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「腹膜播種(ふくまくはしゅ)」という初期症状のない「がん」はご存知ですか?

 公開日:2023/07/09
「腹膜播種(ふくまくはしゅ)」という初期症状のない「がん」はご存知ですか?

胃腸などの臓器で、日頃からその箇所の不調を持たれている方は聞かなくてもいらっしゃると思います。

一番気になる病気といえば胃癌などが有名どころだとあげられますね。けれど胃癌などの、癌関連の疾患である腹膜播種とはどのような病気なのかご存じですか?

意外と知られていないので、文字からは一見わかりにくいとのイメージを持たれたかと思います。

そこで今回は腹膜播種の症状と治療方法などについてやさしく紹介させていただきます。

中路 幸之助

監修医師
中路 幸之助(医療法人愛晋会中江病院内視鏡治療センター)

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1991年兵庫医科大学卒業。医療法人愛晋会中江病院内視鏡治療センター所属。米国内科学会上席会員 日本内科学会総合内科専門医。日本消化器内視鏡学会学術評議員・指導医・専門医。日本消化器病学会本部評議員・指導医・専門医。

腹膜播種(ふくまくはしゅ)の概要や症状

お腹を抑える女性

腹膜とはどのようなものですか?

腹膜とは、胃や腸などといった臓器と腹部の壁の全体、または一部の内臓を覆っている極めて薄い膜のことを指します。全体の大きさは1,7~2.0平方メートルで広く、腹膜自体は半透膜で、細い血管が網の目のように張り付いているような形状です。
腹膜は接している臓器の動きをスムーズに動かしながら保護する役割を果たします。

腹膜播種とはどのような病気ですか?

人間の腹部は「腹膜」に包まれており、この中に内臓が含まれているのです。癌の発生というのは内包されている、例えば胃であったら臓器の内側の粘膜から発生することが通説とされています。
しかし、この癌が成長して内側の粘膜から臓器の壁を破って表面まで進出し、臓器の表面から剥がれ、癌細胞が腹膜の中に広まることで腹膜播種といわれる状態になるのです。腹膜播種の由来について病名に「種を播く」という言葉が入っていますが、まさに腹膜の中に癌の種が播かれたような、広範囲に癌が成長をすることから名付けられました。
また普段の生活の中で腹膜播種について触れる機会は少ないですが、日本人に多い胃癌に罹患した患者さんで亡くなられる大半の人が腹膜播種に侵されるとされ、とりわけ珍しい病気ではありません。癌細胞のリンパ節への転移・肝転移と比べても転移率が高い疾患といえますね。
しかし、現在の医療のレベルでも腹膜播種はステージ4の末期の疾患とされています。

初期症状を教えてください。

癌細胞がはがれ落ちたばかりの時の播種は初期段階では症状が現れず、そのため超音波検査やCT検査を行ったとしても発見に至ることがないのが現在の医療の限界です。またCT検査などでは画像検査だけだと腹膜播種の診断を下すことはできず、その結果手術時に広く転移している様子が初めて発見され、手術せずにお腹を閉じるとなる症例も少なくありません。
他の病気であれば初期症状がみられることは度々ありますが、腹膜播種は患者自体が初期症状を感じない、または明確な症状がないため初手が打てない、これが腹膜播種の難しいところです。

進行するとどのような症状が出るのでしょうか?

進行すると症例としては

  • 小腸や大腸の通りが悪くなる腸閉塞
  • 腹部の膨張感、それに伴う嘔吐・痛み・便秘
  • 腹水がたまる
  • 胆道に異常をきたし黄疸が出やすくなる
  • 尿管が狭くなり水腎症になる

などがあげられます。なおこのように腹部の膨張や吐き気などの自覚症状が出てきてから、超音波検査やCT検査で異常が見つかるようになります

腹膜播種(ふくまくはしゅ)の検査や治療方法

男性医師

どのような検査が行われますか?

腹膜播種を調べるためには、審査腹腔鏡という検査を行います。審査腹腔鏡とは、胃癌の癌細胞が腹膜に転移したと疑いのある患者さんに全身麻酔で行う検査です。
腹膜内に穴をあけてカメラや鉗子(刃がないはさみのような手術器具のこと)を入れて、腹膜内だけでなく骨盤内など腹膜転移が起こりやすい箇所を調べ、場合に応じて腹膜内の一部分の切り取りが行われます。
この検査のメリットはお腹全体のような広範囲にわたっての開腹手術を行う必要がなくなることや、手術後体の痛みの軽減が可能になることです。患者さんの負担が少なくすむ方法として用いられています。
その他の検査というものは、腹腔細胞診といわれる腹腔内を洗浄したときに使用した生理食塩水を集めて、剥がれた細胞の検査を行う方法が用いられる場合も見られるようです。この検査は大体1時間もあれば完了し、検査結果は検査日の当日中に知ることが可能としています。

治療方法を教えてください。

腹膜播種への治療方法は、抗癌剤による全身化学療法が主な方法です。手術や放射線治療のような局所治療での治療もありますが期待できる成果はありません。
抗癌剤の化学療法は飲み薬と点滴(点滴静脈注射)などが主流になっており、近年では注射液を直接腹腔に入れ込んだり(腹腔内化学療法)、温めた抗癌剤を腹腔に入れたりする方法(腹腔内温熱化学療法)が取られ成果を上げています。そして抗癌剤治療の目標は延命効果です。
ですが同様に腹膜播種に伴う症状に対抗するための緩和治療も重要といえるでしょう。緩和治療は例えば胃癌からの腹膜播種であったら胃のバイバス手術を施すなどの手段が取られます。
他の治療法にCART(腹水ろ過濃縮再静注法)という、腹水を抜いてろ過して再度点滴静注することで濃縮されたアルブミンなどの栄養素を体内に戻す方法も、全身状態が低下した患者さんには行われます。

手術が行われるケースはありますか?

腹膜播種は手術をしても再発することが多いので、基本は化学療法による治療が施されることが多いです。残念ながら現在の医学では腹膜播種を手術で取りきることはできません。
先ほども腹膜播種の病気分類について触れた項目がありましたが、腹膜播種は厳密には原発癌がどの部位にできたのかにより病気分類に違いが見られる疾患とされます。しかしおおむねステージ4の位置づけです。
なぜなら、仮に胃のような部位を摘出することができても腹腔内に散らばった癌細胞を取りきることが難しいからです。そのため、腹膜播種が見つかると基本的に胃の切除は行わず、抗癌剤による治療が主になります。

腹膜播種(ふくまくはしゅ)の予後

医師

腹膜播種の余命について教えてください。

腹膜播種の患者の平均的な余命は、個人差が大きいため一概にいえず予後は極めて不良です。上に書いた通り胃癌が手術後再発してしまい、更に腹膜播種に転じてしまうと、腹膜播種の腹膜で癌細胞が広く散らばってしまう特性から患部の切除などを行なっても、完全に治すことは難しいといわれています。
特に今の医療現場ではスキルス胃癌や膵癌からによる腹膜播種は癌の進行が速く、抗癌剤への抵抗力も強いため予後は厳しいとされるのが見解です。一方、卵巣癌や大腸癌は腹膜内に大きな塊として点在し、抗がん剤や切除の方法が取りやすいので予後も確保できる傾向が見られます。

腹膜播種は再発することがありますか?

現状は腹膜播種に罹ると腹膜の中でも癌細胞が見えない箇所に転移している可能性があるので、術後に再発することが多いです。腹膜播種は手術で完全に取りきることは難しく、仮に取りきれたと思っている場合でも腹膜に広く発症しており、既に対応ができない場合もありますので、再発を抑えるためにも抗癌剤治療を進める処置が取られる傾向です。

最後に、読者へメッセージをお願いします。

腹膜播種は医師の元でしっかりした治療が行われるべき病気です。現在、腹膜播種に罹らないように予防する方法は発見されていません。そして腹膜播種に対抗できる主な治療方法は全身化学治療です。
また全身化学治療は手法が確立されて一定の成果が見られますので、多くの病院では抗癌剤治療で奏効率を少しでも上げる対応を患者さんに取る方針です。同様に腹膜播種に伴う症状に対抗するための緩和治療も行い、できるだけ苦痛のない症状に合わせた緩和ケアの重要性も示されている現状もみられています。
それに加えて、患者さんにも全身化学療法と緩和ケアを少しでも進める姿勢を大切にしてもらいたいポイントです。

編集部まとめ

男性医師
いかがでしたか。

この記事は腹膜播種についての症状や治療法などを書かせていただいております。

腹膜内に癌細胞が広がってしまうと発症するということでしたが、広まってしまうと完全に癌細胞を取り除くことが難しくなるという疾患でした。

一か所に癌ができること自体が大変なのにその上広がるなんて、それだけでも身構えてしまいそうになる疾患でしたね。

癌になるとそれに伴う疾患なども気になることと思いますが、少しでも治療の方向はあると信じたいものです。

そこで覚えておきたいことは、個人の独断と偏見で治療方法を決めるのではなくどのような疾患であろうと、それに合った適切な医療を受けることが大切だということです。

まだ根治が大変だといわれている腹膜播種のような病気であっても、治療法が確立されているものもありますので、着実に治療を進めましょう。

この記事の監修医師