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「乳頭がん」を発症すると現れる症状・原因はご存知ですか?ステージについても解説!

 更新日:2023/05/08
「乳頭がん」を発症すると現れる症状・原因はご存知ですか?ステージについても解説!

乳頭がんという病気をご存じでしょうか。

乳頭がんは、のどぼとけの下にある甲状腺にできる甲状腺がんの一種です。その名前から乳がんと関係があるように思えますが、実は全く関係はありません。

今回は乳頭がんの病名の由来から、その症状・治療方法・予後に至るまで詳しくご紹介します。

「首のあたりにしこりがあるかも」・「この症状は乳頭がんなのでは」・「乳頭がんといわれたけど手術が必要なのだろうか」など、気になる点がある方はぜひ最後までご覧ください。

小島 敬史

監修医師
小島 敬史(国立病院機構 栃木医療センター)

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慶應義塾大学医学部卒。医師、医学博士。専門は耳科、聴覚。大学病院および地域の基幹病院で耳鼻咽喉科医として15年以上勤務。2年間米国で基礎研究に従事の経験あり。耳鼻咽喉科一般の臨床に従事し、専門の耳科のみならず広く鼻科、喉頭、および頭頸部腫瘍疾患の診療を行っている。
日本耳鼻咽喉科学会専門医、指導医。日本耳科学会、日本聴覚医学会、日本耳鼻咽喉科臨床学会の各種会員。補聴器適合判定医、補聴器相談医。

乳頭がんとは

診察をする男性医師

乳頭がんの特徴を教えてください。

乳頭がんは、のどぼとけの下の甲状腺にできるがんで、甲状腺がんの一種です。甲状腺がんには、乳頭がん・濾胞がん(ろほうがん)・低未分化がん・髄様がん・未分化がん・悪妻リンパ腫がありますが、そのほとんどを占めるのが乳頭がんになります。
年齢に関係なく、若者~高齢者と幅広く発症し、男性より女性に多いのが特徴です。乳頭がんの一部には、再発して生命に影響を及ぼす高リスクのものもありますが、多くはリンパ節転移をしてもあまり予後に影響を及ぼすものではありません。
また、遠隔転移はほとんどありません。多くの乳頭がんは緩やかに進行していく予後のよいがんです。

乳がんとはどのように違うのでしょうか?

乳頭がんには「乳頭」という言葉がついているので、乳がんの仲間であると思われがちですが、乳がんとは関係ありません。乳がんは、乳房の乳腺組織にできるがんです。
一方、乳頭がんは先ほどお伝えしたように、甲状腺がんの一種です。がん組織を顕微鏡で確認すると、その形が「乳頭」に似ているため、「乳頭がん」と名称づけられました。以上のように、乳頭がん・乳がんは全く別物ですので、間違えないようにしてください。

症状を教えてください。

乳頭がんの症状は、しこり以外ない場合がほとんどです。しこりは、前頸部(甲状腺)・側頸部(リンパ節)などに生じます。一般的に痛みはありません。
また、反回神経(声帯を動かす神経)にがんが浸潤すると、嗄声(声のかすれ)が出る場合もあります。その他には、喉の違和感・息苦しさ・飲み込みにくさ・血痰などが現れる場合がありますが、これらの症状はまれです。
症状が現れた場合・気になる症状がある場合は専門医(耳鼻咽喉科・内分泌科)を受診しましょう。

発症の原因を教えてください。

甲状腺がんが発症する原因はいくつか考えられていますが、特に可能性が高いのは若年者(特に小児)の放射線被ばくです。小児がんで放射線治療を受けた15歳以下の患者を調査したところ、放射線治療を受けていない患者と比べて甲状腺がんが増加したという報告がありました。
また、体重増加(肥満)なども、発症のリスクとして挙げられます。さらに、ヨードも原因となることがわかっています。
特に日本ではヨードを多く含む海藻類などの摂取量が多いため、甲状腺がんの多くは乳頭がんです。

どのような方がなりやすいのでしょうか?

先に述べた発症の原因から考えると、小児期にがん治療などの一環で放射線被ばくをした方は、甲状腺がんになりやすいといえます。また、体重増加が著しい方・肥満の方も発症リスクが上がるという報告があります。
喫煙している方・飲酒している方なども、していない方に比べると若干がんが増えるというデータがありますが、そこまで大きな関連はわかっていません。海藻類など、ヨードを多く含む食品を多く食べる方も発症しやすいので要注意です。

ステージについて教えてください。

乳頭がんは、「頭頚部癌診療ガイドライン(2018年版)」によると、年齢55歳を境に分類が変わってきます。55歳未満では、「遠隔転移(がんが骨や肺などの遠くの臓器に転移)していないもの」がⅠ期、「遠隔転移しているもの」がⅡ期です。
一方、55歳以上では、より細かなステージ分類となります。「がんが甲状腺内にとどまりサイズが2㎝以下(または2㎝以上4㎝以下)で領域リンパ節に転移がないもの」がⅠ期です。
「がんが甲状腺内にとどまりサイスが2㎝以下(または2㎝以上4㎝以下)で領域リンパ節に転移があるもの・がんが甲状腺内にとどまっており大きさは4㎝より大きい・前頸筋群にのみ浸潤しているもの」はⅡ期となります。
Ⅲ期は、「がんが皮下軟部組織・喉頭・気管・食道・反回神経などに浸潤しているもの」です。そして、Ⅳ期はⅣA期・ⅣB期に分かれています。
ⅣA期は「がんが甲状腺の外部組織に浸潤している、もしくはがんが頸動脈の全体を取り囲むもの」で、ⅣB期は「がんが遠隔転移しているもの」です。乳頭がんは、がんの種類・ステージなどにより治療方法も違います。したがって、ステージ(病期)の正確な診断は、治療を効果的に行うために大変重要です。

乳頭がんの検査方法と治療方法

病室

どのような検査を行いますか?

乳頭がんの検査ではまず、自覚症状・既往歴・放射線被ばくの経歴・家族歴などを問診します。そして視診・触診を行います。視診・触診でわかるのは、甲状腺のサイズ・しこりの有無・硬さなどです。血液検査では、甲状腺ホルモンなどを調べてがんの状態を把握します。
多くのがんには、その発生の有無を調べる腫瘍マーカーがそれぞれあります。しかし、乳頭がんには特定の腫瘍マーカーが存在しません。画像検査には、超音波検査・CT検査・MRI検査・シンチグラフィ検査があります。超音波検査は痛みもなく短時間で行える検査です。しこりの有無・位置・サイズ・性質に加えて、リンパ節への転移などその他の病変も調べます。
CT・MRI検査は、がんが周辺臓器へ広がっていないか、転移がないかなどをより詳しく調べるために用います。シンチグラフィ検査とは、甲状腺機能・しこりの有無などを確認するために、放射性物質を注射・内服して行う検査です。
これらの検査でしこりが確認された場合に行われるのが、病理検査である穿刺吸引細胞診です。超音波で甲状腺の内部を確認しながら、がんが疑われる部分に細い針を刺し、直接的に細胞を吸い取って顕微鏡で調べます。この検査では、甲状腺がんの種類判別に優れているため、乳頭がんの診断に効果的です。以上の検査を段階に応じ、組み合わせながら行います。

治療方法を教えてください。

乳頭がんの治療方法は、がんの状態・年齢・健康状態により変わるので、正確な診断・判断のもとで患者さんの希望も踏まえて決定することが大切です。主な治療方法は、手術・放射線治療・薬物療法になります。
乳頭がんの診断を受けた際、基本的に行われるのは手術です。手術方法には、甲状腺の全摘・亜全摘・葉峡部切除(峡部を含む片側葉切除)があります。がんが甲状腺全体に広がっていたり、リンパ節にまで及んでいたりする場合は、周囲の正常な甲状腺組織・リンパ節も切除します。
次に放射線治療ですが、乳頭がんにおける放射線療法の主な方法は、放射性ヨード内用療法です。放射性ヨードを服用した後、内照射することで、術後わずかに残ってしまったがん細胞の破壊が期待できます。薬物療法は主に2つで、甲状腺ホルモン療法・分子標的療法です。
甲状腺ホルモン療法は、術後の甲状腺ホルモン剤内服量を増やすことで、甲状腺ホルモンの分泌を抑制して再発・転移のリスクを減らす効果が期待できます。分子標的療法は、再発・転移において、手術・放射性ヨード内用療法では対応できない場合に行われる治療方法です。治療効果が期待できますが、副作用が強い点には注意が必要です。
このように、専門医が個々に合った治療方法を総合的に判断して行います。

手術をせずに経過観察を行う場合もあるのですね。

乳頭がんの中には、がんのサイズが1㎝以下の「微小乳頭がん」があります。そして、転移・臓器への浸潤が明らかではないものを「超低リスク乳頭がん」とし、手術は行わずに定期的に超音波検査などで経過観察する「非手術経過観察」を行うケースも多いです。
「甲状腺腫瘍診療ガイドライン(2018年版)」でも、超低リスク乳頭がんにおける非手術経過観察を推奨しています。
また日本甲状腺学会の報告では、非手術経過観察を行った超低リスク乳頭がんのほとんどは進行せず、万が一進行した場合でもその時点で手術を行えば経過・予後は良好であると示されています。経過観察は、経験豊富な専門医・超音波技師のもとで行われることが必要です。

乳頭がんの予後

入院患者と医者

乳頭がんは治る病気でしょうか?

乳頭がんでは、第一の治療として手術が選択されます。特に手術すれば、治る確率が高くなります。早期発見・早期治療で治る確率も上がるので、ステージが低い場合の方がより治りやすいのです。
とはいえ、症状のない超低リスク乳頭がんは発見されず、生涯において気づかれないまま共存していたケースもあります。また、リンパ節転移する症例が多いですが、手術でリンパ節郭清を行えば生命への影響がほとんどないとされています。
加えて、遠隔転移(肺・骨など)は滅多にありません。再発は原発部分の局所再発が多いですが、治療を行うことで治る可能性も高いです。

乳頭がんの生存率を教えてください。

さまざまながんと比較しても、乳頭がんの予後はよいとわかっています。国立がん研究センター公表の甲状腺乳頭濾胞がんの5年生存率(診断年2013〜2014年)は、Ⅰ期98.9%・Ⅱ期100%・Ⅲ期100%・Ⅳ期91.1%です。
がんの進行・ステージ・治療方法によって異なりますが、いずれも高い生存率となっています。しかし、他のがんと同じく、進行がん・転移がある場合は生存率が下がる場合があります。
したがって、生存率に早期発見・早期治療が大きく関わっているのは確かです。また、治療後の定期的な経過観察も重要で、再発予防につながります。

最後に、読者へメッセージをお願いします。

乳頭がんの罹患数は年々増加傾向にあります。しかし、これは医療技術の進歩により、かなり小さな乳頭がんを発見できるようになった背景があるといえるでしょう。「別の疾患で検査をしたらたまたま発見された」などです。
乳頭がんは、悪化の危険性の少ないごく小さなものは手術をせずに経過観察する場合も多く、万が一発見され治療対象となっても治りやすい病気です。早期発見・早期診断・早期治療に越したことはありませんので、気になる症状がある場合には、早めの受診をおすすめします。

編集部まとめ

医療スタッフ
乳頭がんについて、詳しくご紹介しました。

「初めて乳頭がんを知った方」・「病名は聞いたことがあったが詳しく知らなかった方」・「乳頭がんと診断されたので詳しく知りたかった方」などさまざまだと思います。

乳頭がんは、他のがんと比べて予後もよく、治療により根治が目指せるがんです。

定期健診などはまだ確立していませんが、ご紹介した症状に当てはまるような場合には、すぐに専門医を受診しましょう。

この記事が、皆さまの乳頭がんの早期発見・早期治療につながれば幸いです。

この記事の監修医師