「歯茎にできる口腔がん・歯肉がん」の症状・治療法はご存知ですか?【医師監修】
口腔がんは、口腔内に発生する悪性腫瘍の総称です。特に歯茎に発生するがんは歯肉がんと呼ばれ、口腔がんの発生率に占める割合は、上顎歯肉がんよりも下顎歯肉がんの方が高い傾向にあります。
歯肉がんの初期症状は口内炎や歯周病と似ているため、これらの病気と間違えられることがあります。その結果、発見や治療が遅れることがあるので注意が必要です。
この記事では、歯茎に発生する歯肉がんの症状や治療法について詳しく解説します。また、歯肉がん以外の口腔がんについても取り上げます。
監修歯科医師:
酒向 誠(酒向歯科口腔外科クリニック)
目次 -INDEX-
口腔がんとは
口腔がんは、口腔内に発生する悪性腫瘍です。がんの発生した部位によって、歯肉がん・舌がん・口腔底がん・頬粘膜がん・硬口蓋がんなどに分類されます。口腔がんは60歳代の患者さんが多く、近年では若年者に分類される40歳以下の患者さんも増加しています。口腔がん発症のリスクを上げる行動が、飲酒と喫煙です。
このほか、口腔内の不衛生な環境・むし歯・入れ歯の不適合による刺激などが、口腔がんに関連していると考えられています。口腔がんの特徴である舌や口内粘膜の変色・ただれ・しこりなどの異常は、口内炎や歯周病と間違えられることがあるため、がんの正確な診断には検査が必要です。口腔がんが進行すると、話しづらくなったり、飲み込みづらくなったりすることがあります。
歯肉がんの症状
歯肉がんは、歯肉(歯茎)に発生するがんです。歯肉がんは上の歯肉にがんが発生する上顎歯肉がんと、下の歯肉に発生する下顎歯肉がんに分類されます。
歯肉がんは、上歯肉よりも下歯肉に発生しやすいです。また、口腔がんのなかでは舌がんに次いで発生割合が高いです。この項目では、歯肉がんの症状について解説します。
歯肉にしこりができる
歯肉のしこり(硬結)は、歯肉がんの代表的な症状です。がんが進行すると、しこりが口腔内の組織に深く浸潤し、大きくなることがあります。しこりが気になる場合は、指で優しく触れてください。
また、歯肉には骨隆起も多く、誤解されることもあるため注意してください。
なかなか治らない口内炎ができる
口内炎と口腔がんの初期症状は、外見による区別が困難です。2週間以上経過しても治らない場合は、歯肉がんの可能性があります。
歯がぐらぐらする
歯肉がんによって歯がぐらぐらするのは、歯を支える組織にがんが広がった結果です。歯肉がんの初期症状である歯のぐらつきや歯茎の腫れ・出血が、歯周病と間違われたために、がんの発見・治療が遅れたケースもあります。
歯周病は誤嚥性肺炎・動脈硬化症・感染性心内膜炎などの全身疾患につながります。がんではないことを理由に放置せず、医療機関を受診してください。
入れ歯が合わなくなる
歯周組織にがんが広がると、入れ歯の装着時の違和感や、入れ歯と歯肉の接触による痛みが発生します。また、合わない入れ歯(不適合義歯)による刺激は、口腔がんの一因と考えられています。
入れ歯を適切に使用するためには、定期的なメンテナンスが必要です。
歯肉がんの治療
この項目では、歯肉がんの治療法を解説します。歯肉がんを含む口腔がんは、悪性腫瘍の大きさ・広がり具合・転移の有無で、4段階のステージに分類されます。ステージ0~2は早期のがんで、ステージ3・4はがんが進行した状態です。
手術
歯肉がんなどの口腔がんの治療の中心は、がんを切除する外科手術です。歯肉がんは顎の骨に広がりやすく、早期がんでも顎の骨を切り離すことがあります。
がんがリンパ節に転移している場合や、転移の可能性が高いと考えられる場合には、首のリンパ節とその周辺の手術(頸部郭清)が行われます。
放射線治療
歯肉がんの放射線治療は、手術でがんが切除できなかった場合・がんが別の組織に転移している場合・再発の可能性が高い場合などに行われる治療法です。
放射線治療の副作用により、口内炎・むし歯・頬骨の壊死などが起きることがあります。がん治療を計画通りに進めるには、副作用や感染症を抑えるための口内ケアが必要です。
化学療法
歯肉がんが進行・転移している場合は、放射線治療と合わせて抗がん剤による化学療法が行われます。
歯肉がん以外の口腔がん
この項目では、歯肉がん以外の口腔がんである、舌がん・口腔底(口底)がん・頬粘膜がん・硬口蓋がんについて解説します。
舌がん
舌がんは口腔がんの約60%を占める悪性腫瘍です。舌がんの70%は舌縁部と呼ばれる舌の側面に発生します。舌がんはステージ0~2の早期がんでも、頸部リンパ節に転移する可能性があります。
口腔底(口底)がん
口腔底(口底)がんは、口腔底と呼ばれる舌と歯肉の間の窪んだ部分に発生する悪性腫瘍です。歯肉がんと同じく、手術による治療が一般的で、がんの進行度によっては舌や舌骨上筋群(顎舌骨筋・顎二腹筋・茎突舌骨筋・オトガイ舌骨筋)を切除する場合があります。
頬粘膜がん
頬の粘膜に発生するがんが、頬粘膜がんです。頬粘膜がんの患者さんの頬には、しこり・えぐれ(潰瘍)などが現れます。がんが顎の骨や歯に及んでいる場合は、これらの組織も切除されます。
硬口蓋がん
硬口蓋は、上顎の天井にあたる硬い部分です。この部分に発生した悪性腫瘍は硬口蓋がんと呼ばれており、上顎や口蓋の骨にがんが広がっていることがあります。硬口蓋がんにかかりやすい年齢は60~70歳です。また、患者さんの18~46%は頸部リンパ節への転移が確認されます。
歯茎にできる口腔がんについてよくある質問
ここまで口腔がんの種類・症状・治療法などを紹介しました。ここでは「歯茎にできる口腔がん」についてよくある質問に、Medical DOC監修医がお答えします。
歯肉がんの見分け方を教えてください。
酒向 誠(医師)
歯肉に硬いしこりやできもの・ぶつぶつ・ただれ・えぐれなどが見られる場合、これらは歯肉がんの代表的な初期症状です。しかし、これらの症状は口内炎や歯周病と間違われることが多く、診断や治療が遅れた例が少なくありません。2週間以上口内炎が治らない場合や歯周病の症状がある場合は、医療機関を受診してください。
歯肉がんは何科を受診すればよいですか?
酒向 誠(医師)
まずは歯科・口腔外科・耳鼻咽喉科などを受診してください。歯肉がんの治療には、手術や術後療法だけではなく、失われた口腔の機能を取り戻すためのリハビリテーションも必要です。診察・検査の後、対応している医療機関を紹介します。
編集部まとめ
口腔がんは、口腔内の組織に発生する悪性腫瘍です。口腔がんの約60%は舌がんで、その次に割合が高いのが歯肉がんです。
歯肉がんは、歯肉(歯茎)に発生します。初期症状が口内炎や歯周病の症状と似ているため、がんの発見が遅れることがあります。
一般的な口腔がんの治療法は、手術によるがんの切除です。4段階で示されるステージ(進行度)によっては、術後補助療法として放射線治療・化学療法が行われることもあります。
舌がん・口腔底がん・頬粘膜がん・硬口蓋がんが、歯肉がん以外の口腔がんです。
口腔がんと関連する病気
「口腔がん」と関連する病気は8個程あります。
各病気の症状・原因・治療方法など詳細はリンクからMedical DOCの解説記事をご覧ください。
白板症と紅板症(紅色肥厚症)は、口腔がんに移行する可能性が高い口内粘膜の病気です。舌・歯肉・頬などの粘膜が、白・赤・黒に変色している場合は注意が必要です。初期の口腔がんは、口内炎や歯周病と症状が似ているため、がんの診断が遅れたケースもあります。また、口腔がんは咽頭がん・喉頭がん・食道がん・肺がんなど関係が深い病気です。そのため、患者さんが複数のがんを併発していることもあります。
口腔がんと関連する症状
「口腔がん」と関連している、似ている症状は4個程あります。
各症状・原因・治療方法などについての詳細はリンクからMedical DOCの解説記事をご覧ください。
関連する症状
- 口内粘膜のただれ・変色
- 口内のしこり
- 歯茎の腫れ・出血
- 歯のぐらつき
ピンク色の口内粘膜が白・赤・黒に変色している場合は、口腔がんの前がん病変である白板症・紅板症の可能性があります。歯茎の腫れや出血、歯のぐらつきは、歯周病にも現れる症状です。2週間経過しても治らない場合は、歯科・口腔外科・耳鼻咽喉科を受診してください。