「成人T細胞白血病」の初期症状・九州地方に多い理由はご存知ですか?医師が解説!
成人T細胞白血病とは?Medical DOC監修医が成人T細胞白血病の症状・白血病との違い・九州地方に多い理由・初期症状・原因・生存率・治療法や何科へ受診すべきかなどを解説します。気になる症状がある場合は迷わず病院を受診してください。
監修医師:
今村 英利(いずみホームケアクリニック)
神戸大学大学院(腫瘍・血液内科学講座)にて血液悪性腫瘍の研究に従事。医学博士号を取得。
赤穂市民病院、亀田総合病院、新宿アイランド内科クリニック院長などを歴任後、2023年2月いずみホームケアクリニックに常勤として着任。現在は内科全般の疾患を幅広く診療している。
目次 -INDEX-
「成人T細胞白血病」とは?
成人T細胞白血病とは、HTLV-1(ヒトT細胞白血病ウイルス1型)というウイルス感染が原因で起こる病気です。HTLV-1が血液中の白血球の一種であるT細胞に感染し、がん化することによって発症します。HTLV-1に感染したすべての人が、成人T細胞白血病になるわけではありません。HTLV-1に感染した人(HTLV-1キャリア)は、約5%の頻度で成人T細胞白血病が発症すると言われています。
成人T細胞白血病と白血病の違いとは?
成人T細胞白血病は、白血病と名前がついていますが、リンパ系の悪性腫瘍である悪性リンパ腫の特殊なタイプです。成人T細胞白血病はHTLV-1ウイルスの感染により引き起こされることが明らかになっています。一方、白血病は血液細胞が骨髄で作られる過程でがん化することによって起こります。造血幹細胞に遺伝子異常が起こることが原因です。成人T細胞白血病と白血病は名前が似ていますが、二つの病気には上記のような違いがあります。
成人T細胞白血病の罹患率が九州地方に多い理由とは?
成人T細胞白血病の原因であるウイルスのHTLV-1は、母乳を介した母子感染、性感染、輸血による感染の3つの感染経路があるとわかっています。このため、母子感染や性感染を通じて特定の地域に広まりやすいと考えられています。もともとは九州・沖縄地方に多いことが知られていましたが、人の異動に伴い近年では大都市圏で増加傾向にあります。
成人T細胞白血病の代表的な症状
成人T細胞白血病はHTLV-1に感染したT細胞が、長い年月をかけてがん化し、発症します。そのため、40才以下での発症は珍しく、発症のピークは70才頃です。以下のような症状が起こることがあるため、気を付けましょう。
強い倦怠感・高熱
1週間以上続く発熱や、全身のだるさが起こることがあります。最初は風邪の症状と似ているため、なかなか気がつきづらいこともあります。症状が持続する場合には、風邪ではないかもしれません。医療機関を受診して、精密検査を受けましょう。まずは、内科を受診するのが良いでしょう。
リンパ節の腫れ
全身のリンパ節(首、鎖骨、わき、そけい部、膝の裏など)が腫れあがります。リンパ節が腫れることは、風邪などの感染症によっても起こり得ます。リンパ節の腫れがあるからと言って、一概に異常とは言えませんが、リンパ節の腫れに気がつき、症状が長く続いたときには一度内科を受診し、血液検査などの精密検査を受けることをお勧めいたします。
皮膚症状
成人T細胞白血病では、皮膚に赤くはれた皮疹や皮膚のしこりがみられることがあります。いつもと違う皮膚の症状が現れた場合には、まず皮膚科を受診してみてもらうと良いでしょう。
このほかにも成人T細胞白血病では、免疫力の低下により感染症が起こりやすくなったり、血液中のカルシウム濃度が上がることにより口渇、吐き気、意識がぼんやりするなどの症状が出ることもあります。
成人T細胞白血病の前兆となる初期症状
成人T細胞白血病の代表的な病型である急性型、リンパ腫型では以下のような初期症状が起こります。一方、くすぶり型ではほとんど症状がなく、あっても皮膚症状のみです。慢性型も無症状であることが多いですが、リンパ節の腫れを伴うこともあります。
全身のリンパ節や肝臓・脾臓の腫れ
急性型、リンパ腫型では頸部、鎖骨部、わきの下、鼠径部など全身にあるリンパ節の腫脹がみられます。通常、痛みはありませんが、腫瘤が大きくなると周囲を圧迫して症状が出ることもあります。
発熱
急性型、リンパ腫型ではリンパ節の腫脹とともに原因不明の発熱が持続します。通常と異なり、原因がわからない熱が1週間以上続く場合には、何かしらの病気が隠れている可能性があります。早急に病院を受診しましょう。
皮膚の赤い皮疹、皮下腫瘤
皮膚の赤い発疹や皮下腫瘤(皮膚の下にできるしこり)がみられます。これらの皮膚症状がなかなか治らない場合には、皮膚科を受診しましょう。くすぶり型では無症状であることも多く、この皮膚症状のみ見られることもあります。
成人T細胞白血病の原因
TLV-1感染
成人T細胞白血病の原因はHTLV-1ウイルスの感染であることが分かっています。このため、感染を予防することが一番大切です。主な感染経路は、母子感染と性行為による感染です。母子感染に関しては、長期授乳による母子感染率が20.5%に対し、人工栄養による母子感染率は2.4%と報告され、人工栄養による保育が推奨されています。
喫煙
成人T細胞白血病はHTLV-1キャリアから発症します。現在のところ、キャリアが成人T細胞白血病を発症することの予防の手立ては見つかっていません。しかし、成人T細胞白血病の発症に関しては、喫煙者の方が発症のリスクが高いということが分かっています。そのため、HTLV-1キャリアの方で喫煙されている場合には、成人T細胞白血病を発症しないためにも禁煙をしましょう。
成人T細胞白血病の余命・生存率
成人T細胞白血病は4つの臨床病型に区別されています。臨床病型は「急性型(57%)」「リンパ腫型(19%)」「慢性型(19%)」「くすぶり型(6%)」にわかれています。
「急性型」と「リンパ腫型」と「予後不良因子(LDH、アルブミン、BUNのいずれか1つ以上が異常値)を持つ慢性型」では、急速な経過をとることが多いです。
余命を考える意味で、生存率を考慮しますが、上記の急速に進行するものでは生存率が低いです。50%の生存期間が「急性型」で6か月、「リンパ腫型」で10か月、「予後不良因子を持つ慢性型」で15か月となっています。決して予後が良いとは言えず、早期に末期症状となることも考えられ、注意が必要です。
一方、比較的緩やかな経過をたどる「くすぶり型」と「予後不良因子を持っていない慢性型」では4年生存率がそれぞれ約63%と約70%です。
成人T細胞白血病の治療法
薬物治療
急性型やリンパ腫型、予後不良因子のある慢性型では、複数の抗がん剤を用いて化学療法を行うことで効果を高める治療を行うことが多いです。しかし、抗がん剤による副作用もあり、患者さんの病状や体力などを考慮し、治療方針が決められます。詳細を主治医に確認しましょう。
同種造血幹細胞移植
造血幹細胞移植は、大量の抗がん剤投与や放射線治療を行い、がん細胞を減らした後に提供者(ドナー)から正常な造血幹細胞を移植して治療をする方法です。
同種造血幹細胞移植は、HLAと呼ばれる白血球のタイプが一致している提供者がいる事、年齢や全身状態などで条件が決められています。自分が造血幹細胞移植の条件に合うかは、主治医に確認が必要です。
皮膚科的治療
予後不良因子のない慢性型やくすぶり型の患者さんでは、病気が進行しなければ治療を行わず経過を観察することも多いです。皮膚症状がみられる場合には、皮膚科的治療のみ行うこともあります。皮膚科処置としては、外用剤の塗布、局所放射線療法、光化学療法などを行い、皮膚の症状を改善させます。
「成人T細胞白血病」についてよくある質問
ここまで成人T細胞白血病の症状・原因・余命や生存率・治療法などを紹介しました。ここでは「成人T細胞白血病」についてよくある質問に、Medical DOC監修医がお答えします。
妊娠中の方がTLV-1に感染していることが判明した場合、胎児に影響はありますか?
今村 英利 医師
妊娠中の方がHTLV-1に感染していても、赤ちゃんに生まれつき障がいが生じたり、生まれた後に異常を起こしたりすることはありません。しかし、母乳による感染を起こすためミルクのみで赤ちゃんを育てることが推奨されています。しかし、この方法を選択した場合でも約3%で赤ちゃんにHTLV-1が感染してしまうことも報告されています。これは、胎盤からの感染を含む子宮内感染や産道感染によるものと考えられています。妊娠中にHTLV-1に感染していることが判明した場合、通院中の産科の先生に相談をしましょう。
成人T細胞白血病の罹患率が高い都道府県を教えてください。
今村 英利 医師
成人T細胞白血病の原因ウイルスであるHTLV-1のキャリアは地域での偏りがみられます。HTLV-1キャリアが多い地域は、沖縄、鹿児島、宮崎、長崎県であり、キャリア率は約5%と多いです。これらの地域で国内キャリアの1/3を占めています。九州で多い理由は、はっきりとは分かっていませんが感染力があまりなく、母子感染や性行為での感染がほとんどであると考えると交通手段が発達していない頃では、この地域から感染が広がりにくかったためと考えられます。
成人T細胞白血病の主な感染経路について教えてください。
今村 英利 医師
成人T細胞白血病の原因ウイルスであるHTLV-1の感染経路は、3通りあると言われています。母乳による母子感染、性交渉による感染、輸血による感染です。
輸血による感染に関しては、献血時に感染の有無を確認するようになり、現在は新たな感染報告はありません。
まとめ 成人T細胞白血病は感染予防が肝心
成人T細胞白血病の原因は、HTLV-1ウイルスの感染です。感染してキャリアになっても、発症するまで長い年月がかかるため40歳以下での発症は少なく、発症のピークは60才以上です。生涯において発症する割合も5%程度と言われています。しかし、一旦感染した後に発症を予防する手立てが見つかっておらず、成人T細胞白血病の予後は決して良いものではないことを考えると、感染予防がとても重要です。HTLV-1の感染経路は3通り、母子感染、性交渉による感染、輸血による感染です。これらの感染経路をなるべく絶つことで、HTLV-1の感染を予防できます。抗HTLV-1抗体が陽性であった場合には、自分の発症に気を付けるとともに、周囲への感染予防に気をつけましょう。
「成人T細胞白血病」と関連する病気
「成人T細胞白血病」と関連する病気は5個ほどあります。
各病気の症状・原因・治療方法など詳細はリンクからMedical DOCの解説記事をご覧ください。
内科の病気
- 感染症
皮膚科の病気
成人T細胞白血病の症状である発熱、リンパ節の腫脹、倦怠感などは他の血液疾患でも起こり得るため注意が必要です。また、高カルシウム血症も多発性骨髄腫や薬剤が原因でみられます。これらの異常がある場合には、まず内科を受診して精密検査が必要です。また、皮膚のみの症状のこともあります。皮膚の発疹が長引く時には皮膚科を受診しましょう。
「成人T細胞白血病」と関連する症状
「成人T細胞白血病」と関連している、似ている症状は6個ほどあります。
各症状・原因・治療方法などについての詳細はリンクからMedical DOCの解説記事をご覧ください。
関連する症状
- 長引く発熱
- リンパ節の腫脹
- 倦怠感
- 口渇
- 意識がぼんやりする
- 長引く皮疹
上記のような症状がある場合には成人T細胞白血病の可能性があります。しかし、感染症をはじめとする他の病気の可能性もあり、まず医療機関を受診することが必要です。