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「悪性神経膠腫(悪性の脳腫瘍)の予後」はご存知ですか?検査・治療法も解説!

 公開日:2024/12/31
「悪性神経膠腫(悪性の脳腫瘍)の予後」はご存知ですか?検査・治療法も解説!

悪性神経膠腫は悪性の脳腫瘍で、全脳腫瘍の25%程を占めます。多くの場合、予後不良で悪性度が高くなると生存期間も短くなりやすいです。

脳機能への影響も考えると、手術での腫瘍の除去にも限界があるため、放射線療法や化学療法が併用して行われます。

以下で、悪性神経膠腫の予後・診断方法・検査方法・治療法などを紹介します。

勝木 将人

監修医師
勝木 将人(医師)

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2016年東北大学卒業 / 現在は諏訪日赤に脳外科医、頭痛外来で勤務。 / 専門は頭痛、データサイエンス、AI.

悪性神経膠腫とは

悪性神経膠腫とは、神経膠細胞から発生する悪性の脳腫瘍です。脳・脊髄には神経膠細胞(しんけいこうさいぼう)と呼ばれる細胞があり、ここでできる腫瘍を総称して神経膠腫(グリオーマ)と呼びます。
神経膠細胞は、神経や神経線維を支える役割をしています。悪性度によって1〜4のグレードに分類されており、グレード3・4の神経膠腫が悪性神経膠腫です。数字が大きくなる程、悪性度も強くなります。

悪性神経膠腫の予後

悪性神経膠腫の予後は、不良の場合が少なくありません。発生した神経膠腫の種類によってグレードや5年生存率が異なります。以下で悪性神経膠腫の予後について解説します。

退形成星細胞腫の場合

退形成星細胞腫の5年生存率は20〜40%程で、生存期間の中央値は2.5年です。グレード3に属し、成人の大脳半球にできやすく、全神経膠腫の15%程を占めます。手術で可能なかぎり除去し、手術後に放射線療法と化学療法を併用した治療を行います。

神経膠芽腫の場合

神経膠芽腫の5年生存率は8%以下です。神経膠芽腫は全神経膠腫の36%と頻度が高く、グレード4の悪性度が高い腫瘍になります。生存期間の中央値は1年程で、2年生存率は30%以下です。
45〜65歳の男性の前頭葉にできやすく、脳の神経線維に沿って増殖していきます。頭痛・痙攣・運動麻痺などの症状を呈し、進行が早いケースでは週単位で症状が悪化します。

予後因子

年齢・全身状態・腫瘍に生じる遺伝子変異などが予後因子と考えられています。神経膠芽腫は高齢者に多く、神経膠腫には60歳以上で初めてかかる人が半数以上です。
全膠芽腫の5年生存率は16%ですが、60〜69歳では4.7%、70〜79歳では3.5%です。60歳以上は、60歳未満よりも予後が悪いことがわかります。
遺伝子変異では、IDH1遺伝子の変異の有無で予後が変わります。IDH1遺伝子は、イソクエン酸脱水素酵素と呼ばれる代謝酵素の設計図になる遺伝子です。
神経膠芽腫では、この遺伝子の変異がある膠芽腫はないものより生存期間が長くなることがかわっています。

悪性神経膠腫の診断と検査方法

悪性神経膠腫では、神経学的検査・画像検査・病理検査を実施し、確定診断を行います。各種検査方法について以下で説明します。

神経学的検査

神経学的検査は、神経膠腫を疑う場合に行う検査です。認知機能・言語機能・運動機能・感覚機能・反射などの検査を行い、各機能に異常がないかを調べます。
認知機能では3・4桁の数字の逆唱や計算が行われ、言語機能では物品を見せ呼称してもらったり、指示に従いジェスチャーできるかを確認したりします。
運動機能は、全身の観察や実際の歩行などから動きを確認し、異常がないかを判定する内容です。感覚機能では、触覚・痛覚などを確認します。

画像検査

腫瘍の大きさ・位置などを把握するために行う検査です。
神経学的検査で何らかの機能に異常がみられた場合、病気を判断するためにCT検査が行われます。神経膠腫の可能性がある際には、カテーテルで脳血管撮影を行うこともあります。
MRI検査は、病変をわかりやすく映し出すため、病気の種類を細かく調べることが可能です。脳の血流や代謝の変化を調べるfMRIという検査を行い、運動や言語などの脳領域の位置を調べることもあります。

病理検査

がん細胞の有無やがんの種類を調べるために行われる検査です。神経学的検査や画像検査で、神経膠腫なのかどうか・神経膠腫以外の病気の可能性・腫瘍の状態などが把握できます。
診断を確定させるためには、実際の病変部の組織や細胞を切除し、顕微鏡で観察して病態評価や診断を行う必要があります。

悪性神経膠腫の治療法

治療には、手術・放射線療法・化学療法が行われます。治療法によっては行える設備が限られるため、注意してください。

手術

手術での腫瘍の除去率が予後の改善につながります。ただし、腫瘍の位置や大きさなどによっては、腫瘍の全摘出が難しい場合もあるでしょう。手術でのリスクを軽減させるために覚醒下手術・術中モニタリング・術中ナビゲーションなどの方法があります。
覚醒下手術は、手術中に患者さんに覚醒してもらった状態で行う手術です。言語領域に腫瘍ができた際に会話しながら行うことで、言語機能の状態を確認しながら手術が行えます。
術中モニタリングは、モニタリング機器で手術中の患者さんの神経症状を確認しながら行う方法です。手足の運動機能・感覚機能・聴覚などを評価します。
術中ナビゲーションは、手術箇所がリアルタイムにわかる方法です。手術前の画像データと位置感知カメラから、手術器具と脳や腫瘍の位置を把握できるため、切除可能な範囲の判断ができます。

放射線療法

手術後の放射線療法や化学療法で、生存期間が長くなるとされています。放射線療法には局所放射線治療・強度変調放射線治療などがあります。
局所放射線治療は、グレード2〜4の神経膠腫が対象です。週に5回で6週間行います。神経膠芽腫では、初発時から標準治療が決まっています。
強度変調放射線治療は、腫瘍の形状に応じて放射線を照射する方法です。腫瘍に対して高い放射線量を照射でき、隣接する正常組織の線量は抑えられる治療法です。

化学療法

テモゾロミドやベバシズマブなどの抗がん剤を使った治療です。テモゾロミドは、保険適用の薬です。手術後に放射線療法と併用して6週間行われます。貧血や白血球減少などの副作用が軽いのが特徴です。
ただし、リンパ球が減少するためニューモシスチス肺炎と呼ばれる日和見感染による肺炎を合併しやすくなります。ベバシズマブは分子標的薬の1つで、腫瘍の血管新生を抑える薬です。
分子標的薬は、がんの増殖に関係する特定の分子を標的にする治療薬です。神経膠腫では、腫瘍が大きくなる際に分泌される物質で腫瘍自体の血管を新生させます。ベバシズマブでこの分泌物質を抑えることで、腫瘍の増殖を抑えられます。
ただし、頭痛・高血圧・下痢などの副作用が出るため、注意が必要です。

再発時の治療

再発した場合、手術・抗がん剤の変更や追加・広範囲定位放射線治療などが行われるでしょう。腫瘍の種類により再発の有無や場所は異なりますが、以前に腫瘍があった箇所に近い場所での再発が少なくありません。
広範囲定位放射線治療は、再発箇所の拡大を防ぐために行われます。また、神経膠腫に分子標的薬を使った臨床試験が国内外で行なわれています。分子標的薬の治療が行える病院は限られているため、担当の医師に相談してみてください。

悪性神経膠腫の予後についてよくある質問

ここまで悪性神経膠腫の予後でわかること・症状・治療法などを紹介してきました。ここでは、悪性神経膠腫の予後についてのよくある質問に、Medical DOC監修医がお答えします。

予後が悪いのはなぜですか?

勝木 将人勝木 将人 医師

全摘出の難しさ・年齢・放射線療法や化学療法への抵抗性の高さなどが挙げられます。手術での腫瘍の摘出率に伴って予後が改善するとされています。しかし、腫瘍の位置・大きさによっては腫瘍が残ってしまう場合が少なくありません。脳腫瘍の統計では、腫瘍を95%以上摘出できた割合は全体の40%程と、腫瘍の摘出の難しさがわかります。残った腫瘍は放射線療法や化学療法で除去が行われます。しかし、神経膠芽腫は放射線療法・化学療法への抵抗性が高いため、腫瘍をすべて除去するのは難しいでしょう。除去しきれないと、再発しやすく予後も悪くなります。

再発した場合の生存率を教えてください。

勝木 将人勝木 将人 医師

グレード4の神経膠芽腫の場合、再発すると1年後の生存率は30〜40%程です。膠芽腫は標準治療が確立していますが、80%程で早期に局所再発が現れます。局所治療の強化が予後の向上につながるでしょう。

編集部まとめ

悪性神経膠腫は、神経学的検査・画像検査・病理検査をもとに治療が行われます。

治療では、覚醒下手術や術中モニタリングなどを用いることで、脳機能の温存が期待できます。除去しきれなった部分に対しては、放射線療法と化学療法を用いるのが一般的です。

腫瘍が残ると再発の可能性が高くなるため、できるかぎりの除去が必要です。悪性度が上がるにつれ5年生存率も短くなり、予後も悪くなります。

今までに感じたことがないような頭痛やうまく話せないなどの症状が出た際には、早めに医療機関を受診するようにしましょう。

悪性神経膠腫と関連する病気

「悪性神経膠腫」と関連する病気は5個程あります。
各病気の症状・原因・治療方法など詳細はリンクからMedical DOCの解説記事をご覧ください。

関連する病気

上記は、原発性脳腫瘍と呼ばれる脳細胞・脳神経などからできる腫瘍です。増殖の速度・正常組織との境界線・できる場所などで、良性か悪性に分けられます。

悪性神経膠腫と関連する症状

「悪性神経膠腫」と関連している、似ている症状は4個程あります。
各症状・原因・治療方法などについての詳細はリンクからMedical DOCの解説記事をご覧ください。

関連する症状

  • 頭蓋内圧亢進症状
  • てんかん発作
  • 運動麻痺
  • 認知機能低下

腫瘍が大きくなると脳のむくみ、上記のような症状が生じるでしょう。感じたことがない症状が出た際には、医療機関を受診してください。

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