「膵臓がんで抗がん剤」を投与するとどんな「副作用」が現れるかご存知ですか?
公開日:2025/08/14


監修医師:
齋藤 雄佑(医師)
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日本大学医学部を卒業。消化器外科を専門とし、現在は消化器外科、消化器内科、産業医を中心に診療を行っている。現在は岩切病院、永仁会病院に勤務。
日本外科学会外科専門医。日本医師会認定産業医。労働衛生コンサルタント。
日本外科学会外科専門医。日本医師会認定産業医。労働衛生コンサルタント。
目次 -INDEX-
「膵臓がん」とは?
膵臓がんは、膵臓内の膵管という管の細胞から主に発生する悪性腫瘍です。膵臓がんの明確な原因は完全には解明されていませんが、喫煙、大量の飲酒、肥満、糖尿病、慢性膵炎、膵臓の嚢胞性病変、家族に膵臓がん患者がいることなどがリスク要因とされています。これらの要因がある人では膵臓がんを発症するリスクが高いことがわかっています。「抗がん剤」とは?
抗がん剤は、がん細胞の増殖を抑えたり、がん細胞を死滅させたりすることで、がんの進行を食い止める薬のことです。がん細胞は、正常な細胞に比べて非常に速く増殖するという特徴があります。抗がん剤は、この増殖のメカニズムを標的にして作用することで、がんの治療に用いられます。しかし、抗がん剤はがん細胞だけでなく、正常な細胞にも影響を及ぼしてしまうため、さまざまな副作用が現れることが少なくありません。特に、細胞分裂が盛んな骨髄や消化管の粘膜、毛根などに影響が出やすく、これが副作用の主な原因となります。膵臓がんで抗がん剤を投与すると副作用が現れる原因
抗がん剤治療には多かれ少なかれ副作用が伴います。これは抗がん剤ががん細胞だけでなく正常な細胞にもダメージを与えてしまうためです。例えば、抗がん剤の作用で白血球や血小板が減少する(骨髄抑制)、消化管粘膜が傷つけば吐き気・嘔吐や下痢、口内炎が起こり、毛根細胞がダメージを受ければ脱毛が起こります。このように抗がん剤の薬理作用そのものが副作用の原因となっているのです。また、一部の薬剤では特有の副作用(例えば神経障害や臓器障害など)も起こります。副作用の出方や重さには個人差がありますが、最近では副作用を和らげる薬も開発され、特に吐き気・嘔吐に関しては予防をすることが可能であることが多いです。それでも副作用が強い場合には治療スケジュールの延期や変更も検討します。主治医から治療内容と予想される副作用について十分説明を受け、不安な点は事前に相談しておくことが大切です。膵臓がんの抗がん剤の副作用となる症状
吐き気・嘔吐・食欲不振
抗がん剤の影響で吐き気・嘔吐・食思不振が起こることがあります。強い吐き気が続くと食欲が低下し、食事や水分が摂れなくなることがあります。現在では吐き気の止めが発達しており、治療前から予防的に薬を使うことで吐き気をかなり抑えることが可能です。それでも吐き気が出る場合には、食事を少量ずつ分食して摂取することも大事です。ゼリーやスープなど喉を通りやすいものを少しずつ口に入れると良いでしょう。水分補給も大切なため、飲める時に少しずつ水や電解質飲料などを飲むようにして下さい。処方された吐き気止めを飲んでも嘔吐が日に何度も続き、3日以上改善しない場合や、強い吐き気で水分すら取れない状態が続く時は、病院に連絡しましょう。下痢・便秘
抗がん剤の種類や体質によっては下痢や便秘の症状が現れることがあります。下痢のときは腸を刺激しないよう、消化の良い食事を少量ずつ摂るようにします。消化の悪いものは避けましょう。水分補給はこまめに行い、スポーツドリンクなどで電解質も補給しましょう。症状が強い場合は主治医に下痢止めの薬・便秘薬を相談することがおすすめです。便秘のときは、水分を十分に摂り食物繊維も適度に含む食事を心がけます。ただし抗がん剤治療中の便秘は下剤の服用なしにコントロールが難しい場合が多いため、医師に処方された便秘薬を指示通り適切に使いましょう。1日に4回以上の激しい下痢が続く場合や、下痢が続いて体重が急激に減少したり脱水症状(口渇・めまいなど)が出ている場合は、すみやかに主治医に連絡してください。また排便がなく腹痛や激しい腹部の張りを伴う便秘は腸閉塞の危険もあるため、早めに医療機関を受診しましょう。末梢神経障害(しびれ)
オキサリプラチンやナブパクリタキセルなど一部の薬剤では、手足のしびれや感覚の鈍麻などの末梢神経障害が生じます。とくにオキサリプラチンでは冷たい物に触れるとピリピリと痛むようなしびれが出ることが知られています。治療が長期に及ぶと慢性的なしびれが蓄積し、ボタンがかけにくい、箸が持ちにくいなど日常生活に支障が出ることも少なくありません。しびれを感じる時は手足を冷やさないようにしましょう。痛みを伴う場合には患部を温めて軽くマッサージすると血行が良くなり症状が和らぐことがあります。ビタミンB12製剤など末梢神経障害の症状緩和に使われる薬もありますので、症状が強い時は主治医に相談しましょう。骨髄抑制
骨髄抑制とは、抗がん剤の影響で血液を作る骨髄の働きが低下し、血液中の細胞が減少することです。白血球は細菌やウイルスから体を守る免疫細胞ですが、数が減ると風邪や肺炎など感染症にかかりやすくなります。また血小板の減少により出血しやすくなる(鼻血や歯ぐきからの出血、青あざができやすい等)ことや、赤血球の減少で貧血(息切れ、立ちくらみ、疲労感)が生じることもあります。これらは抗がん剤投与後1~2週間で現れやすい副作用です。感染症対策として、手洗いやうがいを徹底し、外出時は人混みを避けてマスクを着用しましょう。生ものや衛生面で不安な食品は控え、十分な睡眠と栄養バランスの良い食事で体力を維持することも大切です。白血球が大幅に減少した場合には、主治医が白血球を増やす注射を使用することがあります。貧血が強い場合は無理せず休むこと、立ちくらみがある時は急に立ち上がらないことが安全策です。必要に応じて輸血などの対応もとられます。もし体温が38℃以上の高熱が出たり、咳・喉の痛み・排尿時の痛みなど感染症状がある場合は、すぐに病院に連絡してください。膵臓がんの抗がん剤以外の治療法
手術(外科治療)
膵臓がんが切除可能と判断された場合、可能な限り外科手術によるがんの摘出を行います。主な術式は膵頭十二指腸切除術、膵体尾部の腫瘍に対する膵体尾部切除術、広範囲な場合の膵全摘術があります。膵頭部の手術は十二指腸や胆管、胆のうも一緒に切除・再建する手術です。手術には消化器外科の医師があたります。手術の必要性や内容については外科で説明を受け、同科に入院して治療します。入院期間は術式や術後経過によりますが、順調な場合で数週間から1ヶ月ほどです。手術は合併症が生じれば入院が延びることもあります。手術後は定期的な通院検査を行い再発の有無をチェックしつつ、必要に応じて補助化学療法(手術後の抗がん剤治療)を追加します。放射線治療
放射線療法は、高エネルギーの放射線をがん細胞に照射することで、がん細胞を死滅させる治療法です。放射線治療医が、放射線治療装置を用いて治療を行います。手術が難しい場合やがんによる症状の緩和目的で用いられることがあります。膵臓がんでは、抗がん剤治療と併用されることも少なくありません。放射線治療は、多くの場合、外来通院で行われます。治療期間は、通常数週間から数ヶ月にわたりますが、毎日短時間の照射を繰り返します。入院が必要となるのは、全身状態が悪く、自宅での管理が難しい場合などに限られます。免疫療法
免疫療法は患者自身の免疫の力でがんを攻撃する治療法です。膵臓がんの中でも切除不能か手術後再発した場合の薬物療法の一つで、二次化学療法(一次化学療法で行った治療ができなくなった場合に行われる化学療法)の選択肢の一つです。具体的には、膵臓がんの中でMSI-High(遺伝子の修復異常があるタイプ)やTMB-High(がんの遺伝子変異量が多いタイプ)の患者さんに対し、免疫チェックポイント阻害薬を使う治療が有効であることが証明されています。それ以外の膵臓がん患者さんに対する様々な免疫療法は、科学的に効果が証明される段階には至っておらず、標準治療には組み込まれていません。標準治療の免疫療法が適応となる患者かどうかは主治医が遺伝子検査の結果などから判断します。抗がん剤の副作用が出にくい人の特徴
全身状態が良い人
抗がん剤治療を受ける上で、患者さんの全身状態が良いことは非常に重要です。年齢は若年層であるほど、体力が回復しやすく、副作用に対する耐性も高い傾向があります。しかし、高齢者でも全身状態が良好であれば、副作用が出にくい場合もあります。栄養状態が良い人
十分な栄養を摂れている人は、体力があり、免疫力も高いため、副作用に耐えられる体ができています。性別や年齢に関わらず、適切なエネルギー摂取やタンパク質、ビタミン、ミネラルなどの栄養素が十分に摂れていることが重要です。特に、筋肉量が維持されている人は、抗がん剤の副作用に強い傾向があります。逆に偏食や少食、過度なダイエットをしている人、消化吸収能力が低下している人は、栄養不足になりやすく、副作用が出やすいと考えられます。肝臓や腎臓の機能が良い人
抗がん剤は、肝臓で代謝され、腎臓から排泄されるものが多いため、これらの臓器の機能が正常であることは非常に重要です。特に腎機能は加齢とともに低下する傾向があるため、高齢者は注意が必要です。慢性的な飲酒、薬剤の乱用、生活習慣病(糖尿病、高血圧など)による肝臓・腎臓への負担などが原因で、肝機能や腎機能が低下している人は、副作用が出やすくなったり、使える抗がん剤の種類が限られたりします。肝臓や腎臓に負担をかけるような生活習慣をせず、定期的な健康診断で異常がないか確認しておくことが重要です。ストレスが少ない人
ストレスは、体の免疫力や抵抗力を低下させることが知られています。性別や年齢に関わらず、精神的な安定は重要です。つまり、過度なストレスを抱え込んでいる人、睡眠不足が続いている人、リラックスする時間がない人などは、自律神経の乱れも生じやすく、副作用を強く感じやすい傾向があります。副作用を出さないためにはストレスを上手に発散できる趣味を持ち、十分な睡眠をとり、信頼できる家族や友人と話す機会を作っておくことが重要です。医師や医療スタッフとの連携が密な人
医師や医療スタッフとの良好なコミュニケーションは、副作用の早期発見と適切な対処につながります。性別や年齢に関わらず、自分の症状を正確に伝え、不安なことを相談できる人は、必要なサポートを受けやすく、結果的に副作用を軽くすることができます。逆に、症状を我慢してしまったり、医療スタッフに遠慮して相談できなかったりする人は、副作用が重症化するまで対処が遅れる可能性があります。疑問や不安があればすぐに質問し、自分の体の変化を積極的に相談するようにしましょう。抗がん剤の副作用を軽くする方法
栄養バランスの取れた食事
筋肉の維持や体力回復のために、タンパク質を多く含む、肉、魚、卵、乳製品、大豆製品などを積極的に摂りましょう。食欲がない時は、ゼリーやプリン、栄養補助食品なども活用しましょう。吐き気や胃腸の不調がある時は、脂っこいもの、刺激物、香りの強いものは避け、おかゆ、うどん、煮物など、消化の良いものがおすすめです。脱水予防のため、水やお茶、経口補水液などでこまめに水分を摂りましょう。医療者との積極的なコミュニケーション
副作用の症状が現れたら、どんな些細なことでも、すぐに担当医や看護師に伝えましょう。我慢せずに早期に伝えることで、適切な対処ができ、症状の悪化を防ぐことができます。治療に関する疑問や不安は、遠慮なく医師や薬剤師に質問し、納得した上で治療に臨みましょう。家族のサポートを受ける
家族や周囲の支援: 家族や身近な人のサポートは患者さんにとって大きな力になります。副作用で体調が優れない時には家事や育児のサポートが受けられることは、例えば食欲がない時に食べられそうな料理を工夫して用意したり、通院の送り迎えを買って出たりすることも助けになります。入院や治療費、仕事のことなど心配していることがあれば、相談しましょう。がん相談支援センター等の外部機関を活用して相談することもできます。周囲の支援により安心して治療が行える体制が整います。本人や支える家族だけで抱え込みすぎず、適宜医療者に頼って信頼できるチームを作りましょう。「膵臓がんの抗がん剤の副作用」についてよくある質問
ここまで膵臓がんの抗がん剤の副作用を紹介しました。ここでは「膵臓がんの抗がん剤の副作用」についてよくある質問に、Medical DOC監修医がお答えします。
膵臓がんの抗がん剤治療は何回程度するものなのでしょうか?
齋藤 雄佑 医師
まず、抗がん剤の種類は切除可能膵臓がんに対して手術前に行われる術前補助化学療法、手術後の再発を防ぐために行われる、術後補助化学療法、切除不能膵臓がんに行われる全身化学療法があります。術前化学療法は1−2月程度で内服や点滴のサイクルを2回行います。術後補助化学療法は内服や点滴など6週間で1コースのものを4回、半年間程度行われることが多いです。全身化学療法は特に期間や回数を決めずに、使える化学療法の選択肢がある限り、全身の状態が悪くならない限り治療が続けられます。そのためにも患者さん自身の体力や持病の有無が重要な要素になります。
編集部まとめ 膵臓がんの治療は、一人で悩まず周囲の人とよく相談をしましょう
膵臓がんは、発見が難しく、治療も容易ではありませんが、抗がん剤治療をはじめとしたさまざまな治療法が進歩しています。抗がん剤治療は、がんと闘う上で非常に有効な手段ですが、それに伴う副作用は患者さんにとって大きな負担となることがあります。しかし、副作用は、その症状を理解し、適切な対処法を知ることで、かなり軽減することが可能です。栄養バランスの取れた食事、適度な運動と休息、そして何よりも医療スタッフとの密な連携が、副作用を乗り越え、治療を継続していく上で非常に重要です。不安なことや気になることがあれば、決して一人で抱え込まず、担当医や看護師、薬剤師、あるいはがん相談支援センターなどに積極的に相談してください。医療者は、患者さんが安心して治療を受けられるよう、全力でサポートします。膵臓がんの治療は長期にわたることが多いため、ご自身に合った方法で副作用と向き合い、治療を継続していくことが大切です。「膵臓がん」と関連する病気
「膵臓がん」と関連する病気は5個ほどあります。 各病気の症状・原因・治療方法など詳細はリンクからMedical DOCの解説記事をご覧ください。内分泌科の病気
「膵臓がん」と関連する症状
「膵臓がん」と関連している、似ている症状は7個ほどあります。 各症状・原因・治療方法などについての詳細はリンクからMedical DOCの解説記事をご覧ください。関連する症状
- 背部痛
- 心窩部痛
- 下痢
- 脂肪便
- 黄疸
- 体重減少
- 貧血




