「乳がんの部分切除」はご存じですか?身体の変化も医師が解説!


監修医師:
武田 美貴(医師)
目次 -INDEX-
乳がんの部分切除術とは
乳房部分切除術は、乳房の一部分のみを取り除く手術方法です。乳房部分切除術には切除範囲や切開法の違いによっていくつかの術式があります。本章ではそれら乳房部分切除術について解説します。
乳房扇状部分切除術
かつて多く行われていたのが乳房扇状部分切除術です。がんのある部分を含め、乳房の約4分の1を扇形に切除する方法で、特にがんが乳頭方向に広がっていると考えられる場合に選択されます。場合によっては皮膚も含め広範囲を切除するため、術後に乳房の変形が大きく、整容性の面ではデメリットがありました。現在では画像診断の発達により必要以上に広範囲を切除しなくても病変を把握できるため、扇状切除よりも小さな範囲で済む術式が増えています。乳房円状部分切除術
近年主流となっているのが乳房円状部分切除術です。しこりが小さく、かつ乳房内での広がりも限られている場合に行われる手術法で、がん病変の周囲1~2cm程度の正常組織を含めて丸く切除します。扇状切除に比べて切除範囲を狭く抑えられるため、術後の乳房変形も少なく、傷跡も小さくできます。特に腫瘍が皮膚直下まで達していない場合は、皮膚表面の切開位置を工夫することで傷跡を目立ちにくくすることも可能です。腫瘤摘出術
腫瘤摘出術とは、乳房の中の腫瘍そのものと、その周囲のごく限られた組織だけを切除する方法です。一般的な乳房部分切除よりもさらに切除範囲が小さい術式といえます。ただし、切除断端にがんが残らないよう安全域を確保する点では円状部分切除と本質的に同じであり、通常は腫瘍周囲に1~2cmの正常組織を含めて切除する点は共通しています。乳がんの部分切除が選択されるケース
乳房部分切除術が選択されるにはいくつかの条件があります。一般的に、以下のようなケースで部分切除が適応となります。
- 腫瘍の大きさが小さい場合
- 腫瘍が単発である場合
- 患者さんが術後の放射線治療を受けられること
- 患者さん自身の希望
乳がんの部分切除と組み合わせる治療法
乳房部分切除術単独では、乳房内にわずかに残ったかもしれないがん細胞から局所再発する可能性があります。そのため現在では、部分切除術後に追加治療を行うのが標準的です。代表的なのが薬物療法(抗がん剤やホルモン剤など)と放射線療法の組み合わせです。これらを適切に併用することで、全摘手術と同等の再発防止効果と生存率が期待できます。
薬物療法
乳房部分切除術と薬物療法の組み合わせには大きく二通りあります。1つは術前薬物療法(ネオアジュバント療法)、もう1つは術後薬物療法(アジュバント療法)です。術前薬物療法
手術前に抗がん剤やホルモン療法剤を投与し、腫瘍を小さくすることを目的とします。術後薬物療法
手術で切除しきれなかった可能性のある微小ながんや、全身に散らばっているかもしれない見えない転移を抑える目的で行います。ホルモン受容体陽性乳がんであればホルモン療法、HER2陽性であれば分子標的薬を追加することがあります。放射線療法
乳房部分切除術を行った後は放射線療法が原則として必要になります。これは手術で乳房の一部を残す以上、残存乳房内に微小ながん細胞が潜んでいる可能性がゼロではないためです。このように放射線療法を加えることにより、温存乳房内再発が約3分の1に減ることが明らかになっています。さらに、温存した乳房内の再発を防ぐことにより、生存率も向上させることが示されています。乳がんの部分切除術と乳房切除術の生存率
乳房を残す部分切除術と乳房をすべて取る乳房切除術では生存率に差があるのでしょうか。結論からいえば、早期乳がんにおいて部分切除および放射線療法を行った場合と、全摘術を行った場合で、長期生存率に有意差はないことが明らかになっています。そのため、生存率の観点からは、適応があればどちらの選択肢も選択することができます。
乳がんの部分切除後の身体の変化
乳房部分切除術は乳房を温存できる反面、術後に残る乳房の状態や全身への影響について不安に思われる方もいます。ここでは術後の乳房の様子と身体全体の変化について解説します。
乳房の様子
部分切除術では全摘に比べ傷口が小さくて済みます。切開の場所にもよりますが、円状部分切除の場合は乳輪の周囲など目立ちにくい位置に傷を配置できることがあります。扇状部分切除術では乳房を扇形に切開するため、乳房表面に放射状の傷跡が残ることがありますが、円状切除では傷跡も小さく目立ちにくいとされています。とはいえ、手術である以上多少の乳房の左右差やへこみは避けられません。特に腫瘍が大きかった場合は、温存しても乳房の減少による凹みや形のいびつさが出ることがあります。身体の変化
乳房部分切除術自体は乳房の一部摘出に留まるため、身体機能への影響は全摘よりも小さいです。例えば、術後の痛みは全摘に比べ軽く、手術創も小さいため回復も早くなります。腕の可動域についても、乳房温存手術単独であれば大きな制限は生じにくいです。ただし、多くの場合は乳房手術と同時にセンチネルリンパ節生検が行われます。それ自体は大きな負担ではありませんが、一時的に腋窩部のつっぱり感や腕の軽いしびれが起こることがあります。乳がんの部分切除についてよくある質問
本章では、乳がん部分切除術を受ける患者さんやご家族から寄せられるよくある質問に、Medical DOC監修医がお答えします。
乳がんの部分切除をした場合、がんが再発する可能性は高くなりますか?
乳房部分切除術単独では、乳房内にわずかに残ったかもしれないがん細胞から局所再発する可能性があります。そのため、部分切除術後に追加治療を行います。しかし、万一乳房内に再発しても、その時点で乳房切除や追加治療を行えば対応可能です。
乳房の傷跡が目立ちにくい部分切除術を教えてください。
一般的には乳房円状部分切除術の方が傷跡は目立ちにくくなります。円状切除では腫瘍を中心に丸くくり抜く形で切開するため、場合によっては乳輪の縁など目立ちにくい場所に切開線を置ける利点があります。一方、かつて多く行われた扇状部分切除術では乳房の表面に扇形の切開が入るため、乳房に放射状の傷跡が残りやすく、乳房の変形も大きくなることがあります。現在は術前画像でがんの広がりを精密に把握し、必要以上に広範囲を取らない工夫がなされています。その結果、円状部分切除術が適用できる症例が増え、傷跡も小さくできるようになっています。
早期に発見しても部分切除ができないケースもありますか?
はい、早期乳がんであっても部分切除が適さない場合はあります。例えば非浸潤がんの場合、一見すれば早期なので温存できそうですが、乳管内にがん細胞が広範囲に広がっているケースでは乳房全体を切除しないと取り残しリスクが高くなります。このため、広範な乳管内がんでは、ステージ0でも全摘がすすめられることがあります。また、腫瘍が同一乳房に多発している場合、早期でも温存は困難です。また、妊娠初期に発見された場合など、術後に放射線治療が受けられない状況では温存は安全上できません。このように、「早期は必ず温存できる」わけではなく、がんの分布や患者さんの状況次第では早期でも全摘術が最善となることもあります。
まとめ
乳がんの部分切除術は、適応となる早期乳がんに対して乳房を残しながら治癒を目指せる手術法です。扇状部分切除術や円状部分切除術といった術式があり、近年は円状切除が主流となりつつあります。ただし、部分切除が選択されるかどうかは、腫瘍の大きさや個数、広がり、患者さんの状況、本人の希望などを総合して判断されます。主治医とよく相談し、自分にとって納得のいく治療法を選択してください。
関連する病気
乳がんと似た症状を示す、または同時に発生する可能性のある病気には以下のようなものがあります。- 乳腺線維腺腫
- 乳腺症
- 乳腺炎
- 乳腺嚢胞
- 脂肪腫
関連する症状
乳がんに関連する症状は以下のような症状が挙げられます。これらの変化を正しく把握することが鑑別に役立ちます。- 乳房のしこり
- 乳頭からの異常な分泌物
- 乳房の形状や大きさの変化
- 乳房の痛みや違和感
- 腋窩や鎖骨上のリンパ節の腫脹
参考文献




