「脳挫傷」とは?症状・原因・治療法についても解説【医師が監修】
更新日:2023/04/03
頭部の外傷により引き起こされる脳の損傷のひとつに脳挫傷があります。脳そのものが傷ついて、出血、腫れを起こす状態で、主な症状として頭痛や嘔吐、意識障害などがみられます。高齢者は症状が遅れて出てきやすいのが特徴です。
今回は、脳挫傷の症状や原因、治療法などについて、詳しく解説していきます。
監修医師:
甲斐沼 孟(上場企業産業医)
プロフィールをもっと見る
大阪市立大学(現・大阪公立大学)医学部医学科卒業。大阪急性期・総合医療センター外科後期臨床研修医、大阪労災病院心臓血管外科後期臨床研修医、国立病院機構大阪医療センター心臓血管外科医員、大阪大学医学部附属病院心臓血管外科非常勤医師、大手前病院救急科医長。上場企業産業医。日本外科学会専門医、日本病院総合診療医学会認定医など。著書は「都市部二次救急1病院における高齢者救急医療の現状と今後の展望」「高齢化社会における大阪市中心部の二次救急1病院での救急医療の現状」「播種性血管内凝固症候群を合併した急性壊死性胆嚢炎に対してrTM投与および腹腔鏡下胆嚢摘出術を施行し良好な経過を得た一例」など。
脳挫傷とは
脳挫傷とはどのような病気でしょうか?
脳挫傷は、脳に強い力が加わることによって、脳自体が傷つき、出血や腫れが起こった状態です。傷ついて、崩れた脳は元に戻ることはなく、損傷を受けた大きさや部位によって症状の出方、程度は異なります。
時間がたつにつれて出血や腫れが広がり、時間がたってから意識障害や麻痺の症状がみられるケースもあります。
頭を打った直下にできる脳の損傷をクー損傷、頭を打った部分と反対側に起こる脳の損傷をコントラクー損傷と言います。
時間がたつにつれて出血や腫れが広がり、時間がたってから意識障害や麻痺の症状がみられるケースもあります。
頭を打った直下にできる脳の損傷をクー損傷、頭を打った部分と反対側に起こる脳の損傷をコントラクー損傷と言います。
クー損傷
衝撃を受けた直下の脳が損傷する「クー損傷」とは?
衝撃を受けた部分の直下の脳に損傷が起こります。頭が止まった状態で強く衝撃を受けた時にできる損傷で、クー損傷のみの場合は、誰かに頭を殴られたことが原因と考えられます。
頭皮の損傷、頭蓋骨の骨折、急性硬膜外血腫などを伴う場合もあり、脳の腫れによる頭痛や嘔吐などの症状と、脳が損傷を受けた部位に関連する症状がみられます。
頭皮の損傷、頭蓋骨の骨折、急性硬膜外血腫などを伴う場合もあり、脳の腫れによる頭痛や嘔吐などの症状と、脳が損傷を受けた部位に関連する症状がみられます。
コントラクー損傷
衝撃を受けた部分と反対側の脳が損傷する「コントラクー損傷」とは?
頭が動いているときに頭に強い衝撃を受けると、硬い頭蓋骨の中で脳脊髄液と呼ばれる水の中に浮かんでいるやわらかい脳は激しく揺さぶられます。
激しく揺さぶられた脳が、衝撃を受けた部位と反対側の頭蓋骨にぶつかる衝撃で起こる損傷がコントラクー損傷です。
コントラクー損傷は、転倒や転落、交通事故、スポーツ競技中などで、頭が動いているときに頭を激しく打った場合に生じ、クー損傷とともにみられます。
急性硬膜下血腫などを伴う場合もあります。脳の腫れによる頭痛や嘔吐などの症状と、脳の損傷部位に関連する症状がみられます。
激しく揺さぶられた脳が、衝撃を受けた部位と反対側の頭蓋骨にぶつかる衝撃で起こる損傷がコントラクー損傷です。
コントラクー損傷は、転倒や転落、交通事故、スポーツ競技中などで、頭が動いているときに頭を激しく打った場合に生じ、クー損傷とともにみられます。
急性硬膜下血腫などを伴う場合もあります。脳の腫れによる頭痛や嘔吐などの症状と、脳の損傷部位に関連する症状がみられます。
脳挫傷の症状
脳挫傷ではどのような症状がみられますか?
脳の損傷の程度や部位によって症状、経過は異なります。
脳の損傷が小さい場合はほとんど症状がみられないか、軽い意識障害を起こす程度です。主な症状として、脳が腫れて圧迫されることにより、頭痛や嘔吐、吐き気、意識がぼんやりとするなどがみられます。
脳挫傷では脳の前頭葉、側頭葉の損傷が多く、損傷部位によって、運動麻痺(手足の麻痺)、言語障害(ろれつが回らない、言葉が出てこない)、高次脳機能障害(記憶・注意・情動・性格・行動などの障害)、視野狭窄、けいれん発作などの症状を生じます。
重症の場合は、混乱や昏睡となり、最悪の場合は命を落とします。
脳の損傷が小さい場合はほとんど症状がみられないか、軽い意識障害を起こす程度です。主な症状として、脳が腫れて圧迫されることにより、頭痛や嘔吐、吐き気、意識がぼんやりとするなどがみられます。
脳挫傷では脳の前頭葉、側頭葉の損傷が多く、損傷部位によって、運動麻痺(手足の麻痺)、言語障害(ろれつが回らない、言葉が出てこない)、高次脳機能障害(記憶・注意・情動・性格・行動などの障害)、視野狭窄、けいれん発作などの症状を生じます。
重症の場合は、混乱や昏睡となり、最悪の場合は命を落とします。
脳挫傷の症状はどういった経過をたどりますか?
脳に損傷をきたしてから、時間の経過とともに出血、および、損傷した部位の周りの組織の腫れがひどくなります。多くの場合、脳の損傷を受けてから24時間以内に症状の悪化がみられ、48時間後に脳の腫れがピークに達します。
脳の損傷自体は小さくても、出血や腫れがひどいと重症化します。とくに高齢者は受傷から遅れて意識障害が出現しやすい特徴があります。
脳の損傷自体は小さくても、出血や腫れがひどいと重症化します。とくに高齢者は受傷から遅れて意識障害が出現しやすい特徴があります。
脳挫傷の原因
脳挫傷の原因について教えてください。
頭に強い衝撃が加わったり、激しく脳が揺さぶられ、頭蓋骨に当たって脳が損傷したりすることが原因です。
具体的には次のような原因で起こります。
具体的には次のような原因で起こります。
- 頭を強く殴られる
- 転ぶ、高いところから落ちるなどして頭を強く打つ
- 交通事故で頭を打つ、強い衝撃が加わる
- スポーツ競技中に頭を激しくぶつける
- 頭を激しく揺さぶられる
脳挫傷の受診科目
脳挫傷が疑われる場合、何科を受診すればよいでしょうか?
転倒、転落、交通事故、スポーツ競技などで、強く頭を打った、激しく頭を揺さぶられたなど、脳挫傷が疑われる場合は脳の外傷を専門とする脳神経外科の専門医を受診しましょう。
意識障害がみられる場合は救急搬送が必要です。
受診時には特段問題がない場合でも、時間の経過とともに症状が現れることもあります。頭を受傷した後は状態の変化に注意して経過をみることが大切です。しばらく経ってから、意識障害や手足の麻痺、言語障害などの症状がみられたら、すぐに受診が必要です。
意識障害がみられる場合は救急搬送が必要です。
受診時には特段問題がない場合でも、時間の経過とともに症状が現れることもあります。頭を受傷した後は状態の変化に注意して経過をみることが大切です。しばらく経ってから、意識障害や手足の麻痺、言語障害などの症状がみられたら、すぐに受診が必要です。
脳挫傷の検査
脳挫傷ではどのような検査を行いますか?
脳の出血や損傷、腫れ、圧迫などを迅速に確認するために主にCTなどの画像検査を行います。
CT画像では、脳の腫れを示す浮腫性変化を呈している部位は通常より黒く映り、脳挫傷を引き起こしている病変部位や出血部位は白く映ります。
脳の腫れや圧迫がひどい場合や、脳が押し出されて生命維持に関わる脳幹に損傷がおよびそうな場合には、早急な治療が必要です。
CT画像では、脳の腫れを示す浮腫性変化を呈している部位は通常より黒く映り、脳挫傷を引き起こしている病変部位や出血部位は白く映ります。
脳の腫れや圧迫がひどい場合や、脳が押し出されて生命維持に関わる脳幹に損傷がおよびそうな場合には、早急な治療が必要です。
脳挫傷の治療
脳挫傷の治療にはどのようなものがありますか?
脳の損傷を元に戻す治療はありません。症状の程度によって、保存的治療、もしくは手術治療を行います。脳の損傷により生じた手足の麻痺や言語障害、高次脳機能障害などの症状に対してはリハビリテーションを実施し、日常生活や社会生活の自立をめざします。
保存的治療
保存的治療とは、どのような治療ですか?
脳の損傷が小さく、脳の腫れや出血が広がる兆候がない場合は、脳圧を下げる薬で頭蓋内の圧を下げる治療や全身状態の管理を行い、経過をみます。
頭蓋内の圧を下げる治療法として、受傷後すぐに脳の温度を32〜34度まで低下させる脳低温療法や、通常よりも多い量の鎮痛薬や麻酔薬を持続的に投与するバルビツレート療法もあります。しかし、副作用があり、有効性や安全性が確立した治療法ではないため、実施においては慎重に検討されます。
全身状態の管理中にも、症状が遅れて生じる可能性があります。
頭蓋内の圧を下げる治療法として、受傷後すぐに脳の温度を32〜34度まで低下させる脳低温療法や、通常よりも多い量の鎮痛薬や麻酔薬を持続的に投与するバルビツレート療法もあります。しかし、副作用があり、有効性や安全性が確立した治療法ではないため、実施においては慎重に検討されます。
全身状態の管理中にも、症状が遅れて生じる可能性があります。
手術治療
手術治療とは、どのような治療ですか?
脳の損傷が大きい場合や、脳の腫れや出血の広がりが予想される場合は手術を行います。
頭蓋骨を開いて脳の圧を逃がす手術や、損傷を受けた脳挫傷部位の血腫を取り出して、周りの脳組織に損傷が広がらないようにします。
頭蓋骨を開いて脳の圧を逃がす手術や、損傷を受けた脳挫傷部位の血腫を取り出して、周りの脳組織に損傷が広がらないようにします。
リハビリテーション
リハビリテーションではどのようなことを行いますか?
手足の麻痺、言語障害などの後遺症に対して、機能回復を促す治療、代替え手段の利用、環境整備等を行って日常生活の自立をめざします。
交通事故などの頭部外傷で起こる脳挫傷では、高次脳機能障害を生じやすい特徴があります。高次脳機能障害は、集中力の低下、自発性の低下、性格の変容、記憶障害、見通しを持った行動の難しさ、感情のコントロールができない、などがみられます。周りとのコミュニケーションや自分で考えて行動することが要求される社会生活上の大きな障害となります。
高次脳機能障害に対しては、復学や復職、社会参加に必要な計画的な行動、コミュニケーション、金銭管理、買い物、交通機関の利用などのスキル獲得を促し、社会生活への適応をめざします。
交通事故などの頭部外傷で起こる脳挫傷では、高次脳機能障害を生じやすい特徴があります。高次脳機能障害は、集中力の低下、自発性の低下、性格の変容、記憶障害、見通しを持った行動の難しさ、感情のコントロールができない、などがみられます。周りとのコミュニケーションや自分で考えて行動することが要求される社会生活上の大きな障害となります。
高次脳機能障害に対しては、復学や復職、社会参加に必要な計画的な行動、コミュニケーション、金銭管理、買い物、交通機関の利用などのスキル獲得を促し、社会生活への適応をめざします。
脳挫傷の性差・年齢差
脳挫傷の性差・年齢差について教えてください。
脳挫傷を生じることもある頭部外傷は、女性よりも男性に多くみられます。1998年のデータでは10代、20代の若年層の受傷が多かった頭部外傷ですが、2009年のデータでは、60代〜80代の受傷が多くみられます。とくに、70代以降の受傷が増加しています。
編集部まとめ
脳挫傷は、脳が衝撃を受けて傷つき、出血や腫れが起こった状態です。
損傷した脳は元に戻ることはなく、手足の運動麻痺や言語障害、高次脳機能障害などの後遺症に対しては、リハビリテーションで日常生活、社会生活への適応をめざします。
数日後に症状が出てくることもあり、受傷後の継続的な観察が必要です。
脳の状態によっては、早期に治療を開始しなければ最悪死に至るケースもあるので、頭を強く打った場合は、脳神経外科の専門医を受診しましょう。
参考文献
- 脳神経外科疾患情報ページ 脳挫傷
- 慶応義塾大学医学部外科脳神経外科学教室 脳挫傷
- 大阪公立大学大学院医学研究科 脳神経外科学 脳挫傷
- 金沢医科大学 頭部外傷の説明と治療指針
- 関東脳神経外科病院 頭部外傷
- MSDマニュアル 脳挫傷と脳裂傷
- 実は怖いスポーツ脳振盪と頭痛
- 慶応義塾大学病院 外傷性脳損傷のリハビリテーション
- 外傷性脳損傷のリハビリテーション
- 脳低温療法
- りんくう総合医療センター 脳出血患者管理のガイドライン
- 頭部外傷データバンク【プロジェクト 2009】の概略
- 日本頭部外傷データバンクー過去・現在・・・そして未来ー
- 頭部外傷の急性期治療
- 山口県医師会警察医会総会における研修会 446P