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脳死と植物状態ってどう違うの? 回復することもあるの?

公開日:2022/05/14  更新日:2022/05/13

脳死や植物状態は、「寝たきり」や「無反応」といった点から、一緒の状態と認識している人も多いのではないでしょうか。しかし、脳死と植物状態は脳の状態や回復の可能性などの点において、まったく異なる状態なのです。今回は、その違いや回復する可能性について「看護師」の中島さんに話を伺いました。

中島 卓也さん

監修
中島 卓也(看護師)

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日本赤十字九州国際看護大学看護科卒業。大学卒業後、福岡・山口県の病院で手術室看護師として10年間勤務。現在は看護教員として今までの経験をもとに、看護師の育成に従事。「基本に忠実に」をモットーにライティングや教育を通して、一般の人や学生に医療や看護をわかりやすく伝える活動に努めている。

脳死と植物状態の違い

脳死と植物状態の違い

編集部編集部

まず、脳死ってどんな状態なのでしょうか?

中島 卓也さん中島さん

脳死とは「脳幹を含む全脳髄が不可逆的に機能を消失した状態」と定義されています。少し難しく感じるかもしれませんが、脳の機能がすべて失われた状態と考えてください。世界のほとんどの国で「脳死は人の死」とされています。脳死は大きく2つに分類され、大脳・小脳・脳幹のすべてが機能しなくなった「全脳死」と、脳幹のみが機能を失った「脳幹死」に分けられます。脳幹死の初期では大脳は機能していますが、時間の経過とともにすべての機能を失い、全脳死へと移行していきます。

編集部編集部

では、植物状態ってどんな状態なのでしょうか?

中島 卓也さん中島さん

植物状態は、思考や行動を制御する大脳が機能を失っている状態です。目を開けていても、周囲の環境に反応を示すことはほとんどありません。一方で、小脳や脳幹は機能しているため、呼吸などの生命維持に必要な身体機能は失われていないのが特徴です。

編集部編集部

脳死や植物状態になる原因にはどんなものがありますか?

中島 卓也さん中島さん

脳挫傷などの頭部への強い衝撃や、脳出血をはじめとする脳血管障害などによって、脳が損傷することが主な原因です。このほかにも、脳への酸素供給の停止や、小児であれば脳炎や脳症などが原因となることもあります。

脳死・植物状態から回復する可能性

脳死・植物状態から回復する可能性

編集部編集部

脳死から回復する可能性はあるのでしょうか?

中島 卓也さん中島さん

脳死は脳の機能が永久に失われた状態で、一度機能が失われた脳を回復させる手段は現時点ではありません。脳死後、医療機器によって一時的に呼吸や心拍を維持することは可能ですが、時間経過とともにほかの臓器も活動を停止してしまいます。

編集部編集部

では、植物状態からの回復はありますか?

中島 卓也さん中島さん

植物状態から回復する可能性はあります。しかし、植物状態になった多くの人が発症後半年以内に亡くなるといわれています。また、時間の経過とともに回復する可能性は低くなります。さらに、回復するかどうかは年齢や原因が関係していると考えられています。年齢が若い人の方が運動機能は回復しやすい傾向にありますが、一方で喋ったり何かを認識したりする機能に関して年齢は関係ありません。原因に関しては、低酸素などの脳血管障害よりも、外傷や薬物が原因となった場合の方が回復する可能性は高いとされています。

編集部編集部

植物状態の治療方法はあるのでしょうか?

中島 卓也さん中島さん

植物状態となった人は、自分で動くことができません。人は動かなくなると、肺炎や感染症、血栓による肺血栓塞栓症など様々な病気を発症してしまいます。また、動かさない手足はどんどん関節が固くなり動きが悪くなります。そのため、関節が固くなるのを予防するリハビリや薬剤による血栓の発生予防などを実施し、栄養を補給して回復を待つのが一般的な治療法となります。

脳死判定と臓器移植の関係

脳死判定と臓器移植の関係

編集部編集部

脳死はどうやって判定されるのでしょうか?

中島 卓也さん中島さん

脳死には判定基準として5つの項目が設定されています。①強い痛み刺激に対しても覚醒しない(深昏睡)、②瞳孔の直径が4mm以上で固定される、③脳幹反射7つ全て(縮瞳や咳反射など)の消失、④脳波の活動が停止、⑤自発呼吸の停止、以上の項目を全て満たしている場合、6時間経過後に再度確認したあと、脳死と判定されます。また、日本での脳死判定は臓器移植を実施することが前提となります。本人に臓器提供の意思表明がある場合や、本人が拒む意思を表明しておらず家族が同意している場合のみ、脳死判定が実施されます。

編集部編集部

脳死後と心停止後の臓器提供に違いはありますか?

中島 卓也さん中島さん

臓器提供は脳死後と心停止後で提供可能な臓器が違います。なぜ提供できる臓器に違いがあるかというと、それには血液の流れが関係しています。心臓は全身に血液を送り出すポンプの役割を担っているため、心停止後は全身の臓器へ血液が送り出されません。そのため、血流の停止から移植後の血流再開時に臓器としての機能が果たせる腎臓・膵臓・眼球が提供できる臓器となっています。一方で、脳死後は心臓が機能しており全身の臓器への血流は維持されています。それによって、心停止後の移植可能な臓器に加え、心臓・肺・肝臓・小腸が提供可能となっています。

編集部編集部

脳死後の意思決定はどうしたらいいのでしょうか?

中島 卓也さん中島さん

脳死判定後の臓器提供の意思決定は、「希望する」場合だけではなく「希望しない」という意思表示も可能です。どちらを希望した場合でも、脳死後の意思決定において本人の意思が尊重されますが、家族の同意を得てからの臓器移植の実施となります。臓器提供の意思表示に関しては、運転免許証・健康保険証・マイナンバーカードに意思表示欄が設定されています。また、インターネットでの登録や意思表示カードの記載でも可能となっています。

編集部編集部

提供内容の指定はできるのでしょうか?

中島 卓也さん中島さん

脳死、心停止のどちらかの場合のみの提供や、提供する臓器の種類などの詳細を決めておくことができます。また一度決定したあとでも、内容は何度でも変更可能です。脳死状態になってからでは意思表示はできませんので、そういった状況に陥った際のことを想定し、事前に準備しておく必要があります。

編集部編集部

最後に、読者にメッセージがあればお願いします。

中島 卓也さん中島さん

この先、不幸にも自分や近しい人が脳死や植物状態となってしまうことがあるかもしれません。その際に、治療の選択や臓器提供に関する本人の意思を尊重するためにも、正しい知識を身に着けておきましょう。

編集部まとめ

脳死と植物状態は、脳やそれに伴う身体の状態から全く違う状態ということが分かりました。また、脳死ならば「臓器提供の有無」、植物状態なら「治療方針や回復の可能性」など、その後考えなければならない内容も変化してきます。脳死と臓器提供は、誰にでも関係のある事柄です。そのため、まだ考えがまとまっておらず意思決定に至ってない人は、これを機に考えてみてはいかがでしょうか。