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「乳がん放射線治療」の費用や治療期間はご存知ですか?【医師監修】

 公開日:2024/02/19
「乳がん放射線治療」の費用や治療期間はご存知ですか?【医師監修】

乳がんの治療では、手術の前後で行われる追加治療の重要性を理解して治療をおこなうことが大切です。本記事では乳がんにおける放射線治療について以下の点を中心にご紹介します。

  • ・放射線治療とは?
  • ・乳がんの放射線治療の目的と治療のタイミングとは?
  • ・乳がんの放射線治療のメリットとは?

乳がんにおける放射線治療について理解するためにもご参考いただけますと幸いです。ぜひ最後までお読みください。

馬場 敦志

監修医師
馬場 敦志(宮の沢スマイルレディースクリニック)

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筑波大学医学群医学類卒業 。その後、北海道内の病院に勤務。 2021年、北海道札幌市に「宮の沢スマイルレディースクリニック」を開院。 日本産科婦人科学会専門医。日本内視鏡外科学会、日本産科婦人科内視鏡学会の各会員。

放射線治療のメカニズム

放射線治療は、がん細胞を破壊するために、X線やガンマ線、電子線など特定の種類のエネルギーを利用して、がん細胞のDNAにダメージを与え、その増殖を阻止する医療技術です。放射線は、目に見える光とは異なり、人体を透過する能力があります。そのため、体内の深部にあるがん細胞にも届けられるのです。現在の技術では、CT画像を用いて治療位置を正確に把握し、正常組織への影響を最小限に抑えながらがん細胞を狙い撃ちできるようになっています。治療には主に二つの方法があります。

外部照射:体の外から放射線を照射する方法で、リニアックなどの高エネルギー放射線を発生させる装置を使用します。これにより、体の表面だけでなく深部のがん組織にも放射線を届けます。

小線源治療:放射性物質を体内に直接挿入し、局所的にがん細胞を照射する方法です。例えば、子宮がん治療では、イリジウムの線源を病変部に密着させて照射します。

乳がんにおいて放射線治療をするタイミング

乳がんにおいて放射線治療を行うタイミングとはいつなのでしょうか?乳がんの治療の基本は手術による患部の切除ですが、以下に手術の前後と転移時の追加治療について詳しく説明していきます。

手術前

手術前には、薬物による化学療法が実施されます。
化学療法により、乳がんの大きさを約70%から90%ほど減少できると報告されています。術前の化学療法はもともと、乳房温存での手術の可能性を高め、手術の範囲を縮小することで外見的な影響を最小限に抑える目的で用いられていました。しかし、現在では乳がんの初期治療における重要な一環として位置づけられており、特に大きなしこりを持つ浸潤性乳がんや皮膚にまでがんが広がっている局所進行性乳がん、炎症性乳がんの患者さんに推奨されます。一方で、がんが広範囲に及んでいる場合やもともと腫瘍が小さい場合には、術前化学療法の利点は少ないとされています。

手術後(乳房温存術)

乳房温存術後の放射線治療は、乳がん治療において重要な役割を果たします。
手術で腫瘍を取り除いた後も、乳腺組織に残る潜在的ながん細胞を排除し、再発を防ぐために放射線治療が行われます。実際、放射線治療を行うことで乳房内の再発が約1/3に減少すると報告されています。そのため、特殊な事情(例えば妊娠中である、膠原病を患っている、以前に同側の乳房へ放射線治療を受けているなど)がない限り、乳房温存手術を受けた患者さんのほとんどに対して手術後の放射線治療が推奨されます。化学療法と手術、放射線治療の組み合わせによって、乳房内再発のリスクを大幅に減少させ、がんの排除を目指します。

手術後(乳房切除術)

乳房切除術を行った後の放射線治療は、米国腫瘍学会(ASCO)や日本乳癌学会によるガイドラインでは、局所再発リスクが高い場合に手術後の放射線照射を行うことが推奨されています。このようなリスクが高い患者さんでは局所再発率が約20~45%に達することが知られており、放射線治療や化学療法、ホルモン療法と併用することで、特にリンパ節に転移がある閉経前の患者さんにおいて生存率の向上が報告されています。
放射線治療を行う際には、心臓や肺への影響を最小限に抑えることが重要です。この目的のために、CTシミュレータなどの高精度放射線治療計画装置が使用され、放射線の照射範囲をより正確に設定することが可能になっています。こうして、乳房切除術後の放射線治療は、局所再発のリスクを低減し長期的な生存率を向上させるために重要な役割を果たしています。

転移時

乳がんが脳や骨など他の部位に転移した場合、または胸壁やリンパ節に局所再発が見られる場合、放射線治療が有効な手段として用いられます。脳転移には、脳全体を対象とした全脳照射と、特定の病変に焦点を当てた定位照射の2種類の方法があります。骨転移の治療では、ホルモン療法や抗がん剤治療などの全身療法が中心となりますが、骨折のリスクが高まる場合や、痛みや神経障害が生じる場合には、放射線治療が選択されることがあります。

乳がんに対する放射線治療方法

乳がんに対する放射線治療は、患者さんの具体的な状況に応じて慎重に計画され実施されます。まず放射線治療の専門の医師が状態を診察し、これまでの検査結果や治療歴を詳細に分析します。これにはCTスキャンや病理検査の結果が含まれ、これらを基に放射線の照射範囲と量が決定されます。治療の実施は通常、平日毎日行われ、1回につき1~3分程度照射されます。治療回数は、およそ16回から30回以上と個々の病状や治療目的によって異なります。
放射線治療は正常臓器への影響を最小限に抑えつつ、必要な部位に充分な放射線を届けることが重要です。このため、三次元原体照射(3D-CRT)や強度変調回転照射(VMAT)など、様々な照射技術が選択されます。治療はCT撮像時と同じ体位で行われ、体位の調整や位置合わせは診療放射線技師によって細心の注意を払って行われます。また、乳房全切除術後には、放射線が皮膚表面に十分に届くようにボーラスと呼ばれるシートを使用することがあります。
そして、治療の短期化、簡便化、低侵襲化も進められており、SAVIを用いた加速乳房部分照射は全乳房照射に比べて治療期間を大幅に短縮し、部分照射による被曝量の削減が可能とされています。この方法では1日2回の照射を5日間で合計10回行い、ピンポイントでの照射により再発予防効果が期待されます。
現在、全乳房照射との比較研究が行われており、その結果次第で今後の治療法としての普及が見込まれます。

乳がんへの放射線療法による副作用

ここでは、乳がんへの放射線治療の副作用について解説します。

副反応が現れる場所

放射線治療における副反応は、主に照射された地域に限定されます。乳がん治療の場合、影響を受けるのは治療を受けた乳房、手術を行った胸部の壁面、および近接するリンパ節です。治療中に頭髪の脱毛やめまいを経験することはなく、吐き気や白血球の減少も非常に稀です。また、放射線が体内に残留することはないため、治療後の日常生活において、乳幼児を抱くことに関しての制限もありません。

かゆみ・赤くなる

乳がんの放射線治療を受けた患者さんは、治療開始から数週間後に皮膚の変化を感じることがあります。特に、放射線が照射された範囲の皮膚は赤みを帯びてかゆみや刺激感を伴うことがあります。乳房全切除術を受けた方は放射線の影響範囲が広がるため、皮膚の反応がより強く出る傾向があります。皮膚の剥離や水疱が形成されることもありますが、これらの症状は治療終了すると時間の経過とともに徐々に和らぎます。

様々な違和感

乳がんの放射線治療を受けた後、いくつかの違和感を経験することがあります。治療を受けた皮膚は暗くなることがあり、汗腺や皮脂腺の機能が低下することで、皮膚が乾燥し、触れると温かく感じられることがあります。乳房を温存する手術を受けた場合、乳房が腫れたり硬くなったりすることもありますが、これらの症状は通常、治療後に徐々に改善されます。
また、鎖骨上窩に放射線が照射される場合、食道にも影響を与える可能性があり、特に左胸に乳がんがある場合は、飲み込む際の違和感を一時的に感じることがあります。これらの副反応は、放射線治療の一部であり、患者さんの生活に大きな影響を与えることは少ないですが、何らかの違和感がある場合は医師に相談しましょう。

放射線治療後しばらくして出る副作用(慢性副作用・晩期障害)

乳がんの放射線治療後には、治療完了から数ヶ月〜数年後に現れる可能性のある晩期副作用があります。これらの副作用は一般的には稀で、重篤な症状を引き起こす頻度も低いため、過度に心配する必要はありません。ただし、以下に挙げるような晩期副作用が発生した場合は、医療機関を受診することが推奨されます。

皮膚の変化:照射部位の皮膚が乾燥し、かゆみや赤みを伴うことがあります。これらの症状は保湿によって緩和されることが多いです。
乳房の変化:温存した乳房が若干小さくなることがあります。
肺炎:放射線肺臓炎や器質化肺炎と呼ばれる状態で、持続する咳、微熱、胸の痛み、息苦しさ、倦怠感などの症状が現れ、CTスキャンで白く映ることがあります。しかし、症状が現れるのは治療を受けた人の約1〜3%とされ、現在の治療技術の進歩によりその確率はさらに低下しています。
心臓への影響:特に左側の乳がん治療においては、心臓に放射線が多量に照射されると、狭心症や心筋梗塞のリスクがわずかに増加することが示されています。

乳がんの放射線治療のメリット

乳がんにおいて放射線治療を受けるメリットとは何でしょうか?以下、そのメリットについて解説します。

乳房切除後の再発リスクを下げる

乳がん治療における放射線療法は、手術後の再発リスクを大幅に低減する効果が期待されています。
乳房全摘出手術を受けた患者さんの場合、放射線治療などの追加治療を行わないと平均して約20~30%の方に局所的な再発が見られることがあります。しかし、放射線療法を適用することでこの再発率を約7~10%まで下げると報告されています。
乳房温存手術を受けた患者さんにおいても、放射線療法を行わない場合は約30%の患者さんで乳房内再発が発生する可能性がありますが、放射線療法によってそのリスクを70%削減します。

身体への負担が少ない

乳がん治療における放射線療法は、身体への負担が少ないという大きな利点があります。放射線療法はがん細胞のみを標的とする局所治療であり、臓器の機能や形状を保持しながら治療を行い、切開を伴いません。治療中の痛みがなく、治療時間が短い(約10~20分)ため、患者さんの身体的ストレスが抑えられます。また、高齢者や他の疾患を抱える方々にとっても放射線療法は適した選択肢となり得ます。手術による治療が困難な場合でも、幅広い患者さんに対応しています。

通院しながら受けられる

乳がん治療における放射線治療のメリットの一つは、特定の健康上の問題がない限り入院を必要とせず外来通院で治療を受けられる点で、日常生活への影響を最小限に抑え、療養中も家庭や社会生活を続けやすいことです。
放射線治療は手術後の病理結果が出た後に治療方針が決定され、その後に開始されます。治療は通常、約4~6週間にわたって、週5日(平日毎日)行われます。治療自体は短時間で終わるため日常生活や仕事と治療を両立しやすくなりますが、放射線治療による疲労や通院の時間・スケジュールの調整が必要であり、患者さんによっては通常の仕事を続けるのが難しい場合もあります。

乳がん放射線治療の痛み

放射線治療には多くのメリットがあることが分かりましたが、治療中や治療後の痛みの有無や程度も気になりますよね。以下、放射線治療の痛みについて解説していきます。

放射線治療中の痛み

放射線治療中は正確な照射を確保するために体を動かさないようにする必要はありますが、放射線が体に当たっている間に痛みを感じることはありません。

放射線治療後の痛み

放射線治療後に発生する痛みは治療開始から約2週間後に生じることが多いですが、一部の患者さんではもっと早期に痛みが発生することもあります。ただし、治療終了後6ヶ月以上経過してから痛みが生じることは比較的珍しいとされています。
放射線治療による痛みの特徴としては、乳房全体が張り、ヒリヒリとした感覚を伴うことが多いといわれています。また、この痛みは手術後の痛みのぶり返しが要因している可能性があるとも考えられています。
痛みが強い場合は主治医に相談し、必要に応じて鎮痛薬の処方や痛み専門の医師(ペインクリニック)への紹介が検討されることもあります。痛みの症状を感じた場合には迅速に医師に報告し、適切な治療を受けましょう。

乳がんの放射線治療についてよくある質問

ここまで乳がんの放射線治療を紹介しました。ここでは乳がんの放射線治療についてよくある質問に、Medical DOC監修医がお答えします。

放射線治療中の肌の手入れについて教えてください

馬場 敦志医師

放射線治療中の肌の手入れについては、以下の点に注意してください。

保湿: 放射線治療を受けると、皮膚が乾燥しやすくなります。特に乳房全摘術後は、胸壁への照射により皮膚炎が強まることがあります。そのため、保湿は非常に重要です。医師から処方されたヒルドイドなどの保湿剤を定期的に塗布しましょう。
刺激を避ける: 照射部位やその周囲の皮膚は刺激に敏感になっています。シップや絆創膏を使用しないようにしましょう。また、市販の塗り薬や化粧品の使用も控えてください。
入浴時の注意: 入浴時は、肌に刺激の少ない弱酸性の石けんを使用し、手で優しく洗うことが大切です。石けんはしっかりと泡立て、すすぎはぬるま湯で泡をしっかりすすぎましょう。体を拭く際は、柔らかいタオルでポンポンと抑えるようにして水分を取り除きます。
サウナや岩盤浴の制限: 放射線皮膚炎がある期間は、サウナや岩盤浴など、短時間で多量の汗をかく活動は避けてください。また、天然温泉の利用も控えることが望ましいです。
脱毛や除毛の控え: 照射部位の皮膚が敏感なため、脱毛やカミソリによる除毛は、皮膚炎が落ち着くまでの約1ヶ月間は避けてください。

これらのケアを適切に行うことで皮膚炎の悪化を防ぎ、回復を促進します。治療中および治療後のスキンケアは、清潔を保ち、刺激を避け、保湿を心がけることが重要です。

乳がんの放射線の治療期間はどれくらいかかりますか?

馬場 敦志医師

乳がんの放射線治療の全体的な期間は、個別の状況や治療計画によって異なりますが、一般的には以下のようなスケジュールになります。
放射線治療は、手術後すぐに行われることは少なく、手術後の化学療法(抗がん剤など)が完了してから、副作用の回復を含めると放射線治療は手術後約4~7ヶ月後に開始されることが多いです。治療は通常、週5日のペースで5週間にわたって続けられ、合計で25回の照射が行われることが標準的です。治療の効果を保つためには計画通りに治療を続けることが重要です。放射線治療自体の1回の照射時間は数分であり、準備時間を含めても20分程度で終了します。
5週間ほぼ毎日の通院が必要なため、仕事や日常生活への影響を考慮しながら治療を進める必要があります。また、治療期間を短縮するために1回の照射量を増やし、回数を減らす「寡分割照射」という方法も選択肢として存在します。治療期間については、主治医との相談して治療計画が調整されることになります。

乳がんの放射線治療の費用はどれくらいかかりますか?

馬場 敦志医師

乳がんの放射線治療費用は基本的に健康保険が適用されます。費用の目安は、乳房を部分的に切除した後の25回から30回の放射線治療で、約16万円となります。ただし、これはあくまで一例であり、具体的な費用は個々の病状や治療法により異なりますので、治療を受ける病院で確認してください。

編集部まとめ

ここまで乳がんにおける放射線治療についてお伝えしてきました。乳がんにおける放射線治療についての要点をまとめると以下の通りです。

⚫︎まとめ

  • ・放射線治療は、がん細胞を破壊するためにX線やガンマ線、電子線などの放射線を利用し、がん細胞のDNAにダメージを与え増殖を阻止する医療技術
  • ・手術後の放射線治療と化学療法などの組み合わせによって、乳房内再発のリスクを大幅に減少させ、がんの排除を目指す
  • ・乳がんにおける放射線治療のメリットは、乳房切除後の再発リスクを下げられること、身体への負担が少ないこと、入院を必要とせず外来で治療が受けられる治療方法であること

乳がんと関連する病気

乳がんと関連する病気は1個あります。
各病気の症状・原因・治療方法など詳細はリンクからMedical DOCの解説記事をご覧ください。

遺伝子診療科の病気

  • 遺伝性乳がん卵巣がん症候群(HBOC)

具体的な症状や治療法については、担当の医師と相談しましょう。

乳がんと関連する症状

乳がんと関連している、似ている症状は5個ほどあります。
各症状・原因・治療方法などについての詳細はリンクからMedical DOCの解説記事をご覧ください。

関連する症状

  • 乳房のしこり
  • 乳房のくぼみ
  • 乳頭や乳輪のただれ
  • 左右の乳房の非対称性
  • 乳頭からの異常な分泌物

これらの症状が持続する場合、または新たにあらわれた場合、医師の診察を受けることが大切です。

この記事の監修医師