「乳がんになりやすい年齢」は?年代別の罹患率と早期発見のポイントを医師が解説!

乳がんは日本人女性で最も多いがんで、近年その患者数は増加傾向にあり、年間約9万件以上の新たな乳がん診断があります。特に、働き盛りの世代にも発症することが多く、決して高齢者だけの病気ではありません。本記事では、乳がんがどの年代で多いのか、年齢別の罹患率の特徴と、早期発見のために知っておきたいポイントについて、わかりやすく解説します。

監修医師:
井林雄太(井林眼科・内科クリニック/福岡ハートネット病院)
目次 -INDEX-
乳がんとは

乳がんの年代別の罹患率について解説する前に、まずは乳がんの概要と症状について解説します。
乳がんの概要
乳がんとは、乳房の組織(主に乳腺)に発生する悪性腫瘍です。乳がんは、乳腺の管(乳管)や小葉から発生し、進行すると周囲の皮膚や胸筋に広がったり、脇の下のリンパ節へ転移することがあります。このリンパ節転移により脇の下にしこりができる場合もあります。
乳がんの細胞には、女性ホルモン(エストロゲンなど)に反応するホルモン受容体というタンパク質があるタイプが多く存在します。ホルモン受容体とは、ホルモンを受け取る受け皿のようなもので、受容体が陽性の乳がんでは女性ホルモンの影響でがん細胞が増殖しやすくなります。そのため、ホルモン受容体陽性の乳がんにはホルモン療法が有効です。一方、ホルモン受容体を持たないタイプやほかの増殖因子に依存するタイプもあり、乳がんは性質によって治療法が異なります。
乳がんの初期症状
乳がんの初期の段階では、自覚症状がまったくないこともあります。小さな乳がんは痛みを伴わず、本人が気付かないうちに存在している場合もあります。そのため、症状がないからといって安心はできず、定期検診が重要になります。早期の乳がんで見られる可能性がある症状としては、以下のようなものがあります。
- 乳房のしこり
- 乳房や乳首のわずかな変形
- 乳頭からの血が出てくる
これらの症状は必ずしも乳がん特有のものではなく、良性の乳腺疾患でも起こりえます。しかし、「痛みがないしこりだから良性だろう」などと自己判断するのは危険です。
進行した乳がんの症状
乳がんが進行して腫瘍が大きくなったり広がったりすると、症状はより明らかになります。乳房のしこりが大きく成長し、外見からも乳房の一部が突出したり変形したりすることがあります。腫瘍が皮膚近くまで達すると、皮膚にただれや潰瘍ができることもあります。また、乳房の皮膚が厚くなり、オレンジの皮のように毛穴が目立つ状態(橙皮様皮膚)になることも進行が進んだ乳がんに見られる変化です。
乳頭の症状も進行とともに顕著になり、乳頭から血液や膿の混じった分泌物が持続的に出たり、乳頭や乳輪の皮膚がただれて治らないといったことがあります。さらに腫瘍細胞が周囲に広がると、脇の下のリンパ節へ転移し腋の下のリンパ節が腫れることがあります。このリンパ節転移により腕を上げにくくなったり、腕や手がむくむ原因にもなります。乳がんがさらに遠くの臓器に転移すると、転移した部位に応じて骨の痛み、咳や息苦しさ、食欲不振や黄疸など全身の症状が現れる場合もあります。
年齢別の乳がん罹患率

では、乳がんはどの年代に多く発生するのでしょうか?乳がんの年齢別罹患率(発症率)のデータを見ると、日本では30代後半から乳がんになる方が増え始めます。20代の乳がんはまれですが、30歳を過ぎる頃から少しずつリスクが高まります。そして40歳以上の女性では、乳がんはすべてのがんのなかで最も患者数が多いがんとなっています。特に、40代後半から50代、60代にかけて乳がんの罹患率は大きく上昇し、この年代で発症のピークを迎えます。
日本人女性の場合、乳がんは働き盛り、子育て世代といった若い年代でも多くみられるのが特徴です。実際、30~64歳の女性のがん死亡原因では乳がんが第1位となっており、社会生活が忙しい世代においても乳がんの確認が必要であることがわかります。「若いから乳がんにならない」ということはなく、40代はもちろん、30代後半からすでに注意が必要です。
乳がんのリスク要因とチェックリスト

乳がんになりやすい方とそうでない方がいますが、本章ではその危険因子と簡単なチェックリストを記載しています。ご自身に当てはまる点はないか確認しながら読み進めてください。
乳がんにかかりやすい要因
乳がんの発症にはさまざまな要因が関与します。以下のような要因があると乳がんにかかりやすくなることがわかっています。
- 加齢
- 女性ホルモン(エストロゲン)にさらされる期間が長いこと:閉経が遅かった方、出産を経験していない方、初産年齢が遅かった方、授乳経験がない方
- 近親者に乳がん患者さんがいる
- アルコール摂取量が多い
- 閉経後の肥満
- 運動不足
- 喫煙
- 糖尿病
- 乳腺症
- 放射線照射歴
以上のような要因が乳がん発症リスクになりえます。リスク要因を持っているからといって必ず乳がんになるわけではありませんし、逆に大きなリスク要因が思い当たらなくても乳がんになる方もいます。ただ、該当する要因が多い方ほど乳がんに注意し、若いうちから定期的な検診を受けたり生活習慣を見直したりすることが推奨されます。
乳がんリスクのチェックリスト
以下のチェック項目に当てはまるものが多いほど、一般的には乳がんのリスクが高まると考えられます。ご自身について確認してみてください。
- 40歳以上である(または30代後半になっている)
- 母親・姉妹など近親者に乳がんになった方がいる
- 初経が早かった(11歳より前だった)
- 閉経が遅かった(55歳より後だった)
- 出産を経験していない、または初めての出産が30歳を超えてからだった
- 授乳(母乳での育児)をした経験がない
- 経口避妊薬(ピル)を5年以上連続で使用している
- 閉経後にホルモン補充療法を5年以上受けている
- お酒をほぼ毎日飲む習慣がある
- 肥満である
- 運動不足である
- 喫煙習慣がある
- 過去に胸部への放射線療法を受けたことがある
- 良性の乳腺疾患(乳腺症や乳腺腫瘍)と診断されたことがある
- BRCA1/2遺伝子などの遺伝子検査で乳がん関連の変異があると言われた
いかがでしょうか。いくつか当てはまる項目はありましたでしょうか。当てはまる項目が多い方は、特に乳がん検診を欠かさず受けるなど注意が必要です。
乳がんを早期発見する方法

乳がんの早期発見のために有効な方法は大きく2つあります。自宅での日常的なセルフチェックと、医療機関で受ける定期的ながん検診です。それぞれのポイントを解説します。
自宅でセルフチェックを行う
自分自身で乳房の状態を定期的にチェックすることは、乳がんの早期発見に役立ちます。セルフチェック(自己触診)は月に1回行う習慣をつけましょう。生理(月経)がある方は月経開始後7~10日後の乳房がやわらかい時期に行うのが適しています。閉経後の方は毎月日付を決めて行うとよいでしょう。
定期的に乳がん検査を受ける
セルフチェックだけでなく、医療機関で定期的に乳がん検診を受けることが早期発見に大切です。日本では40歳以上の女性は2年に1回、乳がん検診を受けることが推奨されています。
市区町村による乳がん検診では、主にマンモグラフィ検査による検診が行われています。マンモグラフィは乳房を板で挟んで撮影するX線検査で、数ミリの小さなしこりや石灰化も写し出すことができます。
検診の対象は原則40歳以上ですが、セルフチェックで複数該当する方は、40歳未満でも医師と相談のうえでもっと若いうちから定期的な検査を始めることがあります。自費にはなりますが30代でも乳房エコー検査を人間ドックなどで受けることは可能です。ご自身の年齢やリスクに応じて、検診を受けるタイミングについて医師と相談してください。
まとめ

乳がんは日本人女性にとって身近ながんですが、早期に発見し適切に治療すれば治る可能性が高いがんでもあります。そのためには、日頃からのセルフチェックと定期的ながん検診が欠かせません。忙しい日々のなかでも月に一度自分の乳房に目を向け、違和感があれば早めに医療機関を受診しましょう。本記事をきっかけに、ご自身の身体と健康に今一度目を向け、乳がんの早期発見、予防に役立てていただければ幸いです。
関連する病気
乳がんと似た症状を示す、または同時に発生する可能性のある病気には以下のようなものがあります。
- 乳腺症
- 線維腺腫
- 乳腺嚢胞
- 乳腺炎
- 脂肪腫
関連する症状
乳がんに関連する症状は以下のような症状が挙げられます。これらの変化を正しく把握することが鑑別に役立ちます。
- 乳房のしこり
- 乳房の皮膚の変化(皮膚の陥没、くぼみ)
- 乳頭からの異常分泌物
- 乳房の痛み
- 乳頭の陥没
- リンパ節の腫れ




