目次 -INDEX-

  1. Medical DOCTOP
  2. 医科TOP
  3. 病気Q&A(医科)
  4. 「TORCH症候群」を発症する原因や胎児への影響はご存知ですか?医師が監修!

「TORCH症候群」を発症する原因や胎児への影響はご存知ですか?医師が監修!

 公開日:2023/07/04
「TORCH症候群」を発症する原因や胎児への影響はご存知ですか?医師が監修!

TORCH症候群と聞いても、どのような病気なのか想像がつかない方も多いのではないでしょうか。

TORCH症候群とは妊娠中に母親がかかると母子感染を引き起こす恐れのある感染症の総称です。

感染した場合、母親が軽症でも子どもに障害が残ったり、流産につながったりする可能性もあるので注意が必要です。

一方で、事前の予防接種や些細な注意で防げる病気でもあります。ここではTORCH症候群について、症状や原因といった基本的なことから予防方法まで詳しくご紹介します。

TORCH症候群について正しい知識を身につけ、母子感染のリスクを減らしましょう。

郷 正憲

監修医師
郷 正憲(徳島赤十字病院)

プロフィールをもっと見る
徳島赤十字病院勤務。著書は「看護師と研修医のための全身管理の本」。日本麻酔科学会専門医、日本救急医学会ICLSコースディレクター、JB-POT。

TORCH症候群とは?

女性とはてなマーク

TORCH症候群はどのような病気ですか?

TORCH症候群は母子感染する病原体の中でも、胎児(出生児)に恒久的で重篤な症状を引き起こす可能性がある感染症の総称です。具体的には以下5種の病原体の頭文字を並べたものです。

  • トキソプラズマ原虫
  • 他の感染症(梅毒トレポネーマ・B型肝炎ウイルスなど)
  • 風疹ウイルス
  • サイトメガロウイルス
  • 単純性ヘルペスウイルス

これらの病原体が母子感染を起こすことで、胎児の発達不良や流産の可能性が高まるだけでなく、後遺症につながることもあります。

どのような症状がみられますか?

トキソプラズマやサイトメガロウイルスはまれに発熱等の症状がみられる程度で、母体はほとんどが無症状です。風疹は子どもより大人の方が重症化しやすく、母体は咳・発熱・発疹などがみられます。感染の症状を示さない場合もあるため、自覚症状の無い家族などからの感染にも注意しましょう。
ヘルペスウイルスは母体の皮膚・唇・性器などに痛みを伴う水ぶくれが発生します。無症状や症状が軽微で無自覚の場合も多い感染症です。
その他の感染症として、梅毒やB型肝炎が挙げられます。梅毒では性器や口内にしこりができる、手のひらや体中に発疹が発生するなどの初期症状がみられます。重症化すると複数の臓器に病変が生じるため、早期治療が重要です。
近年、梅毒は感染者数が増加傾向にあるため特に注意しましょう。B型肝炎は倦怠感・疲労感・食欲不振などの初期症状の後、悪化に伴って嘔吐や黄疸などが起こります。
TORCH症候群の原因となる病原体に感染した場合でも、ご紹介したように母体は軽症か無症状のことが多いです。体調の些細な変化を見逃さないようにしましょう。

TORCH症候群の胎児への影響を教えてください。

TORCH症候群は母体への影響は比較的少ないですが、母子感染した場合は胎児に大きな影響があります。トキソプラズマは妊娠初期に母子感染を起こすと重症化しやすいので特に注意しましょう。具体的には、流産・水頭症・視力障害・精神運動機能障害などの症状を引き起こす可能性があります。
サイトメガロウイルスは低出生体重・小頭症などを引き起こし、年間1,000人ほどが発達遅延や難聴などの後遺症を残しています。母子感染を起こした場合に症状が現れる確率は25%前後ですが、数年経過してから難聴などを発症する例もあるので注意しましょう。
また、風疹の胎児への感染は3大症状といわれる心疾患・白内障・難聴に加えて、糖尿病・発育遅延などの症状を引き起こす場合があります。特に妊娠初期では発症率が高い傾向にあるため、注意が必要です。
単純性ヘルペスウイルスは妊娠中でなく、分娩時に産道で母子感染する可能性が高いのが特徴です。多くは皮膚疾患にとどまりますが、まれに脳障害などを引き起こします。
梅毒の母子感染は死産や早産を引き起こすことがあります。また、出生後数ヶ月から数年後に皮膚症状・難聴・歯や骨の病変などを生じることがあるため注意しましょう。
B型肝炎については、出生後の対策により90%以上の確率で感染を防げます。万が一感染防止がうまくいかなかった場合、将来的に慢性肝炎などの発症率が高まります。定期的な通院で体調の変化を見逃さないようにしましょう。

発症する原因を教えてください。

TORCH症候群の原因は母子感染です。母子感染とは、母体の病原体が妊娠・出産・授乳を介して母体から胎児や新生児に感染することです。このうちTORCH症候群は、ほとんどが胎盤を経由して胎児に感染します。
特にトキソプラズマやサイトメガロウイルスは妊娠中に初めて感染した場合に胎児への影響が大きいです。また、風疹は妊娠初期、ヘルペスウイルスは妊娠後期での感染に注意しましょう。

TORCH症候群の発症頻度はどのくらいですか?

発生頻度は病原体の種類によって異なります。最も発生頻度が高いのは、サイトメガロウイルスの母子感染により発症する先天性サイトメガロウイルス感染症です。発生頻度は全体の0.3%程度とされていますが、妊娠中に母体が初感染すると30〜50%の確率で母子感染を引き起こします。
また、サイトメガロウイルスは妊娠前に感染したことがあっても、妊娠中に再感染や再活性化を起こす場合があるため注意しましょう。その他の感染症の発生頻度は、いずれも10万出生あたり1症例未満となっています。
一方で、サイトメガロウイルスやトキソプラズマに関しては、実際はより多くの先天性感染児がいるとみられています。
これらの感染症は妊婦健診での感染症検査の実施率が低く、無症状や軽症の感染児を見逃してしまう可能性があるためです。妊娠中の体調や出産後のお子様の様子で気になる点があったら、早めに医師に相談しましょう。

TORCH症候群の検査と治療

様々な薬

どのような検査を行いますか?

母体に対しては妊娠初期の妊婦健診で血液検査が行われます。梅毒・B型肝炎・風疹は99%の実施率です。一方でトキソプラズマは約50%、サイトメガロウイルスはわずか5%ほどしか実施されていません。心配な場合、希望すれば検査を受けられますが、費用は自己負担となるので注意しましょう。
胎児に先天性感染症の疑いがある場合、多くは出生後に臍帯血や尿などの検査が行われ、診断が確定されます。
また、胎児の症状や病原体の種類によってCTや眼の検査などが行われる場合もあります。

治療方法を教えてください。

妊娠中に母体の感染が判明した場合、トキソプラズマ・梅毒・ヘルペスウイルスに対しては投薬治療が行われます。この投薬により、母子感染を防ぐ効果も期待できるのです。
なお、ヘルペスウイルスは出産直前に性器での症状がみられた場合、帝王切開での出産が選択される可能性があります。B型肝炎では母子感染予防のため、出生直後の新生児にB型肝炎免疫グロブリンという注射とB型肝炎ワクチンが同時に接種されます。
一方で先天性風疹症候群やサイトメガロウイルスには確立された治療法はありません。しかし、サイトメガロウイルスに対して抗ウイルス薬での治療を行っている医療機関もあります。ご心配の際は、母子感染についてより専門的な治療を受けられる医療機関を受診しましょう。

TORCH症候群の予防

注射を準備する医師

TORCH症候群を予防する方法を教えてください。

TORCH症候群の予防では妊娠中に病原体に感染しないよう心がけましょう。トキソプラズマウイルスはネコ科の動物の糞や尿から食肉・土・水などを介して感染します。ネコのトイレの処理やガーデニングの際は充分注意しましょう。食肉は中心部分までしっかり加熱し、手洗いはこまめに行いましょう。
サイトメガロウイルスは人の体液から感染します。特に小さな子どもの尿や唾液には多くのウイルスが含まれているため、家庭内での感染に注意しましょう。手洗いを徹底し、小さな子どもとの食事や食器の共有を避けるなどの対策でリスクを抑えられます。
単純性ヘルペスウイルスは妊娠後期の感染に注意が必要です。症状が現れている人との接触やタオルなどの共有は避けましょう。また、妊娠中の性交渉ではコンドームを使用し、感染リスクを抑えましょう。自覚症状がある場合はすぐに医師に相談し治療を行うことで、母子感染を防げます。
このように、手洗いや食事など生活の中での少しの注意でTORCH症候群のリスクを下げられるのです。

TORCH症候群はワクチンで予防できますか?

B型肝炎と風疹はワクチン接種による予防が効果的です。B型肝炎ワクチンには定期接種によるものと母子感染予防のためのものがあり、定期接種では、通常生後2ヶ月〜9ヶ月の間に3回接種します。母子感染が疑われる場合は予防のため、生後すぐにB型肝炎免疫グロブリンという注射と併せて接種されます。
風疹ワクチンは1歳・小学校就学前の計2回の接種が基本です。しかし、2000年より前に生まれた方は2回の定期接種を受けていない可能性があります。心配な場合は抗体検査で抗体値を調べてみましょう。妊娠を望む女性やその家族は特に注意が必要です。

最後に、読者へメッセージをお願いします。

TORCH症候群は発症すると胎児に重い症状や後遺症を引き起こす可能性がある上、実際の発症率はデータに示されているよりも多いと考えられています。発症リスクを下げるためには事前の予防接種や感染を防ぐための行動が重要です。正しい知識を身につけ、感染リスクを下げる行動を心がけましょう。
また、TORCH症候群を引き起こす感染症では、多くの場合母体は軽症か無症状です。少しでも体調に違和感を持ったら受診することをおすすめします。

編集部まとめ

チューリップの花束
TORCH症候群の予防には事前の予防接種や感染対策が重要です。

特に風疹やサイトメガロウイルスは家族からの感染例も多く、予防には家族や周囲の理解も欠かせません。

妊娠中は、体にも心にも大きな変化が起こります。妊婦1人が不安を抱えすぎることの無いよう、周囲も一丸となって予防に努めましょう。

この記事の監修医師