「膵臓がん」を発見するために「血液検査」では何を確認している?【医師監修】
がんが発生しても症状が出にくく、早期発見が難しいといわれているのが膵臓がんです。
この記事では、膵臓がんを早期発見するための方法・検査の種類・治療法を解説します。
膵臓がんに関するよくある質問についても回答するので、気になる方は参考にしてください。
監修医師:
中路 幸之助(医療法人愛晋会中江病院内視鏡治療センター)
目次 -INDEX-
膵臓がんとは?
膵臓がんとは、膵臓にできるがんのことです。膵臓は胃の後ろに位置している、長さ20cm程の細長い臓器です。
膵臓は食物の消化を助ける膵液を作り分泌する外分泌機能と、血糖値の調節をするインスリンのようなさまざまなホルモンを作り分泌する内分泌機能を持っています。膵臓には膵管という管があり、膵臓がんの多くはそこに発生します。
膵臓がんは小さいうちから膵臓の周りのリンパ節や肝臓に転移しやすいがんです。お腹のなかにがん細胞が散らばり、腹膜播種が起きることもあります。こういった膵臓がんのほかにも、膵管内乳頭粘液性腫瘍・神経内分泌腫瘍などができる場合もあります。
膵臓がんを早期発見する血液検査
腹痛や食欲不振などの症状や、膵臓がんの危険因子となる糖尿病・慢性膵炎などの疾患がある場合、膵臓がんを疑って血液検査をすることもあるでしょう。血液検査で確認することや、検査の費用について解説します。
血液検査で確認する点
血液検査では血液中の膵酵素の値が増加していないか調べます。膵酵素とは、膵臓で作られる酵素のことです。
アミラーゼやエラスターゼ1などが代表的な膵酵素です。膵臓がんがある患者さんは膵酵素が血液中に漏れ出て血中膵酵素の値が高くなるため、膵酵素の値が増加していると膵臓がんの可能性が高いと考えられます。
ただし、膵臓がんがあっても膵酵素の値が高くならない場合や、膵臓がん以外の疾患によって値が高くなる場合もあります。そのため、血液検査を行っても膵臓がんの有無が確定するわけではない点には注意が必要です。
検査の費用
膵酵素の値を調べる血液検査の費用は、保険適用の場合1,000~4,000円です。自己負担の場合は11,000円(税込)となるでしょう。
また、がんの発生に伴って作られるタンパク質のような物質を調べる腫瘍マーカー検査を行うことで、膵臓がんの有無を調べる方法もあります。これは主に人間ドックの際にオプション検査として使用でき、検査費用は1項目3,000円前後です。
膵臓がんの検査方法の種類
膵臓がんの有無は血液検査以外の方法でも調べることができます。それぞれの検査方法について詳しく解説します。
CT検査
CT検査とはX線を身体の周囲から当てて、身体の断面を画像にする検査のことです。がんの有無がわかるだけではなく、広がりやリンパ節・ほかの臓器への転移の有無を確認するために行われる検査です。
膵臓がんの検査をする場合は、がんの位置や形を映し出すために造影剤が用いられます。費用は3割負担で、9,000~12,000円程です。
PET検査
PET検査は放射性フッ素を付加したブドウ糖を注射し、がん細胞が細胞分裂の盛んな部位に取り込まれていないか、ブドウ糖の分布を画像にすることで調べる検査です。ただし、膵臓がんの疑いがある場合に確定させるためには行われません。
PET検査は膵臓がんが確定した際に、ほかの臓器に転移があるかどうかを確認するために行われる検査です。がん検診でPET検査をする場合は保険適用外のため全額自己負担となり、108,900円(税込)程かかるでしょう。
腹部超音波検査
腹部超音波(エコー)検査は、身体に当てた機械から超音波を出し、臓器に反射させた様子を画像化する検査です。これにより、がんの位置・形・臓器の形・臓器の状態・周辺の血流の様子を確認します。注射のような痛みがなく、その場で画像を確認できるという特徴があります。
ただし、CT検査・MRI検査・超音波内視鏡検査などのほかの検査で画像診断が十分に行われていると判断された場合、腹部超音波検査は行われないことが多いです。費用は3割負担で5,000~6,000円程かかります。
MRI検査・MR胆膵管撮影
MRI検査は、強力な磁力と電波によって磁場を発生させる検査です。身体の内部のさまざまな方向の断面を画像化できるのが特徴です。膵臓がんの有無や広がりを確認するほか、ほかの臓器に転移していないか確認するために行われます。
MR胆管膵管撮影はMRIを用いて膵管・胆管を検査し、膵臓がん・胆のうがんを発見するために行われる検査です。膵臓がんや胆管がんの大半は膵管・胆管に異常をきたすため、早期発見につながります。検査費用は3割負担の場合MRI検査で10,000円前後、MR胆膵管撮影で7,000円前後です。
内視鏡的逆行性胆管膵管造影
内視鏡的逆行性胆管膵管造影ではお口から十二指腸まで内視鏡を入れて造影剤を注入し、膵管や胆管をX線撮影する検査です。
X線撮影だけではなく、膵液細胞診検査を同時に行うこともあります。これまで紹介したCT検査やMRI検査で膵臓がんの診断が確定しなかった場合に行われる検査ですが、この検査によって急性膵炎などの合併症を起こすリスクもあります。
前述のMR胆膵管撮影では内視鏡や造影剤を使わずに内視鏡的逆行性胆管膵管造影と同様の画像を作ることができ、身体への負担も少ないため、内視鏡的逆行性胆管膵管造影の代わりにMR胆膵管撮影を行うことも増えてきているようです。自己負担で行う場合、200,000円(税込)程かかるでしょう。
超音波内視鏡検査(EUS)
超音波内視鏡検査(EUS)は、先端に高解像度の超音波が備わった内視鏡です。胃カメラと同様にお口から挿入し、先端を胃壁や十二指腸壁に当てることで、膵臓や胆嚢の詳細な観察ができます。CTやMRIで膵臓がんの可能性が高いと考えられる患者さんに、さらに詳しい検査をすることが超音波内視鏡検査の役割です。
これにより腫瘍が描出できた場合、超音波内視鏡下穿刺吸引法(EUS-FNA)によって腫瘍の組織診断をすることもできます。検査費用は3割負担の場合、超音波内視鏡検査で7,000円前後、超音波内視鏡下穿刺吸引法で18,000円前後です。
膵臓がんの治療方法
膵臓がんと確定した場合の治療方法について解説します。
外科手術
膵臓がんが膵管の上皮内に留まっている場合や、膵臓がんが4cm以下でリンパ節やほかの臓器への転移がない場合、手術によって膵臓がんを切除します。
手術のみで治療を行うだけではなく、薬物療法を組み合わせるケースもあるでしょう。また、痛みや食欲低下といった症状に応じて、支持・緩和療法も行われます。
化学療法・放射線療法
化学療法・放射線療法は、遠隔転移はないものの膵臓がんが重要な血管を巻き込んでいるため手術できない症例に用いられます。がん遺伝子検査の結果を確認しながら、細胞障害性抗がん薬・分子標的薬・免疫チェックポイント阻害薬を用いる治療です。
薬の組み合わせは複数あるため、治療の目的・がんの状態・臓器の機能・想定される副作用を考慮しながら決めて主治医と薬剤師、患者さんが話し合って決めていきます。
放射線療法には化学療法と組み合わせて治療の効果を高めることを目的にした治療と、症状緩和を目的とした治療の2種類があります。
免疫療法
免疫療法とは、免疫の力を利用して膵臓がんを攻撃する治療法のことです。免疫チェック阻害薬を使用する、薬物療法の一種でもあります。
膵臓がんの血液検査についてよくある質問
ここまで膵臓がんについて早期発見する血液検査や検査方法・治療方法などを紹介しました。ここでは「膵臓の血液検査」についてよくある質問に、Medical DOC監修医がお答えします。
血液検査のみで膵臓がんを特定できますか?
中路 幸之助(医師)
血液検査は膵酵素の値を確認する検査です。前述のとおり、膵酵素は膵臓がんがあっても値が高くならないこともあれば、急性膵炎・慢性膵炎などの膵臓がん以外の病気で値が高くなることもあります。そのため、血液検査のみで膵臓がんを特定することはできません。
何科を受診すれば受けられますか?
中路 幸之助(医師)
膵臓がんの疑いがある場合は、消化器科外科で受診しましょう。膵臓がんには特異的な初期症状がないため、お腹や背中の痛み・食欲不振・お腹のハリ・黄疸・糖尿病の急激な悪化といった症状がある場合はただちに受診してください。
編集部まとめ
膵臓がんは早期発見が難しく、血液検査や腫瘍マーカー検査だけでは確定することが難しいといわれているがんです。
特異的な初期症状はありませんが、食欲不振や黄疸のように気になる症状がある場合、早めに消化器外科で受診してください。
できる限り、膵臓がんの専門家がいる病院を受診し、検査・治療を受けることが大切です。
膵臓がんと関連する病気
「膵臓がんの症状」と関連する病気は6個程あります。
各病気の症状・原因・治療方法など詳細はリンクからMedical DOCの解説記事をご覧ください。
膵臓がんのリスクが高くなるといわれている病気としては、上記のようなものがあります。ただし「この疾患にかかっているから肺がんだ」と言えるものはないため、こうした症状が現れた際には医療機関で受診するようにしましょう。
膵臓がんと関連する症状
「肺がんの症状」と関連している、似ている症状は6個程あります。
各症状・原因・治療方法などについての詳細はリンクからMedical DOCの解説記事をご覧ください。
関連する症状
- 腹痛
- 食欲不振
- お腹のハリ
- 黄疸
- 腰や背中の痛み
- 急な糖尿病の発症や悪化
これらの症状は膵臓がんがあっても起こらない場合があるので、ご注意ください。肺がんの症状として、脳や骨、胸膜などにがんが転移した場合に現れるものがあります。こうした症状が見られた際には、すぐに医療機関で受診してください。