進行が速い脳腫瘍「悪性神経膠腫」の生存率は?治療法についても医師が解説!
公開日:2025/09/23


監修医師:
武田 美貴(医師)
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平成6年札幌医科大学を卒業し、札幌医科大学放射線科に入局。画像診断専門医となり、読影業務に従事。その後、新たな進路を模索するため、老年医療や訪問医療、リハビリテーションなどを学ぶ。現在は、一周回って画像診断で母校に恩返しをする傍ら、医療事故の裁判では、患者に寄り添う代理人を、画像診断と医学知識の両面でサポートすることをライフワークとしている。
目次 -INDEX-
悪性神経膠腫とは
本章では、悪性神経膠腫がどのような病気なのか、その概要と検査、診断までの流れについて解説します。
悪性神経膠腫の概要
神経膠腫とは、脳を支えるグリア細胞から発生する脳腫瘍の総称です。脳腫瘍全体の約25%を占め、星細胞腫・乏突起膠腫・上衣腫などいくつかの種類に分類されます。 脳腫瘍にはほかのがんのようなステージ分類は無く、悪性度で分類されます。グレード1は良性腫瘍で手術で全摘出すれば再発はまれですが、グレード2~4が悪性脳腫瘍と位置付けられます。特にグレード3(退形成星細胞腫、退形成乏突起膠腫)とグレード4(膠芽腫)を総称して、悪性神経膠腫と呼びます。 悪性神経膠腫のなかでも膠芽腫は特に悪性度が高く、進行が速い腫瘍です。膠芽腫はあらゆるがんのなかでも予後が極めて不良な部類であり、放置すれば生命に重大な影響を及ぼします。一方、グレード3の退形成星細胞腫や退形成乏突起膠腫は膠芽腫ほどではないものの悪性度が高く、治療しないといずれ膠芽腫に悪性転化していくこともあります。悪性神経膠腫の検査と診断
悪性神経膠腫が疑われる症状や神経学的所見がある場合、まず画像検査による評価が行われます。 CTは迅速に実施できるため、急性の脳卒中との鑑別目的で行われることが多く、腫瘍が見つかれば全身の他臓器のがんの脳転移でないかを確認することもあります。 MRIは脳腫瘍の診断に有用で、造影剤を使うことで腫瘍の広がりや悪性度をある程度推測できます。特に、悪性度の高いグレード3と4の神経膠腫では、MRI造影画像で腫瘍の輪郭がはっきり映る傾向があります。ただし、グレード4の神経膠腫では、造影剤で腫瘍の輪郭がはっきり映らないこともあります。T2強調画像で腫瘍の辺縁に見られる淡い信号上昇領域までを、腫瘍が脳実質に浸潤している範囲とすることが多いです。 最終的な確定診断のためには病理検査(生検)が不可欠です。通常は手術で腫瘍の一部または全部を採取し、病理医が顕微鏡で細胞の種類や異常を調べて診断します。この際、腫瘍細胞の増殖度合いや壊死の有無などからグレードが判定されます。また、近年では遺伝子検査も重要になってきました。例えば、IDH1/IDH2遺伝子変異や1p/19q共欠失の有無は神経膠腫のサブタイプ分類や予後予測に密接に関連しており、治療法の選択にも影響します。このように、画像検査と病理診断、遺伝子検査の結果を総合して適切な治療方針が立てられます。悪性神経膠腫の生存率
悪性神経膠腫の生存率はグレードによって生存率が大きく異なります。本章では、グレード別の生存率と発症からの生存率について解説します。
悪性神経膠腫のグレード別生存率
悪性神経膠腫の生存率は腫瘍のグレードによって大きく異なります。一般に、グレードが低いほど生存率は高く、グレードが上がるほど予後は厳しくなります。グレード2(低悪性度神経膠腫)
ゆっくり進行するタイプで、生存率は良好です。5年生存率は乏突起膠腫で91.9%、星細胞腫で76.9%と報告されています。なかには10年以上再発なく過ごせる症例もあります。ただし、時間の経過とともに悪性度が増しグレード3や4に悪性化してくることもあるため、経過観察中も慎重なフォローが必要です。グレード4(膠芽腫)
悪性度が高く、予後不良な腫瘍です。治療を行った場合でも5年生存率は16%と低く、グレード1の良性脳腫瘍や他臓器の多くのがんと比べても厳しい数字です。このように、グレードが上がるにつれて生存率が大きく低下することがわかります。悪性神経膠腫の発症からの生存率
診断から平均どのくらい生きられるのか、この目安として生存期間中央値(MST: Median Survival Time)という指標があります。これは患者さんの生存期間の中央値で、半数の方がその期間を超えて生存し、半数の方がそれ未満で亡くなるという時間です。膠芽腫の場合
膠芽腫の発症からの生存期間中央値は約1年であり、2年生存率30%以下、5年生存率8%以下とされます。つまり、診断から1年後には約半数の患者さんが、2年後には7割の患者さんが亡くなられている計算になります。また、5年後まで生存できる方は5~10%程度とごく少数です。グレード2の神経膠腫の場合
生存期間中央値が5~10年以上に及ぶこともあり、なかには発症から20年以上生存する方もいます。5年生存率も70程度と高く、悪性度が低い分だけ長期にわたり病状が安定する例が少なくありません。しかし、最終的には腫瘍が大きくなったり悪性化したりするため、生涯にわたる経過観察と必要に応じた治療介入が求められます。悪性神経膠腫の治療と生存率
悪性神経膠腫に対しては、現在、集学的治療が標準となっています。治療の第一目標は腫瘍を可能な限り縮小させて症状を緩和し、生存期間を延ばすことです。また、治療技術の進歩に伴い生存率も少しずつ改善してきています。慶應義塾大学病院の報告では1990~2011年に膠芽腫で5年以上生存できた患者さんは10%ほどでしたが、その後の新規治療導入により近年ではそれ以上の成績が得られているとされています。依然として悪性神経膠腫の予後は厳しいものの、徐々にですが治療法の進歩によって生存率は向上してきているのが現状です。
悪性神経膠腫の長期生存が期待できる新しい治療法
悪性神経膠腫の治療分野では、近年いくつかの新しいアプローチが登場し、長期生存の希望が広がりつつあります。ここでは注目の新規治療法をいくつか紹介します。
- 交流電場療法(TTFields)
- がん治療用ウイルス療法
- 免疫療法・ワクチン療法
悪性神経膠腫についてよくある質問
悪性神経膠腫を紹介しました。ここでは「悪性神経膠腫」についてよくある質問に、メディカルドック監修医がお答えします。
悪性神経膠腫の生存率は医療機関によって異なりますか?
生存率の数値自体は全国規模の統計データに基づくものが多く、基本的にはどの医療機関で治療しても病気の性質上大きな差異はありません。ただし、各医療機関の患者構成や治療方針の違いによって若干の差が生じる可能性はあります。国の統計では手術・放射線・化学療法などあらゆる治療を受けた患者さんの生存率を集計していますが、病院ごとに公表される成績では手術を受けた患者さんのみを対象にした生存率など条件が異なる場合があります。このため、個別の医療機関同士で生存率を単純比較するのは難しいことに注意が必要です。
悪性神経膠腫の臨床試験にはどのようなものがありますか?
悪性神経膠腫を対象とした臨床試験(治験)は国内外で数多く実施されています。主な分野としては以下のようなものがあります。
これら以外にも、手術手技の改良に関する研究や、既存治療の組み合わせ最適化を図る試験などが行われています。国立がん研究センターのWebサイトには臨床試験情報検索のページがあり、疾患名で該当する試験を探すこともできます。
- 新規薬剤の試験
- 免疫療法の試験
- 放射線治療の試験
これら以外にも、手術手技の改良に関する研究や、既存治療の組み合わせ最適化を図る試験などが行われています。国立がん研究センターのWebサイトには臨床試験情報検索のページがあり、疾患名で該当する試験を探すこともできます。
悪性神経膠腫の生存率は患者さんの年齢に関係はありますか?
年齢は悪性神経膠腫の予後に大きく影響する因子の一つです。一般に若い患者さんほど予後がよい傾向が知られています。逆に高齢の患者さんでは腫瘍自体の進行が早かったり、体力的に強力な治療に耐えられなかったりするため、生存期間が短くなる傾向があります。
まとめ
悪性神経膠腫は脳に発生する悪性度の高い腫瘍で、膠芽腫を代表に予後が厳しい病気です。標準治療として手術・放射線・抗がん剤を組み合わせることで生存期間の延長が図られ、多くの患者さんで1年~数年の命をつなぐことが可能になりました。しかし、依然として完治は難しく、多くの症例で再発が避けられないのが現状です。一方で、臨床試験など最新の研究や治療法の開発が活発な分野でもあります。変化が目まぐるしい分野ですが、本記事が皆さんの理解の一助になれば幸いです。
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- 脳転移
- 低悪性度神経膠腫
- 髄膜腫
- 脳膿瘍
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- 持続する頭痛
- 嘔吐と吐き気
- 痙攣
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- 視力障害
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