「頚椎損傷」とは?症状・後遺症・リハビリについても解説!医師が監修!
頸椎に損傷が起きると、首が傷んだり動かしにくくなったりします。最悪の場合、四肢が麻痺状態となり動かせなくなる恐ろしい病気です。
スポーツや交通事故などで起きる可能性がある病気で、誰しもリスクがあります。そのため、万が一患ったときのためにも正しい知識を備えておく必要があるでしょう。
そこで本記事では、頸椎損傷の症状を解説します。治療方法やリハビリ・治療後に気をつけるべき点も解説するため、参考にしてください。
監修医師:
甲斐沼 孟(上場企業産業医)
目次 -INDEX-
頚椎損傷の特徴
頚椎損傷とは?
- 頸椎損傷とは、脊髄の首の部分である頸椎の中にある頚髄が何らかの衝撃などで損傷し、手・足などに障害がおこる状態のことをいいます。
- 人間の体にとって脊髄は非常に重要な役割をしており、中でも頸椎は四肢の運動や感覚をつかさどっています。通常、頸椎の構造は7個の骨で構成され、その中央に脊柱管が通っている構造です。
- そして、脊髄はその中にあり、骨に囲まれる形で守られています。しかし、過度な外傷が加わると脊柱管・脊髄が傷つくのです。
- この部分が損傷すると、麻痺がおこり日常生活を正常に送れないなどあらゆる問題が起きます。
- 頸椎は首を支えているだけでなく、脳から信号を伝える役割を担っているため、ここが損傷すれば全身へと多大な影響が発生します。
症状について教えてください。
- 頸椎損傷による具体的な症状は、手足の麻痺です。その麻痺にも、次のように2種類に分けられます。
- 完全麻痺
- 不全麻痺
- 手足の麻痺には変わりありませんが、その症状の度合いは損傷した位置によって大きく異なります。頸椎の中で脳に近づくほど重症度は増す傾向です。つまり、麻痺の度合いも上がり、完全麻痺に近づきます。
- 完全麻痺とは、完全に運動機能が停止してしまう程、全く動かない麻痺状態のことをいいます。この状態になると感覚すらもありません。
- 触った感覚や筋肉を動かそうと頭では考えても、全く動くことはないのです。
- 一方、不全麻痺とは、運動機能・感覚が一部残っている状態のことをいいます。触られた感覚や自分で筋肉を動かそうとすれば、動かすことはできるのです。
- とはいえ、全く麻痺がないわけではありません。損傷前と比べると、その感覚の違いは大きな差があります。
日常生活に支障はありますか?
- 日常生活への影響は、損傷の程度によっても異なります。軽度の場合は、多少の支障はあっても元の生活に近い形で戻ることは不可能ではありません。
- しかし、重度の場合は、日常生活への支障は大きいでしょう。足が麻痺している場合には、車いすの生活を余儀なくされるケースもあります。
- また、下半身の麻痺といったように広範囲の麻痺が生じているようであれば、ベッドでの生活が中心になってしまうかもしれません。
- そのため、日常生活への影響は大変大きいといえます。
主な原因は何ですか?
- 頸椎損傷が発生する主な原因は、次のようなものが代表的です。
- 交通事故
- 転倒
- スポーツによる怪我
- 高所からの転落
- 後縦靭帯骨化症
- 交通事故・転倒・スポーツによる怪我が最も多い原因となります。不測の事態によって、強い力が加わることで損傷を起こすケースが多いのです。
- 中でも転倒を原因とする損傷は、高齢者に多い傾向です。
- 骨が弱くなっている部位に転倒による衝撃が加わるため、そのまま損傷してしまって麻痺を起こしてしまうケースがあります。
- また、高所からの転落は仕事中のアクシデントなどで落下して痛めてしまうケースです。外部から力が加わる以外にも、後縦靭帯骨化症といわれる病気によって引き起こされるケースもあります。
- この病気は、カルシウムが後縦靭帯に付着して、脊髄を圧迫してしまうというものです。
- 圧迫が続くと、そのまま脊髄・頸椎を痛めてしまうこととなるため、麻痺などを引き起こしてしまいます。
頚椎損傷の検査方法と治療方法
どのような検査を行いますか?
- 詳しい状態を調べるための検査としては、次のような内容のものを行います。
- エックス線検査
- CT検査
- MRI検査
- 高位診断
- 横断位診断
- エックス線検査・CT検査・MRI検査は、画像検査であり脊髄・頸椎など損傷個所の状態を詳細に調べるために行います。
- 特にCT・MRI検査は、エックス線検査ではわからない内容を調べ、診断を効果的に進めます。手術が必要な状態かどうか・手術方法の選択などにおいても、必要不可欠な検査方法です。
- 高位診断・横断位診断は、麻痺症状のある箇所の特定と麻痺の程度を調べる検査となります。
- 正常な場合と、感覚の違いがないかも確認するため重要な検査です。これらの検査を複合的に考慮して、麻痺の重症度を確定させていきます。
治療方法を教えてください。
- 主な治療方法は、次のようなものが代表的です。
- ギブスでの固定
- 手術
- 再生医療による治療
- ギブスでの固定は、頸椎損傷が発生した時点で行われる治療内容です。
- 通常、迅速に処置をしなければならないため、まず現段階以上に頸椎を傷つけないためにギブス等で固定を行います。そして、必要であれば手術を行います。
- 頸椎を傷つける原因となる異物が体内にあるのであれば、その異物を取り出さなければなりません。しかし、これでも治らないケースは多々あります。
- 繊細な場所である頸椎は、一度麻痺すると自然に治ることがありません。そのため、近年注目が集まる再生医療による治療が効果があるといわれています。
- 再生医療では、身体の中にある幹細胞を採取・培養し、損傷部位へ投与することで修復するような治療方法となります。
頚椎損傷のリハビリについて教えてください。
- 治療内容をご紹介しましたが、手術を行った後であってもリハビリが必要です。リハビリの内容としては、大きく分けて次の2種類です。
- 運動療法
- 床ずれなどの予防
- 運動療法とは、筋力を維持・強化するために行うリハビリとなります。麻痺がひどく、ベッドから動けない時間が長くなると筋力が弱まります。
- そのため、筋力の強化を行うリハビリが必要なのです。腕や足の可動域を広げるためにも必要となります。また、長くベッドに横になっていると、床ずれなどを起こす可能性があります。
- そのため、それらの予防が必要です。リハビリでは、床ずれ・関節拘縮予防などの合併症を予防するための内容もあるため、これらを組み合わせて行います。
- 例え麻痺が残っている体だったとしても、残っている機能を最大限活かせる身体づくりが必要なため、リハビリは非常に重要です。
リハビリ期間はどのくらい必要ですか?
- リハビリ期間は、段階に応じて異なります。リハビリには、急性期リハビリテーションと回復期リハビリテーションがあります。
- 急性期リハビリテーションは病気発症後から行われるリハビリのことです。頸椎損傷の場合、このリハビリ期間は最大で2ヶ月以内となります。
- また、回復期リハビリテーションは、一部の損傷・麻痺が残っている状態の場合、150日が限度です。重度の状態や他の部位で外傷があるような場合は180日が限度となります。
- そのため、患者の状態に合わせて、この日数以内でリハビリが組まれることとなります。
頚椎損傷の予後と予防方法
頚椎損傷の後遺症は残りますか?
- 後遺症は、損傷した位置によっても大きく異なるため、注意が必要です。損傷個所が首の下の方の場合、軽度な麻痺で済む場合があります。弱い力でも動かせる状態です。
- しかし、首の上の方で損傷があった場合には、完全に麻痺し全く動かせないケースもあります。
- また、呼吸も自分の意志では十分に行えないなどの状態になる可能性があります。後遺症は損傷の状態によっても異なりますが、万が一の場合は命にかかわるケースもあるのです。
完治するのでしょうか?
- 一度、脊髄・頸椎を損傷すると管理は難しいとされていました。しかし、現在は再生医療による治療で治る可能性があるといわれています。
- これまでは、重度の麻痺の場合は設備が整った施設にて、支援を受けながらの生活を行っていくことしかできませんでした。損傷した部位を元に戻す方法がなかったためです。
- しかし、再生医療による治療であれば、もとの機能を取り戻すことが可能と考えられています。
- まだ全ての症例で完治が実証されているわけではないですが、完治の可能性はゼロではないでしょう。
頚椎損傷の予防方法はありますか?
- この病気の予防方法としては、とにかく原因となりえることを避けるという方法です。
- 頸椎損傷となる原因は、先述した通り交通事故・スポーツによる怪我・転倒などがあります。交通事故は、自分では避けようがないこともあるでしょう。
- しかし、スポーツによる怪我や転倒はある程度自分で防ぐことが可能です。特に転倒は高齢者に多いため、できるだけ転倒の原因となる段差を避けることがポイントです。
- また、後縦靭帯骨化症のような病気は、定期的な検査で症状が出る前に発見できます。
- 健康診断の項目などにも入っているケースがあるため、定期的な検査で健康状態を知っておくことも予防につながるでしょう。
治療後に気をつけるべきことについて教えてください。
- 治療後に注意すべきポイントとしては、損傷がさらに広がることを防ぐという点です。
- 手術など治療を行えば損傷による麻痺所見は予防できると考えがちですが、損傷に伴う麻痺症状は悪化する可能性があります。
- そのため、医師からの指示があるまではしっかりと固定して動かさないようにする必要があるのです。
- また、リハビリができるようなタイミングになれば、積極的にリハビリに取り組むことも注意すべきポイントです。
- 少しでも、以前の日常生活に近いレベルに戻るためには、リハビリは欠かせません。また、リハビリはベッドでの床ずれ防止などにも繋がります。
最後に、読者へメッセージがあればお願いします。
- 頸椎損傷は、体の中でも繊細な部位であり、傷つくようなことがあれば手足が麻痺するなど恐ろしい病気です。
- 軽度なものであれば、以前の生活に近いレベルまで治すことはできますが、重度の場合は完全に身体が動けないケースもあります。
- しかし、決して完治する見込みがないわけではなく、再生医療による治療など期待できる治療方法があります。
- 正しい知識を身につけておき、万が一の際にはあきらめることなく治療に向けて進んでいきましょう。
編集部まとめ
手足が麻痺するだけでなく、最悪の場合は呼吸も困難になる可能性がある頸椎損傷は、怪我や交通事故などを原因として起こる病気です。
誰しもかかる可能性のある病気であり、命にも関わるため大変恐ろしい病気でもあります。しかし、リハビリなど適切な治療を進めれば、ある程度回復する可能性も高いです。
正しい情報を身につけ、まずはこのような病気にならないように予防に努めましょう。また、万が一発症した際には、積極的に治療・リハビリを行って改善を目指しましょう。
参考文献