「高額療養費制度」を利用したときの「放射線治療の自己負担費用額」はいくら?医師が解説!
公開日:2025/09/20


監修医師:
木村 香菜(医師)
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名古屋大学医学部卒業。初期臨床研修修了後、大学病院や、がんセンターなどで放射線科一般・治療分野で勤務。その後、行政機関で、感染症対策等主査としても勤務。その際には、新型コロナウイルス感染症にも対応。現在は、主に健診クリニックで、人間ドックや健康診断の診察や説明、生活習慣指導を担当している。また放射線治療医として、がん治療にも携わっている。放射線治療専門医、日本医師会認定産業医。
目次 -INDEX-
がんの種類別|保険適用される放射線治療にかかる治療費用
いずれのがんでも、一連(1クール)の治療に対し、放射線治療管理・実施料や放射線治療専任加算などの費用がかかります。また、外来通院での照射1回ごとに外来放射線治療加算や体外照射治療料などもかかります。
最近では、従来よりも1回の線量を多くし、全体の照射回数を少なくする方法である寡分割照射がとられることもあります。この場合、1回線量増加加算が照射1回ごとに加わります。
乳がんの放射線治療にかかる費用の目安
乳がんに対する放射線治療は、乳房温存術後の乳房全体への照射、進行乳がんに対する乳房全摘後に胸壁と首のあたりまでに照射する胸壁鎖上照射などがあります。 回数は1日1回、週5回で、約4〜6週間かけて照射が行われます。温存乳房への寡分割照射の場合には1回約2.6Gyで16回、胸壁鎖上照射の場合には1回2Gyで25回照射などがあります。治療費は総計で約30万円となります。 また、乳がんが転移した部位に対する緩和的な照射もあります。1回3Gyで10回照射するスケジュールが行われてきましたが、最近では1回や5回など短期間で照射をすることも増えています。1回3Gyで10回照射の場合には、10万円程度になるでしょう。前立腺がんの放射線治療にかかる費用の目安
前立腺がんの放射線治療は、前立腺がんのリスクの高さに応じて変わってきます。 一般的には、前立腺がんの根治的な治療として、ホルモン療法の後に身体の外から照射をする外部放射線治療が行われます。IMRT(強度変調放射線治療)によって前立腺(±精嚢)に集中的にX線を当て、周りの正常臓器に対する副作用を減少させるという方法がよく用いられています。 IMRTの場合、1回2Gyで、約8〜9週間かけて照射されます。合計で37〜39回、合計74〜78Gyとなります。最近では、1回線量を2.4〜4Gy程度とし、70Gy/28回/約6週、60Gy/20Gy/4週とする場合もあります。通常の1回2Gy、39回照射の場合には、合計約130万円となります。 また、前立腺がんに対しては、放射線を放出する密封小線源を前立腺に永久挿入する組織内照射が行われることもあります。この場合、総額約50万円となります。肺がんの放射線治療にかかる費用の目安
肺がんは、その細胞のタイプによって非小細胞肺がんと小細胞肺がんに大きく分けられます。 手術の適応とならない非小細胞肺がんに対しては、薬物療法と放射線治療を組み合わせる化学放射線治療が行われます。1回1回2Gyで30回、合計60Gy照射されるのが一般的です。入院か外来かでも異なりますが、概算としては約30万円となります。 小細胞肺がんのなかでも限局型(肺がんやリンパ節転移が放射線治療が可能な範囲に留まっている)場合、化学放射線治療の対象となります。1回1.5Gyを1日2回、30回/15日、3週間照射する加速過分割照射がすすめられています。この場合、約20万円となります。肝臓がんの放射線治療にかかる費用の目安
肝がんの多くは肝細胞がんです。 肝細胞がんに対する放射線治療は、手術などが難しい場合に行われることがあります。がんが大きい(肝細胞がんの場合、長径4cm以上)ケースでは、陽子線治療や重粒子線治療が保険適用となる場合があり、約200万円の費用がかかります。転移性脳腫瘍の放射線治療にかかる費用の目安
転移性脳腫瘍に対する放射線治療は、脳全体に1日1回、3Gyで10回、2週間程度が標準的ですが、1回2.5Gyにすることもあります。 脳転移を疑われる病変が3cm以下かつ4個程度以下の場合、SRS(定位手術的照射)が、選択されることもあります。ガンマナイフによる定位放射線治療は、1回で約50万円、直線加速器による定位放射線治療は約60万円となります。放射線治療の費用負担を軽減できる高額療養費制度とは
放射線治療は、医療保険の適用となっても高額になってしまうケースも多いですが、高額療養費制度が活用できる場合もあります。
高額療養費制度の概要
高額療養費制度は、医療費による家計負担を軽くするため、医療機関に支払う医療費の1ヶ月あたりの上限を超過した際に、超えた分の費用を支給する制度です。上限額は、患者さんの年齢や家計の所得によってそれぞれ定められています。高額療養費制度の利用方法
医療費が高額になった際は、加入している公的医療保険(健康保険組合、協会けんぽ、市町村国保、後期高齢者医療制度、共済組合など)に高額療養費の申請書を提出または郵送することで、支給が受けられます。領収書が必要な場合もあります。申請後はレセプト確定後に審査が行われ、支給までにおよそ3ヶ月程度かかります。 平成24年4月からは、70歳未満や70歳以上の非課税世帯などの方は、限度額適用認定証を事前に取得しておくと、窓口での支払いを自己負担限度額までに抑えられるようになりました。 また、70歳以上で非課税世帯ではない方は、高齢受給者証や後期高齢者医療被保険者証」の提示により、事前手続きなしで限度額を超える費用の支払いが不要になりました。高額療養費制度を利用した場合の自己負担額
高額療養費制度を利用した場合、70歳以上の方は以下のような上限額となります。
69歳以下の方は以下のようになります。
例えば、70歳以上、年収約370〜770万円の場合で、医療保険で3割負担になる方を想定しましょう。この方に100万円の医療費がかかり、窓口負担が3割負担で30万円かかります。
この場合、自己負担の上限額は、以下の式になります。
80,100円+(100万円-267,000円)×1%=87,430円
そのため、高額療養費としては、
30万円-87,430円=212,570円
となります。
放射線治療の費用が高額療養費の対象になるケースとならないケース
放射線治療の費用が高額療養費制度の対象にならないケースもありますので、注意しましょう。
高額療養費制度の対象になる放射線治療
保険適用となる放射線治療の場合には、基本的には高額療養費制度の対象になります。高額療養費制度の対象にならない放射線治療
保険適用でなく、先進医療として行われる放射線治療は高額療養費制度の対象となりません。 例えば、2024年6月時点では、先進医療Aとして実施される陽子線治療や重粒子線治療が該当します。脳脊髄腫瘍や頭頸部腫瘍、肺縦隔腫瘍、消化管腫瘍、泌尿器腫瘍、転移性腫瘍などさまざまなものがあります。 高額療養費制度の対象とならないような放射線治療については、今後も変更があるかもしれません。随時、チェックしていくようにしましょう。放射線治療における高額療養費制度を利用する際の注意点
放射線治療を受け、高額療養費制度を利用する際には、以下の点に注意しましょう。
自己負担の上限額は1ヶ月単位で決定する
自己負担の上限額は、1ヶ月単位で決定します。月をまたぐと合算ができないので、治療スケジュールによって負担額が変わる可能性があります。高額療養費の申請には期限がある
高額療養費の支給を受ける権利は、診療を受けた月の翌月の初日から2年間で消滅します。しかし、この期限内の高額療養費であれば過去に遡って支給を申請することができます。放射線治療の費用についてよくある質問
ここまで放射線治療の費用について紹介しました。ここでは「放射線治療の費用」についてよくある質問に、Medical DOC監修医がお答えします。
放射線治療の費用について高額療養費制度以外にも利用できる制度はありますか?
医療費の負担を軽くするほかの制度としては、高額医療・高額介護合算療養費制度や医療費控除制度などがあります。
放射線治療の費用を窓口で支払う余裕がないのですがどうすればよいですか?
放射線治療前に概算の説明があるのが一般的です。費用を支払うことが難しい場合には、事前に医療機関に相談しておくことも大切です。また、加入する健康保険組合などに認定証(限度額適用認定証)の交付を申請すると、限度額を超える分を窓口で支払う必要はなくなります。
世帯内の親族や家族の医療費を合計して高額医療費制度を利用することはできますか?
可能です。
高額療養費制度によって払い戻された治療費は確定申告で収入として申告する必要がありますか?
高額療養費は支払った医療費を還付するものになるため、所得には当てはまりません。そのため、確定申告する必要はありません。 ただし、医療費控除の明細書に、高額療養費として補填された金額を記載する必要がある場合があります。詳細は、国税庁などのホームページを確認しましょう。
まとめ
今回の記事では、放射線治療の費用の目安や高額療養費について解説しました。制度については今後変更の可能性もあるので、厚生労働省や国税庁のホームページなどで情報を確認しましょう。
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