「原発不明がんを対象とした治験」は行われているの?治療法も解説!
がんの治療は一般的に原発巣を手術で取り除くことが中心ですが、原発巣がわからない「原発不明がん」はどのように治療するのでしょうか。
今回の記事では、原発不明がんの概要、治験、診断方法、治療方法などについて詳しく解説します。
記事の最後では治験についてよくある質問にも答えていきますので、治験を検討している方もぜひ参考にしてください。
監修医師:
上 昌広(医師)
目次 -INDEX-
原発不明がんとは?
がんを発見したにもかかわらず発生源がわからないとは、どのような状態なのでしょうか。まずは原発不明がんとはどのようながんを指すのか、どの程度の頻度でみられるのかを解説します。
原発巣がはっきりしないがん
がんができると原発巣となった臓器に特有の症状が現れるため、原発巣がみつかるのが一般的です。しかし、原発不明がんは転移がんと考えられるがんが発見され、どこから転移してきたか検査をしても明確にわかりません。
がんには複数の組織型(種類)があり、発生するがんの組織型は臓器ごとにおおよそ決まっています。例えば肺にがんが発見されたときに、そのがんがどの組織型か調べることで原発巣なのか転移なのか判断することができます。
このように、発見されたがんは原発巣ではないと判断できるがんが原発不明がんです。
成人固形がんの1~5%を占めるとされている
がんは、大きく分けると造血器腫瘍と固形癌の2つに分類されます。
造血器腫瘍とは白血病、悪性リンパ腫、多発性骨髄腫など血液のがんと呼ばれるものです。
一方固形がんには、大腸がん、胃がん、肺がん、皮膚がんなど上皮細胞から発生するがんのほか、骨や筋肉の細胞から発生する肉腫が含まれます。
原発不明がんは、成人固形がんの1~5%、がん全体の2%ほどを占めるといわれています。
原発不明がんを対象とした治験
新しい治療法が病院で受けられる標準治療になるまでには、臨床試験による安全性、有効性の証明が必要です。この臨床試験のなかでも、特に厚生労働省の承認を得るために行うものを治験といいます。
原発不明がんと診断された方が対象になり得る治験もありますが、原発不明がんと診断されても患者さんごとに転移の範囲や全身状態、がん細胞の組織型などが異なるため、参加できるかどうかは主治医としっかり相談することが大切です。
原発不明がんの診断
原発不明がんが疑われる場合、どのような検査を経て診断に至るのでしょうか。今回は血液検査・尿検査・画像検査・内視鏡検査という4つの検査について紹介します。
血液生化学検査
血液生化学検査は採血検査とも呼ばれ、血中に含まれる成分などを分析することで健康状態を調べる検査です。
がんが疑われる場合には基本的な項目に加えて腫瘍マーカー検査を行います。
腫瘍マーカーとはがんによって作られるタンパク質などの物質のことで、がんによって作り出されたそれらの物質の種類や量を検査することで、腫瘍の有無や部位を知る補助となる検査のことです。
尿検査
尿検査では尿路の病気のほか肝臓、胆嚢、糖代謝の異常などがわかります。前述の腫瘍マーカーは多くが血液中に含まれますが、一部の尿路系の腫瘍については尿で腫瘍マーカー検査をすることがあります。
画像検査
血液検査や尿検査では、腫瘍がある可能性や数値に異常がある臓器などがわかります。
しかし、腫瘍の有無、腫瘍の大きさ、病気の範囲まで特定することはできません。そのため、上記の検査で腫瘍が疑われる場合は下記のような画像検査を行います。
- 超音波(エコー)検査
- X線検査
- CT
- MRI
- 核医学検査
核医学検査にはPET(陽電子放出断層撮影)、骨シンチグラフィという検査が含まれます。
PETは、がん細胞がどの部位で活発に活動しているかがわかる検査です。また、骨シンチグラフィは骨の破壊や再生が活発に行われている部位を調べて、骨に転移がある場所を知るための検査です。
内視鏡検査
内視鏡検査は、口や肛門から内視鏡を入れることで胃、十二指腸、大腸の粘膜を直接観察できる検査です。
胃がんや大腸がんのスクリーニングのために行う場合が多いですが、前述の画像診断と併せて内視鏡検査でも原発巣が発見できない場合に、原発不明がんの疑いが強くなります。
原発不明がんの治療方法
前述の検査の結果原発不明がんと診断された場合、どのような治療の選択肢があるのでしょうか。
多くの原発不明がんは「すでに進行して転移しているがん」として治療方針を考えることになり、外科的切除の適応となるケースは稀です。そのため、主な治療内容は下記の薬物療法・放射線治療・緩和ケアとなります。
薬物療法
薬物療法は、薬物を投与することでがんの縮小や進行抑制、症状緩和を目指す治療法です。化学療法・内分泌療法・分子標的療法などの種類があり、がんの細胞型や治療中の副作用などに合わせて使用する薬物を調整します。
薬物療法の特徴は、血液に入り全身にくまなく薬物が行きわたることです。これにより、まだ発見できていないがんのほか、血液やリンパ液から移動しているがん細胞にも影響を与えます。
点滴での薬物療法では入院が必要なこともありますが、副作用や全身状態などに応じて通院での治療も可能です。また、経口抗がん剤(飲み薬)で治療する場合もあります。
放射線治療
放射線治療は、標的とするがんに放射線を照射することで増殖抑制やがんの消滅を狙う治療方法です。治療装置で体外から照射を行う「外照射」のほか、内服・注射・管などで放射性物質を体内に入れる「小線源治療」があります。
薬物療法・放射線治療ともに、手術が適用にならない原発不明がんにおいては大切な選択肢となる治療法ですが、薬物や放射線が健康な細胞も傷つけてしまうことでさまざまな副作用が起こる可能性があります。
緩和ケア
緩和ケアは苦痛を和らげることを目的とするケアで、苦痛を緩和することで生活しやすくするためのケアです。
身体的苦痛を和らげる治療方法のなかには、前述の薬物療法や放射線治療なども含まれます。また、身体的苦痛だけでなく下記のような精神的・社会的苦痛もケアします。
- 気持ちの落ち込み
- 不安による不眠
- 就労・雇用継続などの問題
- 家庭で果たしていた役割の変化
- 自宅療養にともなう制度的な不安・疑問
原発不明がんの治験についてよくある質問
ここまで原発不明がんの治験・治療方法を紹介しました。ここでは「原発不明がんの治験」についてよくある質問に、Medical DOC監修医がお答えします。
治験を受けたい場合どこに問い合わせればよいですか?
上 昌広(医師)
治験の対象となるためには病状、治療歴、全身状態などさまざまな条件が適合している必要があります。治験を希望する場合は主治医に相談して自分が対象になる治験の募集があるか確認しましょう。
原発不明がんの治験にはリスクはありますか?
上 昌広(医師)
治験とは安全性や有効性を検証するために行う試験なので、治療の副作用が出たり望んだ効果が得られないなどのリスクが考えられます。治験を受けたい方は「どのような方法なのか」「希望する治療法にどのようなリスクがあるのか」なども医師から十分に説明を受け、納得した上で治験を受けましょう。
編集部まとめ
原発不明がんは、一般的ながんのような切除での治療は困難とされており、治療の中心は薬物療法や放射線治療です。
薬物療法、放射線療法にもさまざまな方法があり、医師と相談しながら内容を調整します。
また、現行の治療以外を試したい方には治験という選択肢もあります。治験を希望する場合は担当医に相談し、対象となる治験を探してみましょう。
原発不明がんと関連する病気
原発不明がんと関連する病気には、下記の2つがあります。
各病気の症状・原因・治療方法など詳細はリンクからMedical DOCの解説記事をご覧ください。
関連する病気
- 肺腫瘍
- 肝腫瘍
がんの転移が起こりやすい場所として、肺・肝臓が挙げられます。原発不明がんでも、この2つの臓器のいずれかにがん細胞がみつかることが多いようです。
原発不明がんと関連する症状
原発不明がんと関連する症状には、下記の5つがあります。
各症状の原因・治療方法など詳細はリンクからMedical DOCの解説記事をご覧ください。
関連する症状
- リンパ節の腫れ
- 腹水・胸水
- 咳
- 嗄声(声のかすれ)
- 上腹部の膨満感
原発不明がんの症状として、転移先に応じて上記の症状が現れる場合があります。