「乳がんを発症すると痛み」は感じる?原因についても解説!【医師監修】
乳がんの治療法は年々高度化・多様化が進み、現在では早期に発見すれば完治の見込みが高い病気となりました。
しかし、病期が進んだ場合には乳房の全摘出が必要な場合がありますし、予後が不良な場合もあります。そのため、乳房に痛みが生じた場合、乳がんを疑い強い不安感を覚える方は多いでしょう。
この記事では乳房の痛みに焦点を当て、乳がんを疑う方々に向けて詳しい解説をしています。乳がん以外の乳腺疾患も紹介しているので参考にしてください。
監修医師:
甲斐沼 孟(上場企業産業医)
目次 -INDEX-
乳がんとは?
乳がんとは乳房内に発生する悪性腫瘍で、日本人女性で罹患数の多いがんです。
乳房は、母乳を生成する小葉と、それを乳頭へ導く乳管からなる乳腺組織で構成されています。乳がんのほとんどは乳管細胞のがん化により発生する乳管がんであり、小葉から生じる悪性腫瘍は全体の約5%程度です。
乳がんの発症率は年々増加しており、2019年時点では年間約10人に1人が乳がんと診断されています。日本での乳がん好発年齢は40〜50代であり、進行するとリンパ管の流れによって腋の下・骨・肝臓・肺・脳など全身に転移する可能性があります。
しかし、早期の段階であれば高い治癒率が期待できるため、自覚症状がなくても定期検診・セルフチェックを習慣づけることが重要です。
乳がんに痛みは生じる?
乳房にチクチク・ズキズキなどの痛みが生じると、乳がんの可能性を心配する方は多いでしょう。しかし、乳房に痛みが生じた場合に必ずしも乳がんを疑う必要はありません。
ここでは、乳房痛が乳がんを疑う要因であるかどうか、またその他の可能性について解説します。
乳がんの多くは罹患していても痛みが生じない
通常、早期の乳がんでは乳房に痛みが生じることはほとんどなく、痛みだけで乳がんを疑うことはできません。
一般的に乳がんの初発症状の大半は乳房のしこりであり、その他には血性乳頭分泌・皮膚症状・腋窩腫瘤などの症状が少数ながら報告されています。
ただし、症状の現れ方は個人差があるため、定期的な検診・セルフチェックが異常を早期に発見する鍵となります。
痛みがある場合炎症性乳がんの可能性がある
早期の乳がんで痛みが現れることはほとんどありませんが、痛みを生じる乳がんもあります。痛みを生じる乳がんの場合、炎症性乳がんの可能性が考えられます。
炎症性乳がんは全乳がんの約1%とまれな病型です。炎症性乳がんは腫瘤(しこり)がみられず、硬結をともなう腫脹や発赤、浮腫がみられます。
炎症性乳がんの進行スピードは早く、治療効果も限られるため予後不良のがんとして知られています。
手術で乳房を切開した後に痛みが生じることがある
過去に乳房手術を受けた方は、手術後の急性痛だけでなく、傷が癒えた後も継続する術後慢性痛が生じることがあります。また、手術箇所とは異なる部位に痛みが現れることもあるため、痛みの原因を特定するために適切な検査が必要です。
術後疼痛が乳房痛の主因である場合、ペインクリニック・疼痛外来など専門窓口を設けている医療機関を受診すると、痛みの軽減が期待できるでしょう。
痛みは乳がん以外の症状によることもある
乳房の痛みは月経周期など女性ホルモンの変化により女性の多くが経験するものであり、過度に心配する必要はありません。しかし、月経周期とは無関係な乳房の疼痛が1ヵ月以上続く場合、乳腺症・乳腺炎など乳がん以外に原因がある可能性も考えられます。
痛みが持続する場合は、一度医師の診察を受けることをおすすめします。
乳房に痛みが生じる原因
乳房の痛みにはさまざまな原因がありますが、必ずしも乳がんとの関連があるわけではありません。乳がん以外で一般的によくみられる乳房痛の原因を紹介します。
- 細菌によるもの
- 女性ホルモンによるもの
- 肩こりによるもの
- 肋軟骨炎によるもの
それぞれの原因を詳しく解説します。痛みが強く深刻な場合は、速やかに医療機関を受診してください。
細菌によるもの
乳管からの細菌感染により乳腺が炎症を起こすと、乳房の腫れ・痛み・高熱をともなうことがあります。
細菌感染は授乳期や乳頭が陥凹している人に多くみられ、母乳のつまり・乳頭の傷などにより発症すると考えられています。
乳房痛の原因が細菌感染の場合、抗生剤・消炎剤の投与、または外科的処置により乳房を切開して膿を出す処置が必要です。
女性ホルモンによるもの
乳房痛の主な原因は、女性ホルモン(エストロゲンとプロゲステロン)のアンバランスです。
女性ホルモンの変動によって引き起こされる乳房痛などの生理的な現象は、一般的な乳房症状である乳腺症として知られています。乳腺症による乳房痛は、女性ホルモンの影響を受けやすく、月経周期や排卵のタイミングと密接に関連しています。
そのため、女性ホルモンによる一時的な痛みであれば深刻に考える必要はないでしょう。
肩こりによるもの
肩こりが原因で胸の付近に痛みを感じるケースは少なくありません。
肩こりが肋間や胸骨周辺の筋肉を緊張させ、脇の下・乳房の外側と下側の筋肉や神経などに痛みが生じやすい傾向にあります。
また、衣服の締め付けも肩こりを引き起こし、乳房周辺の痛みを誘発してしまうことがあるため注意が必要です。
肋軟骨炎によるもの
乳腺とは関係のない胸の痛みには、肋軟骨炎によるものがあります。肋軟骨炎は、肋骨と軟骨の接合部に痛みを感じる疾患です。
また、40歳前後の女性で胸の特定の部位に強い痛み・腫れが認められる場合、ティーツェ症候群という肋軟骨関節炎が疑われます。ティーツェ症候群の原因は不明でありリウマチ性疾患との鑑別が困難であるなど、今後の病態生理の解明が期待される疾患です。
乳房に痛みが生じやすい病気とは
乳房の構造に含まれる乳腺組織は、母乳の分泌に関わる大切な器官です。しかし、乳腺には乳がんをはじめ、良性・悪性のさまざまな病気を引き起こす可能性があります。
乳房に痛みが生じる病気には次のようなものがあります。
- 乳腺症
- 乳房膿瘍
- 乳房パジェット病
それぞれの病気の特徴をみていきましょう。
乳腺症
乳がんを心配して受診される方のなかで、多く診断されるのが乳腺症です。乳腺症は30〜50代の女性によくみられ、女性ホルモンのバランスが崩れることで引き起こされる逸脱症候とされています。
乳腺症の主な症状は乳房圧痛・乳房のハリ・乳頭分泌などです。女性ホルモンの影響を受けやすく、月経前に症状が強くなる場合は乳腺症の可能性があります。乳腺症のほとんどは経過観察で、特に治療は行わないのが一般的です。
乳房膿瘍
細菌感染により発症した乳腺炎が重症化した場合、乳腺内に膿が溜まる乳房膿瘍が生じる恐れがあります。乳房膿瘍は乳房の切開による膿の排出が必要になることもあります。
また、治療によって授乳が困難になる可能性も考えられるため、症状が軽いうちに早めの診察を受けることが重要です。
乳房パジェット病
乳房パジェット病は乳がんの一種であり、発生メカニズムが未解明の珍しい疾患です。主な症状は乳輪・乳頭部が赤く腫れ、ただれたような湿疹様皮膚病変を特徴としています。
このような皮膚症状が主訴となるため、難治性湿疹・皮膚炎などと混同され、診断までに時間がかかることも少なくありません。乳房パジェット病が確定診断されれば、乳がんに準じた治療が行われます。
乳がんの痛みについてよくある質問
ここまで乳がんの痛み・痛みの原因・乳房の病気などを紹介しました。ここでは「乳がんの痛み」についてよくある質問に、Medical DOC監修医がお答えします。
乳房の痛みはカフェインやアルコールの摂りすぎでも発症しますか?
甲斐沼 孟(医師)
乳房の痛みの主な原因は女性ホルモンの影響によるものですが、カフェインやアルコールの摂取量との関連性も指摘されています。さらに、肝障害・循環器系の治療薬の使用も乳房痛の要因と考えられています。なお、アルコールの摂取とともに、閉経後の肥満などの生活習慣が乳がんのリスクを増加させる可能性があるため注意が必要です。
乳房に痛みがある場合何科を受診すればよいでしょうか?
甲斐沼 孟(医師)
乳房自体に痛みがある場合は乳腺科・乳腺外科・乳腺センターなど、乳腺に特化した医療機関の受診をおすすめします。医師をはじめ、乳腺を専門とするスタッフが診断から治療まで包括的に対応します。また、婦人科での診察後に乳腺科を紹介されるよりも、最初から専門の医師による診察を受けることが、より効果的で負担が少ないでしょう。
編集部まとめ
乳がんは日本人女性で多いがんとして知られているため、乳房に痛みを感じれば不安になるのは当然です。
しかし、乳がんは痛みがほとんどないといわれているため、あまり怖がらずにまずは乳腺を専門とする医療機関を受診しましょう。
万が一乳がんと診断された場合でも、初期段階であれば高い治癒率が期待されます。早期発見・早期治療のためには定期検診を受けるなど、普段から意識を高めることが大切です。
乳がんと関連する病気
「乳がん」と関連する病気は6個程あります。
各病気の症状・原因・治療方法など詳細はリンクからMedical DOCの解説記事をご覧ください。
乳房に多く含まれる乳腺組織は、乳がん以外にもさまざまな病気を引き起こす可能性があります。しかし、乳房パジェット病を除くこれらの疾患は良性である場合が一般的です。ただし、治療方法によっては授乳を中止する可能性もあるため注意が必要です。
乳がんと関連する症状
「乳がん」と関連している、似ている症状は4個程あります。
各症状・原因・治療方法などについての詳細はリンクからMedical DOCの解説記事をご覧ください。
関連する症状
- 乳房のしこり
- 腋の下のしこり
- 血性乳頭分泌
- 皮膚症状(ただれなど)
乳がんの初発症状の多くはしこりであり、乳房の痛み・乳房のハリ感は良性の症状であることが一般的です。しかし、乳がんは自覚症状に乏しい場合も多く、早期発見のためには定期検診や乳房のセルフチェックが重要となります。
参考文献
- 乳がん患者のボディ・イメージの変容と感情状態の関連
- 乳房の基礎知識|東京医科大学病院
- 乳房|国立研究開発法人国立がん研究センター
- 乳がん|産業医科大学病院
- 乳がんとは?|日本医師会
- 乳がん|兵庫医科大学病院
- 乳腺:悪性|名古屋大学医学部付属病院 乳腺・内分泌学会
- 定期的な任意型検診期間中に発見された炎症性乳癌の1例
- 手術後の痛み|兵庫医科大学病院
- 乳がん|九州大学病院がんセンター
- 乳腺疾患|大阪大学 乳腺内分泌外科
- よくあるご質問|兵庫医科大学病院
- 乳房の良性の病気にはどのようなものがあるでしょう?|東海大学医学部医科学系 乳腺内分泌外科
- Tietze症候群:リウマチ性疾患と鑑別が必要な骨格症
- 乳腺症|日本大学病院
- 乳腺炎|日本大学病院
- 乳癌取扱い規約新分類における乳房Paget病の1例