「食道がんの抗がん剤治療」とは?副作用についても医師が解説

食道がんの抗がん剤治療は、がんの進行の度合いをあらわすステージや患者さんの状態に合わせて適切な治療薬が選択されます。
食道がんの薬物療法は、従来の抗がん剤に加えて、新たな作用を持つ免疫チェックポイント阻害剤の開発や研究が進んでいる分野です。
今回は食道がんに使用される抗がん剤がどのタイミングで使用されるのか、また、副作用について解説していきます。

監修医師:
山本 康博(MYメディカルクリニック横浜みなとみらい)
東京大学医学部医学科卒業 医学博士
日本呼吸器学会認定呼吸器専門医 日本内科学会認定総合内科専門医
目次 -INDEX-
食道がんとは
食道がんとは食道の粘膜表面に発生するがんで、食道のどの部位にも発生する可能性があります。
がんが粘膜内にとどまる早期がんから食道外側に浸潤する進行がんまで、浸潤度合に応じたステージに分類され、ステージに基づいて治療法が選択されます。
食道がんの抗がん剤治療の目的・効果
本章では、食道がんの抗がん剤治療の目的と効果について解説します。
抗がん剤治療はがんのステージにより使用する薬剤が異なり、食道がんの進行具合はTカテゴリ・Nカテゴリ・Mカテゴリの3種類のカテゴリに分類されます。
Tカテゴリは原発巣の広がり具合、Nカテゴリは食道近傍のリンパ節に転移している個数、Mカテゴリはがんが発生した場所から離れた臓器やリンパ節に転移(遠隔転移)があるかという分類です。
さらにこのカテゴリの組み合わせをもとに、次のようなステージに分けられます。
- 0期:がんが粘膜にとどまっている状態
- I期:リンパ節転移がない、または転移が1・2個あるが、がんが粘膜下層にとどまっている
- II・III期:リンパ節転移が3個以上あり、がんが食道外膜まで広がっている状態
- IV期:がんが食道周辺の組織まで拡大している
IIからIV期に関しては、これらのステージ判定以外に患者さんのパフォーマンスステータス(PS)も考慮する必要があります。PSは全身状態を表す指標の1つです。
現在食道がんで使用されている抗がん剤は、細胞障害性抗がん剤として、フルオロウラシル(5-FU)・シスプラチン・パクリタキセルなどがあります。免疫チェックポイント阻害剤としてはペムブロリズマブ・ニボルマブなどがあり、これら治療薬を適性に組み合わせて治療を進めます。
代表的な抗がん剤の組み合わせは、5-FU+シスプラチン(FP療法)や5-FU+シスプラチン+ドセタキセル(DCF療法)などです。また、手術・放射線療法と化学療法を組み合わせることを集学的治療といいます。
術前化学療法
手術の前にまずがんを小さくするために、細胞障害性抗がん剤を投与する術前化学療法が行われ、その後手術をします。
これはII・III期で行う集学的治療で、このステージの標準治療になっています。
術後化学療法
手術や放射線療法の後、がんが完全に消えたことが確認できない場合や残存が認められた場合、免疫チェックポイント阻害剤あるいは抗がん剤を使用します。
これを 術後化学療法といい、こちらもII・III期に行われる集学的治療になります。
同時化学放射線療法
これは0からとIII・IV期の一部で行う治療です。
放射線治療と化学療法を組み合わせて治療する集学的治療のひとつになります。
全身化学療法
IVB期では、全身に効果の期待できる化学療法が標準治療となります。
食事が食べられないなどの嚥下障害がある場合は化学療法のみで、嚥下障害がある場合は化学療法に放射線治療を組み合わせて治療します。抗がん剤と免疫チェックポイント阻害剤を併用するか、あるいは免疫チェックポイント阻害剤かパクリタキセル単独で治療します。
緩和目的の抗がん剤治療
症状を緩和する目的で抗がん剤を使用する場合は、一般的に根治というよりもがんの進行を抑え、症状を緩和することが目的になります。
鎮痛剤によるがん性疼痛の緩和や食道ががんにより狭窄がある場合は放射線治療などで症状を緩和します。
食道がんの抗がん剤治療の副作用
現在食道がんで使用される抗がん剤は、大きく分けて、がんを小さくする効果が認められている細胞障害性抗がん剤と腫瘍の増殖をおさえる免疫チェックポイント阻害剤の2種類です。
いろいろな薬剤と組み合わせるか、単独で使用されます。抗がん剤の副作用は使用する薬物の種類によりさまざまです。免疫チェックポイント阻害剤は、従来の抗がん剤とは異なり免疫に作用する薬物のため特殊な副作用が出ることがあるため注意が必要です。
吐き気・下痢・便秘
抗がん剤の副作用として多くの方が気にされるのが吐き気でしょう。
吐き気は消化管粘膜や脳のなかの神経の刺激により起こるといわれていますが、最近は抗がん剤専用の効果的な吐き気止めも使われるようになっています。また、下痢は消化管の運動が活発になることで引き起こされ、逆に蠕動運動が低下することにより起こるのが便秘です。
食欲不振
吐き気や味覚障害を起すことにより食欲不振になることがあります。
腎機能障害
とくにシスプラチンは腎障害を引き起こすことが知られています。シスプラチンを使用するときは尿からのシスプラチンの排出を促進させるため、利尿剤や輸液を使用して尿量を増やします。
脱毛
一時的な副作用であり、多くの場合は治療がおわるとまた生えてきます。
白血球減少
抗がん剤により骨髄機能が低下すると、白血球、特に好中球の低下が起こります。白血球は免疫をまもる役目をしており低下により免疫が下がり感染を起こしやすくなるので注意が必要です。
味覚障害
抗がん剤により味覚や嗅覚が低下することがあります。味覚障害によって食欲低下が引き起こされることもあります。
抗がん剤以外の食道がんの治療法
大きく分けて抗がん剤以外の治療法は内視鏡的手術・外科的手術・放射線療法・化学療法(薬物療法)です。0期・I期の治療は内視鏡的手術あるいは手術が標準治療になり、手術と放射線を同時に行うこともあります。
II・III期の治療は化学療法を行ってから手術を行うのが標準治療となっていて、またIVA期は化学放射線療法が、IVB期は化学療法が中心になります。治療はがんのステージに応じた標準治療をもとに患者さんの希望や身体の状態などを考慮しながら決めていくことが重要です。
食道がんの抗がん剤についてよくある質問
ここまで食道がんの抗がん剤治療や薬物の目的や効果・副作用などを紹介しました。ここでは「食道がん」についてよくある質問に、Medical DOC監修医がお答えします。
食道がんの原因を教えてください。
山本 康博(医師)
食道がんの主な原因は、喫煙・大量の飲酒で、男性に多い疾患です。食道がんの分類では、扁平上皮がんというタイプが90%弱で腺がんタイプは7%程度です。扁平上皮がんの主な原因は喫煙や大量の飲酒で、お酒に弱い方のほうが食道がんを発生するリスクは高くなります。食道がんの予防は、禁煙やお酒は適量にして野菜やくだものを積極的に取ることです。また、逆流性食道炎は食道に胃酸が逆流することで、炎症を起こす病気です。胃酸は強酸で胃粘膜は胃酸に強い粘膜ですが、食道の粘膜は胃酸に弱く炎症を起こします。食道の粘膜が炎症により胃粘膜に似た状態になることをバレット食道と呼び、そこに腺がんが発生することがあります。食道アカラシアも食道がんのリスクが高くなる病気で注意が必要です。
食道がんは抗がん剤治療で完治できますか?
山本 康博(医師)
抗がん剤はどのステージでも抗がん剤だけで完治するのは難しいです。抗がん剤治療は、あくまで各治療法と組み合わせるのが基本になります。
編集部まとめ
食道がんは初期には自覚症状のないがんです。
心臓のチクチク感・胸や背中の痛みが出るため心臓疾患を疑い循環器科を受診したり、喉に違和感が出るため耳鼻科を受診したりすることがあります。
しかし食道は内視鏡でしか見ることができないので、消化器内科や内科を受診して検査を受けるようにしましょう。
食道がんと関連する病気
「食道がん」と関連する病気は3個程あります。
各病気の症状・原因・治療方法など詳細はリンクからMedical DOCの解説記事をご覧ください。
これらの既往歴がある方は食道がんのリスクが高くなります。日々の生活に注意することに加え、定期検診も受けるようにしましょう。
食道がんと関連する症状
「食道がん」と関連している、似ている症状は7個程あります。
各症状・原因・治療方法などについての詳細はリンクからMedical DOCの解説記事をご覧ください。
関連する症状
- 飲酒時の胸の違和感
- 食べ物がつかえる感じ
- 体重減少
- 胸や背中の痛み
- 咳や声のかすれ
- 飲み物を飲み込んだときにしみる
- 胸の奥がチクチクする
食道がんは自覚症状がないがんといわれています。気になる症状がある場合は、早めに消化器内科や一般内科を受診して相談するようにしましょう。




