「頸部食道がん」の症状・原因はご存知ですか?【医師監修】
更新日:2025/07/24


監修医師:
井林雄太(井林眼科・内科クリニック/福岡ハートネット病院)
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大分大学医学部卒業後、救急含む総合病院を中心に初期研修を終了。内分泌代謝/糖尿病の臨床に加え栄養学/アンチエイジング学が専門。大手医学出版社の医師向け専門書執筆の傍ら、医師ライターとして多数の記事作成・監修を行っている。ホルモンや血糖関連だけでなく予防医学の一環として、ワクチンの最新情報、東洋医学(漢方)、健康食品、美容領域に関しても企業と連携し情報発信を行い、正しい医療知識の普及・啓蒙に努めている。また、後進の育成事業として、専門医の知見が、医療を変えるヒントになると信じており、総合内科専門医(内科専門医含む)としては1200名、日本最大の専門医コミュニティを運営。各サブスぺ専門医、マイナー科専門医育成のコミュニティも仲間と運営しており、総勢2000名以上在籍。診療科目は総合内科、内分泌代謝内科、糖尿病内科、皮膚科、耳鼻咽喉科、精神科、整形外科、形成外科。日本内科学会認定医、日本内分泌学会専門医、日本糖尿病学会専門医。
目次 -INDEX-
頸部食道がんの概要
本章ではまず、頸部食道がんの症状や原因など、その概要を解説します。
頸部食道がんが発症する部位
食道は咽頭と胃をつなぐ管状の臓器で、長さ約25cmあります。そのうち咽頭に近い首の部分を頸部食道と呼び、胸の中を通る部分を胸部食道、胃とのつながり近くの数cmを食道胃接合部と区別します。頸部食道がんとは、この咽頭に近い首の食道部分にできるがんのことです。食道がんは食道のどの部位にも発生しえますが、日本人では半数以上が胸部中部に発生し、次いで胸部下部、胸部上部の順に多く、頸部食道に発生するものは全体の約5%とまれです。頸部食道は気管や喉頭に近接して位置しており、この部位のがんは進行すると声帯や気管へ広がる恐れがあります。頸部食道がんの症状
食道がん全般にいえることですが、初期の段階ではほとんど自覚症状がありません。がんが大きくなるにつれて、徐々に症状が現れます。代表的な症状は嚥下困難といって食べ物や飲み物が飲み込みにくくなる症状です。また、進行して食道が狭くなると固形物が飲み込みづらくなり、ひどくなると水さえ通りにくくなることもあります。その結果、食事量が減って体重減少が起こることもあります。頸部食道がんでは、がんが声帯に近いため嗄声(させい)と呼ばれる声のかすれや声が出しにくい症状が現れる場合があります。ほかにも、がんが周囲臓器に広がると胸や背中の痛み、気管支への浸潤で咳が出ることもあります。頸部食道がんの原因
食道がん全般の主な発生要因は喫煙と飲酒です。特に日本人に多い扁平上皮がんの場合、喫煙と飲酒との関連が強いことがわかっています。アルコールを摂取すると体内でアセトアルデヒドという発がん性物質が生じますが、この物質を分解する酵素の働きが生まれつき弱い体質の方では、飲酒による食道がんのリスクが高まります。さらに、喫煙習慣と飲酒習慣の両方がある方では、どちらか一方だけの方に比べリスクが飛躍的に上昇します。その他の要因として、熱い飲み物や食べ物を常習的にとることも食道がん発生リスクを高める可能性が指摘されています。頸部食道がんの検査方法
頸部食道がんが疑われる症状がある場合、まず確定診断のための検査を行います。その際は主に上部消化管内視鏡検査と上部消化管造影検査があります。上部消化管内視鏡検査とは、いわゆる胃カメラを用いて食道の内部を直接観察する検査です。内視鏡で食道の粘膜表面を観察し、異常があればその部分から組織を採取して生検を行い、顕微鏡でがん細胞の有無を確認します。一方、上部消化管造影検査は造影剤を飲んで食道をX線撮影する検査です。食道の狭さや腫瘤の大きさ・広がりを全体的に把握するのに役立ちます。 これらにより食道がんと確定した場合は、病期(ステージ)を決めるため追加の検査を行います。具体的には、内視鏡検査に加えて超音波内視鏡検査やCT検査、MRI検査、超音波(エコー)検査、PET検査などが行われます。頸部食道がんの治療法
食道がんの治療には、病状に応じて手術、化学療法、放射線療法、そしてそれらを組み合わせた化学放射線療法などがあります。最近では食道がん全体で、治癒を目指して手術と抗がん剤、あるいは抗がん剤と放射線を組み合わせる集学的治療が多く行われています。ここでは主要な治療法である手術、薬物(化学)療法、放射線療法について解説します。
手術
食道がんの手術では、がんを含む食道の病変部とその周囲組織を切除します。一般に食道と隣接する胃の一部も切除し、周囲のリンパ節もまとめて取り除きます。さらに食道を切除した後は、残った部分と胃や腸をつないで新しく食べ物の通り道を再建する手術を行います。手術の方法は、がんの位置によって異なります。頸部食道がんの場合、がんが小さく頸部食道にとどまっている早期であれば、頸部食道だけを部分的に切除して胃や小腸を使い食道をつなぎ直します。しかし、腫瘍が大きく咽頭や喉頭まで広がっている場合には、食道全体に加えて咽頭や喉頭も一緒に切除せざるを得ないことがあります。化学療法
化学療法は抗がん剤を用いた薬物による治療です。食道がんに対する薬物療法の役割は大きく2つあり、1つは根治を目指す治療の一環として手術や放射線と組み合わせて行う場合、もう1つは手術で取れない進行あるいは再発症例に対して病勢を抑える目的で行う場合です。根治目的では、ステージII~IIIの食道がんに対して手術前後に行う補助化学療法や、ステージ0~III(一部IVaを含む)に対して放射線と同時に行う化学放射線療法があります。 特に頸部食道がんでは前述のように手術が大がかりになることがあるため、放射線との同時併用による化学放射線療法が第一選択となることも多くなります。放射線療法単独よりも抗がん剤を併用した方が治療効果が高いことが明らかになっており、内視鏡で治療できない頸部食道がんに対して化学放射線療法で根治を目指すケースがあります。一方、遠隔転移があるステージIVなどでは手術や放射線では治癒が望めないため、抗がん剤による化学療法が主体となります。患者さんの状態によっては複数の薬剤を組み合わせて使うこともありますし、放射線治療や手術と組み合わせる場合には同時併用するか順番に行うかを調整します。代表的な食道がんの抗がん剤治療として、シスプラチンと5-FUの併用療法などが挙げられますが、近年は手術後や再発・転移例に免疫チェックポイント阻害薬(ニボルマブなど)も用いられるようになっています。放射線療法
放射線療法は高エネルギーのX線などを照射してがん細胞を死滅させる治療法です。がんのある部位に集中的に放射線を当てる局所療法で、手術と同様にがんがある部分を直接攻撃します。放射線療法には大きく分けて、根治を目指す根治照射と、症状を和らげるための緩和照射の2つの目的があります。頸部食道がんの場合、手術を行わず根治照射を選ぶ場合があります。根治照射では、放射線が照射できる範囲に病変がとどまっている場合に、がん組織の消滅を目指します。一方、遠隔転移がある、あるいは局所が広範囲で放射線を当てきれない場合などは緩和照射が検討されます。緩和照射では、がんによる痛みや周囲臓器への圧迫症状、食道狭窄による嚥下困難などを和らげることを目的に、症状の原因となっている部位に絞って放射線を当てます。頸部食道がんの予後
頸部食道がんを含む食道がん全体の予後は、ほかの消化器がんと比べても残念ながら不良とされています。食道がん患者全体での5年相対生存率は約40%と報告されています。病期別に見ると、生存率は早期ほど高く、ステージIでは5年生存率が80%以上と良好ですが、ステージIIで約40%、ステージIIIで30%、ステージIVでは10%以下と進行するにつれ大きく低下します。食道がんは粘膜下層に達しリンパ節転移が起こるようになると治療成績が急激に悪化することが知られています。頸部食道がん自体は頻度が少なく統計が限られますが、同様に早期発見できれば予後は良好で、進行した場合は治療成績が厳しくなります。
まとめ
頸部食道がんは、食道のなかでも首に近い部分(咽頭に続く食道上部)に発生する希少ながんです。ほかの食道がんと同様に、喫煙や飲酒などの生活習慣が主な原因となり、初期には目立った症状がありません。予後は病期により大きく異なり、早期に治療できれば5年後の生存率も高まります。日頃から禁煙・節酒を心がけるとともに、熱い飲食物の過剰摂取も避けるようにしましょう。また、少しでも「おかしいな」と思う症状があれば、早めに消化器内科を受診し検査を受けることが何より大切です。
関連する病気
頸部食道がんと似た症状を示す、または同時に発生する可能性のある病気には以下のようなものがあります。- 咽頭がん
- 喉頭がん
- Zenker食道憩室
- 逆流性食道炎
- バレット食道
関連する症状
頸部食道がんに関連する症状は以下のような症状が挙げられます。これらの変化を正しく把握することが鑑別に役立ちます。- 嚥下困難
- 嚥下時痛
- 体重減少
- 嗄声や声のかすれ
- 胸部または頸部の痛み
- 逆流感・嘔吐




