「中咽頭がん」を発症すると現れる症状・原因はご存知ですか?医師が監修!
咽頭がんはのど(咽頭)に発症するがんの一つです。発症頻度はそれほど高くありませんが、重要な器官に発生するがんのため注意が必要な病気だといえます。
ものを飲み込んだときにつかえるような感じがあったり、ヒリヒリとしみるような感覚があったりなど、のどの気になる症状はありませんか。
今回は咽頭がんの一つである中咽頭がんのさまざまな疑問について詳しく解説いたします。
既に中咽頭がんの診断を受けた方はもちろん、のどのつかえや違和感が気になる方も是非ご参考になさってください。
監修医師:
郷 正憲(徳島赤十字病院)
中咽頭がんの原因や症状
中咽頭がんはどんな病気ですか?
中咽頭とは鼻の奥から食道辺りまでのことを指し、主に呼吸・ものを飲み込む(嚥下)・言葉を作る(構音)などの機能を司っています。そのため、中咽頭にがんが発生するとこれらの機能にさまざまな障害があらわれるのです。
中咽頭を含む鼻から鎖骨上辺りまでの部位を頭頚部といいますが、頭頚部に発生するがんはがん全体でわずか5%、中咽頭がんはそのうちの10%程度と発症頻度は低いです。発症割合は男女比で2~4:1と男性に多く、50~60代の方によくみられます。
中咽頭がんを引き起こす原因はありますか?
また、鉄欠乏性貧血から中咽頭がんに繋がるケースもあります。鉄欠乏症貧血を放置すると頸部食道壁に影響を与えることがあり、中咽頭がんや下咽頭がんを引き起こすリスクとなってしまうのです。
近年ではヒトパピローマウイルスという細菌が原因で発症するケースも増加傾向にありますが、過度な飲酒や喫煙などが原因で発症した場合と比べ予後や進行度が異なるため、臨床的には別のがんとして扱われています。
中咽頭がんになるとどんな症状がでますか?
また、中咽頭がんは初期の段階から頸部リンパ節へ転移しやすいという特徴をもっており、首の腫れやしこりなどがみられることもあります。
進行するとのどの痛み・ものを飲み込みにくい・口を開けにくい・喋りにくいなどの症状があらわれ、さらに進行するとのどの耐え難い痛み・出血・呼吸困難など生命に関わる重篤な症状があらわれる場合もあります。
中咽頭がんの治療・副作用・後遺症について
中咽頭がんの治療はどのように行いますか?
中咽頭がんでは、がんの大きさ(T分類)・首のリンパ節への転移の状態(N分類)・離れた臓器への転移の有無(M分類)の3項目によるTNM分類からがんの進行具合(ステージ)を確定します。そして、ステージに合わせて手術や放射線治療などを組み合わせた治療が行われるのです。
前述したとおり、中咽頭は嚥下や構音など非常に重要な機能を司る器官であるため、これらの機能がなるべく低下しないように配慮しながら治療方法を選択する必要があります。
ステージⅠ及びⅡといった比較的早期のがんであればそれほど大きな手術は必要なく、中咽頭の機能障害も最小限に抑えることができます。しかし、ステージⅢ以降の進行がんの場合は、やむを得ず中咽頭の機能を犠牲にしなくてはならない場合もあるのです。
内視鏡治療と副作用・後遺症について詳しく教えてください。
ただし内視鏡治療はがんが小さく中咽頭の上皮内にある、いわゆる早期がんにのみ有効な治療法であるため、内視鏡治療が可能かどうかは医師との相談が必要です。
外科治療と副作用・後遺症について詳しく教えてください。
以下のものが主な後遺症です。
- 口を開閉しにくくなる
- 声が鼻に抜けて正しく発音しにくくなる
- ものを飲み込んだ際に鼻へ逆流する
- 誤嚥
上記の後遺症のように、外科治療で中咽頭などの機能に大きく影響が出る場合には、治療後の生活の質をなるべく落とさないよう再建手術が行われます。中咽頭切除の場合には主に腸を移植することで再建が行われますが、その際には気管切開が必須であるため、残念ながら発声機能が失われます。
また中咽頭がんでは首のリンパ節への転移がよくみられるため、転移が認められた場合や高確率で転移があると考えられる場合には、首のリンパを切除する頸部郭清術も行われるのです。頸部郭清術では首のリンパ節周辺の大きな血管・筋肉・肩を動かす神経も取り除くことがあり、手術後に首のこわばり・顔のむくみ・肩の運動障害などの後遺症がみられることも少なくありません。
そのため、頸部郭清術後には生活の質への影響を最小限にするためにリハビリが行われます。
放射線治療と副作用・後遺症について詳しく教えてください。
身体の外から放射線をあてる外部照射の場合であれば、6~7週の治療期間の間に30~35回程度行われます。外科治療と比べがん周辺の正常な組織を温存できるため、中咽頭の機能に与える影響も少なくなることがメリットです。
一方で放射線治療には副作用が多く、治療中や治療後すぐには皮膚炎・粘膜炎・唾液分泌障害・嚥下困難などの症状があらわれることがあります。また、治療後半年~数年後に歯の欠損・開口障害・放射線性骨髄炎・骨壊死など重篤な症状があらわれるケースもあるため注意が必要です。
また味覚障害や唾液分泌障害などが長期にわたり後遺症として残ることもあります。
薬物治療と副作用・後遺症について詳しく教えてください。
中咽頭がんの場合、薬物治療はあくまで他の治療への補助的な役割として選択されており、単独で行われることはほぼありません。
化学放射線療法と術後補助療法で主に用いられるシスプラチンという抗がん剤には、貧血などの骨髄抑制・悪心嘔吐・末梢神経障害・聴力障害などの副作用が認められます。また、導入化学療法では主にシスプラチン・ドセタキセル・5-FUという3剤を組み合わせており、白血球減少による感染症など強い副作用があらわれることもあります。
中咽頭がんの余命・予防・再発について
中咽頭がんの余命について教えてください。
また早期がんの段階で治療することができれば、中咽頭の機能への影響も最小限に抑えられます。しみるような痛みや飲み込みにくさなど、のどの違和感が気になる場合には放置せず早めに病院で相談し中咽頭がんの早期発見に努めることが大切です。
中咽頭がんの予防はできますか?
また、強い酒を頻繁に飲むことも中咽頭がん発症のリスクがあがる原因となるため、なるべく控えましょう。その他、適度な運動・バランスの良い食事・口腔ケア・感染予防なども中咽頭がんの予防に効果的だといえます。
中咽頭がんは転移・再発することはありますか?
中咽頭がんではおよそ20~30%と高い確率でがんの転移がみられます。特に首のリンパ節など他の頭頚部・食道・胃に転移がみられやすいため、中咽頭がんの治療後には定期的に消化器系のがん検診を受けることをおすすめします。
また、中咽頭がんは治療後2年以内と早い段階で再発することが多いです。そのため最低でも治療後5年間は経過を観察し、再発が多いとされる治療後2年以内では1~2ヶ月に一度くらいの頻度で受診が必要です。
最後に、読者へメッセージをお願いします。
中咽頭は構音や嚥下など生きていくうえで重要な機能を司る器官であるため、なるべくもとの機能に支障が出ない段階で治療に臨めることが理想的です。現在のどに違和感がある方はもちろん、長年お酒やタバコを嗜み中咽頭がんの不安がある方も、是非一度耳鼻咽喉科や頭頚部外科で相談されることをおすすめします。
編集部まとめ
今回は中咽頭がんのさまざまな疑問について詳しく解説いたしました。
死亡率がそれほど高くないがんとはいえ、発症することでものを飲み込んだり話したりなど、日常生活で非常に重要な機能に障害が出てしまうこともあるため注意が必要です。
過度な飲酒や喫煙などが発症リスクを高めてしまうため、健康寿命を延ばすためにも普段の不摂生を見直して中咽頭がんの予防に努めたいですね。
のどの違和感が気になる場合には、早めに医療機関で受診するようにしましょう。