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「腎芽腫(ウィルムス腫瘍)」という小児がんはご存知ですか?症状・原因も解説!

 公開日:2023/08/23
「腎芽腫(ウィルムス腫瘍)」という小児がんはご存知ですか?症状・原因も解説!

腎芽腫(ウィルムス腫瘍)は小児の腎臓内に良く発生する悪性腫瘍です。日本では年間に100例ほどしか見られませんし、大半は予後の良い腫瘍です。

ただし、自覚症状があまりないため、早期発見が難しいがんでもあります。小児がんのため、幼い子どもを持つ親の方は知っておきたいがんの一つといえるでしょう。

本記事では、腎芽腫(ウィルムス腫瘍)とはどのような腫瘍なのかを詳しくご紹介します。また、腎芽腫(ウィルムス腫瘍)の原因・検査・治療法も解説します。

甲斐沼 孟

監修医師
甲斐沼 孟(上場企業産業医)

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大阪市立大学(現・大阪公立大学)医学部医学科卒業。大阪急性期・総合医療センター外科後期臨床研修医、大阪労災病院心臓血管外科後期臨床研修医、国立病院機構大阪医療センター心臓血管外科医員、大阪大学医学部附属病院心臓血管外科非常勤医師、大手前病院救急科医長。上場企業産業医。日本外科学会専門医、日本病院総合診療医学会認定医など。著書は「都市部二次救急1病院における高齢者救急医療の現状と今後の展望」「高齢化社会における大阪市中心部の二次救急1病院での救急医療の現状」「播種性血管内凝固症候群を合併した急性壊死性胆嚢炎に対してrTM投与および腹腔鏡下胆嚢摘出術を施行し良好な経過を得た一例」など。

腎芽腫(ウィルムス腫瘍)の原因や症状

医者

腎芽腫とはどのような病気ですか?

腎芽腫(ウィルムス腫瘍)は、おもに小児の腎臓内にできる悪性腫瘍です。ほとんどが腎臓の片側だけに発生しますが、まれに腎臓以外の部位に発生するケースもあります。周囲のリンパ節・腎門部に浸潤したり、腫瘍が破裂して腹腔内に転移して、腹膜播種を引き起こしたりする場合もあります。
また、肺・肝臓・骨・脳などに転移するケースもあるでしょう。基本的には予後が良好な腫瘍ですが、腫瘍の種類によっては予後の良くないものもあります。

原因について教えてください。

腎芽腫(ウィルムス腫瘍)の原因は、まだはっきりは分かっていませんが、前癌病変として腎芽腫症が見られる場合があります。
また、異常な遺伝子によって引き起こされる疾患である遺伝子症候群の一つとして引き起こされるケースもあります。具体的には、次のような遺伝子症候群が挙げられるでしょう。

  • WAGR症候群
  • Beckwith-Wiedemann症候群
  • Denys-Drash症候群

ほかにも、特定の先天異常があると発症リスクが高くなると考えられています。

どのような症状が出るのですか?

腎芽腫(ウィルムス腫瘍)のおもな症状としては次のようなものが挙げられます。

  • 腹部のしこり・腫れ
  • 血尿
  • 腹痛
  • 高血圧
  • 発熱
  • 便秘
  • 下痢
  • 嘔吐

早期に症状が出るケースはあまりなく、自覚症状が少ないことが特徴です。腫瘍が大きくなってから、お腹の腫れやしこりなどで発見されるケースが多いでしょう。腫瘍が巨大化すると呼吸困難に陥るケースもあります。

腎芽腫を発症しやすい年齢層を教えてください。

腎芽腫(ウィルムス腫瘍)は約半数が3歳までに発症し、90%が5歳までに発症します。
年長の小児にも発症する場合があるほか、まれに成人でも発症する場合があります。発症の男女差はほとんどありませんが、やや女児の方が多いでしょう。

患者数はどのくらいですか?

米国では年間約500例が診断されていますが、日本では70〜100例程度と少ないです。

腎芽腫(ウィルムス腫瘍)の検査や治療法

機械

どのような検査が行われるのですか?<

腎芽腫(ウィルムス腫瘍)が疑われる場合には次の検査が行われます。

  • 画像検査
  • 病理組織検査(生検)
  • 血液検査

まず、画像検査ですが、おもに次の3種類の方法で行われます。

  • 超音波検査(エコー)
  • CT検査
  • MRI検査

超音波検査(エコー)は体の表面に超音波の出る機械を当て、臓器から跳ね返ってくる超音波を画像として映し出します。腫瘍のある場所・腫瘍の形・大きさ・周辺の臓器への転移などが分かります。CT検査は放射線で体の断面を撮影する検査方法です。MRI検査は放射線ではなく、磁気を使って体の断面を撮影する検査です。
MRIを使えばCTでは分からない腫瘍の質まで分かるケースがあります。画像検査とともに血液検査も行われることが一般的です。特徴的な血液の異常はありませんが、腎腫瘍の場合、NSEという値が高くなる場合があります。また、腫瘍特有の腫瘍マーカーも検査項目の一つです。確実な診断は、病理組織検査(生検)で行うことになるでしょう。
これは手術で腫瘍組織の一部を採って顕微鏡で調べる検査です。腫瘍の型を調べることにより悪性度などが分かり、治療方針を立てるうえで大切な役割を果たします。ただし、生検を行うと腫瘍が腹腔内に散らばる場合があるため生検を行わないケースがあります。この場合、画像検査の結果のみで治療方針を立て、直接腎臓を切除する手術が行われるでしょう。また、太い針を刺して組織を採取する針生検が行われるケースもあります。

治療法を教えてください。

腎芽腫(ウィルムス腫瘍)の治療では、腫瘍の大きさ・悪性度・ステージなどに応じて、手術前に化学療法を行うケースと、最初から手術を行うケースがあります。腫瘍が大きい場合には、最初に化学療法によって腫瘍を小さくしてから手術を行います。これによって手術時の腫瘍破裂など合併症のリスクを軽減できるでしょう。
化学療法では抗がん剤を使用して、がん細胞の増殖を抑えます。抗がん剤には、細胞障害性抗がん薬・ホルモン療法薬・分子標的薬などがあります。抗がん薬を使用した場合、薬の種類によって脱毛・吐き気・感染症などさまざまな副作用が生じる場合があるでしょう。
手術を行う場合は、腫瘍が腎臓の片側だけに発症しているか、両側にもあるかによって手術方法が異なります。片側だけの場合は、腎臓全体を切除する手術が行われるでしょう。両側に腫瘍がある場合は、腫瘍を切除してできるだけ健常な腎臓組織を残す形で行われます。
手術を行った後で再発する可能性があると考えられる場合、化学療法を行ったり、放射線治療が行われたりするでしょう。腫瘍が再発した場合は、化学療法・手術・放射線治療などから患者の体調・症状・希望に応じて決められます。

腎芽腫(ウィルムス腫瘍)の予後や合併症

薬

腎芽腫の予後について教えてください。

腎芽腫(ウィルムス腫瘍)は大半が予後の良い腫瘍です。これは、がん細胞の見た目が腎臓の正常な細胞とあまり変わらないタイプで、腎芽腫(ウィルムス腫瘍)の約80%が当てはまります。
たとえばステージIの場合、5年生存率は90%以上と予後は良好です。ただし、腎芽腫(ウィルムス腫瘍)には、予後不良の組織型もあり、これはがん細胞の見た目が腎臓の正常な細胞とは大きく異なるものです。この場合、予後は良くありません。とくに、腎横紋筋肉腫様腫瘍(MRTK)と呼ばれる腫瘍は予後が悪いことで知られています。

合併症が起こることはありますか?

腎芽腫(ウィルムス腫瘍)の合併症としては次のような症状が挙げられます。

  • 腎障害
  • 心筋障害
  • 肝障害
  • 二次がん

こうした合併症は腫瘍の影響そのものというよりも、治療や手術などが原因となっている場合が多く見受けられます。また、症状の種類は、病気の種類・治療方法・子どもの年齢などにより異なるでしょう。合併症に対処するために、子どもの成長に合わせた長期間の定期的な検診が必要です。
また、転居や結婚などに備えて、治療の記録を残すことも重要です。具体的には、使用した薬剤の名前・薬剤の量・放射線治療の部位・量などの情報になります。ほとんどの場合に片側の腎臓を摘出しているケースが多いため腎臓の機能が正常かどうか、また腎臓に関連した合併症がないかを長期的に観察する必要があるでしょう。

最後に、読者へメッセージをお願いします。

腎芽腫(ウィルムス腫瘍)はおもに小児の腎臓内にできる悪性腫瘍で、大半が5歳未満の小児に発症します。自覚症状はほとんどないため、早期発見は難しい場合があります。お腹が大きくなっていたり、体の表面からしこりが触れたりする場合は病院やクリニックで検査してもらいましょう。
腫瘍の種類やステージにもよりますが、腎芽腫(ウィルムス腫瘍)は比較的予後の良い腫瘍です。また、小児の場合、化学療法や放射線療法に対する効果が高いという特徴もあります。腎芽腫(ウィルムス腫瘍)の疑いがある場合、多くの検査をしなければならず不安に感じるかもしれません。しかしながら確実な診断をしなければ治療はできませんので、しっかり検査を受け、早期に治療を開始するのが重要です。

編集部まとめ

子ども
本記事では腎芽腫(ウィルムス腫瘍)がどのような病気なのか解説してきました。小児の腎臓内にできる悪性腫瘍で、90%が5歳未満の小児に発症します。

原因ははっきりとしていませんが、遺伝子症候群の一部として発症する場合があります。

検査では、超音波検査・病理検査・血液検査などが行われ、腫瘍の大きさ・形・他の臓器への転移などを調べることになるでしょう。

治療法は腫瘍の大きさ・発生部位・ステージなどにより異なりますが、腎臓の片側だけに腫瘍がある場合は腎臓を切除する手術が行われる場合が多いです。

腫瘍が大きい場合には化学療法が事前に行われることもあります。また、手術後に放射線治療が行われるケースもあります。

予後は腫瘍の種類によっても異なりますが、大半の場合は予後が良好なのも特徴です。子どものがんなので、長期にわたるフォローが必要になるでしょう。

この記事の監修医師