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「肝臓がんにおける年齢別の発症率」はご存じですか?原因についても医師が解説!

 公開日:2025/09/25
「肝臓がんにおける年齢別の発症率」はご存じですか?原因についても医師が解説!
肝臓がんは、肝臓にできる悪性腫瘍の総称で、2020年には日本では約3.5万人の方が新たに診断されています。肝臓は「沈黙の臓器」と呼ばれており、がんができても初期には症状がほとんど現れません。そのため、肝臓がんは多くの場合、進行してから見つかりやすく、治療が難しいがんの一つです。しかし近年では原因の解明や新しい治療法の進歩により、早期発見や治療成績の向上が期待されています。本記事では、肝臓がんの基礎知識から主な治療法までを解説します。
和田 蔵人

監修医師
和田 蔵人(わだ内科・胃と腸クリニック)

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佐賀大学医学部卒業。南海医療センター消化器内科部長、大分市医師会立アルメイダ病院内視鏡センター長兼消化器内科部長などを歴任後の2023年、大分県大分市に「わだ内科・胃と腸クリニック」開業。地域医療に従事しながら、医療関連の記事の執筆や監修などを行なっている。医学博士。日本消化器病学会専門医、日本消化器内視鏡学会専門医、日本肝臓学会肝臓専門医、日本医師会認定産業医の資格を有する。

肝臓がんとは

肝臓がんとは 肝臓がんとは、肝臓の細胞ががん化したものを指し、肝がんとも呼ばれます。肝臓自体から発生する原発性肝がんと、ほかの臓器から転移してきた転移性肝がんがあります。本記事で扱う肝臓がんは原発性のものです。原発性肝がんの約90%は肝細胞がんで、残りの一部は肝内胆管がんなどです。以下では主に肝細胞がんを中心に説明しつつ、肝内胆管がんとの違いも解説します。

肝臓がんの概要と原因

日本の肝臓がん患者さんの約8割は、B型・C型肝炎ウイルスの持続感染肝硬変などの慢性的な肝臓病を背景に持っています。ウイルス性肝炎に長年かかっていると肝臓に炎症と線維化(肝硬変)が起こり、そこから肝細胞がんが発生しやすくなります。また、過度の飲酒も肝臓がんの原因となります。近年はウイルスではない原因、つまり非ウイルス性の肝臓がんも増えてきました。その代表がMASH(代謝機能障害関連脂肪肝炎):旧名NASH(非アルコール性脂肪肝炎)で、糖尿病や肥満など生活習慣病に伴う脂肪肝が進行して肝臓がんに至るタイプです。

肝細胞がんと肝内胆管がんの違い

肝細胞がんは、肝臓の主要な細胞である肝細胞ががん化したもので、原発性肝がんの大部分を占めます。一方、肝内胆管がんは肝臓内部の胆管の細胞に発生するがんです。肝細胞がんは慢性肝炎や肝硬変など病変のある肝臓に生じることが多いのに対し、肝内胆管がんは正常な肝臓にも発生します。肝細胞がんの多くはウイルス感染が原因ですが、肝内胆管がんの明確な原因は不明な点も多く、肝内結石症や原発性硬化性胆管炎などが危険因子として知られます。

年齢別|肝臓がんの発症率

年齢別|肝臓がんの発症率 肝臓がんの発症率は加齢とともに高くなります。国立がん研究センターの統計データによれば、2020年のデータでは男性は45歳頃から、女性は55歳頃から肝臓がんの発症が増加し始めます。以降、高齢になるほどリスクが上昇し、男性では85~89歳の年齢層で発症数がピークに達しています。男女比では男性患者さんが女性の約2倍以上とされ、肝炎ウイルス感染や生活習慣の違いが影響していると考えられます。一方、20~30代の若年層で肝臓がんを発症することはまれです。

年齢別|肝臓がんの発症傾向とリスク因子

年齢別|肝臓がんの発症傾向とリスク因子 肝臓がんは加齢とともに増える病気ですが、年齢によってそのリスクとなる因子が異なります。本章では、年齢別に分けてそのリスク因子を解説します。

20〜30代:まれだがB型肝炎との関連が多い

20~30代の若年者における肝臓がんはまれです。ただし、若年で発症する肝細胞がんの多くは肝炎ウイルスのキャリア由来であることが知られています。乳幼児期にB型肝炎ウイルスに持続感染した場合、長い年月を経て20~30代で肝臓がんに至るケースがまれにあります。ウイルスに感染しておらず肝硬変のない健康な肝臓からがんが発生するケースも若年ではほとんどありません。

40〜50代:ウイルス性肝炎からの発症が多い

40~50代になると肝臓がんの発症が増えてきます。この世代では、慢性B型肝炎やC型肝炎に長年罹患してきたことが肝臓がんの主な原因となる場合が多くなります。C型肝炎ウイルスは特に日本の中高年世代に感染者が多く、この世代の肝臓がんの大きな要因となってきました。このような経緯から、40~50代はウイルス性肝炎からの発症が増えます。

60代以上:MASH・生活習慣病起因のがんが増加

60代以降の高齢者になると、ウイルス性肝炎が原因の肝臓がんに加えて、非ウイルス性の肝臓がんが増えてきます。糖尿病や肥満、高脂血症といった生活習慣病を背景とするMASH(代謝機能障害関連脂肪肝炎)や、長年の飲酒によるアルコール性肝障害から肝硬変を経て発生する肝臓がんの割合が増えてきます。

肝臓がんの主な治療法

肝臓がんの主な治療法 肝臓がんの治療法は、がんの進行度や肝臓の残っている機能などによって選択されます。一般的に肝細胞がんに対しては外科的切除、局所療法、薬物療法の大きく三つが柱となります。さらに必要に応じて放射線治療や肝移植が検討される場合もあります。それぞれの特徴を以下に説明します。

外科手術

がんのある肝臓の部位を外科的に切除する方法です。腫瘍が少数で局所的に留まっており、かつ肝機能が十分保たれている場合は、手術による切除が完治を期待できる治療になります。しかし、実際には肝切除後3年以内に約7割の患者さんで残った肝臓に新たながんが発生したと言われています。そのため、術後も定期検査を行い、早期に見つけて再治療する体制が重要です。

局所療法

局所療法とは、身体の外から針やカテーテルを使って肝臓内のがん病変だけを狙い撃ちして治療する方法です。代表的なものにラジオ波焼灼療法(RFA)肝動脈塞栓療法(TACE)があります。

ラジオ波焼灼療法(RFA)

腹部の表面から超音波(や場合によってはCT)で確認をしながら腫瘍めがけて細い針を刺し、高周波の熱エネルギーで腫瘍を焼いて壊死させる治療です。

肝動脈化学塞栓療法(TACE)

太ももの血管からカテーテルを肝動脈まで進め、肝臓がんを栄養する動脈に選択的に抗がん薬と塞栓物質を注入して血流を遮断し、腫瘍を兵糧攻めにする治療です。

薬物療法

薬物療法は、全身に作用する抗がん剤や分子標的薬、免疫療法によってがん細胞を攻撃する治療です。従来、肝臓がんは化学療法(抗がん剤)の効果が限定的でしたが、近年は分子標的治療薬の登場で治療選択肢が飛躍的に増えました。薬物療法は手術や局所療法が適さない進行・転移例において、腫瘍の縮小や進行抑制を図る目的で行われます。

年齢に応じた生活と治療の両立

年齢に応じた生活と治療の両立 肝臓がんの治療はどの年齢でも一律の治療を選択するわけではありません。その年齢や生活に応じた治療が重要です。本章では、年齢に応じた生活と治療の両立について大事な点を解説します。

治療中のQOL支援と働き方の工夫

がん治療中であっても、できる限り普段の生活の質(QOL)を維持し、自分らしい生活を送ることが大切です。特に、働き盛り世代の患者さんにとっては、治療と仕事の両立が大きな課題となります。主治医と相談して休職や在宅勤務、時短勤務など柔軟な働き方の調整を行う例も増えています。医療機関のソーシャルワーカーや看護師に相談すれば、公的支援制度の情報提供や職場との調整のためのアドバイスを受けられます。

高齢者向けの緩和ケア・栄養指導

高齢の肝臓がん患者さんでは、体力や臓器予備能が低下していることが多く、積極的治療のメリットとデメリットを慎重に考える必要があります。ときには無理な治療をせず、痛みや症状を和らげ生活の質を上げる緩和ケアを中心にする選択も取られます。残された時間を穏やかに過ごし、ご本人の希望を尊重したケアを行うことが大切です。

若年者への心理的・社会的サポート

若年の患者さんが肝臓がんになるケースは少ないですが、その分心理的・社会的なサポートが重要です。20~30代は就職、結婚、出産育児などライフイベントの多い時期で、がん治療により学業の中断や仕事の継続困難、将来の妊娠への不安などさまざまな悩みに直面します。そのため、医学的な治療だけでなく、若年世代特有の問題に配慮した幅広い支援が必要となります。

肝臓がんについてよくある質問

ここまで肝臓がんについて紹介しました。ここでは「肝臓がん」についてよくある質問に、Medical DOC監修医がお答えします。

肝臓がんにはどのような症状がありますか?

初期の肝臓がんは自覚症状がほとんどありません。進行すると、右上腹部の痛みしこり倦怠感食欲不振体重減少などの症状が現れます。また、肝機能が低下すると黄疸腹水を生じることもあります。

肝臓がんは治りますか?

早期に発見できれば治癒も期待できます。術後に定期検査を続けて、肝臓がんの再発がなければ治ったといえます。ただし、肝臓がんは再発しやすい特徴があり、たとえ手術で取り切っても、肝炎ウイルスや肝硬変などの影響で新たながんが肝臓内に生じることがあります。

まとめ

まとめ 肝臓がんは予防と早期発見も重要です。肝炎ウイルスの有無を知り、必要なら治療すること、定期的に肝臓の検査を受けること、そして生活習慣を整えることが肝臓がん予防につながります。多くの市区町村や保健所、医療機関などで肝炎の無料検査を実施していますので、お住まいの市区町村や保健所などに問い合わせてみてください。また国や医療機関も啓発に取り組んでいますので、自らの肝臓の健康に関心を持ち続けてください。肝臓がんについて正しい知識を持つことが、病気に対する不安を和らげ、適切な行動をとる第一歩になります。

関連する病気

  • 肝硬変
  • 慢性肝炎
  • MASH(代謝機能障害関連脂肪肝炎)
  • 胆道系がん(胆管がん、胆嚢がん)

関連する症状

  • 黄疸
  • 右上腹部の痛み・不快感
  • 体重減少
  • 食欲不振
  • 倦怠感・疲労感
  • 腹水
  • 悪心・嘔吐

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