「肺がんの余命」と生存率についてご存じですか?ステージ別に解説!【医師監修】

肺がんは日本で罹患数が上位に位置し、死亡数では男女合計で年間7万人以上が亡くなるがんです。主な危険因子は喫煙で、喫煙者は非喫煙者に比べ肺がんリスクが大幅に高くなります。近年は非喫煙者の肺がんも増加しています。肺がんの予後は進行度によって大きく異なり、早期発見、治療できれば生存率が高く、進行した場合は厳しいものになります。本記事ではそんな肺がんの種類やステージ別の平均余命・生存率、および治療法について解説します。

監修医師:
稲葉 龍之介(医師)
目次 -INDEX-
肺がんの種類
肺がんは病理組織の特徴によりいくつかの種類に分類されます。大きく非小細胞肺がんと小細胞肺がんの2つに大別され、これは治療法の違いに基づいて分類されます。非小細胞肺がんには腺がん、扁平上皮がん、大細胞がんなどが含まれます。それぞれの特徴は次のとおりです。
非小細胞肺がん
非小細胞肺がんには腺がん、扁平上皮がん、大細胞がんなどが含まれます。
腺がん
肺がんのなかで最も頻度が高いのが腺がんです。肺の末梢に発生しやすく、非喫煙者の肺がんに多いタイプです。
扁平上皮がん
扁平上皮がんは主に肺門部に発生する肺がんで、喫煙との関連が強い組織型です。咳や血痰などの症状が現れやすい傾向があります。
大細胞がん
大細胞がんはまれなタイプですが、増殖のスピードが速いことが特徴です。ほかの非小細胞肺がんのいずれにも分類されない肺がんを指します。
小細胞肺がん
小細胞肺がんは増殖が速く、早い段階で転移しやすい肺がんです。喫煙との関連が特に大きく、多くは喫煙歴のある患者さんに発生します。進行が早いため、発見時にはすでに進行している例が多い傾向があります。
ステージ別の非小細胞肺がんの余命と生存率
非小細胞肺がんの病期(ステージ)はI期(ステージ1)からIV期(ステージ4)まで分類され、数字が大きいほど進行したがんを示します。ステージが早いほど治療後の長期生存が期待でき、進行したステージでは生存率が低下します。以下にステージごとの平均余命や生存率の目安を解説します。
ステージ1の非小細胞肺がん
ステージ1(I期)は肺がんのなかで最も早期の段階で、腫瘍が小さくリンパ節転移がない状態です。多くの場合、手術によってがんを取り切ることが可能で治癒が期待できます。予後は良好で、5年相対生存率は82.2%と報告されています。
ステージ2の非小細胞肺がん
ステージ2(II期)は腫瘍がやや大きくなったか、近くのリンパ節への転移がある段階です。治療としては手術に加えて術後に抗がん剤(補助化学療法)を行うことが推奨されます。5年生存率は52.6%で、約半数の患者さんが5年以上生存します。
ステージ3の非小細胞肺がん
ステージ3(III期)は肺内の腫瘍がさらに大きくなり、縦隔のリンパ節への転移が見られる段階です。局所進行例ともいいます。手術単独では治癒が難しいため、放射線治療や抗がん剤治療を組み合わせた集学的治療が行われます。5年生存率は30.4%です。
ステージ4の非小細胞肺がん
ステージ4(IV期)は肺がんがほかの臓器へ遠隔転移した末期の段階です。根治は難しく、延命と症状緩和を目的とした治療が中心となります。5年生存率は9.0%と低くなります。近年は免疫チェックポイント阻害薬や分子標的薬の導入により、一部の患者さんでは生存期間の延長が期待されます。
小細胞肺がんの余命と生存率
小細胞肺がんは非小細胞肺がんに比べて予後が不良です。病期がI期からIV期に進むにつれて生存率は低下し、I期でも5年生存率は43.2%、IV期では2.0%と報告されています。限局型の場合は、手術に加えて術後に抗がん剤(補助化学療法)を行うことや、化学療法と放射線治療の併用することで治癒を目指せることもありますが、多くは進行期で発見され、平均余命は数ヶ月~1年程度と厳しい状況です。
肺がんの治療方法
肺がんの治療には主に手術、放射線治療、薬物療法の3つがあります。これらに加え、緩和ケアも重要です。治療方針はがんの進行度や組織型、患者さんの全身状態などを総合的に考慮して決定されます。
肺がんの治療方針の決め方
非小細胞肺がんの場合、早期であれば手術による根治が第一選択となります。年齢や体力が問題となり手術ができない場合は根治目的の放射線治療が行われることもあります。局所進行例では手術に放射線治療や薬物療法を組み合わせた集学的治療や、薬物療法と放射線治療の組み合わせ(化学放射線療法)が行われます。進行例では薬物療法(殺細胞性抗がん剤、分子標的薬、免疫療法)が行われます。一方、小細胞肺がんでは進行が早いため薬物療法が治療の中心となり、手術適応となるのはごく初期の場合に限られます。
肺がんの治療方法
肺がんの治療方法は主に手術、放射線治療、薬物療法の3つのなかから選択します。それぞれについて以下で解説します。
手術
手術は肺がんが局所にとどまっている場合に行われ、がん病巣を外科的に切除して取り除く治療法です。非小細胞肺がんのステージI~II(および一部III期)が主な手術適応で、通常は患側の肺葉を切除しリンパ節郭清を行います。手術によりがんを完全に摘出できれば根治が期待できます。術後には再発リスクを下げるため、補助的に抗がん剤治療(術後補助化学療法)も行われます。
放射線治療
放射線治療は、高エネルギーの放射線を照射してがん細胞を破壊する治療法です。手術が難しい早期肺がんでは放射線単独で治癒を目指す場合もあります。また、手術適応外のIII期非小細胞肺がんでは抗がん剤との同時併用による化学放射線療法を行い、根治を目指します。小細胞肺がんの限局型に対しても化学療法との併用で放射線治療を行うことが一般的です。IV期の進行肺がんでは、脳や骨などへの転移による痛み、神経症状を和らげる目的で放射線を用いることもあります。
薬物療法
薬物療法は、殺細胞性抗がん剤や分子標的薬、免疫チェックポイント阻害薬などの薬を用いた全身的な治療です。非小細胞肺がんでは、手術後に再発を防ぐ目的で投与されたり、進行あるいは再発肺がんに対して病気の進行を抑える目的で投与されます。肺がんの薬物療法では個別化治療が進歩してきており、遺伝子変異に応じて分子標的薬を使用したり、免疫チェックポイント阻害薬(抗PD-1/PD-L1抗体)を導入したりすることでり治療成績も向上してきました。小細胞肺がんではシスプラチンなどのプラチナ系抗がん剤と、殺細胞性抗がん剤であるエトポシド併用療法が長らく標準となっていましたが、、近年は免疫チェックポイント阻害薬薬の併用が有効とされています。
肺がんは組織型と病期によって予後が大きく異なり、非小細胞肺がんの早期であれば治癒が期待できますが、進行した病期や小細胞肺がんでは平均余命が短くなります。ただ、治療法の進歩により肺がんの予後は少しずつ改善してきており、分子標的薬や免疫チェックポイント阻害薬の登場により一部の患者さんでは長期生存も可能になってきました。
肺がんの死亡率は依然高いものの、禁煙の推進や早期発見の検診によって発症や重症化を減らせます。肺がんと診断されても治療の選択肢は増えているため、医師と相談して適切な治療方針を選ぶことが大切です。本記事がその一助になれば幸いです。
関連する病気
肺がんと似た症状を示す、または同時に発生する可能性のある病気には以下のようなものがあります。
- 慢性閉塞性肺疾患(COPD)
- 肺炎
- 結核
- 間質性肺疾患
- サルコイドーシス
関連する症状
肺がんに関連する症状は以下のような症状が挙げられます。これらの変化を正しく把握することが鑑別に役立ちます。
- 持続する咳
- 血痰
- 息切れ・呼吸困難
- 胸痛
- 体重減少
- 全身の倦怠感