「下垂体腺腫(かすいたいせんしゅ)」とは?症状・原因・治療法も解説!
更新日:2023/08/21
下垂体腺腫は下垂体腫瘍の1つです。多くは成人に発症しますが、子どもから高齢者まで幅広く発症する場合もあります。
腫瘍ということで悪性ではないか、またどのような病気なのか不安に思う人も多いのではないでしょうか。
そこで今回は下垂体腺腫について解説していきます。また原因や症状・検査・治療方法についても質問にお答えしています。
下垂体腺腫で不安に思っている人はぜひ参考にしてください。
監修医師:
甲斐沼 孟(上場企業産業医)
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大阪市立大学(現・大阪公立大学)医学部医学科卒業。大阪急性期・総合医療センター外科後期臨床研修医、大阪労災病院心臓血管外科後期臨床研修医、国立病院機構大阪医療センター心臓血管外科医員、大阪大学医学部附属病院心臓血管外科非常勤医師、大手前病院救急科医長。上場企業産業医。日本外科学会専門医、日本病院総合診療医学会認定医など。著書は「都市部二次救急1病院における高齢者救急医療の現状と今後の展望」「高齢化社会における大阪市中心部の二次救急1病院での救急医療の現状」「播種性血管内凝固症候群を合併した急性壊死性胆嚢炎に対してrTM投与および腹腔鏡下胆嚢摘出術を施行し良好な経過を得た一例」など。
目次 -INDEX-
下垂体腺腫の症状と原因
下垂体腺腫とはどのような病気でしょうか?
- 下垂体腺腫は下垂体腫瘍の1つです。下垂体の細胞が腫瘍となったものでそのほとんどは良性といわれます。下垂体腺腫は「機能性下垂体腺腫」と「非機能性下垂体腺腫」の2種類に分けられます。「機能性下垂体腺腫」は下垂体においてホルモンの分泌を行う細胞が増えることでできる腫瘍です。
- 対して「非機能性下垂体腺腫」はホルモンの分泌に関わらない腫瘍です。「機能性下垂体腺腫」ではホルモンの数値が上昇することが特徴になります。さまざまな症状や病気に関わるのは「機能性下垂体腺腫」で「非機能性下垂体腺腫」は目の異常のみに関わります。そのため「非機能性下垂体腺腫」の場合は経過観察を行うことが多いのです。ただ視神経を圧迫するほど腫瘍が大きくなる場合には手術などの治療が行われます。
どのような人が発症しますか?
- 下垂体腺腫は主に20代〜50代の成人に多く発症します。発症の詳しい状況についてはあまりよくわかっていないのが実情です。ホルモンの種類によっては不妊症の原因になる場合もありますが、女性も男性も発症します。
成人に多いのですね…。
- 多くは成人に発症するといわれています。ただ子どもや高齢者も発症する場合があるため、一概には言えません。発症については解明されていないことが多く、腫瘍のできるメカニズムも解明されていないのです。これは言い換えれば誰にでも発症し得るということにもなります。
下垂体腺腫の原因を教えてください。
- 原因については今のところはっきりとしていないのですが、下垂体に腫瘍ができることが原因で身体機能に何らかの異常が起こるとされています。腫瘍によりホルモンが過剰に分泌されることで、さまざまな病気を引き起こすのです。
下垂体腺腫の症状を教えてください。
- 身体機能の異常は過剰に作られるホルモンの種類により違ってきます。症状もそれぞれ違っており、ホルモンの種類ごとに付けられる病名や症状には次のようなものがあります。
- 目の異常
- 先端巨大症(末端肥大症)
- クッシング病
- 高PRL血症
- それぞれについて症状を詳しく解説していきましょう。まず目の異常ですが、下垂体の周囲に腫瘍ができることで視神経を圧迫し視野が狭くなり最悪は失明にいたる場合があります。下垂体腺腫が成長ホルモンを過剰に作ることで現れる病気が先端巨大症(末端肥大症)で、手足・顎などが大きくなるのが特徴です。副腎皮質ホルモンが過剰に分泌されると頬・肩・首・腹に異常に脂肪が付き手足は細いという体型になります。これがクッシング病です。
- プロラクチン(PRL)が過剰に出て高PRL血症になると排卵不順・月経異常などを引き起こし不妊の原因になる場合があります。先端巨大症やクッシング病は糖尿病・高血圧の精密検査によって判明することがあるほど下垂体腺腫そのものは自覚しにくいのです。このように過剰に作られるホルモンの種類で現れる症状が違うのも下垂体腺腫の特徴になります。
下垂体腺腫の検査と治療方法
下垂体腺腫の検査方法を教えてください。
- まず体型や症状から下垂体腺腫が疑われる場合に行われる検査は、下垂体ホルモン値の測定です。ホルモン値に異常が認められた場合はMRIで画像検査を行い、目の異常に対しては眼科で視野検査・視力検査を行います。以前は症状が出てから検査を行うことがほとんどでしたが、最近では脳ドックなどで発見されることも多くなっています。
良性腫瘍が多いのですね。
- 下垂体腫瘍の中で下垂体腺腫は良性の場合がほとんどです。命にかかわることの少ない腫瘍ではありますが、治療が遅れるとさまざまな症状が出る病気です。早めに治療を行うようにしてください。
治療方法を教えてください。
- 下垂体腺腫の治療としては次のような方法が挙げられます。
- 手術治療
- 薬物治療
- 放射線治療
- 機能下垂体腺腫の場合はほとんど手術治療が行われます。非機能下垂体腺腫の場合は視神経に達する・20ミリ以上大きくなっているという場合に手術治療が行われます。薬物治療はプロラクチン(PRL)産生下垂体腺腫の場合行われ、ドーパミン作動薬の投薬による治療となります。放射線治療に関しては心臓に病気のある人や体力の落ちている人に定位放射線治療を行うとしていますが、実際にはほとんど無いと考えてよいでしょう。
下垂体腺腫手術について教えてください。
- 下垂体腺腫手術には次の3種類の手術があります。
- 経蝶形骨洞手術
- 開頭手術
- ハーディー手術
- 経蝶形骨洞手術は下垂体腺腫ではよく実施される手術方法です。鼻の穴から頭の中にある腫瘍を取り除く手術で、内視鏡による手術が一般的です。腫瘍の大きさによっては開頭して腫瘍を取り除く場合もあります。ハーディー手術は歯茎を切開して腫瘍を取り除く手術です。この手術は痛みを伴うなど患者の負担が大きいためほとんど行われることのない手術です。
- 手術で完全に腫瘍を取り除けた場合は再発はほとんどありませんが、少しでも残った場合には再発の可能性が0ではありません。手術後は定期的に画像検査や血液検査を行い再発を防ぐようにしましょう。
下垂体腺腫の予防法と注意点
下垂体腺腫の予防方法が知りたいです。
- 下垂体腺腫の原因そのものも不明なところの多い病気のため、予防することもきわめて難しいといえます。ただ定期的に血液検査を行ったり脳ドックを行ったりすることで病気を早く発見することは可能です。急に体重が増え始めた、靴を履くことが困難になってきた、目が見えにくくなったなどおかしいと感じたら早めに受診することが大切です。
- また日頃から食生活など生活習慣の見直しを行い、生活習慣病の予防に努めることが下垂体腺腫の予防につながる場合もあるのでバランスのよい食事や運動を行うようにしてください。
下垂体腺腫の生存率はどのくらいですか?
- 下垂体腺腫はほとんど良性腫瘍なので、命にかかわることは無いといっても過言ではありません。生存率としては10年生存率100%と予後は良好です。ただ腫瘍の大きさが3センチ以上ある場合やホルモン値が正常に戻らなかった場合などは、合併症のために元の健全な生活が送れなくなることもあります。引き続いてホルモンの補充療法や薬物療法を行う必要もあるでしょう。腫瘍がすべて取り除けていない可能性も考慮して、年に1度はMRIを撮り、再発が無いか確認することをおすすめします。
日常生活で注意すべきポイントを教えてください。
- 下垂体腺腫のメカニズムなどまだ不明な点の多い病気ですが、ホルモンが人の身体の栄養分を調節する仕組みになっていることはわかってきています。日常生活で注意すべきことは、生活習慣を見直して、バランスのよい食生活を送ること・肥満・糖尿病・高血圧などに充分注意をすることなどがポイントとして挙げられます。
最後に、読者にメッセージがあればお願いします。
- 下垂体腺腫は良性腫瘍で腫瘍が小さいうちに手術など治療を行うことで完治する病気です。下垂体腺腫が疑われるなら、できるだけ早く実績のある病院に受診して検査を受けるようにしましょう。内視鏡を使う負担の少ない手術が可能なので、あまり怖れずリラックスして受けてください。
編集部まとめ
今回は下垂体腺腫についてお答えしました。
発症の原因やメカニズムは詳しく解明されていない下垂体腺腫ですが、良性腫瘍であり早期に治療を受けることで完治の可能性も高い病気です。
検診や脳ドックで病気が発見されることも多いので、年に一度は検査を行うようにするとよいでしょう。
また日頃から適度な運動やバランスのよい食生活などを心掛けることが発症のリスクを減らすのではともいわれています。
できるだけ過度なストレスを避け、気になることがあれば早めの受診をおすすめします。
参考文献
- 下垂体腫瘍のひとつ、下垂体腺腫とは?|Medical Note
- 下垂体腺腫の治療方法|Medical Note
- 20代~50代の成人に多い!不妊症とも関係している!?下垂体腺腫の恐ろしさ…放っておくと大変なことに!|カラダノート
- 下垂体腺腫(ホルモンの病気)|KOMPAS慶應義塾大学病院 医療・健康情報サイト
- 下垂体腺腫|京都大学医学部附属病院脳神経外科
- 下垂体腺腫の診断-視力障害や高血圧など、他の症状からわかることもある|Medical Note
- 下垂体腺腫|医療法人社団MNS水谷脳神経外科クリニック
- ヒトの進化とホルモンの関連-肥満・糖尿病・高血圧症などの現代病の発症にはホルモンが関係している|Medical Note