「膵臓がんの手術方法」はご存知ですか?術後の注意点や入院期間も解説!
日本での膵臓がんは近年増加傾向にあり、毎年3万人以上の方が亡くなっているとの報告もあります。
こんなに死亡率が高い病気にも関わらず、実際には膵臓が体のどこにあるのかさえ知らない方も少なくないのではないでしょうか。
膵臓がんはサイレントキラーとも呼ばれ、症状が出たときにはかなり進行して手術できないこともある怖い病気です。そこで今回は、膵臓がんの手術と術後の対策・注意点について詳しく解説します。
これから膵臓がんの手術を受ける方はもちろん、膵臓がんの症状がある・膵臓がんの家族歴がある方もぜひこの記事を最後までお読みください。
監修医師:
甲斐沼 孟(上場企業産業医)
目次 -INDEX-
膵臓がんとは?
膵臓がんは、膵臓から発生した悪性の腫瘍です。そのうち約80~90%の大半を占めるのは、膵管に発生する膵管がんです。
膵がんは60歳以上の方で、やや男性に多く発症する傾向があるでしょう。膵臓は胃の裏側にある臓器で、その機能には以下の2つがあります。
- 膵液を分泌して消化吸収を促進する
- インスリンを分泌して血糖を低下させる
このような膵臓の機能が低下すると、消化不良・下痢・食欲不振などの症状が出ることがあります。
膵臓がんが発生しても小さいうちは症状が現れません。進行すると、腹部膨満感・体重減少・腹痛・背部痛・高血糖・黄疸などの症状が起こることがあります。
膵臓がんの手術
膵臓がんの治療には、化学療法・放射線療法のほかに外科的療法として手術の3つがあります。
治療方法は、以下のような3つのがんの状態によって異なります。
- 切除可能:安全性に配慮し残りなくがんを切除できる状態
- 切除可能境界:剥離面にがんが残る可能性の高い状態
- 切除不能:がんを残りなく切除することができない状態
併せて、ステージI~IVでの病期の推移に伴う治療方法については以下を参照ください。
- ステージI~IIまでの切除可能な膵臓がん:術前補助化学療法をして切除・補助化学療法を行う
- ステージIIIの局所進行膵臓がん:化学療法・化学放射線療法の治療を行う
- ステージIVの遠隔転移を有する膵臓がん:手術は行わず化学療法が適用される
膵臓の周りには重要な血管があるため、膵臓がんの手術は難易度が高く、術後合併症も多く発生しています。手術の前には、採血でお腹の状態を調べたうえで、超音波・CT・MRI・超音波内視鏡などを用いてがんの広がりを調べます。
また、生検といって病変の一部を採取してがんか否かを確認することもあるでしょう。
検査のうえで、手術が可能かどうかを基準に治療方針が決められます。
膵頭十二指腸切除術
膵臓の十二指腸近くにできたがんの場合は、膵頭十二指腸切除術と呼ばれる難易度の高い手術が必要になります。この手術では、門脈を中心に右側を切除し、膵頭部を切除する時は十二指腸・胆のう・胆管の一部も摘出します。
膵・胆管・胃に小腸を持ち上げてつなぎ合わせる(吻合)場合は、胃と腸を結ぶ再建をしなければなりません。術後に重症の合併症が起こりやすく、再手術が必要になるケースもあります。
術後に出血がある場合は、膵臓を切った部分から膵液が漏れて重症化する膵液ろうの可能性があるため、しばらくは厳重に経過をみる必要があるでしょう。
膵体尾部切除術
膵体部・尾部がんに対する手術には、膵体尾部切除術が行われます。
膵尾部には脾臓という臓器があり、門脈を中心に左側にがんがある時は、膵切尾部と一緒に脾臓も切除する場合が多いでしょう。
膵臓の対尾部と脾臓を摘出しますが、再建術は不要です。従来の開腹手術では大きな創部が残りましたが、最近の腹腹腔鏡手術では創部があまり目立ちません。
これによって患者側への体や心の負担が軽減されています。
膵全摘術
膵全摘術は、膵臓をすべて摘出する手術です。がんが膵臓全域に達している場合・膵切除の後に残った膵臓に腫瘍ができた場合には、膵臓の全摘出になります。
膵頭十二指腸切除と膵体尾部切除が組み合わさった膵臓を全摘出する手術で、体に与える影響が大きい手術といえるでしょう。
患者さん側への侵襲・ストレスをなるべく小さくするため、最終手段として選ばれます。
バイパス手術
バイパス手術は、がんで詰まった部分に迂回路を作る手術です。バイパス手術は多くの場合、進行した切除不能ながんに対して行われ、部位や病態に応じてさまざまな方法があります。
食べ物や胆汁の流れるルートを確保することが目的なので、がん自体は切除しません。
例えば、膵臓がんが小腸や大腸にまで達して消化管を塞いでいるような場合に、塞がった腸の前後をつなぐバイパス手術を行います。
膵臓がんの手術後の対策
膵臓がんは、術後合併症が多く、手術自体も難易度の高い手術となっています。再発を避けるため、以下に術後の対策を解説します。
膵酵素補充
膵臓の手術後は、一時的に胃腸の働きが低下します。膵臓酵素補充は、食べ物を消化吸収するための膵消化酵素を含んだ薬を服用して、胃腸の働きが治るまでサポートする治療法です。
現在は腸溶コーティングされている酵素薬を使用する場合がほとんどですが、今後は栄養吸収率を上げるため別の酵素薬による治療も検討されています。
糖尿病対策
手術で膵臓を切除した場合は、既往の糖尿病が悪化することがあります。あるいは、もともと糖尿病がなかった方でも急に糖尿病を発症するケースもあります。膵臓がん手術後の対策として、糖尿病の専門の医師に相談してください。
特に、膵臓を全摘出した場合は、血糖を下げるインスリンというホルモンが分泌されなくなります。
退院後は、自分で注射を打ってインスリンを補う必要があります。退院前に、担当の医師や看護師から注射の方法などの指導を受けるとよいでしょう。
膵膵臓がんの手術後の注意点
膵臓がんの術後の注意点として、補助化学療法に抗がん剤を用いることがあります。
抗がん剤は、体内に残存しているかもしれないがん細胞にダメージを与えて、再発のリスクを減らすことを目的にしています。
一方、同時に正常な細胞をも攻撃してしまうかもしれません。副作用の恐れがあるので、きちんと外来に通院することが大切です。
手術後は担当の医師の指示に従い、以下のポイントに注意してください。
手術後の痛みについて
手術後の創部の痛みについては、個人差があるため一概にはいえません。通常は、術後数ヵ月間は運動すると腹部に痛みを感じたり、ひきつれ感があったりすることが報告されています。
ただし、日常作業の範囲内でなら術後1~2ヵ月から軽作業が可能になってきます。少なくとも腹部痛みがある間は、激しい運動を控えた方がよいでしょう。
お腹に入っているドレーンについて
膵臓がんの手術後には、患者さんが楽に過ごせるようドレーンと呼ばれる管をお腹に2~3本入れてサポートします。
入院中は、担当の医師がたえず 出血がないかや膵液漏がないかなど異常がないように術後観察をします。大きくて邪魔だからと自分で勝手に抜かないよう気をつけてください。
経過が良好なら、術後3~5日後にはドレーンを抜きますが、術後合併症が起きた場合は症状が改善するまで入れたままにします。
食事・排泄について
膵体尾部切除の手術では消化管を切除しないので、食事に関して手術前とあまり変化はありません。しかし、膵頭十二指腸切除の手術では消化管を切除・再建しているので、食べる量は減ってしまうでしょう。
食事は消化吸収機能が低下しているので、以下のポイントに注意してください。
- 3日目から3分粥を開始し、徐々にお腹を馴らしていきましょう。
- 無理せず食べれる量を1日5~6回に小分けにして栄養を摂ってください。
- 栄養バランスを考えて、一口ずつよく噛んで食べましょう。
また、手術後は一時的に腸の動きが鈍くなるため、便秘・下痢など排泄に問題を生じることがあります。再び腸の動きが活発になりおならが出るまでには3~4日かかります。
便秘が続く場合は、便秘薬や座薬などで対応できるので、医師に相談しましょう。
下痢が続く時は水分を十分に補給してください。
運動について
日常生活について大きな制限はありません。術後はできるだけ体を動かし、入院前の状態に近づけていくことがリハビリの第一歩です。
十分な睡眠・休養を取り、適度な運動を続けてください。運動を継続することで、呼吸機能を回復し、体力回復を早めてくれるでしょう。退院後の状態が落ち着けば、旅行も可能です。仕事は、無理のない範囲で行ってください。
膵臓がんの手術についてよくある質問
ここまで膵臓がんの手術・手術後の対策・注意点などを紹介しました。ここでは「膵臓がんの手術」についてよくある質問に、Medical DOC監修医がお答えします。
膵臓がん手術の入院期間はどのくらいですか?
甲斐沼 孟(医師)
膵臓がん手術の入院期間は、合併症がなければ10日〜2週間前後が目安です。これは、持病の有無・合併症の発生状況によっても個人差があるでしょう。また、手術の2日前に入院して準備を始める場合もあります。手術後当日は集中治療室に入ってベッドの上で安静にして休養しますが、翌日からは立って歩くリハビリをスタートします。退院の時期は、術後の体調や状態に応じて医師の判断を仰いでください。
膵臓がんは手術をしても再発しやすいのでしょうか?
甲斐沼 孟(医師)
膵臓は多くの消化器官・リンパ節・重要な動脈・静脈などに囲まれているため、がんは完全に切除しにくく、再発しやすいとされています。手術で切除しきれたように見えたがん、一度は画像診断などで見えなくなったがんであっても再び膵臓に現れることもあります。このように膵臓がんは早期から転移を起こしやすく、手術後に肺などほかの臓器に転移することもあるので注意が必要でしょう。
編集部まとめ
今回は、膵臓がんの手術と術後の注意点について徹底解説しました。
膵臓がんの手術は難しく、術後5年の生存率は10%にも達していません。初期症状に気付きにくく、自覚症状が出たときにはステージがかなり進行していることも少なくないため、定期的な診断が重要となってきます。
しかし、膵臓がんの治療は、早期の段階で発見することができれば手術は可能です。
今回紹介したような症状や膵臓がんの家族歴のある方は、定期検診で精密検査を受けることにより早期発見につながるしょう。
膵臓がんの小さな初期症状を見逃さず、早期発見・早期治療に努めてください。
膵臓がんと関連する病気
「膵臓がん」と関連する病気は5個程あります。
各病気の症状・原因・治療方法など詳細はリンクからMedical DOCの解説記事をご覧ください。
関連する病気
- 神経内分泌腫瘍
- 膵管内乳頭状粘液性腺腫
- 粘液性嚢胞腺腫
- 単純性嚢胞
- 漿液性嚢胞腺腫
胆管や十二指腸の病気にも関連がありますが、膵臓に関連する疾患で手術療法が必要となるものの多くは腫瘍性の病気でしょう。腫瘍性の病気には悪性・悪性良性の境界・良性の3つに分けられます。
それぞれ説明します。悪性疾患には、膵臓がんのほかに神経内分泌腫瘍がありますが、膵臓がんに比べると頻度は高くないでしょう。また、悪性良性の境界病変には、膵管内乳頭状粘液性腺腫・粘液性嚢胞腺腫などがあります。良性腫瘍には単純性嚢胞・漿液性嚢胞腺腫などがありますが、通常は手術の必要はありません。
膵臓がんと関連する症状
「膵臓がん」と関連している、似ている症状は8個程あります。
各症状・原因・治療方法などについての詳細はリンクからMedical DOCの解説記事をご覧ください。
膵臓がんは、ステージが進行すると、上記のような症状が出てきます。腹部の神経叢・十二指腸・胆管などに近いため、背部痛・腸閉塞・黄疸が発症することもあります。急に糖尿病が発症・悪化した場合は、膵臓がんが見つかるきっかけになるかもしれません。このような症状は膵臓がんを疑い、早めに病院の肝胆膵内科を受診しましょう。また、膵臓がんの家族歴・喫煙・糖尿病・慢性膵炎などとの関連も指摘されているので注意してください。