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「乳房外パジェット病」を疑う初期症状・生存率はご存知ですか?医師が監修!

 公開日:2023/06/15
「乳房外パジェット病」を疑う初期症状・生存率はご存知ですか?医師が監修!

乳房外パジェット病は、高齢の方に発症する皮膚がんの一種であり、発症数が少ない希少がんでもあります。初期の段階では、皮膚表面の赤みやただれなどの症状が特徴です。

外陰部や肛門周辺など見えにくい箇所に発症し、発見が遅れるケースも少なくありません。

治療は主に病変を切除する手術が一般的で、遠隔転移がみられない場合は予後も良好です。

しかし、デリケートな箇所に発症するため、気になる症状があっても医療機関の受診をためらってしまう方も少なくありません。

そのような乳房外パジェット病について、気になる方もいらっしゃるのではないでしょうか。今回は、乳房外パジェット病の治療方法や予後などについて詳しく解説します。

竹内 想

監修医師
竹内 想(名古屋大学医学部附属病院)

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名古屋大学医学部附属病院にて勤務。国立大学医学部を卒業後、市中病院にて内科・救急・在宅診療など含めた診療経験を積む。専門領域は専門は皮膚・美容皮膚、一般内科・形成外科・美容外科にも知見。

乳房外パジェット病とは?

股間を押さえる男

乳房外パジェット病とはどのような病気ですか?

乳房外パジェット病とは、汗を作る組織の一つであるアポクリン腺の細胞が、がん化することで発症する皮膚がんの一種です。
アポクリン腺が多く存在する外陰部や肛門周辺での発症が一般的であり、まれに腋や臍の周辺にも発症するケースがあります。肌の表面(表皮)で広がり、ゆっくりと進行するため転移は少ないです。
しかし、デリケートな場所に発症するため受診をためらう方が多く、かなり進行してから発見されるケースも少なくありません。

どのような症状がみられますか?

乳房外パジェット病を発症すると、患部に赤みただれ皮膚の色が抜けたような白い色素斑などが表れます。
多くの場合が無症状ですが、かゆみを伴うこともあり、水虫や湿疹と間違われて治療されるケースもあるため注意が必要です。水虫や湿疹の治療を続けても改善しない場合は、乳房外パジェット病を疑い詳しい検査を受けるのが望ましいでしょう。
症状が進行すると、患部にびらん・かさぶた・しこり・潰瘍などが生じ、出血することもあります。

発症する原因を教えてください。

乳房外パジェット病の発症原因については、よくわかっていません。60代以降の高齢の方に発症し男女比は2:1と男性の方が多いと分かっていますが、患者数自体が少ないがんであり、発症原因などについては未だ研究段階にあるといえるでしょう。

乳房パジェット病との違いを教えてください。

乳房パジェット病はその名のとおり乳房(乳頭や乳輪)に発生するがんであり、乳がんの一種として数えられているため、皮膚がんの一種である乳房外パジェット病とは別の病気です。
しかし、どちらもアポクリン腺の細胞ががん化して発症する点は同じであるため、乳房パジェット病と乳房外パジェット病を総称してパジェット(Paget)病と呼ぶ場合もあります。
発症した際の病変は酷似していますが、乳房外パジェット病ではスキップ現象という目に見える範囲よりも広範囲に病変が散らばっているケースもあります。そのため、乳房パジェット病と比較すると治療範囲の確定が難しいという違いもあるのです。

乳房外パジェット病の受診科と治療方法

手術

受診を検討するべき初期症状はありますか?

先述のとおり、乳房外パジェット病では患部の赤みやただれがみられます。しかし、湿疹や水虫など同様の症状が表れる病気も多く存在するため、まずは市販の薬を2週間程度使用し、改善がみられなければ受診を検討するのが望ましいです。
医師でさえ見た目だけでは鑑別が難しいケースもあるため、慎重に経過を観察する必要があります。

乳房外パジェット病を疑う場合、何科を受診しますか?

乳房外パジェット病を疑う場合は、皮膚科を受診すると良いでしょう。外陰部の症状を皮膚科で診てもらうことに抵抗がある方も多いかもしれません。
しかし乳房外パジェット病はがんであり、放置するとがんが表皮よりも深く進行してリンパ節や肺などへの転移が表れるパジェットがんとなるため、早めの受診が重要です。気になる症状がある場合は、恥ずかしがらずに早めに皮膚科でご相談ください。

どのような検査で診断されますか?

乳房外パジェット病が疑われる場合には、以下のような検査を行います。

  • 問診・視診・触診:似た症状が表れる病気が多いため、まずは問診・視診・触診などで、乳房外パジェット病が疑われるかを確かめます。
  • 皮膚生検:乳房外パジェット病が疑われる場合には、病気が疑われる箇所の組織を3mmほどくりぬき、顕微鏡で検査します。検査は局所麻酔下で行われるため、痛みは伴いません。ほとんどの場合、皮膚生検で確定診断がつくでしょう。
  • CT検査:他のリンパ節や臓器への転移がないか確かめるためにCT検査が行われます。

乳房外パジェット病の治療方法を教えてください。

乳房外パジェット病に対する効果的な治療法は、現在のところ存在しないため、手術で病変を切除する方法が選択されます。病気の進行具合によってどのような手術が行われるかが異なり、主に以下のような方法がとられます。

  • 手術:病変のある箇所を外科的に取り除く方法です。先述のとおり、乳房外パジェット病は病変の範囲を見極めるのが難しいため、切除範囲は病変から1〜3cm程度大きく取るのが一般的です。
  • 再建手術:切除範囲が広く患部を縫い合わせられない場合には、局所皮弁や植皮などで再建手術が行われます。がんが尿道や肛門などに広がっている場合には、尿路変更術や人工肛門造設術などの大がかりな手術が必要となるでしょう。
  • リンパ節郭清:がんが表皮よりも深く進行し、リンパ節への転移が認められる場合には、リンパ節を切除するリンパ節郭清が行われます。転移の程度によっては、リンパ節郭清を行わずに済むケースもあるでしょう。

またリンパ節転移が広範囲で認められる場合や肺などに転移している場合や、患者の体調などによっては、放射線療法や抗がん剤治療を行うこともあります。

乳房外パジェット病の予後と生存率

説明する医師

乳房外パジェット病は治りますか?

がんが表皮内のみに止まっている場合には、手術のみで完治が見込めるでしょう。しかし、がんが進行しリンパ節などに転移しているケースでは治療が難航します。
また、手術で病変を取りきれなかった場合には再発することもあり得るため、治療後の定期的な経過観察は必須です。

乳房外パジェット病の生存率を教えてください。

乳房外パジェット病の5年生存率は、表皮で止まっている・真皮に浸潤している・局所リンパ節への転移までであれば、ほぼ100%と予後が良いです。しかし、遠隔リンパ節転移などがみられるケースでは1年生存率が30%程度にまで落ち込みます。
ゆっくりと進行するがんではありますが、遠隔転移するほど長期間放置してしまうと治療が非常に難しくなるため、気になる症状がある場合には早めに皮膚科での受診を検討しましょう。

乳房外パジェット病は転移するのでしょうか?

がんが表皮で止まっている初期の場合では転移がほぼみられませんが、真皮へ浸潤するとリンパ節への転移が起こる可能性が高くなるため、転移の可能性は十分にあるといえます
60代以下の若い方で発症した場合には、70代以降の高齢の方での発症よりも真皮への浸潤スピードが速く、リンパ節へ転移するリスクも高くなるため注意が必要です。リンパ節への転移が疑われる場合、手術とあわせてセンチネルリンパ節生検という検査が行われます。
がんがリンパ節へ転移する場合、最初にセンチネルリンパ節へ転移することが分かっており、センチネルリンパ節への転移の有無を調べることでリンパ節への転移の有無が判断できます。

最後に、読者へメッセージをお願いします。

乳房外パジェット病は外陰部や肛門周辺に発症し、症状もほとんど表れないため、特に女性の場合では気付きにくいこともあります。また、寝たきりの高齢者などでも発見が遅れることがあるでしょう。
介助者は、入浴やおむつ交換の際に外陰部や肛門に長期にわたるただれがないか、定期的に確認するのが望ましいです。
デリケートな箇所に発症することから、異変に気付いても医療機関の受診をためらわれる方も少なくありません。進行すると治療が大掛かりになったり、予後が非常に悪くなったりすることもあります。
外陰部の疾患は決して恥ずかしいものではありませんので、外陰部にただれなどの症状がある場合は、皮膚科で相談することをおすすめします。

編集部まとめ

診察イメージ
今回は乳房外パジェット病について詳しく解説しました。聞き慣れない病気ですが、進行すると予後が非常に悪くなるため、ぜひ注意しておきたい病気でもあります。

デリケートな箇所に発症するため、つい受診をためらってしまう方も少なくありませんが、乳房外パジェット病はがんの一種であり、早期発見早期治療に努めることが大切です。

外陰部・肛門・腋などにただれなど気になる症状が続いている場合には、一度皮膚科で相談されることをおすすめします。

この記事の監修医師