「十二指腸潰瘍」とは?症状・原因・治療方法についても解説【医師が監修】
胃腸の病気にはさまざまなものがありますが、近年患者数が増加傾向にあるのが十二指腸潰瘍です。
胃潰瘍と比べてあまり耳馴染みのない病気かもしれませんが、重篤な症状につながる恐れもある注意すべき胃腸の病気です。
胃潰瘍との違い・治療方法など十二指腸潰瘍がどんな病気なのか理解を深め、胃腸の健康について考えてみましょう。
監修医師:
中路 幸之助(医療法人愛晋会中江病院内視鏡治療センター)
目次 -INDEX-
十二指腸潰瘍の特徴
十二指腸潰瘍はどのような病気ですか?
- 十二指腸潰瘍は、上腹部の胃と小腸の間にある十二指腸の粘膜が傷つき、潰瘍ができる病気です。
- 胃は食べ物を消化する器官ですが、消化の際には塩酸・ペプシンなどの消化液を分泌します。この消化液がなんらかの原因で、十二指腸の粘膜を傷つけてしまったり組織を剥がしてしまったりすることで十二指腸潰瘍になります。
- 十二指腸潰瘍はまわりの組織との境界がはっきりした潰瘍で、粘膜を越えて深く進行するのが特徴です。20〜40歳に多く、患者数は増加傾向にあります。
主な症状を教えてください
- 十二指腸潰瘍の主な症状は、胃もたれ・吐き気・嘔吐・食欲不振・胸やけ・腹痛・背中の痛みなどが挙げられます。みぞおち付近の痛みを感じる人が多い傾向ですが、自覚症状が全くない人も少なくありません。
- 一方で、潰瘍が進行すると、出血・穿孔を伴うこともあります。十二指腸潰瘍による出血のためにどす黒い便が出る場合もあります。出血があっても体内での出血のため痛みがなく、自覚症状がないまま病状が進行することも少なくありません。
- 症状がなく気づかないうちに十二指腸潰瘍になっている人もいます。自覚症状が必ずしもある病気ではないことこそ、十二指腸潰瘍の注意すべき点といえるでしょう。
何が原因で十二指腸潰瘍になるのですか?
- 十二指腸潰瘍の原因は、胃酸により粘液がただれることにあります。食べ物を消化してくれる胃酸は体に必要なものであり、本来であれば粘膜が胃酸を防御し、胃や十二指腸にダメージを与えるものではありません。
- しかし、粘膜の防御の働きと胃酸のバランスが崩れてしまうと、胃酸が粘膜にダメージを与えます。
- 飲酒
- 喫煙
- 暴飲暴食
- 薬による副作用
- ストレス
- ピロリ菌の感染
- 粘膜の防御の働きと胃酸のバランスが崩れる原因には、上記のものが挙げられます。ほかにも遺伝子要因が関係しているともいわれています。
- 十二指腸潰瘍患者の大半がピロリ菌に感染していることがわかっており、その感染率は97%以上ともいわれています。ピロリ菌は、胃の中に棲む糸状の細菌です。ピロリ菌によって、胃の粘膜が傷つき胃酸によるダメージが受けやすい状態になることが十二指腸潰瘍につながる原因と考えられています。
- また、ピロリ菌に感染すると胃酸の分泌が過剰になることがわかっています。過剰な胃酸が十二指腸に流れることも、十二指腸潰瘍を引き起こす原因です。
十二指腸潰瘍の検査と治療方法
十二指腸潰瘍が疑われるときにどのような検査をしますか?
- 十二指腸潰瘍の疑いがある場合は、主に内視鏡検査・X線検査で病状の確認をします。X線検査による圧迫撮影を行うことで、十二指腸の変形・陥没などを見つけることが可能です。
- 十二指腸潰瘍のX線検査ではバリウムを服用します。バリウム検査は、胃カメラ検査よりも手早く検査をすることが可能ですが、ピロリ菌の検査を行うことができません。
- 胃カメラ検査では、鼻もしくは口から内視鏡を挿入し、食道・胃・十二指腸の状態を直接観察します。X線ではわからない粘膜の状態を確認することができますし、同時にピロリ菌の検査を行うことが可能です。
- そのため、十二指腸潰瘍が疑わしい場合は、胃カメラを用いた内視鏡検査で診断するケースが大半です。
受診を検討すべき兆候があれば教えてください。
- 胃痛・みぞおちの痛みなどが続く場合は、十二指腸潰瘍ではなくても胃腸の病気の可能性があります。
- 胃腸の痛み・不快感が続く場合は、受診を検討しましょう。
- また、便が黒い場合は、消化器官のどこかで出血している可能性があります。痛みがない場合でも便の変化がみられる場合は、早めに消化器内科・胃腸科で診察を受けましょう。
治療方法が知りたいです。
- 十二指腸潰瘍の治療は、薬物療法が一般的です。胃酸分泌を抑制する薬・胃の粘膜を保護する薬で、症状の改善を目指します。
- ピロリ菌の感染が認められる場合には、抗生物質や酸分泌抑制薬を用いてピロリ菌の除菌も同時に進めていきます。
- 十二指腸潰瘍は、基本的には手術の必要はなく薬物療法で治療できる病気です。しかし、症状が進行し、出血・穿孔がみられる場合には手術が必要となります。
- 手術は内視鏡による止血治療がほとんどです。潰瘍の大きさ・出血の度合いにもよりますが、大半の場合は開腹手術をしなくても内視鏡で治療することができます。
出血していなければ薬物療法になるのですね。
- 出血がなく、手術の必要がない場合は薬物療法で治療していきます。
- 十二指腸潰瘍と聞くと、「手術になるのでは」と不安に思われる方もいらっしゃいますが、薬で治療できる病気ですので必要以上に深刻に考える必要はないでしょう。
- しかし、十二指腸潰瘍の治療は治癒までに時間を要します。1〜2ヶ月の薬物療法で大半の場合は症状が良くなりますが、その後も薬の継続服用が必要です。
十二指腸潰瘍の予防方法
十二指腸潰瘍が再発するリスクはありますか?
- 十二指腸潰瘍の再発率は約35%といわれており、1年以内の再発率が約44%、2年以内の再発率が約75%といわれています。
- 原因はさまざまですが、十二指腸潰瘍は再発リスクが高い病気です。再発を繰り返すと胃の変形や胃の動きの悪化によって、機能不全・消化不良・胃もたれ・狭窄などの症状につながる恐れがあります。
- 一度十二指腸潰瘍になった方は、再発リスクがあることを理解し、再発を繰り返さないように注意しましょう。また、症状が良くなったからといって薬の服用を自己判断で中止しないことも大切です。
予防方法や、再発予防法があれば教えてください
- 十二指腸潰瘍にならないためには、暴飲暴食・過剰な飲酒を避けるなど胃腸に負担をかけない食生活を心がけることが大切です。脂質の多い食事・辛いものは控え、野菜不足にならないように注意しましょう。
- また、ストレスも原因のひとつですから、休息・睡眠をしっかりとってストレスを溜めこまないようにしましょう。そして、十二指腸潰瘍の最大の予防方法は、ピロリ菌の除去です。
- ピロリ菌の除去は再発予防にもなります。ピロリ菌の除去によって、十二指腸潰瘍の再発率が大幅に減少することがわかっています。
- ピロリ菌は、十二指腸潰瘍だけではなく胃潰瘍・胃がんなどにも深く関係している細菌です。ピロリ菌の除去は、十二指腸潰瘍の予防・再発だけではなく胃潰瘍・胃がんを防ぐ有効な方法となります。
十二指腸潰瘍の早期発見のポイントが知りたいです。
- 症状が進行し、出血・穿孔が生じてしまうと手術が必要となります。また、胃や十二指腸の壁に穴が開く穿孔が生じた場合、合併症として腹膜炎が起き開腹手術が必要になるケースもあります。
- 重篤な状態を防ぐためにも、十二指腸潰瘍の早期発見が大切です。
- ただし、十二指腸潰瘍は比較的症状が軽い人も多く、自覚症状がない場合も少なくありません。
- 胃痛・胃の不快感が続く場合は受診する
- 定期的に胃カメラ検査を受ける
- 定期的にピロリ菌の検査を行う
- ピロリ菌の感染が認められる場合には除去治療を行う
- また、ピロリ菌は、十二指腸潰瘍だけではなく胃がんにもつながる注意すべき細菌です。ピロリ菌の有無を確認し、感染が認められる場合は速やかに治療を行うことは、健康の維持にもつながります。
これらは十二指腸潰瘍の早期発見のポイントです。自覚症状が目立ちにくい病気だからこそ、定期的な検査で異常がないか確認しましょう。
最後に、読者へメッセージをお願いします。
- 十二指腸潰瘍は、人によっては自覚症状がなく症状が進行してから気づくことも多い病気です。薬で治せる病気ですが、出血・穿孔となってしまうと手術が必要となり回復までの期間も長引きます。
- 負担の少ない治療で十二指腸潰瘍を治していくためには、早期発見が重要なポイントとなります。激しい痛みではなくとも胃腸の不快感・軽い痛みが続く場合は、「大丈夫」と過信せずに医師の診察を受けましょう。
- また、十二指腸潰瘍に大きく関係しているピロリ菌は、さまざまな胃腸の病気に関与していることもわかっています。ピロリ菌の検査も胃カメラ検査で同時に行うことが可能です。
- 定期健診を受け、胃腸の異常・ピロリ菌の感染を見過ごさないようにしていきましょう。
編集部まとめ
なにかとストレスの多い現代に生きる私たちは、胃腸の不調に悩まされることも少なくありません。
少しの不快感であれば「いつものことだから」「単なる痛み」と、大丈夫だと過信してしまう人も少なくないでしょう。
しかし、胃腸のダメージは知らないうちに進行している場合もあります。
薬で治せる十二指腸潰瘍も、放置しておけば重篤な症状となり苦しい状況になってしまうかもしれません。
また、原因のひとつであるピロリ菌ですが、日本では約3,000万人もの感染者がいるといわれています。
感染していても不思議ではありませんから、定期的な検査で十二指腸、胃の健康・元気な毎日を守っていきましょう。
参考文献