性質があります。十分に手を洗わなかった感染者が触れたトイレのドアノブを介して、家族が感染してしまうケースもあります。
どのような症状が出たらノロウイルス感染症が疑われますか?
ノロウイルス感染症の主な症状は、以下のとおりです。
ノロウイルスに感染して症状が出るまでの潜伏期間は、24時間〜48時間です。一般的には1日〜3日程度で治癒します。また、感染しても症状がない方や胃のむかつき程度の軽い症状で終息する方もいます。乳幼児や高齢者は重症化しやすい傾向があり、注意が必要です。
家庭でできるノロウイルス感染症の予防方法
家庭でもできるノロウイルス感染症の予防方法を教えてください。
ふだんから丁寧な手洗いを心がけましょう。トイレの後や食事前はもちろんのこと、調理する方は調理前や盛り付け前にも流水と石鹸による手洗いが必要です。指輪や時計などの装飾品は外し、親指や手の甲、手首などもしっかりと洗いましょう。加熱が必要な食品は、食品の鮮度がよいものでも中心部まで十分に加熱します。腹痛や下痢などの胃腸症状があるときは、ノロウイルス感染症の可能性もあるので、感染を広げないためにも調理を控えましょう。
ノロウイルス感染症の原因となる食品を教えてください。
ノロウイルスによる食中毒の過去の事例では、約7割で原因となる食品が判明していません。過去の事例の多くが、感染者が調理した際に汚染されたと判断されているからです。原因が特定された食品としては、生食や加熱不足の二枚貝が挙げられます。二枚貝とは、二枚の貝で覆われているカキやアサリ、ハマグリなどです。汚染された海水を二枚貝が取り込み、貝の体内でウイルスが濃縮されると考えられています。十分に加熱すれば、食品自体がノロウイルスの感染源になることはありません。
食品を加熱処理をすればノロウイルスは死滅しますか
食品の加熱は、ウイルスを死滅させるのに有用です。感染のリスクが高い二枚貝の調理は、85度〜90度の中心温度で90秒以上の加熱が必要とされています。しかし、厳密にはノロウイルスが死滅するといい切れる数値はありません。ウイルスの死滅には、加熱温度と時間以外のさまざまな要素が影響するからです。ウイルスが液体中に存在する場合と乾燥状態の環境下に存在する場合では、死滅に至る状況が異なります。そのうえ、食品に付着したウイルスはタンパク質に保護されている可能性が高く、死滅させるにはさらに厳格な加熱環境が必要だと考えられています。
家庭での調理器具の取り扱いの注意点を教えてください。
調理器具は洗剤で洗浄した後に、以下のどちらかの方法で消毒します。
- 85度以上の熱湯で1分以上加熱する
- 塩素濃度200ppmの塩素消毒液に浸すように拭く
- 二枚貝の調理に使用した調理器具類は、塩素濃度1,000ppmの塩素消毒液で消毒する
塩素消毒液は、家庭用の次亜塩素酸ナトリウムを含む塩素系漂白剤から作る方法があります。市販の塩素系漂白剤における次亜塩素酸ナトリウムの濃度は、5%〜6%です。5%の塩素系漂白剤10ミリリットルに対し、総量が2リットルになるように水を加えれば塩素濃度200ppmの塩素消毒液になります。塩素濃度200ppmの塩素消毒液は、日常的に触れる物を消毒して二次感染を予防するための消毒液です。汚染された部分の消毒をする塩素濃度1,000ppmの塩素消毒液は、5%の塩素系漂白剤40ミリリットルに対し、総量が2リットルになるように水を加えます。塩素消毒液は作り置きせず、使う直前に作りましょう。時間が経つと効果が弱まります。
家庭でできる感染を広げないための対策
家庭でできる感染を広げないための対策を教えてください。
ノロウイルスに感染した場合は、家族への感染予防が必要です。感染者の便や嘔吐物を適切に処理し、アルコールではなく次亜塩素酸ナトリウムを用いて消毒しましょう。感染していない家族は、流水と石鹸による手洗いを励行しましょう。ノロウイルス感染症から回復した後も、1週間〜4週間程度便中にウイルスを排出するとされています。感染した方は、体調が回復した後も手洗いの継続が必要です。
感染している家族が使用した食器の取り扱い方法を教えてください。
感染者の使用した食器は、食後すぐに塩素濃度200ppmの塩素消毒液に浸して消毒します。嘔吐物が付着した食器は、嘔吐物を拭き取った後に塩素濃度1,000ppmの塩素消毒液に浸しましょう。食器の下洗いをした場所は塩素濃度200ppmの塩素消毒液で消毒し、洗剤を使って掃除します。しかし、頻回な消毒が家族の負担となり、体力が低下して感染してしまっては元も子もありません。疲労を感じるときは、無理をせず使い捨てのディスポ食器を使用して消毒にかかる時間を休息に充てましょう。
感染している家族の嘔吐物の処理をする際の注意点を教えてください。
嘔吐物の処理には、塩素濃度の塩素消毒液を使用します。感染していない家族は汚染場所から遠ざけ、使い捨てのエプロン・マスク・手袋を着用しましょう。嘔吐物を慌てて拭き取ると、ウイルスが飛び散ってしまいます。紙類で嘔吐物を覆い、静かに拭き取ることが大事です。嘔吐物が飛散した範囲は塩素濃度1,000ppmの塩素消毒液に浸した紙類で拭き取り、10分後に水拭きをします。嘔吐物・汚染物の拭き取りと消毒に使用したもの・着用したエプロン類は、密閉して速やかに廃棄しましょう。衣類に嘔吐物が付着した場合は、嘔吐物を拭き取った後に洗剤を入れた水で下洗いをします。下洗いの時点では消毒できていないため、ウイルスの飛散を防ぐべく静かに洗いましょう。そして、塩素濃度1,000ppmの塩素消毒液に10分間浸した後に洗濯するか、85度以上の熱湯で1分以上消毒をします。布団や枕、じゅうたんは、すぐに洗濯できない場合もあるでしょう。嘔吐物を拭き取った後に乾燥させ、スチームアイロンや布団乾燥機を利用して対処します。なお、嘔吐物の処理後は手袋をしていても必ず流水と石鹸で手洗いを行いましょう。
感染している家族がいる場合の環境の消毒方法を教えてください。
ノロウイルスは、手すり・ドアノブ・水栓レバーなど家族が触れる部分に一定期間付着し続ける可能性があります。ほかにも、スイッチやリモコンなど感染者も含めた家族が共有して触れる場所は消毒しましょう。塩素濃度200ppmの塩素消毒液で消毒し、10分後に水拭きをします。塩素消毒液は金属に対して腐食性があるため、消毒後の水拭きが必要です。手で触れたり、口に入れたりする可能性が高いお子さんのおもちゃの消毒も行いましょう。色落ちが気になるおもちゃは、85度以上の熱湯に1分以上浸して消毒します。また、下痢の症状を呈する感染者・回復後も便中にウイルスが排出されていると考えられる期間の方は、入浴の仕方にも注意が必要です。家族が入浴した後に入り、身体をよく洗ってから浴槽に入りましょう。浴槽や床、風呂の椅子は毎日洗浄することをおすすめします。
編集部まとめ
ノロウイルスは食中毒を起こし、感染性胃腸炎の原因にもなるウイルスです。家庭内で感染を広げないようにするためには、ウイルスを含む感染者の便や嘔吐物の適切な処理がポイントとなります。
感染に備えて、嘔吐物の処理に必要な塩素系漂白剤やペーパータオル、使い捨てのエプロン・マスク・手袋をひとまとめにしたセットを用意しておくと迅速な処理に役立つでしょう。
ノロウイルスによる感染症は、感染しても症状が出ない方や軽い症状で済む方もいます。感染が蔓延するピーク時はもちろんのこと、年間を通して流水と石鹸での手洗いを行って予防しましょう。