膵臓の炎症が続くことで膵臓の細胞が破壊され、さまざまな症状を引き起こす「慢性膵炎(まんせいすいえん)」をご存じでしょうか。慢性膵炎になると基本的に治癒は見込めず、膵がんのリスク上昇や寿命が平均より短くなるといわれています。
今回は慢性膵炎の症状や原因、検査や治療方法について解説します。
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大阪市立大学(現・大阪公立大学)医学部医学科卒業。大阪急性期・総合医療センター外科後期臨床研修医、大阪労災病院心臓血管外科後期臨床研修医、国立病院機構大阪医療センター心臓血管外科医員、大阪大学医学部附属病院心臓血管外科非常勤医師、大手前病院救急科医長。上場企業産業医。日本外科学会専門医、日本病院総合診療医学会認定医など。著書は「都市部二次救急1病院における高齢者救急医療の現状と今後の展望」「高齢化社会における大阪市中心部の二次救急1病院での救急医療の現状」「播種性血管内凝固症候群を合併した急性壊死性胆嚢炎に対してrTM投与および腹腔鏡下胆嚢摘出術を施行し良好な経過を得た一例」など。
慢性膵炎とは
慢性膵炎とはどのような病気ですか?
膵臓は、膵液を十二指腸に分泌したり、血液中にグルカゴンやインスリンといったホルモンを分泌したりする臓器です。膵液には消化酵素が多く含まれ、食べ物を消化します。インスリンには、糖の代謝を調節して血糖値を調節する働きがあります。
このように身体にとって重要な働きをする膵臓ですが、慢性膵炎になると膵臓の炎症が持続して、これらの働きが低下してしまうのです。
膵臓の炎症が持続することで、膵臓はどのように変化しますか?
本来は食べ物を消化する膵液が、膵臓自身を溶かしてしまいます。また、炎症が持続することで、腺房細胞・ランゲンハンス島などの正常な細胞が破壊されていきます。これにより膵臓が繊維化して硬くなったり、膵石ができたりするのです。
進行の段階による分類はありますか?
慢性膵炎は代償期、移行期、非代償期に分類されます。代償期では膵臓の働きが保たれており、膵液の分泌に伴う腹痛が主な症状です。移行期では膵臓の働きが低下していき、腹痛も軽くなります。非代償期では膵臓の働きが大きく低下して、腹痛はかなり軽くなる、もしくはなくなります。
そして非代償期まで進行してしまうと、膵液による食べ物の消化やインスリンによる血糖値を調節する機能がほとんど働きません。そのため下痢、体重減少などの症状、糖尿病や栄養障害などの疾患を引き起こします。
なお、慢性膵炎になると膵がんのリスクが7〜11倍に上昇、寿命も平均より10年ほど短縮するといわれています。
慢性膵炎の症状
慢性膵炎では、どのような症状が現れますか?
慢性膵炎の初期段階である代償期の主な症状は腹痛です。移行期、非代償期と、進行するごとに普通は軽くなる傾向になります。しかし、進行するごとに膵臓の機能が低下するため、消化不良による下痢や体重減少などの症状が現れます。栄養障害や糖尿病のリスクも高まるので注意が必要です。
慢性膵炎の腹痛は、具体的にどのような症状ですか?
代償期の腹痛では、腹部や背中の痛み、腹部の上を押すと痛む、倦怠感、吐き気や嘔吐などの症状があります。特に慢性膵炎の急性期には、みぞおち付近に強い痛みを感じます。
特に過食や飲酒、脂質を摂りすぎたあと数時間後に痛む場合が多くなります。そして、腹痛の発作が5〜10年間、繰り返されます。
しかし、まれに痛みのない人もいます。腹部や背中の痛みがないまま病気が進行して、糖尿病を患ってから慢性膵炎だったとわかる人もいるのです。
注意した方がいい症状
注意しなくてはいけない症状はありますか?
特に過食や飲酒、脂質を摂りすぎた数時間後に、みぞおち付近に強い痛みが出る場合は注意が必要です。また、腹痛の発作が繰り返される場合も気をつけましょう。
慢性膵炎の原因
慢性膵炎の原因を教えてください。
慢性膵炎の原因は、男性は飲酒が多く、女性は原因不明の突発性が多くなっています。また、遺伝子によって、慢性膵炎になりやすい家系の人もいます。
飲酒が原因
慢性膵炎と飲酒の関係について教えてください。
慢性膵炎のおよそ70%は、習慣的な飲酒が原因と考えられています。慢性膵炎患者のうち、男性のおよそ75%は飲酒が原因であるのに対し、女性はおよそ30%です。飲酒による慢性膵炎は女性の方が少ないものの、女性は男性より少量の飲酒で慢性膵炎になると考えられているので、注意が必要です。
遺伝子が原因
慢性膵炎と遺伝子の関係を教えてください。
習慣的に飲酒することで慢性膵炎のリスクは高まりますが、大酒家はごく一部しか慢性膵炎にならないとされています。一方で慢性膵炎になりやすい家系の人もいるため、生まれ持った遺伝的要因もとても大きいのです。
慢性膵炎の受診科目
慢性膵炎のような症状が現れた場合、何科を受診するといいでしょうか?
慢性膵炎の症状が疑われる場合は、消化器内科を受診しましょう。慢性膵炎は基本的に治ることはありませんが、早期に治療を受けることで、進行を防いだり改善したりする可能性もあります。
慢性膵炎の検査
慢性膵炎が疑われる場合、どのような検査を行いますか?
慢性膵炎が疑われる場合は、症状の聞き取りや検査を行い、日本膵臓学会の慢性膵炎臨床診断基準に基づき診断します。慢性膵炎臨床診断基準は、特徴的な画像・組織の所見、反復する上腹部痛または背部痛、血中または尿中膵酵素値の異常などです。
これらの所見を確認するために、血液検査や腹部のレントゲン、エコー、CTなどの画像検査を行います。画像検査だけで診断できることもありますが、そのような慢性膵炎は治したり進行を止めたりすることは困難です。
慢性膵炎の治療方法
慢性膵炎はどのように治療しますか?
慢性膵炎は徐々に進行して、ほとんどの場合治りません。腹部や背中の痛みの治療、栄養の改善、合併症の防止などのため、長期間の通院と治療が必要です。
慢性膵炎の治療は病気の原因や重症度などに応じて、生活や食事の改善、投薬治療を行います。
症状・段階別の治療
症状や段階別に、どのような治療を行いますか?
まず代償期は、腹痛の治療が中心です。線維化によって膵管が細くなり、膵液の流れが悪くなって痛みが起こるため、薬によって膵管の出口を緩める治療を行います。
他にも、非ステロイド性消炎鎮痛薬、非麻薬性鎮痛薬、蛋白分解酵素阻害薬などを用いることもあります。場合によっては、内視鏡を使って膵管を広げたり、膵管ドレナージ手術や膵切除術などの手術を行ったりすることも必要です。
非代償期には、タンパク質や脂肪の消化吸収が低下して下痢を起こすため、膵消化酵素剤が必要です。また、糖尿病を併発する場合が多いため、糖尿病専門医の治療を並行して受ける必要があります。
禁酒・禁煙
禁酒や禁煙も必要でしょうか?
慢性膵炎の進行を防ぐには禁酒が必要です。許容される量はありません。禁酒することで進行が遅れて痛みが和らぎ、痛む回数も低下します。
また、慢性膵炎は喫煙との関係も強いため、進行を防ぐために禁煙も重要です。
食事
食事で気をつけるべきポイントを教えてください。
慢性膵炎の食事で重要なのは、栄養価が高い食品を選ぶことと、痛みが出にくい食品を選ぶことです。特に脂質の摂取は痛みを誘発する可能性があります。痛みがなければとりすぎないように気をつけるだけでいいのですが、痛みがある場合は脂質制限が必要です。
また、慢性膵炎が進行すればするほど膵臓の働きが低下して、消化吸収が低下します。特に脂質の消化吸収が低下して、脂溶性ビタミンであるビタミンA・D・E・Kも吸収されづらくなります。これらの栄養素を吸収するためにも、消化酵素薬の服用が必要です。
慢性膵炎の性差・年齢差
慢性膵炎に性差・年齢差はありますか?
慢性膵炎の男女比は4.6:1と男性が約4倍多く、子どもから高齢者まで発症する可能性がありますが、40~50歳代で発症する場合が多くなっています。
編集部まとめ
慢性膵炎は、膵臓の炎症が持続することで、腺房細胞・ランゲンハンス島などの正常な細胞が破壊されていきます。すると膵臓が繊維化して硬くなったり、膵石ができたりして、膵臓の働きが低下します。
進行の段階によって代償期、移行期、非代償期に分類され、代償期の主な症状は腹痛です。非代償期には痛みが軽減する、もしくはなくなるものの、下痢や体重減少などの症状、糖尿病や栄養障害などの疾患を引き起こします。
一度患ってしまうと、基本的には治癒が見込めない病気です。過食や飲酒、脂質を摂りすぎた数時間後に、みぞおち付近に痛みが出る場合は膵炎の可能性があります。
早期に治療を受けることで進行を防いだり改善したりする可能性が高まるので、疑われる症状がある場合は、できるだけ早く消化器内科を受診しましょう。