「乳がんの放射線治療」で起こりうる副作用はご存知ですか?【医師監修】
乳がん手術後の放射線治療は、どのような目的で行うかご存知ですか?
乳がんの治療は手術だけでなく、手術後の放射線治療も再発予防のために極めて重要です。
放射線治療は毎日の通院が必要で、副作用も少なくないため、患者さんの負担が少なくありません。
本記事では、乳がん手術後の放射線治療の目的・治療の流れ・主な副作用などを解説します。
乳がん手術後の放射線治療を受ける際に、正しい情報を持って不安なく治療に臨む参考になれば幸いです。
監修医師:
上 昌広(医師)
目次 -INDEX-
乳がんとは?
乳がんは乳房の乳腺組織にできるがんで、乳房のしこりや乳頭からの異常な分泌物が初期症状です。乳がんの罹患数は増加傾向にあり、2014年には女性のがんのうち、罹患数が1位となりました。2019年のデータでは、女性の9人に1人が生涯に一度は乳がんになると推定されています。
乳がんの原因には遺伝や喫煙などのほか、女性ホルモンのエストロゲンが関与していると考えられています。妊娠中はエストロゲンの分泌量が減るため、妊娠回数が少ないことも乳がんのリスク因子です。乳がんの治療には、手術によるがんの摘出と、手術後の薬物療法や放射線治療があります。
乳がんの手術後の放射線治療の目的
乳がんの治療は手術によるがんの摘出が基本ですが、手術後に放射線治療を行うことも少なくありません。放射線は細胞の増殖を抑える働きがあるため、がん細胞にピンポイントで放射線を照射して消滅させる治療です。
乳がん手術後に放射線治療を行う目的は、主に以下の2つです。
- 手術後の再発を予防する
- 痛みなどの症状を緩和する
それぞれの内容を解説します。
手術後の再発を予防する
放射線治療の大きな目的のひとつが、手術で取り切れなかったがん細胞を消滅させて再発を防ぐことです。かつては乳房の全摘出が行われてきましたが、その後の研究によって、乳房を可能な限り温存しながら放射線治療を併用すれば治療効果を得られることがわかりました。
乳がん手術後の放射線治療を行った患者さんは、10年での再発の絶対リスクが15.7%減少し、15年での乳がん死の絶対リスクが3.8%減少すると報告されています。
痛みなどの症状を緩和する
放射線治療には、がんによる痛みを緩和する目的もあります。脳転移による神経症状や、がん組織が気管・血管・神経を圧迫して痛みや息苦しさがある場合に、放射線を照射してがんを小さくします。
この場合の放射線治療は、がんの根治を目指す治療ではなく、痛みをやわらげる緩和療法です。骨転移に伴う痛みには、放射線治療がよく効きます。
放射線治療の進め方は?
乳がんの手術後に、再発防止・がんの根治を目指して行われる放射線治療の進め方を解説します。手術ですべてのがんが取り切れていない可能性がある場合は、放射線治療が推奨されるので、まずは放射線治療が必要かどうかを医師とよく相談しましょう。
実際の放射線治療の流れは、以下のようになります。
- 診察・CT撮影
- 治療計画
- 治療開始
それぞれの内容を解説します。
診察・CT撮影
放射線治療は手術の傷がふさがり、腕があがるようになる術後2週間以降から開始されますが、放射線治療のための診断はそれより前に始まります。CT撮影で身体の状態を詳細に調べ、どこに放射線を照射するかを検討していきます。
毎回同じ部位に正確に照射するため、照射部位にマーカーを付けることもあり、治療終了まで消すことはできません。
治療計画
放射線治療専用の治療計画装置により、どの部位に・どの方向から・どのくらいの強さで・何回照射するかを計画していきます。乳がん手術後の放射線治療は、合計20~30回の照射を行うのが一般的でしたが、近年では1回の照射量を増やす代わりに15~20回程度で終了する短期照射も選択できます。
治療開始
実際に放射線治療が始まったら、毎日5~10分程の照射を継続して行います。1回目の照射では位置合わせなどで時間がかかりますが、2回目以降は30分程ですべての工程が終了します。
ほとんどの患者さんは通院して放射線治療を受けており、入院する必要はありません。
乳がんの放射線治療で起こりうる副作用
放射線は、がん細胞だけでなく正常な細胞にもダメージを与えてしまいます。そのため、がん細胞だけにピンポイントで照射するのが重要ですが、どうしてもほかの部位にも副作用が生じる場合があります。
乳がん手術後の放射線治療で起こる主な副作用は、以下の5つです。
- 皮膚の発赤・乾燥
- 水ぶくれ
- 色素沈着
- 全身倦怠感
- 放射線肺臓炎
それぞれの内容を解説します。
皮膚の発赤・乾燥
皮膚の発赤や乾燥は、放射線治療の開始後にすぐ現れる急性期の副作用です。皮膚の細胞が放射線のダメージを受け、保湿機能が低下して乾燥や発赤を生じます。ほとんどの患者さんに現れるため、治療開始前から保湿クリームを処方され、スキンケアの指導が行われます。
水ぶくれ
放射線治療の開始直後から、皮膚の炎症が悪化して水ぶくれとなる場合もあります。皮膚炎症には予防的ケアが大切で、放射線治療中は刺激が強い衣服は避けましょう。
水ぶくれは破れると細菌感染を起こしやすいため、ステロイド軟膏で炎症を抑えたり、抗生物質で化膿を防いだりする場合もあります。急性期の皮膚症状は、放射線治療開始後1ヵ月程で治まることがほとんどです。
色素沈着
急性期の皮膚症状が治まった後の慢性期の症状として、皮膚への色素沈着が起こることがあります。炎症を起こした部位が黒ずみ、洗っても色が落ちなくなりますが、皮膚の新陳代謝とともに数ヵ月かけて治まっていきます。色素沈着を改善するには、毎日の保湿ケアが重要です。
全身倦怠感
皮膚症状以外の急性期の副作用で、全身倦怠感が起こることがあります。個人差が大きくほとんど感じない人もいれば、ベッドから起き上がれない程の症状になる人もいます。がんになったことによる精神的ストレスが原因の場合もあり、心身のケアと適度な休養が大切です。
放射線肺臓炎
放射線によるダメージが肺に及んだ場合は、放射線肺臓炎が副作用として発生する場合があります。頻度としては極めてまれですが、咳が止まらない・少しの運動で息が切れるなどの症状がある場合は、すぐに医師に相談してください。
軽症の場合は自然治癒しますが、症状が進行する場合にはステロイド剤などで治療します。
乳がんの放射線治療についてよくある質問
ここまで乳がん手術後の放射線治療の目的や副作用などを紹介しました。ここでは「乳がんの放射線治療」についてよくある質問に、Medical DOC監修医がお答えします。
乳がんの放射線治療は仕事をしながら受けられますか?
上 昌広(医師)
乳がん手術後の放射線治療は、原則として毎日行います。1回の通院は1時間以内ですので、ほとんどの患者さんが通院で行っており、仕事のスケジュールを調整しながら通院している方も少なくありません。スケジュール調整ができ、副作用による倦怠感などがなければ、仕事しながらでも十分に可能でしょう。
乳がんの放射線治療に高額医療費制度を利用できますか?
上 昌広(医師)
乳がん手術後の放射線治療は、ほとんどの場合保険適用となります。自己負担3割でも、放射線治療には50,000〜100,000円の費用がかかるため、高額医療費制度を利用可能です。自己負担限度額は、年齢や収入によって異なるため、詳しくは加入している保険者に確認してください。
編集部まとめ
乳がん手術後に行われる放射線治療の、目的や副作用を解説してきました。
かつては乳がんは乳房を全摘出するのが一般的でしたが、近年では放射線治療を併用した乳房温存療法が広まってきています。
全摘出した場合であっても、術後の放射線治療によって再発率を下げて余命を伸ばすことが可能です。
放射線治療は毎日の通院が必要で、副作用も少なくない治療ですが、大きなメリットがあるのも事実です。
放射線治療の目的や流れを理解したうえで、希望を持って治療に臨んでください。
乳がんと関連する病気
「乳がん」と関連する病気は3個程あります。
各病気の症状・原因・治療方法など詳細はリンクからMedical DOCの解説記事をご覧ください。
関連する病気
- 乳腺症
- 線維腺腫
- 葉状腫瘍
乳房の組織で生じる炎症や良性腫瘍によって、乳がんと似た症状が出ることは少なくありません。初期の乳がんは痛みが少ないのが特徴で、痛みを生じる場合はほかの病気の可能性が高いでしょう。しかし、自覚症状だけではほとんど区別がつかないため、胸に違和感がある場合は早めに医療機関を受診してください。
乳がんと関連する症状
「乳がん」と関連している、似ている症状は3個程あります。
各症状・原因・治療方法などについての詳細はリンクからMedical DOCの解説記事をご覧ください。
関連する症状
- 乳房のしこり
- 乳房のただれ・くぼみ
- 乳頭からの出血・分泌物
乳がんの早期発見は、患者さん自身がしこりやただれに気付いて受診する場合がほとんどです。乳房のなかにしこりができたり、乳房の皮膚や乳頭のただれがある場合には、早めに受診しましょう。乳頭から出血したり、透明な分泌物が出るなどの症状も注意が必要です。