「腱鞘炎」とは?治療・セルフチェック法・症状についても解説!【医師監修】
更新日:2023/07/13
デスクワークやスポーツなどを長時間行うと、急に手首が痛んだり動かしづらくなる場合があります。腱鞘炎と呼ばれ、手首や指の腱に異常をきたす病気です。
上記のような動作の繰り返しのほか、更年期の女性や妊婦にも発症しやすいといわれています。
ここでは、突然起こることも多い腱鞘炎について、特徴や対処法・原因などをQ&A形式で解説していきます。もしかしてと思ったときは、参考にしてみてください。
また、最終的には自己判断に頼らず医療機関を受診することも大切です。早期の正確な治療を心がけましょう。
監修医師:
甲斐沼 孟(上場企業産業医)
プロフィールをもっと見る
大阪市立大学(現・大阪公立大学)医学部医学科卒業。大阪急性期・総合医療センター外科後期臨床研修医、大阪労災病院心臓血管外科後期臨床研修医、国立病院機構大阪医療センター心臓血管外科医員、大阪大学医学部附属病院心臓血管外科非常勤医師、大手前病院救急科医長。上場企業産業医。日本外科学会専門医、日本病院総合診療医学会認定医など。著書は「都市部二次救急1病院における高齢者救急医療の現状と今後の展望」「高齢化社会における大阪市中心部の二次救急1病院での救急医療の現状」「播種性血管内凝固症候群を合併した急性壊死性胆嚢炎に対してrTM投与および腹腔鏡下胆嚢摘出術を施行し良好な経過を得た一例」など。
目次 -INDEX-
腱鞘炎の特徴
腱鞘炎はどのような病気ですか?
- 腱鞘炎とは、親指の付け根あたりの手首にある「腱鞘」という組織が炎症を起こす病気です。
- 手首から指には「屈筋腱」と「伸筋腱」と呼ばれる2種類の腱があります。それぞれ手指を曲げ伸ばしする際に使われる筋ですが、これを束ねているのが腱鞘です。手首や指を長時間同じように動かし続けると、この腱鞘と腱がこすれて炎症を起こし腱鞘炎になります。
- 主な症状は痛みや腫れ・関節の動かしづらさです。軽度であれば安静にするだけで治ることもありますが、悪化しやすい病気でもあるため医療機関の受診をおすすめします。
ドケルバン病とばね指の2種類があるのですね。
- ドケルバン病と呼ばれるのが、いわゆる腱鞘炎と聞いて想像される病気にあたります。主に親指に発症し、狭窄性腱鞘炎とも呼ばれます。手首の親指側にある2本の腱が炎症を起こし、痛みや腫れを起こしている状態です。
- ばね指とは名前の通り、ばねに引っかかったように指が動かしづらくなる病気のことをいいます。炎症の仕組みは上記のドケルバン病と同じですが、親指以外にも所見や症状を認められるのが特徴です。
- 指を動かす腱を束ねる組織が指の付け根にあり、ここが炎症を起こすことで痛みや腫れ・指の動作不良が起こります。
腱鞘炎の原因を教えてください。
- 腱鞘炎は、手指につながる腱とそれを束ねる腱鞘が過度に擦れることで発症します。日常的な手の動きでも腱は腱鞘と擦れていますが、同じような動作を長時間続けることで摩擦に耐え切れず炎症を起こすのが腱鞘炎です。パソコンのキーボードを叩く・細かな絵や文を書く・ピアノを演奏するといった動作で起こりやすくなっています。
- また、グリップやボールを握るスポーツでも注意が必要です。
- そのほか、女性ホルモンの分泌にも原因があるといわれ、更年期女性や妊婦に起こりやすくなっています。糖尿病・リウマチ・透析治療中の患者にも同様に、よく発症する病気です。
腱鞘炎ではどのような症状がみられますか?
- ドケルバン病(狭窄性腱鞘炎)では、主に親指の付け根から手首の動きに違和感が生じます。手首の親指側や手の甲が腫れ、痛みを伴うのが特徴です。また手首の曲げ伸ばし・親指の開閉などの動作に伴って、強い痛みを生じることがほとんどです。
- ばね指では、親指以外の人差し指・中指・薬指などにも同様の炎症が起こります。指の付け根に腫れや痛みが現れ、関節の動きがぎこちなくなるのが特徴です。ばね指という名前の由来でもありますが、ばねが引っ掛かったようにパチンと不自然な動きがみられます。
腱鞘炎になりやすい人はいますか?
- デスクワークなどで長時間パソコンを操作する人や、長時間にわたって同じような動きで絵や文を書くことの多い人によく起こります。小刻みな曲げ伸ばしの動作が主な原因となっているためです。
- 同様の理由からピアノの演奏や、グリップやボールを握るようなスポーツでも発症することがあります。また糖尿病・リウマチ・透析治療中の患者も腱鞘炎やばね指になりやすいです。女性ホルモンの分泌にも関係があるといわれ、更年期女性や妊婦もよく発症します。
- とはいえ、先に挙げたような病気やホルモンの影響が無くとも誰にでも発症しうる病気です。常日頃から、手指を酷使しすぎないよう心がけておきましょう。
腱鞘炎の検査と治療方法
セルフチェック方法を教えてください。
- 基本的には、指の付け根や手の甲に腫れ・痛みがあれば腱鞘炎を疑います。前述のような、指や手首を長時間動かし続けるような動作に心当たりがあればほぼ確実です。親指の付け根や手の甲に症状の出た場合は、ドケルバン病のチェックをします。手首を直角に曲げ、親指を開いたときに痛みが増強すれば腱鞘炎の可能性が高いです。
- またばね指の場合は、指の付け根の腫れ・痛みに加えて不自然な動きを伴うため、セルフチェックでも容易に発見できます。指が曲がったまま開かなくなったり、ある程度の角度でパチンと跳ねるように動くようであればばね指の典型的な症状です。
- セルフチェックを行う際は、無理に動かすと悪化する場合もあるため気をつけましょう。はじめから医療機関の診察に任せるのがベストです。
病院ではどのような検査をしますか?
- 腱鞘炎の疑いで医療機関を受診した際も、基本的にはセルフチェックと同様の検査を行います。指の付け根や手首・手の甲の腫れが目印です。
- ドケルバン病が疑われる場合は、フィンケルシュタインテスト(もしくはフィンケルシュタインテスト変法)と呼ばれる診断を行います。親指を握り込んだ状態で手首を小指側に曲げるか、親指を小指側に向かって引っ張った際に痛みが増強するようであればドケルバン病と判断します。
- ばね指の症状が出ている場合は、特別な検査をせずとも判断が可能です。
腱鞘炎の治療方法が知りたいです。
- ごく軽度の腱鞘炎であれば、安静にして市販薬で治療できる場合もあります。その場合は、なるべく手首の動作を控え、時折ストレッチをする程度にしましょう。痛み止めの塗り薬や飲み薬で、炎症を抑えることが有効とされます。
- ただし2週間以上症状が継続する・痛みや腫れが酷い(広範囲である)・痙攣したような痛みがある・関節の変形がある・持病がある場合には病院を受診しましょう。整形外科、もしくは手外科が専門医にあたります。
- 腱鞘炎と診断された後は、患部を固定したりステロイド軟こうを処方したりといった対応が基本です。症状が酷い場合や長引く場合は、ステロイド注射を行う場合もあります。ごく稀ですが、特に酷い症状や再発の多い場合には日帰りの手術で腱鞘を切開します。
腱鞘炎の予防
腱鞘炎が再発することはありますか?
- 腱鞘炎は繰り返し動作による摩擦が原因のため、同じような状況で再発する場合もあります。継続している仕事や習い事などがきっかけであれば注意が必要です。
- 一度腱鞘炎にかかってしまったら、手指の使い方などを見直して生活そのものを改善していくといいでしょう。
- また、あまりに腱鞘炎の再発が多いと腱鞘が摩擦で分厚くなってしまい、治癒が難しくなることもあります。その場合は分厚くなった腱鞘を切開して削る手術が必要です。多くの場合、再発を繰り返すと悪化したり癖になったりしてしまう病気といえます。腱鞘炎を経験した方もそうでない方も、普段から予防に努めるのがおすすめです。
予防方法があれば教えてください。
- パソコンを使ったりペンを握ったりという動作を長く行う場合でも、適度な休息やストレッチなどを行うことで予防が可能です。手指を動かす際は力を入れすぎず、腱に負担のかからない動きを心がけましょう。
- 仕事などでやむを得ない場合は、手首の動きを保護するサポーターなどもおすすめです。
- 手指のストレッチは場所や時間を取らない、ごく簡単なものでも効果があります。指を組んで回したり、脱力してブラブラと揺らしたりしてこまめに解しておきましょう。
最後に、読者へメッセージがあればお願いします。
- 腱鞘炎は、ふとしたきっかけで誰にでも発症しうる病気です。ごく軽症で済む場合もありますが、基本的には無理せず医療機関を受診してください。腱鞘炎は、骨と筋肉をつないでいる腱組織、および腱を包む腱鞘部と呼ばれる組織に摩擦が生じることで炎症が生じる疾患です。
- 特に、主要症状は普段から動きの多い手首や指に集中して発症しやすいと考えられています。
- 代表的には、手首の母指(親指)側にある腱鞘に発症する「ドケルバン病」や指の腱鞘に発症する「ばね指」が挙げられます。
- 腱鞘炎を発症すると、指や手首に痛みが生じるだけでなく、腱鞘が腫れて狭窄するため、腱のスムーズな動きが妨げられて手首や指の動きが悪くなることがありますし、手関節部周辺の神経を刺激することで患部周囲のしびれ症状を自覚することもあります。
- 腱鞘炎は、手首や指を酷使することで炎症が引き起こされるため、日常的にキーボード操作やピアノ演奏など指と手首を長時間動かす作業をしている場合、ボールなどを強く握って毎日のようにスポーツ活動をしている方々、育児中の人などが発症しやすいと指摘されています。
- 近年では、長時間のスマホ操作も腱鞘炎のリスクを高めるとして注意喚起されています。
ドケルバン病では母指をできるだけ動かさないよう注意します。
ばね指の場合は、指を反らすようにストレッチ運動を実践します。
編集部まとめ
今回は、手指に痛みを伴って発症する腱鞘炎についてまとめてきました。原因がはっきりしているぶん、予防や対処が分かりやすいと感じた方も多いのではないでしょうか。
もちろん過度に警戒する必要はありませんが、普段から無理をしないことが肝心です。
もしものときはこちらの記事を参考に、医療機関での適切な診断・治療を最優先に行うようにしてください。