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「肺がんの手術方法」はご存知ですか?合併症についても解説!【医師監修】

 更新日:2024/03/29
「肺がんの手術方法」はご存知ですか?合併症についても解説!【医師監修】

肺がんは自覚症状のないまま進行することが多く、がんの中でも死亡数の多い病気です。しかし早期に発見でき、手術を受けられれば治癒の可能性が高い病気でもあります。

では肺がんの手術は具体的にはどのような方法があるのでしょうか。今回の記事では肺がんの手術方法・合併症リスクと併せて、術後の入院期間・生活まで網羅的に解説します。

肺がんについて知識を持つことで、肺がん治療という同じ目的を持った治療でも、患者さんに選択肢が複数あることが理解できるでしょう。病気・治療の知識を持つことは安心感・納得できる治療に繋がります。

甲斐沼 孟

監修医師
甲斐沼 孟(上場企業産業医)

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大阪市立大学(現・大阪公立大学)医学部医学科卒業。大阪急性期・総合医療センター外科後期臨床研修医、大阪労災病院心臓血管外科後期臨床研修医、国立病院機構大阪医療センター心臓血管外科医員、大阪大学医学部附属病院心臓血管外科非常勤医師、大手前病院救急科医長。上場企業産業医。日本外科学会専門医、日本病院総合診療医学会認定医など。著書は「都市部二次救急1病院における高齢者救急医療の現状と今後の展望」「高齢化社会における大阪市中心部の二次救急1病院での救急医療の現状」「播種性血管内凝固症候群を合併した急性壊死性胆嚢炎に対してrTM投与および腹腔鏡下胆嚢摘出術を施行し良好な経過を得た一例」など。

肺がんとは?

肺がんとは、肺に発生した悪性腫瘍です。年間約8万人が肺がんになり7万人が死亡する、がんの中で最も死亡数が多い病気として知られています。
肺がんの原因の70%は喫煙です。ほかにも受動喫煙・環境・食生活・放射能・薬品も原因として指摘されています。
症状としては咳・痰・倦怠感・体重減少・胸痛などが挙げられますが、いずれも肺がん特有の症状とはいえません。日本においては、健診・ほかの病気の検査で偶然発見されることが多いです。

肺がんの手術方法は?

肺がんはその特徴によりいくつかの種類に分類されますが、手術での治療が試みられるのは原発性肺がん・転移性肺腫瘍の2種類です。
原発性肺がんは肺に発生した悪性腫瘍、転移性肺腫瘍はほかの臓器に発生した悪性腫瘍が肺に転移したものです。いずれも早期であれば、手術での治療が最も効果的といわれます。
肺の悪性腫瘍摘出手術は、肺切除手術と呼ばれ、その切除範囲によって4種類に分けられます。それぞれの手術について、以下で解説しますので参考にしてみてください。

肺全摘術

左右に1つずつある肺のうち、片側の肺全体を切除する手術を肺全摘術といいます。
病変が中枢側、つまり身体の中心部にまで拡がっているケースで選択される手術です。ただし片方の肺を摘出すると肺活量が損なわれ、心臓の機能にまで悪影響を及ぼします。
高齢・肺気腫などの合併症がある患者さんには特に負担が大きくなるため、気管支形成・肺動脈形成手術も併せて行い、肺機能の温存を目指します。

肺葉切術

肺葉切術とは悪性腫瘍の拡がった肺葉を1つだけ切除する手術です。
普段の生活で意識することはありませんが、肺は5つの肺葉で形成されています。右肺は右上葉・右中葉・右下葉の3つ、左胸は左上葉・左下葉の2つに分かれているのです。

区域切除

肺区画、または肺区域とは、肺葉よりもさらに小さな区画の呼称です。
右肺は10、左肺は8つの区域に分けられます。肺がん手術において、病変が見られる区域のみを切除する手術を区域切除といいます。早期肺がんに対してよく採用される術式です。

楔状切除

肺の外側の一部のみ切除する手術を楔状(けつじょう)切除、または部分切除と呼びます。肺全摘術が選択されるのか、楔状切除が選択されるのかは腫瘍の大きさ・呼吸機能の状態から判断されます。

手術以外に行われる治療方法は?

肺がんの手術で治癒率が高い治療法は、外科手術による腫瘍の摘出です。しかし手術以外での治療の選択肢もありますので、以下で紹介します。
ただしあくまで以下の治療法は、手術と併用して効果を高める治療であることは留意しておくべきでしょう。都合により手術・治療に抵抗を感じている人には、無治療経過観察という選択肢もあります。
この場合、合併症発症のリスクはなくなりますが、がんの進行に伴う症状の発症・余命の短縮に繋がってしまうデメリットもあります。いずれの治療法を選択する場合も、担当医と十分に話し合いを重ねてください。

薬物治療

薬物治療は化学療法とも呼ばれます。がん細胞を直接攻撃する薬剤を用いる内科的なアプローチの治療法です。
3〜4週間に1度のペースで、飲み薬・注射で投与を続けながら、がん細胞を収縮させていきます。薬物治療のみで完治を目指すことは困難ですが、転移性肺腫瘍で腫瘍の個数が多い場合など、手術よりも効果が期待できるケースもあります。

放射線治療

放射線治療は身体の外からX線を照射して、がん細胞の働きを弱める治療です。
単体で完治を目指すのは難しい治療法ですが、手術を希望しない患者さん・心肺機能の問題で手術を受けられない患者さんの治療に選ばれています。また手術ができない骨転移・脳転移などの症状緩和にも有効です。
ただし放射線照射で皮膚炎・肺炎など、別の副作用が起こるリスクもあるため留意しておきましょう。

肺がん手術で起こりやすい合併症

どのような外科手術もそうであるように、肺がんの手術にも合併症を発症するリスクがあります。合併症による死亡リスクは、術後1ヶ月以内で死亡率0.4%とごく稀です。
甘く見ていると命に関わることも覚えておきましょう。どのような合併症が現れるかはある程度予想できますが、実際にどのような合併症が現れるかは人それぞれです。
術後は経過をよく観察しながら、身体に異変がある場合はすぐに担当医に相談できる体制を整えておく必要があります。

肺炎

肺炎は全体の1〜3%の患者さんに起こる合併症です。術後の痰が増加し、免疫が下がった状態では肺炎が起こりやすく、重症化もしやすいのです。
症状としては咳・発熱・呼吸困難・胸の痛みなどが見られます。主に抗生剤による治療を行います。

肺胞瘻

肺胞瘻(はいほうろう)は全体の5%程度の患者さんに起こる合併症です。肺を切除した部分・縫合した部分から、空気が漏れている状態を指します。
特に喫煙の影響で肺がダメージを受けている患者さんに多く見られる傾向にあります。一般的には自然治癒しますが、稀に治らないケースでは胸腔内に抗生物質・免疫賦活剤といった薬剤を注入しなければなりません。それでも治らなければ手術を要するケースもあります。

不整脈

不整脈は全体の5%程度の患者さんに起こる合併症です。脈がゆっくり打つ、速く打つ、または不規則に打つ状態を指します。術後自然に回復するケースもありますが、改善しない場合は点滴・内服薬による治療を行います。

膿胸

膿胸(のうきょう)は全体の1〜3%くらいの患者さんに起こる合併症です。
本来は無菌状態の胸腔内に、手術に伴って菌が入り込み化膿している状態にあります。胸腔内に膿が溜まり発熱の症状が出ます。
胸腔内を再び無菌状態にするために、軽症では胸に小さな穴を開けて洗浄する施術が必要です。重篤な場合は再手術が必要になります。いずれのケースでも、治療・回復に長期間かかりやすい傾向にあります。

肺がんの手術についてよくある質問

ここまで肺がんの手術について、種類・合併症などを紹介しました。ここでは「肺がんの手術」についてよくある質問に、Medical DOC監修医がお答えします。

肺がん手術は術後どのくらい痛みが続きますか?

甲斐沼孟医師甲斐沼 孟(医師)

肺がん手術後の痛みは一般的に日が経つにつれて軽くなり、2〜3ヶ月程度で気にならなくなります。ただし痛みの程度・現れる期間には個人差があるため留意しておきましょう。
術後の痛みが和らいだあとも、胸の痛み・違和感が続くことがあります。天候の悪い日や季節の変わり目に強く現れるチクチクとした神経痛・胸に板をいれたような違和感は、肋間神経痛の症状だと考えられます。
痛みは生活に支障が出ない程度であることがほとんどです。
肺がんの手術は、8cm以下の切開創から筒状のビデオカメラを挿入して手術を行う胸腔鏡下手術が主流です。従来の皮膚を15cm以上大きく切開して肋骨の間を機器で大きく開いて行っていた標準開胸と比較して、患者さんの負担は大きく減りました。
胸腔鏡下手術も日々研究が進んでおり、テレビモニターと小切開創からの観察を併用する胸腔鏡補助下手術・テレビモニターの観察だけで手術する完全鏡視下手術・ロボットを用いた胸腔鏡手術(robot-assisted thoracic surgery:RATSラッツ)など選択肢は広がりを見せています。
肺がん手術を受ける病院を選ぶ際は、希望する手術の実例がある病院を選ぶとよいでしょう。そのためには患者さん自身も知識を持って、担当医とよく話し合えることが理想的です。
また呼吸器外科専門の医師がいる施設であるかも、ひとつの判断基準になるでしょう。

手術後の入院期間はどのくらいですか?

甲斐沼孟医師甲斐沼 孟(医師)

手術後の入院期間は、手術日から数えて最短で3〜4日程度です。ただし、持病・術後の経過によっては延長する可能性もあるため留意しておきましょう。術後1ヶ月程度は痛み・咳が出やすいため薬を飲みながら生活します。日常生活に制限はなく、むしろ適度な運動でできるだけ身体を動かすことが呼吸の回復を促します。およそ3ヶ月で身体の状態も回復するのが一般的です。

編集部まとめ

肺に悪性の腫瘍ができる肺がんの治療には、肺の病変が拡がっている患部を切除する肺切除手術が選択されるケースが多いです。

なぜならば肺切除手術はほかの薬物治療・放射線治療と比べ、治癒率が高いからです。胸腔鏡下手術であれば手術の際の切開創もわずか8cm以下で受けられ、患者さんの負担も従来の手術よりはるかに小さくなりました。

薬物治療・放射線治療のみで完治を目指すことは難しいですが、手術を受けたくない・受けられない患者さんもがんの症状を緩和できる選択肢となっています。

安心して肺がんの手術を受けるためには、患者さん自身も病気・治療の知識を持ち、経験のある呼吸器外科専門の医師がいる施設を選ぶとよいでしょう。

肺がんと関連する病気

「肺がん」と関連する病気は5つほどあります。
各病気の症状・原因・治療方法など詳細はリンクからMedical DOCの解説記事をご覧ください。

関連する病気

いずれも肺がんと症状がよく似ており、専門知識なく肺がんか否かを判断することはできません。呼吸器症状が長く続く場合は医療機関での診療を受けましょう。

肺がんと関連する症状

「肺がん」と関連している、似ている症状は5個ほどあります。
各症状・原因・治療方法などについての詳細はリンクからMedical DOCの解説記事をご覧ください。

関連する症状

  • 体重減少
  • 胸痛
  • 呼吸困難

肺がんは基本的に無症状です。肺がんの早期発見のためには、定期的に健康診断を受けておくことが望ましいでしょう。以上のような症状が出ている際は、すでに肺がんが進行している恐れがあるため早めに医療機関を受診してください。

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