「拡張型心筋症の症状」はご存知ですか?初期症状・末期症状も医師が徹底解説!
公開日:2024/10/28


監修医師:
小鷹 悠二(おだかクリニック)
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福島県立医科大学医学部卒業 / 専門は循環器内科 / 2009/4月~2013/3月 宮城厚生協会坂総合病院 / 2013/4月~2017/3月 東北大学病院循環器内科・同大学院 医員 / 2017/4月~2018/5月 仙台オープン病院 循環器内科医長 / 2018/5月~ おだかクリニック 副院長 / 診療所での外来業務に加え、産業医、学校医としての業務も行っている。
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「拡張型心筋症」とは?
心臓は4つの部屋に分かれている、筋肉で覆われた臓器であり、それぞれの部屋が連動して動くことによって血液を送り届けるポンプのような働きをしています。 拡張型心筋症では、心臓の筋肉が収縮して血液を送り出す働きが弱ってしまうことで、心臓の部屋(特に左下の左心室)が拡張してしまう状態となる病気です。 拡張して心臓の部屋が大きく膨らんでしまい、心臓の筋肉もうまく収縮できなくなるため血液の循環がうまくできなくなる、心不全状態を引き起こしてしまいます。拡張型心筋症の代表的な症状
症状としては心臓の機能が低下してしまうことによる、心不全症状が出現し、以下のような症状を呈します。息切れ、呼吸の苦しさ(呼吸困難感)
心不全症状を引き起こした場合に生じやすい代表的な症状の一つです。 心不全による典型的な呼吸苦症状は、横になった際に心負荷で肺にたまった胸水が肺全体に広がるため呼吸の苦しさが悪化し、体を起こすと楽になる起坐呼吸という症状があります。 それ以外にも、動いたときに息切れが出現し易くなることもあるため、それまでできていた動作で息が切れるようになってきた際には、心不全の可能性も疑う必要があるため、早めに病院を受診する必要があります。起坐呼吸は心不全が急に進行した場合等によく生じるため、自覚する場合には救急外来の受診など、速やかな受診が必要です。 動くのが大変な呼吸困難が生じる際には緊急性が高い可能性もあるため、救急要請を検討しましょう。胸痛
心筋梗塞や狭心症だけでなく、心不全でも、心臓に栄養を送っている冠動脈の血流が低下してしまうと胸痛を生じます。典型的な心臓の血流障害の症状としては、胸の中心~左側の締め付けられる様な、押しつぶされるような強い胸痛であり、冷や汗を伴うような強い症状のことも多く、左肩~顎や奥歯まで苦しくなる放散痛を伴う事もあります。 数分で改善しないような強い胸痛の場合は、速やかな救急要請が必要となる、緊急性が高い状態となっている可能性が高いです。 もし短時間で落ち着いたとしても、それまでなかった症状が出現している際には早期の循環器科受診が必要です。動悸
心臓の機能が低下することで不整脈が出現しやすくなってしまい、動悸症状が出現する事があります。動悸と一言で表現しても、様々な症状を動悸と表現する事があります。そのため、動悸の場合には脈が速い状態なのか、脈の乱れがあるのか、脈が速くも乱れてもいないが鼓動だけ強く感じるのか、ということが伝えられると、より早い段階で診断・治療に結び付けることができます。 脈のリズムが数拍乱れるような期外収縮が出現しやすいですが、拡張型心筋症のような特殊な心筋症で、心機能が大きく低下してしまうと、心室頻拍などの危険な不整脈を生じることがあります。動悸以外に胸痛や強い呼吸苦症状、失神などの意識の異常を伴う場合には緊急性が高い可能性があるため、救急要請も検討が必要です。 拡張型心筋症では、心室細動のような非常に危険な不整脈を出現するリスクもあるため、突然死の危険もあります。めまい、ふらつき、失神
心不全によって体の血液の循環に障害が生じ、脈がゆっくりとなる不整脈や、極端な頻脈が生じることで出現する事があります。ほかにも、心臓がうまく動けない状態となるため、脱水などで体を循環する血液量が減少することで出現しやすくなります。 症状を自覚したら、まずは転倒・失神等をしないように座り込むか横になりましょう。 そして可能であれば自分で脈をチェックし、脈の速さの異常や乱れがないかを確認してください。脈がゆっくりになり過ぎる不整脈が原因の場合には、ペースメーカー埋め込み術等が必要となる事があります。 失神まで起こす場合は、緊急での処置を必要とする状態の可能性もあるため、できる限り速やかな受診が必要です。 心臓病が原因の失神は、徐々に気が遠くなるというよりは、突然ブツンと意識がなくなる、気が付いたら倒れていたというタイプの症状が多いため、このような症状では特に注意が必要です。拡張型心筋症の前兆となる初期症状
心不全症状を出現することが多い拡張型心筋症ですが、初期の段階から症状が出現していることもあるため、下記のような症状がある際には注意が必要であり、速やかな受診が必要です。これまでできていた動作での息切れ、胸の苦しさ
拡張型心筋症心筋症による心不全の症状として、強い息切れや呼吸困難などの症状がありますが、初期の段階としては、それまでできていた動作での息切れや胸の苦しさを自覚することがあります。 例えば、坂道や階段、仕事での肉体労働などで、以前よりも息切れが目立つ、胸が苦しくなる、一休みしないと続けられなくなる、といった症状で出現することがあります。動悸
心不全を発症すると強い動悸を自覚したり、危険な不整脈が多発・持続する状態となることもありますが、前兆として時々脈が飛ぶ、短時間のドキドキするような頻脈・動悸を自覚するといった、比較的軽い動悸症状が先行することがあります。だるさ
心臓からの血流が悪くなるため、全身の臓器にうまく栄養が遅れなくなり、だるさなどの症状が初期に出現することがあります。拡張型心筋症の末期症状
拡張型心筋症に限らず、心臓の機能が低下した状態である心不全は、基本的には進行していく病気です。特に拡張型心筋症の場合には、根本的な治療方法がないため、ほかの心疾患が原因の心不全に比べて非常に予後が悪いです。 拡張型心筋症が進行してしまった場合の症状としては、以下のようなものがあります。安静時の呼吸苦・呼吸困難
心不全初期では、主に労作時に息切れが出現しやすかったものが、心不全が進行すると安静にしていても息苦しい・呼吸困難を自覚するようになります。 それによって、酸素吸入や、肺を膨らませやすくするため陽圧を持続的にかける特殊な呼吸補助機器の使用が必要となります。重症例では人工呼吸器管理が必要となることもあります。全身のむくみ
血液の循環がうまくいかなくなるため、全身に水分がたまってしまいやすくなり、高度のむくみが出現します。そのため、利尿剤や血管拡張剤の使用が必要となり、心不全進行とともに腎障害も進行すると透析などによる管理が必要となることもあります。胸痛
拡張型心筋症が進行することで、高度の心不全状態となると、心臓に栄養を送る冠動脈の血流も低下するため、狭心症のような胸痛が頻回に出現するようになります。 血管拡張剤の使用や循環補助の薬剤を用いた管理を行うことが多くなりますが、それでもコントロールが困難な場合には、人工心肺の使用や、緩和治療としてモルヒネなどの医療麻薬を用いた鎮痛管理が必要となることもあります。拡張型心筋症の主な原因
拡張型心筋症の明らかな原因は、現在でもよくわかっていません。 ただ、最近ではウイルス感染や自己抗体の異常、遺伝など、いくつかの原因があることが分かってきています。ウイルス感染
拡張型心筋症と診断された患者の心臓組織から、ウイルスのゲノムが検出され多とする報告もあります。特にコクサッキーウイルスやアデノウイルスなどの感染が、影響している可能性が疑われるが、まだ確立されていないのが現状です。自己免疫の異常
本来体を守るための免疫系の異常が生じることで、自分の体内の組織に対して障害が生じてしまい、心機能低下を引き起こしている可能性が指摘されています。 ただ、報告によって自己抗体の検出率に大きな差があるため、どの程度これらの機序が影響しているかはよくわかっていません。遺伝
拡張型心筋症と診断された患者の、5%程度が近親者にも拡張型心筋症の患者がいることが明らかになっています。これらの家族性発症がある拡張型心筋症のうち、20%には心臓の筋収縮にかかわる遺伝子変異があることが報告されています。拡張型心筋症になりやすい人の特徴
拡張型心筋症は原因がはっきりしていないため、何がこの病気を引き起こすのかははっきりしていません。現時点で、関連がありそうな要因としては以下のようなものがあります。家族内に拡張型心筋症患者がいる
日本の報告でも、拡張型心筋症と診断された患者の5%は家族内発症があり、遺伝子変異が生じやすい可能性も指摘されている。そのため、家族内に拡張型心筋症の患者がいる場合には、定期的な健診などのフォローが重要となります。生活習慣がみだれている人
拡張型心筋症の直接的な要因となるかははっきりしていませんが、心疾患は不適切な生活習慣によって引き起こされることが多いため、生活習慣には注意が必要です。 高血圧などの生活習慣病の管理や、塩分やカロリーの取りすぎ、喫煙、過度の飲酒、肥満、運動不足、不規則な生活リズム、過度のストレスなどは心不全の原因となるさまざまな病気を引き起こすため、注意が必要です。拡張型心筋症の治療法
拡張型心筋症には、根本的な治療方法はありません。 進行によって引き起こされる心不全に対する治療を行うしかやれることがないのが現状です。治療としては以下のようなものがあります。薬物治療
利尿剤や強心剤、心臓を保護する薬剤などを投与して治療を行います。 軽症であれば内服薬を使用しますが、重症度が高い場合には注射や点滴で投与を行います。 β遮断薬やアンギオテンシン変換酵素阻害薬(ACE阻害薬)やアンギオテンシンⅡ受容体拮抗薬(ARB)には心保護作用や延命効果があることが分かっており、使用されることが多いです。最近では、SGLT2阻害薬やアンジオテンシン受容体ネプリライシン阻害薬(ARNI)といった新しい機序の薬剤も心不全の悪化予防・予後改善を期待して使用されることが増えています。呼吸管理
心不全の重症度が高くなると、肺に水が溜まってしまう事による呼吸障害が強くなってしまいます。そのため、呼吸をサポートする治療が必要となり、酸素の吸入や陽圧をかけるマスクを装着した治療、より重症となると人工呼吸器を装着した高度な治療が必要となります。循環管理
急性心不全によって心臓の機能が大きく低下し、全身に血液が送れなくなってしまった場合には、血液の循環をサポートするために血管の中にカテーテルを用いて風船(バルーン)を入れ、心臓の動きに合わせてバルーンを拡張・収縮させることで心臓の働きをサポートする大動脈内バルーンパンピング(IABP)や、心臓の代わりに体外のポンプから酸素化した血液を送り込む人工心肺などの補助循環装置を使用する事もあります。 また、拡張型心筋症では危険な不整脈が出現しやすくなるため、植え込み型除細動器の植込み術が実施されることもあります。高度に心機能が低下した際には両心室ペーシング機能付き植込み型除細動器(CRT-D)という、除細動器と心臓を電気刺激で動かすような特殊な機器植込みが必要となることもあります。 さらに心機能低下が進行した際には、心移植が実施されることもあります。拡張型心筋症を予防する方法
拡張型心筋症は原因が分かっておらず、根本的な予防方法はありません。 しかし、拡張型心筋症の進行に伴って出現する心不全は、生活習慣病や生活習慣が悪化に関連するため、進行を防ぐ、症状を軽減するためには日常生活でもできることがあります。生活習慣に気をつける
最も基本的な点は生活習慣に気をつける事です。気をつけるポイントとしては、以下のような点があります。 ・塩分をとり過ぎない:1日の塩分量は6g以下を意識する ・カロリーをとり過ぎない:通常成人では、年齢や活動量に応じて1800-2600kcal程度のカロリー摂取が推奨されます。さらに、野菜や果物の積極的な摂取、脂分が多い食品をとり過ぎないことが推奨されます。 ・太り過ぎない:BMI(体重[kg]÷身長[m]2)25未満を心がける ・運動習慣:軽く汗ばむ位の有酸素運動を1日60分(歩行なら1日8000歩以上)行う ・節酒:エタノールとして1日、男性20-30ml(日本酒1合、ビール中瓶2本、焼酎0.5合、ワイン2杯、ウイスキーダブル1杯に相当)、女性は約半分の10-20ml以下の制限が推奨されます。 ・禁煙:喫煙は高血圧、心臓・脳血管疾患、肺疾患、悪性腫瘍等、様々な疾患リスクとなる事が証明されています。健康診断、定期的な検査を受ける
拡張型心筋症は若い方に出現することもあるため、日ごろから定期的に健康診断を受けて、身体診察、心電図やレントゲン、採血検査等を受けることで、早期の診断、早期治療に繋げることが可能です。より早い段階で診断・治療を行う事で、危険な状態になるまで病気を放置する事がなくなり、予後の改善につながります。治療している病気をしっかりコントロールする
心不全を悪化させる原因として、生活習慣病は非常に重要であり、適切な治療を受けることで病気の進行や心臓に過度の負荷がかかる事を防止する事ができます。 高血圧や脂質異常、糖尿病などの生活習慣病は、治療が不十分であったり、治療を中断してしまうと動脈硬化を進行させ、心臓の負担を増やし、心不全を悪化させます。 内服をしっかり継続する事、医師による定期的な病状評価をうけること(診察や検査)、治療が不十分であれば治療強化を検討する事が非常に重要です。「拡張型心筋症の症状」についてよくある質問
ここまで拡張型心筋症の症状などを紹介しました。ここでは「拡張型心筋症の症状」についてよくある質問に、Medical DOC監修医がお答えします。
拡張型心筋症の平均寿命はどれくらいでしょうか?
小鷹 悠二 医師
5年間生存できる確率は76%程度とされており、死因の大部分が心不全や致死的な不整脈です。しかし近年では、薬物療法やCRT-Dなどの非薬物療法の進歩もあり、予後は改善していることが期待されます。
拡張型心筋症は完治するのでしょうか?
小鷹 悠二 医師
残念ながら完治することはなく、徐々に進行してしまいます。心移植が必要となるような高度の心機能低下まで進んでしまうこともありますが、最近では治療方法の進歩もあり、症状をコントロールしながら生活できる時間も長くなってきています。




