「バセドウ病から甲状腺がんになる」ことはある?甲状腺がんの症状も医師が解説!

甲状腺は人間の新陳代謝を調節するホルモンを分泌する臓器であり、このホルモン調節が乱れると適切な新陳代謝が行えなくなるでしょう。
新陳代謝は脈拍や体温などを調節する働きがあるため、甲状腺は人間が生きていくうえで重要な臓器といえます。
甲状腺関連の疾患では、新陳代謝に関わる甲状腺ホルモンの分泌異常をきたすものがあり、放置すると命の危機に晒されることもあるでしょう。
今回は、そのような甲状腺の病気や症状について、甲状腺がんの話題を交えながら解説していきます。

監修医師:
中路 幸之助(医療法人愛晋会中江病院内視鏡治療センター)
目次 -INDEX-
甲状腺がんとは?
甲状腺がんとは甲状腺にできた悪性の腫瘍のことをいい、主に4種類に分類できます。
- 乳頭がん
- 濾胞がん
- 髄様がん
- 未分化がん
まず、乳頭がんは甲状腺がんの全体のうち約90%の割合で発生するとされ、甲状腺がんのなかでは発生率が高いです。乳頭がんは進行の遅いがんに分類されますが、悪性度の高い未分化がんに代わることもあるので油断は禁物です。
発症頻度として乳頭がんに次ぐのは濾胞がんで、肺や骨に転移しやすいといわれています。3番目の髄様がんは遺伝性で家族に髄用がんを患っている方がいる場合は、罹患しやすいとされているがんです。
また、髄様がんは褐色細胞腫という循環系統を調節するカテコールアミンを過剰に分泌させる副腎の病気を伴うことがあります。最後に未分化がんですが、このがんは甲状腺がんの約1%~2%程度と発生率は低いものの、発生してしまえば急速に腫瘍の増大や転移してしまう予後不良のがんとされています。
主な甲状腺の病気
甲状腺の病気は、甲状腺が産生する甲状腺ホルモン分泌に異常を与えるものがあります。
甲状腺ホルモンは胎児の発育にも影響するといわれており、特に妊娠前・妊娠中・授乳期では甲状腺のコントロールを良好な状態で維持する必要があるでしょう。ここからは、そのような甲状腺の病気について解説していきます。
バセドウ病
バセドウ病は甲状腺ホルモンの分泌過剰を引き起こしてしまう病気です。バセドウ病では以下のような症状があります。
- 動悸
- 手の震え
- 汗かき
- 甲状腺の腫大
- 眼球突出
これらの症状は、甲状腺ホルモンにより新陳代謝が亢進しているが故に出現する症状です。この状態は安静にしているのに、体のなかでは常に走り続けているというイメージに近いでしょう。
この状態が継続すると、不整脈の発生や栄養不足に陥る可能性もあり、健康上あまりよくない状態といえるでしょう。バセドウ病の検査には血液検査や超音波検査などを行うことで診断できます。
治療では薬を使用して甲状腺ホルモンの産生量を低下させ、甲状腺機能を調節していき血液検査で評価します。薬を開始してから2週間後くらいには少しずつ改善が期待でき、1~2ヵ月程でかなりの改善が期待できるでしょう。
コントロールがつけば健康な人と同じように生活を送ることも可能です。バセドウ病を疑うような症状がある場合は、早めに受診しましょう。
橋本病
橋本病はバセドウ病とは逆に、甲状腺ホルモンの分泌量が減少してしまう疾患です。症状は以下のようなものがあります。
- むくみ
- 寒がり
- 便秘
- 物忘れ
これらの症状は、新陳代謝が落ちるが故に起こるとされており、自身の免疫異常によって甲状腺に慢性炎症が発生していると考えられています。
症状が軽度であれば治療の必要はありませんが、治療が必要な場合は甲状腺ホルモン剤を内服することになるでしょう。甲状腺機能低下が改善されれば、内服も終了となることもあります。
しかし、治ったと思って安心してはいけません。喫煙は橋本病のリスク因子とされており、喫煙を継続していると橋本病を再発する恐れがあります。そのため、橋本病と診断されたら禁煙するようにしましょう。
無痛性甲状腺炎
痛みのない炎症が甲状腺に起こり、甲状腺の細胞が徐々に破壊されていきます。甲状腺細胞が破壊されることで血液中に甲状腺ホルモンが流れ出し、甲状腺ホルモンが過剰になりバセドウ病と似た症状を呈するでしょう。
しかし、この症状は一時的なもので1ヵ月程度で治まるといわれています。その後、今度は甲状腺ホルモンが欠乏状態になりますが、この症状も一時的なもので半年以内にもとの状態に回復するでしょう。
亜急性甲状腺炎
亜急性甲状腺炎はウイルス感染が原因と考えられています。ウイルス感染により、甲状腺ホルモンが過剰となり、バセドウ病と似た症状を呈するでしょう。また、亜急性甲状腺炎に特徴的な症状として発熱や前頸部の痛みも加わってきます。
甲状腺の腫瘍(良性)
甲状腺の腫瘍が良性の場合、甲状腺ホルモンが過剰に産生されることがあるので、バセドウ病と似た症状を呈することもあります。
ほかにも甲状腺のしこりや甲状腺全体の腫れなどがあり、女性では美容の関係上気にする方もいるでしょう。そのような場合は、手術などを行いますが原則的には経過観察になります。
甲状腺がん
甲状腺がんは甲状腺腫瘍が悪性であった場合に診断されます。前頸部の腫れやしこりが主な症状で、進行し腫れが大きくなってくると嗄声や嚥下障害をきたすこともあるでしょう。
治療としては手術が第一選択になり、腫瘍の大きさや周囲への浸潤具合などを調べたうえで、甲状腺をどこまで摘出するかを検討します。
バセドウ病から甲状腺がんになることはある?
バセドウ病が甲状腺がんの発生に関与しているかはよくわかっていません。しかし、甲状腺がんとバセドウ病が合併することはあるようです。
そのため、バセドウ病の治療を行う際は、甲状腺がんが背景に潜んでいないか精査を行う必要があります。
甲状腺がんの症状
甲状腺がんは腫瘍の大きさによって呈する症状はさまざまです。ここでは甲状腺の腫瘍の進行具合によって、どのような症状が出現するのか解説していきます。
しこり
甲状腺がんでは甲状腺に腫瘍ができ、首元周辺にしこりを自覚する可能性があるでしょう。鏡を見たときに首元が腫れていると気付いた場合は、早めに受診しましょう。
のどの違和感・痛み・血痰
甲状腺がんが気道にまで進行してくると、のどの違和感・痛み・血痰などの症状が出現します。
声のかすれ
甲状腺がんが声帯の神経にまで広がってくると、声帯を支配する反回神経が麻痺し声のかすれを自覚するようになるでしょう。
飲み込みにくさ・誤嚥
甲状腺がんが食道に転移すると、食事にも影響を与えるでしょう。症状としては嚥下時の違和感や嚥下障害が現れ、嚥下障害による誤嚥リスクも上昇します。
呼吸困難
気管へ転移し進行してくると、気管狭窄による呼吸困難を生じることもあるでしょう。ここまでくるとかなり進行していると考えられるので、症状がある方は早急に受診しましょう。
バセドウ病から甲状腺がんについてよくある質問
ここまでバセドウ病や甲状腺がんの症状や治療法などを紹介しました。ここでは「バセドウ病から甲状腺がん」についてよくある質問に、メディカルドック監修医がお答えします。
症状からバセドウ病と甲状腺がんを見分ける方法はありますか?
バセドウ病は、発汗や眼球突出などの甲状腺ホルモン分泌亢進による症状がありますが、甲状腺がんでは甲状腺ホルモンの異常が起きません。また、甲状腺がんは進行すると嗄声・嚥下障害などの症状が表れますが、これらはバセドウ病にはない症状です。
甲状腺がんが疑われる場合は何科を受診すればよいですか?
甲状腺の治療を担当するのは頭頚部外科・耳鼻咽喉科・内分泌内科・甲状腺外科です。耳鼻咽喉科以外の診療科は町のクリニックではなかなか見かけないので、まずは耳鼻咽喉科を受診して相談するのも一つでしょう。
編集部まとめ
甲状腺ホルモンは人間の新陳代謝に関わるホルモンであり、分泌異常が起こると激しいスポーツができなくなるなど生活に支障をきたしてしまいます。
治療がうまくいきコントロールが良好になれば、生活の制限が解除されることもあるでしょう。
また、甲状腺がんであった場合、がん種によっては進行が早いものもあります。がんが進行すると嚥下機能や呼吸にも影響してくるでしょう。
このような症状が出現した場合、命の危険もあります。その場合は早めに受診し、医師に相談してみましょう。
甲状腺がんと関連する病気
「甲状腺がん」と関連する病気は2個程あります。
各病気の症状・原因・治療方法など詳細はリンクからメディカルドックの解説記事をご覧ください。
褐色細胞腫は甲状腺がんの種類のなかの髄様がんに罹患したときに合併する可能性があります。褐色細胞腫ではカテコールアミンという血圧や心拍数を亢進させるホルモンが過剰に分泌され、高血圧や不整脈といった症状を呈することがあるでしょう。次にバセドウ病ですが、バセドウ病を罹患している背景には甲状腺がんが潜んでいる可能性があります。そのため、バセドウ病と診断された場合は甲状腺がんについて精査をすることが必要です。
甲状腺がんと関連する症状
「甲状腺がん」と関連している、似ている症状は5個程あります。
各症状・原因・治療方法などについての詳細はリンクからメディカルドックの解説記事をご覧ください。
関連する症状
- しこり
- のどの違和感・痛み・血痰
- 嗄声
- 嚥下障害や誤嚥
- 呼吸困難
これらの症状は腫瘍が増大もしくは転移し、咽頭部・声門の神経・食道・気道などの器官を圧迫してしまうことで起こる症状です。転移してしまってからでは治療が難しくなってしまうため、しこりなど甲状腺がんと疑われる症状を自覚した場合、すぐに受診し医師に相談することが大切です。




