「ぶどう膜炎」になると現れる初期症状はご存知ですか?医師が監修!
ぶどう膜炎は、眼球を包んでいるぶどう膜と呼ばれる膜に生じる炎症のことです。さまざまな原因で発症し、目の中・目の奥で起こる炎症のためにかすみ目・目の痛み・視力の悪化などを引き起こします。
体の他の部分にぶどう膜炎の原因となる病気がひそんでいることもあり、重症化するケースや再発するケースも多く、慎重な診断・治療が求められます。
本記事では、ぶどう膜炎の症状や発生の要因・治療する際のポイントなどについて詳しく解説していますので、ぜひ参考にしてください。
監修医師:
郷 正憲(徳島赤十字病院)
目次 -INDEX-
ぶどう膜炎の特徴
ぶどう膜炎はどんな病気ですか?
ぶどう膜と呼ばれる眼球を包み込む膜に生じる炎症のことで、日本眼科学会のサイトでは『眼の中に炎症を起こす病気の総称です。“内眼炎”とも呼ばれ、その原因には失明に至る重症なものもあり、さまざまです。』と定義されています。
結膜炎は耳にすることも多いかと思いますが、結膜炎が目の表面の炎症であるのに対し、ぶどう膜炎は目の中・目の奥で起こる炎症のため視力低下や目の痛みなど結膜炎とは異なる症状が発生します。ぶどう膜は、目の他の組織と比べて
血管が多く炎症を起こしやすいのが特徴です。いったん炎症が起こると、となり合わせの網膜にも炎症が広がるリスクが高く、視力の低下や目の痛みを引き起こします。
眼球に限った病気ではなく、全身性の病気が原因であることも多く、治るまでに時間がかかるケースが多いのも特徴です。
ぶどう膜炎の代表的な初期症状はどんなものですか?
ぶどう膜炎は網膜へ広がることが多く、網膜の腫れや濁りをきたします。それに続いて、硝子体(眼球の大部分を満たす無色透明のゼリー状のもの)や前房(角膜と水晶体で囲まれた部分)といった部位にも濁りが発生し、そのためにかすみ目・飛蚊症・目の痛みなどの症状が引き起こされるのです。
また、ぶどう膜のうち虹彩と呼ばれる茶目の部分に強い炎症が起こった場合には、白目の部分が充血します。
ぶどう膜炎にかかる原因は何ですか?
- 非感染性ぶどう膜炎
- 感染性ぶどう膜炎
免疫疾患(過剰な免疫反応により自己の組織を攻撃してしまう病気)に分類されるサルコイドーシス(さまざまな臓器に小さな腫瘤ができる)・原田病(髄膜炎・皮膚の白斑・白髪・目の奥の痛みなどが起きる病気)・ベーチェット病(全身に炎症症状が繰り返し現れる病気)の3つはぶどう膜炎の原因として重要な病気です。
これらは3大ぶどう膜炎と呼ばれ、ぶどう膜炎の発生をきっかけにして発見されることもあります。ぶどう膜炎の原因としてサルコイドーシスは増加傾向、一方ベーチェット病は減少傾向にあり、ベーチェット病は疾患としても軽症化しているといわれています。3大ぶどう膜炎以外にも、関節リウマチや強直性脊椎炎、関節症性乾癬などもぶどう膜炎の原因となり得る病気です。
また、ぶどう膜炎の半数近くは原因不明とされています。非感染性ぶどう膜炎のうち、こういった原因が特定できないぶどう膜炎は特発性ぶどう膜炎と呼ばれます。
免疫疾患に続いて多い原因が、細菌やウイルス・寄生虫などの感染症です。単純ヘルペスウイルス・水痘帯状疱疹ウイルス・サイトメガロウイルスなどによる感染症、トキソプラズマ症などが、ぶどう膜炎を引き起こす感染症としてあげられます。
サイトメガロウイルス感染もヘルペスウイルスによる感染症の1つで、近年、ヘルペスウイルスによる疾患の増加が指摘されています。その他、結核や梅毒なども、ぶどう膜炎の原因となる感染症です。
そもそもぶどう膜とは何ですか?
脈絡膜の内側には網膜、外側には強膜があり、これらの膜が3層構造となって眼球を包み込んでいます。
ぶどう膜は、網膜に酸素や栄養を届ける役割があるため、血管が非常に豊富です。血管が豊富なためにぶどうのような色をしていることが「ぶどう膜」と呼ばれる所以なのですが、血管が多いために炎症が起きやすく、網膜などへも炎症が広がりやすいというリスクを抱えています。
ぶどう膜炎の合併症があると聞きました。
- 白内障
- 緑内障
白内障は高齢者に多くみられる疾患で、水晶体(カメラのレンズのような働きをする)が濁ることによって視力低下が起こります。ぶどう膜炎では、繰り返し発生する炎症や長期にわたるステロイド治療(後ほどくわしく解説します)などが原因となって、高齢者に限らずさまざまな年齢層で発症するリスクがあります。
白内障と同じく、炎症やステロイド治療が原因で発生する可能性があるのが緑内障です。眼圧が上昇することによって視神経が障害され、視野が狭くなるリスクがあります。
失明してしまうこともあるため、予防と早期治療がとても重要です。点眼薬を使って眼圧を下げることが治療の中心となりますが、期待した効果がえられず手術が必要となることもあります。
ぶどう膜炎の診断と治療方法
どんな症状が出たらぶどう膜炎と判断するべきですか?
また、網膜に炎症が広がると網膜の中心部がむくんで網膜剥離が起こることがあり、その場合に発生するのが視力低下です。このような症状を認めた時には、ぶどう膜炎を疑って、くわしい検査をする必要があります。
何科の病院を受診するべきですか?
眼科での診察の結果、他の診療科との総合的な診断・治療が必要と判断される場合があります。
どんな検査を行いますか?
また、網膜断面構造解析(網膜の断面を撮影して網膜の腫れや網膜剥離の有無を調べる)や眼底の血管造影検査(血流の状態や通常の眼底検査では確認できない病変の状態を調べる)が行われる場合もあります。
全身性の疾患が疑われる場合には、内科など他の診療科との連携のもと、検査データが総合的に評価され診断が行われます。
治療には薬を利用しますか?
- ステロイド
- 散瞳薬
- 免疫抑制剤
- 生物学的製剤
- 抗生剤・抗ウイルス薬
ステロイドは体内の副腎という腎臓の上にある臓器で作られるホルモンで、炎症をおさえる強い作用があり、ぶどう膜炎に非常に有効な薬とされています。ぶどう膜炎の治療は、ステロイドの点眼が基本であり、軽症であればステロイド点眼のみで軽快します。
炎症が強く点眼だけでは改善しないケースで行われるのが、ステロイドの内服治療(全身投与)です。ステロイドを全身投与する場合には、副作用に留意し、必要以上の投与をさけることが重要です。症状が改善すれば、投与量を少しずつ減らしていきます。
ぶどう膜炎のうち、虹彩に炎症がある場合には、散瞳薬を投与して瞳孔を広げる治療を行います。瞳孔を広げるのは、虹彩と水晶体が癒着(お互いにひっついてしまうこと)するのを防ぎ、痛みの軽減をはかるためです。通常は点眼投与ですが、炎症が強いケースでは、結膜への注射を行うこともあります。
ぶどう膜炎では、上述のステロイド治療が長期にわたって実施されることが多く、ステロイドによる副作用が高率で発生します。その副作用を軽減するために使用されるのが免疫抑制剤(異常な免疫反応をおさえる薬)です。
免疫疾患関連のぶどう膜炎に対して免疫抑制剤を投与する場合は、他の診療科と連携して投与することが望ましいとされています。血液中の薬の濃度を定期的に測定しながら投与量を決めなければならない免疫抑制剤もあり、また、副作用の有無をチェックするためにも定期検査は必須となります。
近年、生物学的製剤と呼ばれる治療薬が開発されています。サイトカイン(炎症に関係するタンパク質)についての研究が進んでおり、サイトカインの働きをおさえ、かつ副作用の発生も少ないという治療が可能となっているのです。
ステロイド内服の効果が不十分な場合や、副作用のために免疫抑制剤の使用が難しい場合、生物学的製剤が選択されます。点滴または皮下注射で投与されます。
感染性のぶどう膜炎に対しては、病原菌に対する治療として、抗生剤や抗ウイルス薬が投与されます。点眼・軟膏・内服・点滴などで投与されますが、炎症が重度の場合、ステロイドの全身投与も検討されます。
ぶどう膜炎が治るまでの注意点
ぶどう膜炎の症状が出た時の注意点はありますか?
受診した際には、頭痛・耳鳴り・関節痛・湿疹・下痢・口内炎など、目とは関係ないと思われる症状であっても必ず医師に伝えましょう。
発作や再発が起こりやすいと聞きました。
また、再発が多いのも特徴とされています。ぶどう膜炎においては、早期に的確な診断を受け、発作や再発をできる限り少なくするために適切な治療を継続して行うことが非常に大切です。発作や再発が起こった場合には、すみやかに治療を開始し、炎症が長引くのを防ぐことがポイントとなります。
治療後にも通院はするべきですか?
また、緑内障や網膜剥離などによる視力・視野の障害は、状態がかなり進行するまで自覚症状として認識されにくいということも定期受診が必要な理由の1つです。目以外にもさまざまな症状があり、早急な治療が必要となるケースもあります。定期的な診察を受けることは発作・再発の予防に必要不可欠なのです。
最後に、読者へメッセージをお願いします。
早期診断・早期治療が極めて重要な疾患です。症状を自覚した場合はすみやかに受診しましょう。
編集部まとめ
ぶどう膜炎では、体の他の部分に原因となる病気がひそんでいることがあり、ぶどう膜炎の発症でその病気が判明するというケースも少なくありません。
早急な治療を要することもあり、また合併症を防ぐという点からも、的確な治療を早期に開始することが非常に重要です。
症状を自覚した際はすみやかに受診し、そして症状の改善後も病気としっかり向き合って、確実に治療を継続しましょう。
参考文献