「コンパートメント症候群」とは?症状・原因・治療法も解説!医師が監修!
骨折をした際には、骨折自体だけではなく後遺症や合併症に気をつけなければいけません。「コンパートメント症候群」もそのひとつです。
コンパートメント症候群は足や腕を骨折、または強い圧迫をした際にみられる障害です。骨折などが由来の障害ですが、血行不良が原因のさまざまな症状が現れます。
放置すると治療不可の状態まで進行してしまうことから、骨折などの外傷を負った場合は気をつけなければいけません。
今回は、コンパートメント症候群がなぜ起こるのか、症状や後遺症について解説します。
監修医師:
甲斐沼 孟(上場企業産業医)
目次 -INDEX-
コンパートメント症候群の特徴
コンパートメント症候群とはどのような病気ですか?
- 「コンパートメント症候群」とは、腕や脚に外傷を負った際に腫れが起こり、血行不良を起こす障害のことを指します。原因となる外傷は主に骨折や挫傷(強く長時間圧迫することにより起こる肉離れ)です。外傷によって筋肉が引っ張られたり部分的に断裂すると、筋肉は腫れてしまいます。すると腫れた部分が血流を阻害するようになります。これを放置すると待っているのは神経や筋肉の壊死です。麻痺や感覚喪失、また他臓器の重大な機能障害を併発することがあります。ちなみに「コンパートメント」というのは「仕切られた区画」という意味です。太ももや前腕にはたくさんの筋肉が集まっています。それぞれは筋膜という膜で囲まれており、それぞれを区画として「コンパートメント」と呼びます。筋肉の腫れにより各コンパートメントの圧力が上がることで起きるのが「コンパートメント症候群」です。
症状を教えてください。
- まず、腫れが生じている(=圧力の上昇している)コンパートメントが痛くなります。また、同じ部分がチクチクとした感覚をおぼえることもあります。これはコンパートメント内に神経もあり、これが圧迫されることによって起こる感覚異常です。これらの症状は外傷の程度に比例しません。コンパートメント症候群の症状が出た場合、早期の治療が必要です。症状は血流阻害によって引き起こされるため、進行すると組織の虚血が進行し筋肉・神経が壊死します。筋肉・神経の壊死が起こると、壊死した組織に含まれていた成分が血流に流出し始めます。これによって「横紋筋融解症」や感染症が引き起こされる可能性があるのです。これらの合併症が進行すると、最悪の場合四肢切断となる可能性があります。
手足の血行が悪くなることもあるのですね・・・。
- ただ血行が悪くなるだけでなく、ほぼ継続して症状が進行します。基本的には切開して圧力を減らすなどの処置が必要です。
コンパートメント症候群の原因が知りたいです。
- ほとんどのコンパートメント症候群が外傷によって引き起こされます。これを「急性コンパートメント症候群」と呼びます。コンパートメント症候群の原因となりうる外傷は次のとおりです。
- 骨折
- 筋肉部分の外傷による筋肉内出血
- 挫傷(長時間の圧迫や強い圧迫)
- 動脈損傷
- これらの外傷によって筋肉が腫れることで急性コンパートメント症候群を引き起こします。一方、「慢性コンパートメント症候群」という類型もあります。慢性型の場合は、原因は外傷ではありません。慢性型は長時間・長距離のランニングなどの同じような動作を繰り返すスポーツによって起こる場合があります。これも筋肉疲労による腫れが血流を阻害することで引き起こされる、コンパートメント症候群のひとつです。
コンパートメント症候群の検査と治療方法
受診する目安を教えてください。
- コンパートメント症候群で起こる痛みや感覚異常は、通常起こりうるものではありません。外傷を負った後に患部以外の痛みや痺れを感じる場合は受診をしてください。また、コンパートメント症候群は筋肉の腫れなど外表上にも所見が現れます。筋肉が腫れた部分を触ったり伸ばしてみると痛い、しびれるなどの症状がある場合にも受診をするようにしましょう。
どのような検査を行いますか?
- コンパートメント症候群が疑われる場合は、「needle manometer法」という診断方法が使われます。これはコンパートメント内の圧力を測定する診断方法です。コンパートメント症候群を発症していると患部の内圧が異常に上昇するため、この診断方法で確定診断がされます。
治療方法が知りたいです。
- 急性コンパートメント症候群の場合は一刻を争うため、すぐに処置が必要です。この場合は「筋膜切開」が行われます。この切開方法は、該当のコンパートメントの筋膜を切開することで上昇した圧力の逃げ場所を作る処置です。ただし、この処置は血流が途絶えてから6時間から8時間以内に行う必要があります。これ以上経過すると、血流が途絶えた組織が変性し治療ができなくなります。慢性コンパートメント症候群の場合にとられるのは保存治療です。痛み止めやRICE処置と呼ばれるスポーツ外傷の応急処置が一般的です。また、症状が出た原因を探り発症をおさえる方法が考えられます。靴を変えたり走法を変えたりすることでも対応可能です。慢性型の場合も保存治療で改善せず、血流の阻害が収まらない場合は急性型と同じように筋膜切開を行う場合があります。
コンパートメント症候群の注意点
後遺症は残りますか?
- 処置が間に合わず、筋肉・神経の壊死まで進行してしまった場合は後遺症が残ります。
下肢の場合は筋力低下や運動時痛が多いです。また、つま先までの感覚がなくなるなどの知覚障害も発生する可能性があります。筋肉壊死によって引き起こされる拘縮によって完全に脚の関節が動かせなくなり、歩行不能となる場合も多いです。前腕であれば「フォルクマン拘縮」が起こり、筋肉が拘縮したまま伸ばせなくなるなどの機能障害をきたします。コンパートメント症候群の後遺症は、壊死した組織の成分が血液中に流出することによる合併症も含まれます。「高カリウム血症」や「横紋筋融解症」もそのひとつです。壊死した組織の成分は、本来血液に多量に含まれる成分ではありません。組織が壊死することで成分が多量に流出すると、尿細管が閉塞し急性腎不全を起こすことがあります。
放置した場合はどのようなリスクがありますか?
- コンパートメント症候群の症状を放置すると、最悪の場合は四肢切断の可能性があります。これは、高カリウム血症などの合併症により四肢が麻痺することで起こる症状です。合併症が起きても放置していると、最悪の場合死に至ります。
身近な人が発症した場合どのようなサポートをすれば良いですか?
- まず急性コンパートメント症候群を疑う場合は必ず処置を受けさせてください。放置してしまい処置が間に合わないと根本的な治療は困難です。慢性コンパートメント症候群の場合は、スポーツ応急処置などを行い痛みを和らげてあげましょう。もし腫れや痛みがひどく、なかなか改善しない場合は急性型と同じ様に処置が必要です。経過を見て適切な治療が受けられるようサポートしてください。
最後に、読者へメッセージをお願いします。
- 外傷が原因の急性コンパートメント症候群は、放置すると治療することができません。自分や身近な方が四肢の外傷を負った場合のリスクとして理解しておく必要があります。ただし、発症後数時間以内であれば適切な処置で後遺症を残さずに済みます。もし骨折や挫傷などの外傷を負ってしまった場合は、治療後も数時間は経過を見るようにしましょう。
編集部まとめ
コンパートメント症候群は、筋肉が腫れることによって血流が阻害される障害です。危険な合併症を引き起こす可能性のある障害なので、かなり注意する必要があります。
主な症状は痛みや痺れ、筋肉の著しい腫れです。外傷を負った後にこれらの症状を発症したら、必ず医師の診察を受けるようにしてください。
放置すると知覚障害や拘縮などの障害が残ります。また、感染症や横紋筋融解症などの合併症も併発し、最悪の場合死に至ることもあります。
ただの筋肉の腫れだと放置すると、重篤な障害が残る可能性のある障害です。初期症状が出た場合は、必ず医師の診察を受けるようにしてください。
慢性コンパートメント症候群の場合は、長時間・長距離ランナーに起こる場合があります。この場合はスポーツ応急処置などで対処可能です。
参考文献