「尿崩症」とは?症状・原因・治療法も解説!【医師監修】
尿崩症(にょうほうしょう)とは、下垂体機能や腎臓などの働きが悪くなるために起こる病気です。尿の量が増加し、水分が失われるなどの影響が出る恐ろしい病気です。
突然変異によって誰しもかかる可能性のある病気のため、正しく症状や治療方法を把握しておくことは大変重要となります。
そこで本記事では、尿崩症の原因について、発症した際に見られる症状や治療方法も含めてご紹介します。
監修医師:
甲斐沼 孟(上場企業産業医)
目次 -INDEX-
尿崩症とは
尿崩症とはどんな病気か教えてください。
- 尿崩症とは、腎臓でできた尿を十分に濃縮できず、大量の尿が出てしまう病気です。
- 通常、尿は腎臓によって十分に濃縮が行われて体外へ排出されます。これは、下垂体から分泌される抗利尿ホルモンによって調節されています。
- 抗利尿ホルモンとは、尿の量を少なくする作用を持つホルモンです。血液中のこのホルモンが少なくなると尿の量は増加し、血液中のホルモン量が多くなると尿の量は減少します。
- これにより体内の水分量を調節しているのですが、尿崩症にかかると抗利尿ホルモンが正しく作用せず、希釈された大量の尿が出てしまいます。
何が原因で起こりますか?
- 尿崩症の原因は抗利尿ホルモンの分泌から、そのホルモンに対して反応する腎臓までの経路の中で異常が発生しているためです。
- 健康状態においては、抗利尿ホルモンは脳の一部である視床下部で生成され、下垂体へと移動・保存されます。そして、水分が足りない状況になると、下垂体から抗利尿ホルモンが分泌されるのです。
- 分泌されたホルモンは血液によって腎臓に運ばれ、腎臓に働きかけることで尿を濃縮します。尿によって体内の水分量を調節し、正常な水分量に保つのです。
- しかし、この抗利尿ホルモンを生成・分泌するところから腎臓までの経路のどこかで異常を起こすと、尿を調節することができなくなり、尿崩症を引き起こします。
尿崩症には種類があると聞いたのですが…。
- 尿崩症にはいくつか種類があります。
- 中枢性尿崩症
- 腎性尿崩症
- 視床下部の損傷
- 1つ目の中枢性尿崩症は抗利尿ホルモンの分泌が正しく行われなくなることで発症します。
- 通常、抗利尿ホルモンは視床下部や下垂体において分泌されます。しかし、外傷や脳腫瘍の影響で、正常に分泌されなくなってしまうことで尿崩症が発症するのです。
- 2つ目の腎性尿崩症は、腎臓が抗利尿ホルモンに対して適切に反応しなくなったために発症するケースです。
- この場合は、抗利尿ホルモンは正常に分泌されながらも腎臓が反応しないために尿崩症を発症します。また、その他にも尿崩症を引き起こす原因はあります。
- 例えば、視床下部の損傷によるものです。
- 視床下部はのどの渇きを感じる大切な役割を持っており、水分が足りない状況で渇きを感じます。しかし、手術や感染症などが理由で障害を受けると、十分な水分補給ができているにも関わらず渇きを感じることがあります。
- その結果、自発的に大量の水分を摂取し、それに反応して大量の尿を排泄するという尿崩症を引き起こすのです。
尿崩症の症状を教えてください。
- 尿崩症の主な症状には次のようなものが代表的です。
- 尿量の増加
- のどの渇き
- 大量の水分摂取
- 抗利尿ホルモンが分泌されない場合や、腎臓が正しく機能していないため正常に尿の量が調節できていません。そのため、尿の量が通常よりも非常に増えます。
- また、大量の水分が体内から失われてしまうために、のどの渇きを感じるようになります。その結果、大量の水分を摂取するという症状も発症するのです。
- 多い場合は1日10L程の量を摂取して、10Lの尿を出すこともあります。そのため、脱水症状や夜間でも尿意で目が覚めることなど、別の問題が生じることもあります。
妊娠中に発症することが多いのは何故ですか?
- 尿崩症は妊娠中に発症することが多いといわれる病気です。その理由は、胎盤から分泌されるたんぱく質によって引き起こされるためです。
- 胎盤から分泌されるタンパク質は、抗利尿ホルモンを破壊するケースがあり、その結果尿の調節が上手くできなくなります。
- また、胎盤からタンパク質以外にプロスタグランジンと呼ばれる物質が分泌されます。この物質は、抗利尿ホルモンに対する腎臓の反応を低下させる可能性があるのです。
- そのため、尿崩症を引き起こすことがあります。しかし、妊娠中の尿崩症は一過性のケースが多く、症状も軽度であることがほとんどです。
尿崩症の診断・検査方法
尿崩症は何科を受診したら良いのでしょうか?
- 尿崩症の症状がみられた時や疑いがある場合は、内科を受診しましょう。
- 尿量が増えた時・のどの渇きをいつまでも感じる時・沢山の水分を摂取するようになった時には、迷わず相談することをおすすめします。
- また、内科を受診した結果、中枢性尿崩症の可能性がある場合には内分泌科を受診しましょう。
尿崩症はどのように診断しますか?
- 尿崩症の診断には、水制限試験を用いて行います。水制限試験とは、水分摂取を禁止して行う試験です。
- 12時間水分摂取を行わず、定期的に尿の量・血液中の電解質濃度・体重などの変化を測定します。そして、12時間経過後は抗利尿ホルモンを投与し、それに対しての体の反応も測定するのです。
- ホルモン投与後に排尿の増加が止まり、尿が濃く・血圧上昇・心拍数が正常に近い場合は中枢性尿崩症と診断されます。一方、投与後も排尿増加が続き、尿は薄く・血圧と心拍数の変化がない場合は腎性尿崩症です。
どんな検査をしますか?検査内容が知りたいです。
- 尿崩症の検査は次のような内容を行います。
- 尿検査
- 血液検査
- 画像検査
- 尿検査によって、尿が薄くなっていないかを確認する検査です。
- 血液検査では、血中のナトリウムや血漿浸透圧を測定し、体内の水分がどの程度失われているかを測定します。
- 画像検査は、MRIによる検査です。抗利尿ホルモンを生成・分泌する部位に異常がないかを確認します。また、抗利尿ホルモンの存在を示す信号が正常に存在するかも確認します。
尿崩症の治療方法や予防方法
尿崩症は治りますか?
- 尿崩症は治療を進めることはできますが、根治させることは非常に難しいです。
- そのため、継続的な薬の投与が必要となります。
- 軽度の症状であれば、抗利尿ホルモン剤によってある程度尿量を減少させることが可能です。
尿崩症の治療について教えてください。
- 尿崩症が軽度の場合は、外部から抗利尿ホルモンを投与することで尿量を調整します。
- しかし、ホルモンの投与だけでは尿量を調整できない場合には、増加した尿を減らすためにデスモプレシンという薬を使用します。
- 鼻腔スプレーや錠剤などで摂取する方法があり、抗利尿ホルモン同様に尿量を減少させる効果があるのです。
- また、サイアザイド系の利尿薬が使用されることもあります。抗利尿ホルモンの生成を促す効果があり、薬によって尿量などの制御が可能となる場合があります。
尿崩症のセルフチェック法を教えてください。
- 尿崩症のセルフチェック方法としては、次のような症状に心当たりがあるかを確認しましょう。
- 尿が我慢できないと感じて、急いでトイレに行くことがある
- 尿の回数が増加した
- 尿のために夜起きてしまい困る
- 体がだるい
- 認知症と診断されたことがある
- これらの症状に悩んでいるということであれば、念のため医療機関を受診しましょう。
発症後の注意点や予防方法が知りたいです。
- 発症後の注意点としては、薬の効果が切れる時間を確保することです。
- デスモプレシン等の薬を投与している場合、必要以上に使用すると体に水分がたまって水中毒を引き起こす可能性があります。水中毒で引き起こす症状としては、低ナトリウム血症を生じ、頭痛・嘔吐・倦怠感を感じるなどです。
- これらの中毒症状を回避するには、薬の効果が切れる時間を確保することが重要です。効果が切れると尿量が増加するので、尿意を感じたらできるだけ速やかに排尿しましょう。
- この時に尿意を我慢すると、尿が膀胱にたまる状態が続くため、膀胱機能の低下や尿路感染症を引き起こす場合があります。
- また、薬の効果があるからといって、自分の判断で投与をやめることがないようにしましょう。
- また、中枢性尿崩症の場合、まれにのどの渇きを感じる感覚に障害があるケースがあります。その場合、体が水分不足状態にも関わらず、渇きを感じないため水分を摂取しません。著しい脱水状態となる危険性があるため、注意が必要です。
最後に、読者へメッセージがあればお願いします。
- 尿崩症は、尿の量が多くなるだけでなく、のどの渇きや大量の水分摂取などを引き起こす大変な病気です。
- これらの症状から、脱水症状や他の症状を併発する可能性があります。少しでも排尿の異変を感じたら、医療機関に相談してみましょう。
- 根治は難しい病気ですが、薬を投与することで尿量を調整することは可能です。その際の注意点などをしっかりと把握して、できるだけ普段の生活と同じ生活が送れるように対応していきましょう。
編集部まとめ
尿崩症は、尿の量が増えてしまう病気です。それだけを聞くとあまり恐ろしい病気とは感じない人も多いかもしれません。
しかし、体内で排尿のためのメカニズムが失われている恐ろしい病気です。
体内の水分に影響を及ぼすため、併発する症状も大きく、万が一発症した場合には薬が欠かせない病気となります。
本疾患は根治が難しいながらも、投薬によって調整することは不可能ではありませんので、少しでも症状に思い当たる場合や、不安を感じている場合には代謝内分泌内科など専門医療機関に相談して適切な治療を行いましょう。
参考文献