「口腔顔面痛」とは?症状・原因についても解説【医師監修】
歯や歯茎に問題はないのに、口内が痛い・口が開けられない・顎が痛い・頸部が痛いなど長く続く痛みをかかえて辛い思いをしている人がいます。
口の中やその周辺、頸部や顔面の痛みなどを総称して「口腔顔面痛」と呼びます。痛みの原因がわからず、悩んでいる人も多いのではないでしょうか。
こちらでは口腔顔面痛についての質問にお答えしています。
考えられる病気や治療方法についても紹介しているので悩みの解消に役立ててください。
監修歯科医師:
柴原 孝彦(東京歯科大学名誉教授)
著書は「口腔顎顔面外科学(医歯薬出版)」「標準口腔外科学(医学書院)」「カラーアトラス コンサイス口腔外科学(学建書院)」「口腔がん検診 どうするの、どう診るの(クインテッセンス出版)」「衛生士のための看護学大意(医歯薬出版)」「かかりつけ歯科医からはじめる口腔がん検診step1/2/3(医歯薬出版)」「エナメル上皮腫の診療ガイドライン(学術社)」「薬剤・ビスフォスフォネート関連顎骨壊死MRONJ・BRONJ(クインテッセンス出版)」「知っておきたい舌がん(扶桑社)」「口腔がんについて患者さんに説明するときに使える本(医歯薬出版)」など。
目次 -INDEX-
口腔顔面痛の症状と原因
口腔顔面痛はどのような病気ですか?
- 口腔顔面痛とは口の中や顎などの痛み・顔や頸部の痛み・頭部の痛みなどを総称する病名です。症状もさまざまで、診断がつきにくい病気です。
- 痛みは個人差があり耐えられないほどの痛みに長く苦しむ人もいます。
- 原因もはっきりせず見た目ではわかりにくい症状のため、周りの人から理解されず辛い思いをする人も多いです。
どのような症状が現れますか?
- 口腔顔面痛の症状は多岐にわたっていますが、主な症状は次のようなものになります。
- 口が開けにくく痛む
- 物を噛む時カクカクと音がして痛い
- 顎が痛い
- 口が渇く
- 噛み合わせに異常があり痛い
- 口内炎ができやすい
- 頬が締め付けられるように痛い
- 症状はこのようにさまざまです。
- 原因がわかり診断がつくものもありますが、診断がつきにくいことも多いのです。主に原因とされるものを挙げてみましょう。
- 口腔内が原因
- 口腔周辺(鼻・耳・目)の病変
- 顎関節症が原因
- 神経性の痛み
- 神経血管性の痛み
- 心因性の痛み
- 菌性感染症による痛み
- このように考えられる原因も多く、簡単に判断できないことが多いです。
- 口が開けにくい・カクカクと音がする・顎が痛いなどの症状があれば、顎関節症と診断されますし、口が渇く場合は口腔乾燥症を疑います。複数の病気が合併している場合もあるのです。
口腔顔面痛に関係する病気を教えてください。
- 口腔顔面痛に関係する病気にもさまざまなものがありますが、比較的多いのが顎関節症です。顎関節症は顎関節に異常がある場合と顎を動かす筋肉に異常がある場合があり、口が開けにくい・音がするなどは顎関節自体の異常です。
- 顎の筋肉に異常がある場合は、起きたときに顎全体に違和感がある・何かに熱中したあと顎全体が痛くなるなどの症状があります。
- その他舌がヒリヒリと痛む舌痛症や、三叉神経痛のように顔の神経が圧迫されることで顔に触っただけで電流が流れるような痛みを感じることもあります。これらは原因が解明されている口腔顔面痛ともいえるでしょう。
- また口全体に焼けるような痛みがあるのに、見た目にも検査の結果でも異常がない場合は口腔灼熱症候群が疑われます。
- 焼けるような痛みの他に口の渇き・味覚異常などの症状があります。男性よりも女性に多く、特に閉経後の女性に多いのが特徴です。
口腔顔面痛の原因を知りたいです。
- 口腔顔面痛はすでに挙げた病気が原因となる場合もあれば、検査をしても原因がつかめないストレスなどが原因で起こる場合もあります。
- 特に原因がわからない突発性の顔面痛や歯痛から起こる顔面痛なども口腔顔面痛と大まかな総称で呼ばれる場合が多いです。口腔顔面痛が疑われるような症状があったなら、まず口腔顔面痛外来のある歯科医で相談してみるとよいでしょう。
- 検査して特に問題になるような病気が見つからない場合は心因性の痛みということも考えられます。特に口腔灼熱症候群の場合、脳神経や自律神経が関係していることが多いのです。
- また口腔顔面痛の原因の1つに歯性感染症がありますが、これは虫歯や歯周病などで口の中のさまざまな菌が感染を引き起こすことが原因で起こる疾患です。この場合は原因となる疾患をしっかりと治療する必要があるでしょう。
精神的なことが影響するケースもあるのですね。
- 原因がわからない顔面の痛みは、過度なストレスが引き起こしている場合もあります。
- しっかりと検査を行った上でストレスなどが原因の可能性があるのなら、まずは医師にじっくりと話して精神的な苦痛を取り除くことが必要です。
- 総合病院の口腔外科や口腔顔面痛外来でカウンセリングを受けるようにしてください。
口腔顔面痛の治療
何科を受診すればよいですか?
- 口腔顔面痛が疑われる症状がある場合、まずは歯科を受診してください。歯科で検査をしても原因がわからず口腔顔面痛と診断される場合も多いです。
- 最近では口腔顔面痛外来を設けている歯科もあります。口腔顔面痛外来では複数の診療科と連携している場合もあるので、納得いくまで相談することができるでしょう。
- また日本口腔顔面痛学会のホームページでは口腔顔面痛専門医が掲載されているので参考にしてください。
診察や検査について知りたいです。
- 診察はまず問診からはじまります。問診で症状やその症状がどのくらい続いているのかなど詳しく聞き取り、生活環境なども確認します。
- レントゲン検査や必要ならMRI検査も行いましょう。
- 検査の結果深刻な病気が認められない場合には心因的な痛みが考えられます。その場合には心療内科や精神科などとの連携も必要になる場合もあるのです。
治療方法を教えてください。
- 口腔顔面痛の治療については多岐にわたる原因や症状にともない、さまざまな治療方法が考えられます。まず原因とする病気が判明した場合にはもちろんその病気に対しての治療を行います。
- 原因不明の口腔顔面痛に関しても、最近脳の痛みをコントロールする機能に異常があるのではと考えられるようになりました。原因不明の口腔顔面痛に対しては次のような治療が行われます。
- 薬物療法
- 心理療法
- 神経ブロック・理学療法
- 抗うつ薬・抗てんかん薬・抗不安薬など脳に働きかける薬の処方を行い、鎮痛薬・神経障害性疼痛治療薬などで痛みを直接やわらげる処方も行います。
- 認知行動療法など、常に痛みを意識してしまうことのないよう心理療法を行います。認知行動治療では思いがけない癖などが痛みに関わっていることが判明することもあるのです。
- 症状により頸部の神経節に局所麻酔注射を行うことで痛みを改善させる神経ブロックや、痛む部位に直接行うトリガーポイントブロックなどを行います。レーザー照射が行われることもあります。
- 口腔灼熱症候群の治療としては、原因が分かる場合はその原因に対しての治療が行われます。心因的なことが原因の場合は抗うつ薬など神経性の痛みを抑える薬が処方されますが、たばこ・アルコール・刺激の強い食べ物を控えるなどの生活習慣の見直しも必要です。
- 歯性感染症が原因の場合、薬物療法・手術療法などでの治療が行われます。
口腔顔面痛の予後と注意点
口腔顔面痛は治りますか?
- 原因の判明しているものに関しては、その元となる病気の治療を行うことで口腔顔面痛は完治する可能性が大きいです。
- 原因不明で口腔顔面痛と診断された場合もさまざまな治療が行われて改善に向かうことが報告されています。検査の結果特に深刻な病気ではないと診断されたら、結果を急がずにゆったりと痛みが少しでもやわらぐように気持ちを切り替えることも大切です。
- また認知行動療法で症状の原因につながる行動が判明し、それを修正することで痛みが緩和されることもあります。
病気の診断までに時間がかかると聞いたことがあります…。
- 痛みを感じ始めて口腔顔面痛と診断されるまでに時間がかかることも多く、診断のつきにくい病気といえます。
- 原因が判明した場合は比較的早い改善が期待できますが、原因が不明の場合は特に時間がかかることが多いのです。
- 口腔顔面痛と診断されてからも複数の診療科との連携が必要となる場合もあります。専門医に相談しながら焦らず治療を受ける気持ちが必要になります。
最後に、読者へメッセージをお願いします。
- 急に襲ってくる口の周辺や顔の痛みは本当に辛いものです。痛みが長く続く場合には深刻な病気が隠れている場合もあるので、早めに検査を受けてください。
- 原因が解明されない場合でも、痛みを軽減させるためのさまざまな治療方法があります。口腔顔面痛外来のある歯科や口腔顔面痛の専門医のいる病院を受診し相談してください。
- メンタル面での治療が痛みの軽減に関わることも多いです。焦らずにゆったりとした気持ちで病気と向き合って乗り越えていきましょう。
編集部まとめ
今回は口腔顔面痛の質問にお答えしました。口腔顔面痛は顔・頭・口の中・口の周辺・頸部などに感じる強い痛みの総称です。
病気が原因で痛みが出る場合もありますが、多くは原因のわからない痛みで不安や悩みを抱えている人が多いのです。
今は口腔顔面痛外来を設けている歯科もあり、さまざまな方法で痛みを軽減するための治療が行われています。
専門医のいる病院で相談することで、不安や悩みが軽減し痛みの緩和につながることもあります。
専門医にしっかりと悩みや思いを伝えて前向きに口腔顔面痛と向き合い、自分に合った治療を受けるようにしてください。
結果を急がず、痛みを完全に取ることよりも少しずつ痛みを抑えることを目的とした治療を行いながら完治を目指すことが大切です。
参考文献