「脳腫瘍」とは?症状・原因・手術についても監修!
脳腫瘍は頭蓋骨の中にできる腫瘍をまとめて呼んだものです。脳の組織から発生する脳腫瘍は実に150種類もあるとされており、症例数も少なく、原因もわかっていません。現在もなお、的確な診断につなげる検査方法や患者への負担の少ない治療方法の研究がすすめられています。
今回は、脳腫瘍の症状や原因、代表的な病気、治療方法など、脳腫瘍についての知識を深められる内容を詳しく説明しています。
監修医師:
甲斐沼 孟(上場企業産業医)
脳腫瘍とは
脳腫瘍とはどのような病気ですか?
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脳腫瘍とは、頭蓋内に発生する腫瘍をまとめた呼び名です。
脳の組織からできる原発性脳腫瘍と、がんなどが転移してできる転移性脳腫瘍とに分けられます。
原発性脳腫瘍
原発性脳腫瘍とはどのような脳腫瘍でしょうか?
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原発性脳腫瘍は脳・髄膜・脳神経・下垂体・血管といった脳の組織から発生する脳腫瘍で、150種類以上に分類されます。
良性と悪性に分けられ、良性は増えるスピードが遅く、正常な組織との境がはっきり分かれています。
悪性は増えるスピードが速く、まわりの組織に浸みこむように広がって境がはっきりしません。
良性は脳の外側の組織にできやすく、悪性は脳の中にできやすいという特徴があります。
脳腫瘍は悪性度によってグレード1~4に分類され、グレード1は良性、グレード2~4が悪性です。
転移性脳腫瘍
転移性脳腫瘍とはどのような脳腫瘍でしょうか?
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脳以外の部分にできた肺がん、乳がん、大腸がんなどが血液の流れにのって脳に転移した脳腫瘍です。
悪性であることが多い脳腫瘍です。
脳腫瘍の症状
脳腫瘍ではどのような症状がみられますか?
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脳腫瘍が大きくなると脳にむくみが生じ、頭蓋骨の中の圧が高まります。
脳腫瘍では、頭蓋内の圧が高まることで生じる頭蓋内圧亢進症状と、脳腫瘍自体が脳細胞を障害して生じる局所症状がみられます。
症状が進むスピードはゆっくりです。けいれん発作がみられることもあります。
頭蓋内圧亢進症状
頭蓋内圧亢進症状とはどのような症状でしょうか?
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硬い頭蓋骨に覆われた脳の腫瘍が大きくなることにより、脳の圧が高まる症状です。
脳腫瘍の多くの症例で、頭痛、嘔吐、吐き気、目がかすむ、視力低下などの症状が共通してみられます。頭蓋内の圧は睡眠中にやや高くなるため、頭痛は起床時に強く現れやすい傾向があります。
脳室に脳脊髄液がたまり、脳室が拡大する水頭症を合併することが多いのも特徴です。
局所症状
局所症状とはどのような症状でしょうか?
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脳腫瘍がある部位や脳がむくんだ部位の脳の機能が障害されて起こる症状です。障害された脳の部位によって、次のような症状がみられます。
- 顔や手足の麻痺
- 感覚障害
- しびれ
- 視力や視野の障害
- 言葉が理解できない、言葉を話せない
- 日にちや場所がわからなくなる
- 集中力の低下
- 記憶力の低下
- 計算ができなくなる
- 物の名前がわからない
- 飲み込みの障害
- 聴力障害
- ふらつき
- 歩行障害
- 左右どちらかに注意が向きにくくなる(半側空間無視)
けいれん発作
けいれん発作とはどのような症状でしょうか?
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大脳に脳腫瘍がある場合に、近くの神経細胞を刺激して電気活動が生じて起こる症状です。
てんかん発作、ひきつけ発作とも呼ばれます。
刺激される脳の部位によって、意図せずに片方の手足が震える、言葉が話せなくなるなどの症状がでます。神経細胞の異常な興奮が脳全体に広がった場合は、意識を失って全身けいれんを起こします。
脳腫瘍の原因
脳腫瘍の原因は何でしょうか?
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はっきりとした原因はわかっておらず、遺伝子の変異と考えられています。
脳腫瘍になるリスクが高いのは、脳以外の部位にがんがある場合や脳腫瘍を患ったことのある人が身内にいる場合です。腫瘍の進行には、高たんぱく・高脂肪食品の摂りすぎ、喫煙、過度のストレスなどが関係しています。
脳腫瘍の代表的な病気
脳腫瘍の代表的な病気には何がありますか?
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主な原発性脳腫瘍として、髄膜腫、神経膠腫、神経鞘腫、下垂体腺腫瘍が挙げられます。
髄膜腫
髄膜腫はどのような脳腫瘍ですか?
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原発性脳腫瘍の中で最も多い脳腫瘍です。
頭蓋骨の内側の脳を包んでいる髄膜から発生する腫瘍です。ほとんどの場合は良性ですが、まれに悪性の場合もあります。腫瘍が小さいうちは症状がみられません。脳ドックや頭を怪我したときに受けたCTやMRI検査で偶然に発見されることがあります。
神経膠腫
神経膠腫とはどのような脳腫瘍ですか?
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悪性の脳腫瘍の中で最も多くみられる脳腫瘍で、グリオーマとも呼ばれます。
脳の神経細胞の活動やはたらきを助ける神経膠細胞(グリア細胞)から発生します。星細胞腫と乏突起膠腫に大きく分類され、悪性度グレード4の膠芽腫と呼ばれる星細胞腫の予後は不良です。
下垂体腺腫
下垂体腺腫とはどのような脳腫瘍ですか?
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脳の中央にあり、ホルモンの分泌に関わる下垂体の一部が腫瘍化した脳腫瘍です。下垂体腺腫のほとんどは良性です。
- 成長ホルモン:先端巨大症
- プロラクチン:乳汁分泌、月経不順、性機能障害など
- 副腎皮質刺激ホルモン:クッシング病など
ホルモンを分泌しない非機能性下垂体腺腫とホルモンを過剰に分泌するホルモン産生腺腫とに分けられます。非機能性下垂体腺腫は視神経を圧迫して視野障害を生じます。ホルモン産生を障害して体毛が少なくなるなどの症状もみられます。
ホルモン産生腺腫の場合は、分泌されるホルモンによってみられる症状が異なります。
神経腺腫
神経鞘腫とはどのような脳腫瘍ですか?
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脳から出た神経を囲って守っている鞘から発生する脳腫瘍です。
聴神経である前庭神経から発生する聴神経鞘腫が多くみられます。聴力低下、めまい、ふらつき、耳鳴り、顔面麻痺などの症状が出ます。
脳腫瘍の受診科目
脳腫瘍が疑われる症状が見られたら何科を受診すればよいでしょうか?
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脳腫瘍は脳脊髄腫瘍科、脳神経外科、がんセンターなどが専門としています。
頭痛、吐き気、言葉が出にくい、手足の麻痺、感覚障害、しびれ、酔っぱらったようなふらつき、けいれん発作などがみられたら早めの受診が必要です。
脳腫瘍は種類が膨大にあり、脳腫瘍の種類や医療機関の方針によっても治療方法の選択肢が異なります。それぞれの治療法のリスクについても医師によく確認し、相談することが大切です。
脳腫瘍で行う検査
脳腫瘍ではどのような検査を行いますか?
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CT、MRI検査を行います。
造影剤を用いるCT血管撮影では、腫瘍と脳の血管の関連を調べられます。MRIでは腫瘍の位置と手足の運動や言葉の機能に関わる脳の部位との関係を確認できます。
確定診断は、腫瘍組織を手術や生検で採取し、細胞をひとつひとつ顕微鏡で観察して行います。
腫瘍が言葉の機能をつかさどる部位の近くにある場合は、言語に関係する脳の半球が左右どちらにあるかを調べるために脳血管撮影を行うことがあります。脳梗塞か脳腫瘍かの鑑別を行いたい場合はPETを利用します。
髄膜腫や下垂体腺腫などの良性の腫瘍は、脳ドックなどで偶然見つかることも少なくありません。
脳腫瘍の性差・年齢差
脳腫瘍は性別差や年齢差などはあるのでしょうか?
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脳腫瘍の人口10万対あたりの罹患率は4.7例と少ない割合です。男女別にみると、男性5.2例、女性4.3例で男性にやや多い傾向があります。年齢層別の罹患率は男女ともに70~90代で多く、とくに80代に多くみられます。
人口10万対あたりの脳腫瘍の死亡率は2.3人で、男性2.7例、女性1.9例で男性の死亡率が高い傾向にあります。
脳腫瘍の治療方法
脳腫瘍の治療をする場合、どのような治療方法がありますか?
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腫瘍の大きさや位置、症状、年齢、合併している病気、腫瘍の種類や悪性度などから治療の必要性および、治療の方法を判断します。
治療方法として、手術、放射線治療、薬物療法があります。治療がひと段落した後も、定期的な通院で経過を追うとともに、脳腫瘍の進行を助長する生活習慣がある場合は改善が必要です。
手術
手術はどのような治療ですか?
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腫瘍はできる限り取り除きます。ただし、腫瘍を除去すると手足の動きや言語に影響が出ると予測される場合は無理にはとりません。
腫瘍の位置を正確に把握するために、手術の際にはナビゲーション装置の利用、運動機能や感覚機能のモニタリング、患者と会話をして手足の動きや言葉の機能を確認しながら手術を行う方法などが取り入れられています。
放射線治療
放射線治療はどのような治療ですか?
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腫瘍のみに高エネルギーのX線や放射線を照射する治療です。手術や薬物療法と組み合わせて行うこともあります。
悪性の腫瘍は正常な組織との境がはっきりしないため、正常な組織も一部含めて照射を行います。
良性の腫瘍は腫瘍のみに照射できるように、ガンマナイフ、サイバーナイフという特殊な装置を用いてミリ単位で調節できる定位放射線治療で行います。
放射線治療の副作用は、照射部位の皮膚炎、中耳炎、外耳炎、脱毛、体のだるさ、嘔吐、吐き気、食欲低下などです。
薬物療法
薬物療法はどのような治療ですか?
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悪性の腫瘍に対して細胞障害性抗がん剤や分子標的薬などを用います。良性の場合は原則薬物治療を行いませんが、下垂体腺腫の一部では薬物療法を行う場合があります。
脳のむくみに対して行うステロイド治療は一時的な作用しか得られません。薬物療法は副作用が伴う治療のため、体や腫瘍の状態をふまえて薬が選択されます。
編集部まとめ
脳腫瘍は脳の組織からできる場合とがんが転移してできる場合があります。
良性と悪性に分けられ、どちらの場合もできるだけ腫瘍を切除する手術を行います。
しかし、腫瘍のある場所によっては体や言葉の機能に障害が残るため、手術で除去できない場合もあります。
脳ドックや頭の怪我でCT、MRIをとった際に偶然脳腫瘍が見つかる場合もあるので、定期的な検査を受けて早期発見につなげることは大切です。腫瘍の進行は生活習慣が関係しているので、健康的な生活習慣を身につけましょう。
参考文献