「血液検査で胃がん」発症のリスクがわかるの?どこで受診できるのかも解説!

胃がんの検査といえば内視鏡やX線造影検査などで、身体への負担のため敬遠したい検査です。ところが、採血だけの血液検査も行われています。
検査の目的は胃がんの発症リスクを調べるもので、ピロリ菌の感染状況や胃粘膜の萎縮度を数値化し、リスクの大きさを4段階に層別化する検査です。
胃がんを探すのではなくリスクを把握するための血液検査に関して、検査の内容や検査を受けるメリット・デメリットなどを詳しく解説します。

監修医師:
中路 幸之助(医療法人愛晋会中江病院内視鏡治療センター)
目次 -INDEX-
胃がんとは
胃がんは胃の内側にある粘膜の細胞が、何らかの原因でがん化したものです。がん化した細胞は無秩序に増殖を始め、粘膜から外側の漿膜に向かって深く浸潤します。
漿膜に達した後は近隣の臓器に広がったり、腹膜上に散らばったり、血液・リンパ液に乗って遠隔臓器に転移したりします。胃がんになるさまざまな要因のうち、代表的なものはヘリコバクター・ピロリ菌感染・塩分やアルコールの過剰摂取・暴飲暴食などによる慢性胃炎です。
慢性胃炎の状態が続くうち、胃液を分泌する組織が減り胃粘膜が薄くなる萎縮性胃炎がおこります。さらに胃粘膜が腸の粘膜状になる腸上皮化生になりますが、この状態の患者さんには胃がんが少なくないとされる状況です。
胃がんリスクは血液検査でわかる?
胃がんは早期発見できれば根治も可能です。そのためのX線検査や内視鏡検査がありますが、それとは別に、胃がんのリスクがどれ程あるかを調べる手軽な血液検査があります。
血液に含まれるピロリ菌の抗体や、消化酵素・ペプシノゲンの量を測定するABC検査です。この検査の詳細を解説します。
血液中のピロリ菌の抗体を調べられる
ピロリ菌が胃粘膜内に持続感染していると、血液中に抗体ができます。その抗体量を測定して胃がんの発症リスクを判定するのがABC検査です。
検診では抗体値が3U/ml未満が陰性で、それ以上は陽性と判定されます。陽性であれば現在の感染状況を検査し、感染が認められれば内視鏡で胃の病状を確認するとともに除菌を行います。
血液中のペプシノゲンを測定できる
胃がんリスクの血液検査ではペプシノゲンも調べます。これは消化酵素・ペプシンのもとになる物質です。
胃粘膜内で産生されますが、胃粘膜が萎縮して機能が低下すれば生成量も少なくなります。血液中に存在する量によって萎縮度を判定する検査です。
ペプシノゲンには1型と2型があり、1型の血中濃度が70ng/mLで、1型と2型の量の比率が3.0が基準値とされます。そして、これ以上の濃度があれば判定は陰性です。
胃がんの早期発見に役立つ血液検査(ABC検診)の特徴
ABC検診は手軽に受けられる血液検査で胃がんの発症リスクを段階的に示します。それによって対応方法はわかるほか、胃がんの早期発見にもつながる検査です。検査の詳細を詳しく解説します。
ABC検診とは
ABC検査では血液中のピロリ菌の抗体量とペプシノゲンの量を測定します。
その結果を濃度別に区分して組み合わせ、胃がんになりやすさを層別化するのが目的の検査です。区分は以下のようなA群〜D群の4段階になります。
- A群:ピロリ菌感染・胃粘膜の萎縮とも陰性で胃がん発症リスクは低い
- B群:ピロリ菌に感染し軽度の粘膜萎縮あり・除菌と定期的な画像検診が必要
- C群:ピロリ菌感染と萎縮性胃炎あり・発症リスクがあるので除菌と内視鏡検査
- D群:高度の萎縮性胃炎・発症リスクが高く内視鏡検査と経過観察
A群の判定でも発症リスクはゼロではなく、ピロリ菌が関わらないがんもあるので、一度は内視鏡検査を受けてください。
B・C・D群と判定された方は精密検査を受け、その後は医師の指示に従い定期健診を受けます。その定期健診でがんが見つかれば早期発見につながります。
ABC検診と腫瘍マーカーの違い
ABC検診が胃がんのリスクを見つける検査なのに対し、腫瘍マーカーの検査はがん細胞が出す特徴的なタンパク質を見つける検査です。
ただ、がんの存在とマーカーの数値が連動しているわけではなく、マーカーの数値だけでがんの確定診断は行いません。検査の目的はがんの診断などの参考値として使う程度です。
ABC検診がおすすめの方
ABC検診がおすすめできるのは、胃は気になるもののX線検査や内視鏡検査が苦手な方です。ABC検査でA群なら、通常の胃がんの発生率はかなり低くなります。
A群以外でも除菌が成功すれば粘膜萎縮も一定の回復が見込まれるので、がんのリスクは低下します。苦手なX線・内視鏡検査の頻度が減り、不安のない日常を過ごせる点でもABC検査をおすすめできます。
検査を受ける頻度
ABC検査は胃がんのリスクを調べる検査で、原則的には生涯1度だけ受ける検査です。
検査後A群の方は何か自覚があったとき受診すればよいし、それ以外の群では医師の指示で除菌および診療としての胃がん定期検査を続けます。ただ、胃粘膜萎縮の状況は変化するので再検査してもかまいませんが、判定が変わってもリスクが残る点は承知しておきましょう。
胃がんリスクを血液検査で調べるメリット・デメリット
血液検査で胃がんのリスクを調べる検査は、手軽に受けられるなどメリットがある検査です。その反面デメリットも存在するので、メリット・デメリットの詳細を解説します。
メリット:身体への負担が少ない
ABC検査は血液検査なので採血するだけで済みます。内視鏡やX線検査のような事前の絶食や前処置は必要なく、事後の下剤服用なども不要です。また、胃の内視鏡検査ではそれ自体が一定の苦痛を伴いますが、ABC検査は採血針を刺すわずかな痛みしかありません。
さらに、胃のX線検査は被曝線量が胸部X線撮影の150~300倍にも達します。ABC検査はそのような身体負担が極めて少ない検査です。
メリット:内視鏡検査・X線検査を受ける目安がわかる
ABC検査でB~D群の分類では、除菌後各群ごとに定期的な検査が推奨されます。
B群で望ましいのは、できれば年1回のの内視鏡検査です。リスクの高いC群とD群では、毎年の内視鏡検査が推奨されます。検査の方法は、X線よりも早期のがんを発見しやすい内視鏡です。
メリット:ほかの検査よりも費用が抑えられる
ABC検査には通常健康保険の適用はありません。自費でABC検査を希望すれば4,400~5,500円(税込)程度の負担です。
内視鏡では15,000~25,000円(税込)、X線検査でも10,000円以上(税込)かかるので、ABC検査の方が費用を抑えられます。また、定期健診で独自に補助する自治体や健保組合も少なくありません。その場合無料~1,000円程度で検査ができます。
デメリット:確定診断はできない
ABC検査はピロリ菌の感染状態や胃粘膜の活性を目安に、将来胃がんになるリスクを調べる検査です。
したがって現在胃がんであるかどうかの確定診断はできません。効果的な使い方は、ABC検査でリスクありと判断されたら、内視鏡やX線で検査を受ける方法です。
胃がんの血液検査についてよくある質問
ここまで胃がんの血液検査を紹介しました。ここでは「胃がんの血液検査」についてよくある質問に、Medical DOC監修医がお答えします。
何歳から受けられますか?
中路 幸之助(医師)
胃がんの血液検査に年齢制限はありません。成人なら職場・地域の集団検診や内科クリニックで実施すればよいでしょう。高齢者では加齢でピロリ菌抗体が陰性になる可能性があります。陰性でも1度は内視鏡検査を受け、胃の状況を確認しておきましょう。
どこで受けられますか?
中路 幸之助(医師)
採血検査を扱う医療機関ならどこでも受けられます。ただ、検査結果によっては対応が必要なので、内科・消化器内科がよいでしょう。
編集部まとめ
胃がんの血液検査に関して、検査の内容を解説しました。採血だけの簡単な検査でピロリ菌の感染状況やその影響を調べ、将来の胃がん発症リスクがわかる検査です。
1度だけ受けておけば自分の胃がん発症の傾向が把握できます。そして、その後の胃がん検診の受け方がわかり、胃がんの早期発見も可能です。
費用はほかの検査に比べて高くはなく、自治体や勤務先の多くで行う集団検診ではさらに安い費用で受けられます。簡単なので機会を逃さず受検をおすすめします。
胃がんと関連する病気
「胃がん」と関連する病気は3個程あります。
各病気の症状・原因・治療方法など詳細はリンクからMedical DOCの解説記事をご覧ください。
これらの病気の原因はさまざまですが、その原因のなかにピロリ菌の感染がある点が共通しています。ピロリ菌が関わっていた場合には、除菌によってこうした病気の症状に改善が見られます。しかし、生じてしまった粘膜の萎縮や胃がんになるリスクは残るので、定期検診を続けることが大切です。
胃がんと関連する症状
「胃がん」と関連している、似ている症状は6個程あります。
各症状・原因・治療方法などについての詳細はリンクからMedical DOCの解説記事をご覧ください。
関連する症状
- 胃の痛み・不快感・違和感
- 胸やけ
- 吐き気
- 食欲不振
これらの症状は胃潰瘍や慢性胃炎でよく見られますが、胃がんの症状でもあります。初期は無症状のことが多く、上記のような症状が見られた場合は進行が疑われる段階です。血液検査を受けるのではなく、X線か内視鏡検査で診断を受けてください。



