「舌がんが転移」しやすい部位や治療法はご存知ですか?【医師監修】
舌がんの初期症状は、口内炎の症状とよく似ています。2週間経っても治らない口内炎は舌がんの可能性があるため、早急に病院を受診しましょう。
舌がんはセルフチェックによる早期発見が可能な病気ですが、発見が遅れるとがん細胞は増殖を繰り返し、他臓器への転移を引き起こします。
この記事では、舌がんが転移しやすい部位や治療法などを詳しく解説します。
治癒率を上げるためにはがんが浸潤・転移する前に発見し、治療を行うことが重要です。
監修歯科医師:
熊谷 靖司(歯科医師)
目次 -INDEX-
舌がんとは
舌がんは、口腔がん(口腔内や唇、唾液腺にできるがんの総称)の半数以上を占めており、罹患率・死亡率ともに増加傾向にある病気です。舌がんを発症すると、舌の側面や根元部分に以下のような症状がみられます。
- 変色(白色もしくは鮮紅色)
- 粘膜のただれ
- しこり
- 痛み
- 出血
初期症状は口内炎と似ているため、自覚症状があっても見過ごされてしまうケースがあります。2週間程経っても治らない口内炎があれば、かかりつけの歯科医院で診てもらいましょう。さらにがんが進行すると、舌の動かしづらさや痺れが出現することもあります。
舌がんの転移について
舌がんの初期症状は舌の粘膜にあらわれますが、首に硬いしこりが触れる場合には注意が必要です。頸部のリンパ節に転移している可能性があるため、早急に病院を受診し検査を受けましょう。舌がんはリンパ節に転移しやすい特徴があり、がんの進行に伴って転移のリスクも高まります。がんを早期発見するために、日頃から口腔内のセルフチェックを行いましょう。
舌がんが転移しやすい部位
転移の有無や部位は、治療法の選択や再発リスク、治療後の生活などに大きな影響を及ぼします。ここでは舌がんが転移しやすい部位を解説しますので、もし気になる症状があれば早急に病院を受診しましょう。
リンパ節
リンパ節は全身に分布していますが、舌がんが最初に転移するリンパ節は頸部リンパ節です。リンパ節は全身に分布するリンパ管の途中に存在し、老廃物や病原体を除去するフィルターのような役割を担っています。
がん細胞がリンパ流に乗るか、もしくは直接浸潤することで引き起こされるのが、リンパ節転移です。がんが転移したリンパ節は手術で取り除く必要があり、これを頸部郭清術と呼びます。
肺
がん細胞が血流に乗ると、全身の臓器に転移するリスクがあります。なかでも肺は、全身を巡った血液が戻ってくるため、ほかの臓器と比べて遠隔転移のリスクが高い傾向にあります。
転移による肺がんは自覚症状に乏しく、舌がんの経過観察の過程で発見されることが多い部位です。転移に気付かず、さらにがんが進行すると息切れや喘鳴、血痰などの症状がみられます。
肝臓
肝臓に転移したがんが増殖すると、以下のような症状がみられます。
- 腹痛
- 背部痛
- 黄疸(全身の皮膚や白目の部分が黄色くなる)
- 浮腫
- 食欲不振
一般的に、肝転移の初期には明らかな自覚症状はみられません。舌がんの診断や、治療方針の決定、治療効果の判定の際に行う検査(CTやMRI、エコーなど)で発見されます。
甲状腺
甲状腺はのどぼとけのすぐ下にあり、甲状腺ホルモンを分泌する役割を担っています。以下のような症状がみられる場合は甲状腺への転移が疑われるため、注意が必要です。
- 首のしこりや腫れ
- 喉の痛み
- 飲み込みにくさ
- 声のかすれ
- 息苦しさ
- 血痰
甲状腺への転移は稀ですが、甲状腺に生着したがんが増大すると気道を圧迫し呼吸に大きな影響を与えます。
骨
がん細胞が血流に乗ることで、全身の骨に転移のリスクが生じます。骨転移の好発部位は脊椎(背骨)・骨盤・ 肋骨・大腿骨・上腕骨などで、転移した部位によって以下のような症状があらわれます。
- 激しい痛み
- 骨折
- 麻痺
- 尿意や便意がわからなくなる
- 呼吸困難感
骨折や麻痺による寝たきり状態を防ぐためには、早期発見・早期治療が重要です。医師の指示のもと定期的に検査を受け、QOL(生活の質)の維持や向上を目指しましょう。
腎臓
腎臓の役割は血液のろ過と老廃物の排出、血圧調節ホルモンの分泌などです。がん細胞が腎臓に転移し増殖すると、以下のような症状があらわれることがあります。
- 背中や腰の痛み
- 血尿
- 腹部のしこり
- 浮腫
- 食欲低下
- 吐き気
初期段階では自覚症状に乏しく、多くは原発巣(初めにできたがん)の経過観察の過程で発見されます。
副腎
副腎は、左右それぞれの腎臓上部に位置する小さな臓器です。体内の恒常性を保つホルモンを分泌し、血圧や糖、水分などの調節機能を担っています。目立った初期症状はありません。がんの進行に伴い、以下のような症状があらわれます。
- 腹部の腫れ
- 腹痛
- 便秘
- 吐き気
がんの転移によって副腎ホルモンの分泌が促進されると、高血糖や高血圧などの症状がみられます。さらにがんが進行すると発熱や体重減少をきたすため、気になる症状があれば早急に病院で検査を受けましょう。
舌がんが転移した場合の治療法
舌がんが転移した場合、治療法は手術・放射線療法・薬物療法のなかから選択します。それぞれについて詳しく解説しますのでぜひ参考にしてください。
手術
がん治療を目的とした手術では、がんが転移した部分だけでなく周辺の正常な組織も一緒に切除します。細かく散らばったがん細胞が体内に残ってしまうと、再び増殖しがんが再発してしまうからです。
これを防ぐために放射線療法や化学療法を併用する治療法を、集学的治療と呼びます。
放射線療法
転移した部位に放射線を当て、がん細胞のDNAを傷つけることでがん細胞を消滅させる方法です。臓器や組織に散らばったがん細胞は、肉眼では確認できません。
手術では取り切れなかったがん細胞が体内に残っている可能性があるため、手術後に放射線療法を行いがん細胞の根絶を目指します。また、放射線療法にはがんを縮小させる効果があるため、症状を緩和する目的で行われることもあります。
薬物療法
がん治療を目的とした薬物療法には以下のような種類があります。
- 化学療法
- 分子標的療法
- 内分泌療法(ホルモン療法)
- 免疫療法
化学療法では、細胞障害性抗がん薬という種類の抗がん剤を使用します。薬物療法は手術や放射線療法と組み合わせて行うのが一般的です。定期的に検査を行い、治療効果を評価しながら必要に応じて薬剤の変更を検討します。
舌がんの転移についてよくある質問
ここまで舌がんが転移しやすい部位や治療法などを紹介しました。ここでは「舌がんの転移」についてよくある質問に、Medical DOC監修医がお答えします。
舌がんは再発しますか?
熊谷 靖司(医師)
治療後も再発や転移のリスクはあります。早期発見・早期治療のため、医師の指示のもと定期的に検査を受けましょう。また、舌がんを含む口腔がんの危険因子は喫煙と過度の飲酒です。舌がんの再発や新たながんの発症を予防するため、生活習慣を見直すことが大切です。
舌がんの予後について教えてください。
熊谷 靖司(医師)
舌がんを含む口腔・咽頭がんの5年生存率は85%を越えています。しかし、これはがんが限局している(リンパ節転移や他臓器への転移を伴わない)ものに限ったデータです。隣接臓器への浸潤が認められる場合は50%程で、遠隔臓器への転移が認められる場合は13%程と5年生存率はぐっと下がり、早期発見・早期治療の重要性がうかがえます。
編集部まとめ
舌がんを発症すると、舌のただれや痛みなど口内炎によく似た症状を引き起こします。2週間経っても治らない口内炎があれば、早めに病院で診てもらいましょう。
舌がんが転移しやすい部位にはリンパ節や肺、肝臓などがあります。
しかし、リンパ流や血流に乗ったがん細胞は全身の臓器や骨に転移する可能性があります。舌がんの治療後も、医師の指示のもと定期的に検査を受けましょう。
早期発見・早期治療により治癒率を上げることが期待できます。
舌がんと関連する病気
「舌がん」と関連する病気は3個程あります。
各病気の症状・原因・治療方法など詳細はリンクからMedical DOCの解説記事をご覧ください。
白板症や紅板症では、舌の変色(白色や鮮紅色)がみとめられます。また、口腔扁平苔癬では口腔粘膜に白色のレース状もしくは網目状の線を生じます。これらの病気は前がん状態と呼ばれ、がん化する危険があるため注意が必要です。
舌がんと関連する症状
「舌がん」と関連している、似ている症状は4個程あります。
各症状・原因・治療方法などについての詳細はリンクからMedical DOCの解説記事をご覧ください。
関連する症状
- 口内炎が治りにくい
- 舌の粘膜の変色(白色もしくは鮮紅色)
- 舌を動かしにくい
- 口臭が強くなった
これらの症状がみられた場合、すでに舌がんを発症している可能性があります。舌がんの初期症状は口内炎によく似ていますが、ご自身での判別は困難です。口腔内に気になる症状があれば、早めにかかりつけの歯科医院で診てもらいましょう。