「心因性ED」の治し方はご存知ですか?医師が監修!
EDとは勃起障害のことで、性生活で悩みを抱えている人もいるかもしれませんが、決して珍しい症状ではありません。正しい知識・情報を得て対処することが大切です。
身体的な問題やEDを誘因する疾患がないのにEDの症状があるという場合、心の状態によって引き起こされる心因性EDかもしれません。
薬を飲んでみて得られる安心感から解消されることもありますし、心理的な原因がどのようなものか特定することが治療の第一歩となります。受診を前向きに検討してみましょう。
心因性EDの特徴・原因・治療方法・治療で処方されるPDE5阻害薬の種類について紹介します。
監修医師:
郷 正憲(徳島赤十字病院)
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心因性EDとは
EDは英語名(Erectile Dysfunction)の略称で、満足に性行為をするために十分な勃起ができない・維持できない状態が継続している・再発したということが定義になっています。日本では時々勃起できないという中等症以上の人が推計1130万人いるとされ、軽症の人も含めればそれより多くいるのです。
EDの原因は、身体に問題はなくても心理・精神面が影響している心因性と身体機能に原因がある器質性に大別されますが、多くの症例で心理的な原因と身体的な原因が複雑に絡み合っていると考えられています。心因性は2割で、残り8割のED症状には何らかの身体的原因があるとされます。
心因性EDのうち、うつ病や統合失調症などの精神疾患があれば、まずは精神科での治療を優先させてください。ただ心因性EDの多くが、心身ともに健康という人であっても、性生活に限らず日常の仕事や生活などのストレスが原因になっているケースでしょう。検査などで身体機能の問題や高血圧・心血管疾患などの内科的疾患に伴う症状でないと判明した場合、心因性EDと診断される可能性が高くなります。
心因性EDの治し方
EDの症状で実際に受診する人は多くないという実情がありますが、一人で悩みを抱え込むと事態が悪化してしまいます。症状のある本人やそのパートナーが困っていたり不安に感じていたりする場合は医師に相談してみましょう。バイアグラなどの勃起不全治療薬は、かかりつけの内科など一般医師にも処方してもらえます。EDの原因を突き止めるための診断は、専門医が行います。
詳細な問診票に回答して診察を受けたうえで、心理テスト・内分泌検査・生理的勃起機能検査・神経系検査・血管系検査などが検討されるでしょう。心因性EDと診断されたら、カウンセリングなどの心理療法や生活習慣の見直しに取り組みます。
ED治療薬
日本では、バイアグラ・シアリス・レビトラの3剤の勃起不全治療薬が使用できます。最初に承認されたバイアグラは1999年の発売と歴史が比較的浅い薬ですが、現在では安全性も認められており一般に認知されるようになりました。
併用が禁止されている薬や処方してはいけない既往症があるため、薬歴・既往症の確認が必要です。適切に使わないと効果が得られないため、服用方法の詳しい説明を受けることも大切です。医師による処方のみで1錠1200~1700円程度かかります。
オンライン診療による処方も利用できます。市販薬はありません。個人輸入による入手は偽物や危険な成分を含む薬もあり、健康や命を危険にさらすことになるので絶対にやめてください。
心理療法(カウンセリング)
心理療法にはカウンセリングやさまざまな心理テストがあります。カウンセリングは医師や専門のカウンセラーと対話しながら、どのような場面でどのような症状があるのか・そのときの気持ち・原因だと考えられる日常のストレスや心身の悩みなどを明らかにすることで、心の状態や対処方法を見いだし症状の軽減を目指します。
本人だけで受けるだけでなく、カップルで一緒に受ける場合もあるでしょう。1回にかける時間が長く期間をかけて複数回受診することになるため、医師やカウンセラーと信頼関係を築くことが大切です。相性や感触を確かめ、要望は正直に伝えてください。
生活習慣の見直し
EDの症状を引き起こすリスク要因の中には加齢・外傷・手術の影響といった対処が難しいものもあります。しかし肥満・運動不足・喫煙・テストステロン低下・心理的要素といったものは、生活習慣の見直しで改善が期待できるでしょう。
喫煙による影響としては、血管内皮障害・陰茎への血流障害・交感神経刺激などが考えられます。テストステロンは代表的な男性ホルモンの一つで、勃起に関係する神経・血管・海綿体組織の正常な働きを保つために不可欠であり、生活習慣の乱れによって分泌量が低下してしまいます。心理面ではストレスや不安を取り除くため性格の傾向を探ったり生活環境を改善したりすることに努めましょう。
心因性EDの原因
心因性EDには現実心因と深層心因があります。どのような違いがあるのか説明します。
現実心因
現実心因とは、現実の日常生活にある心身のストレスや性生活の悩みといった患者本人が気づいている心理的な原因のことです。例えば、以下のようなものが挙げられます。
- 緊張過剰・あせり・妊娠恐怖・罪悪感などの心理
- 過労・睡眠不足・ストレスなどの身体的な状況
- 家庭内不和・経済的困窮・パートナーとの感情的な衝突・嫁姑問題などの家庭や家族の問題
- 初体験・新婚初夜などの場面的な問題
- 性的無知・性的未熟などの知識不足
- 身体や性器の特徴・性行為への自信のなさ・過去の失敗などのコンプレックス
深層心因
深層心因とは、患者本人がEDを引き起こす原因に心当たりがなく、無意識・無自覚下の深層心理が原因になっていることです。例えば、抑圧された怒り・憎しみ・妬み・不安・愛憎葛藤・欲求不満などの感情があります。
また、子どものころの心的外傷体験・母親からの心理的自立の不全・無意識的な近親相姦欲求・LGBTQなどの生い立ちや生まれながらの性的指向が背景にある場合も少なくありません。
心因性EDに効くPDE5阻害薬の種類
EDに処方される薬は、PDE5阻害薬です。PDE5とは陰茎海綿体に豊富に存在する酵素で、薬でこの作用を妨げることによって陰茎海綿体平滑筋を弛緩させ動脈からの血流を促します。その結果、勃起が起こり維持される仕組みです。禁忌の薬歴・既往症があるため、誰にでも処方できません。
薬歴は、高血圧や狭心症の薬で血管拡張作用がある硝酸剤やNO供与剤・抗不整脈薬のアンカロンなどを服用している人が挙げられます。既往症は、心血管系障害で性行為が不適当・半年以内の心筋梗塞・低血圧・高血圧・半年以内の脳梗塞・脳出血・肝硬変・網膜色素変性症などです。日本で処方可能なバイアグラ・シアリス・レビトラの3剤の特徴・効果・用法の違いを解説します。
バイアグラ
1999年に国内初の勃起不全治療薬として発売され、最も認知度が高い薬ではないでしょうか。国内ではバイアグラ50mgのみで、100mgは販売されていません。内服後30~60分で効果が表れ、60分後に最も効果が高いとされています。
食事後の服用では効きにくくなる点に留意しましょう。100mgの成功率が34.8%というデータがあり、参考程度に考えてください。ほてりや頭痛などの副作用が起こることがあります。
シアリス
2007年に日本で3番目に発売された勃起不全治療薬です。36 時間と効果が長時間続く点が他の2剤と違う大きな特徴でしょう。内服後30分から効果が表れ、2時間後に最も効果が高くなるとされており、食事の影響も報告されていません。ただ成功率15.7%というデータがあり3剤で最も低いと考えられるでしょう。
服用後、ほてりや頭痛などの副作用がある人もいます。ED治療薬は服用のタイミングが難しいという声が多く、性行為の1~3時間前が予測できれば他の2剤でもよいのですが、今日か明日といった予想の場合にシアリスが選ばれます。
レビトラ
2004年に国内販売が始まりました。10分でも効果が得られる人もおり、3剤の中では最も早く効くという点が特徴です。内服後 30 分で効果が表れ、最も効果が高いのが60分後となりますが、脂肪を多く含む食事の後は効きにくくなるでしょう。成功率は10mgと20mgともに20%程度というデータがあります。
禁忌の薬歴が他2剤より多く、C型肝炎などで使われる抗ウイルス薬やクラスIII抗不整脈薬なども併用禁止なので注意してください。ほてり・頭痛に加え、鼻炎・動悸といった副作用も比較的起こりやすくなっています。以上3剤いずれにしても、薬を飲んでも効かなかったという場合はまず使い方が正しかったかを確かめましょう。
服用すれば勃起が起こるという誤解もありますが、いずれも性欲を高め性的刺激を直接的に与えることが前提となります。飲酒後や油を多く使った食事の後には効果が表れないことが多いでしょう。薬を飲むタイミングが適切ではないことや容量が少ない場合もあります。
若い人の心因性EDが増えている?
心因性EDは特に若い世代に多い症状です。心因性EDが増えている一因として社会的背景も大きいでしょう。産業構造の変化でメンタルの不調を抱える人が増えているだけでなく、交際経験のない人の増加が国の調査などで分かっており、人間関係の希薄さや異性間のコミュニケーション機会の少なさも要因として考えられます。
心因性EDの治療にも取り入れられているエゴグラムという心理テストをご存じでしょうか。自我の状態を5種類(父親的・母親的・大人・自由活発な子供・従順な子供)に分け、グラフでそれぞれの数値を表す試みなのですが、心因性EDの人は自由活発な子供の自我が低く従順な子供の自我が高いタイプが多い傾向にあります。
性行為の多くは恋愛・夫婦関係を前提としたデリケートで感情的な営みであり、心理・精神面が与える影響は大きいものです。孤独なまま悩んでいても心の状態は悪化してしまうので、メンタルヘルスの窓口やEDの専門治療をしている医療機関に一度相談してみましょう。第三者の意見や正しい知識、安心感を得ることで解決の糸口が見つかるかもしれません。またパートナーに素直に打ち明け、ともに改善に取り組もうという姿勢も大切です。
編集部まとめ
心因性EDは心の状態によって引き起こされる勃起障害で、患者本人が原因に心当たりがある場合と無自覚・無意識下の深層心理に原因がある場合があります。
身体的な問題や疾患の影響から引き起こされる器質性EDに該当しないと診断されたうえで、カウンセリングなどの心理療法を用いて原因や対処方法を探っていくことになります。その際、パートナーと一緒に取り組むこともあるでしょう。
またバイアグラ・シアリス・レビトラの3剤いずれかの服用をすることで、性行為でのプレッシャーが緩和され心因性EDが改善する可能性もあります。
一人で悩まず、医師や専門のカウンセラーに一度相談してみましょう。