「盲腸癌の予後」はご存知ですか?症状や虫垂炎との見分け方も解説!【医師監修】
大腸がんのうち、盲腸にできるがんを「盲腸癌」といいます。もし盲腸癌と診断されたら、どのような予後が予測されるのでしょうか。
この記事では、盲腸癌のステージと予後・治療方法のほか、大腸がんでは部位ごとにどのような症状がみられるかについても解説していきます。
記事の後半では盲腸癌と虫垂癌の見分け方・早期発見の方法などについても触れるので、気になる症状がある方もぜひ参考にしてください。
監修医師:
甲斐沼 孟(上場企業産業医)
目次 -INDEX-
盲腸癌の予後
大腸がんの進行度はステージ0~4までの5段階に分類されます。ステージを決定する際に指標となるのは下記の3因子です。
- T因子:がんが表層粘膜からどれくらい深く広がっているか
- N因子:リンパ節に転移しているか
- M因子:がんがほかの臓器に遠隔転移しているか
まずは、それぞれのステージがどのような状態なのか、予後の指標となる「5年生存率」は何%になるのか解説します。盲腸癌に限定した統計は少ないので、今回お伝えするのは盲腸癌を含む「結腸がん」の5年生存率です。
ステージI
ステージ0とは、がんが大腸の内側を覆う粘膜だけにとどまり、リンパ節・他臓器に転移がみられない状態です。この段階での5年生存率は93.0%となっています。大腸の粘膜下には「粘膜下層」があり、さらに下には「固有筋層」と呼ばれる臓器を蠕動させる筋肉の層があります。
がんが粘膜より下に進行しているものの、粘膜下層~固有筋層にとどまり転移はみられない状態がステージ1です。ステージ1では5年生存率が92.3%となります。
ステージII
前述のとおり、固有筋層の内側には粘膜があります。それに対して、固有筋層の外側を覆っているのが漿膜(しょうまく)という薄い膜です。大腸の漿膜は「腹膜」とも呼ばれ、こちらの呼称のほうが患者さんにとってはなじみがあるかもしれません。
がんが固有筋層を超えて漿膜まで広がっているものの、転移がみられない段階をステージ2とします。ステージ2の5年生存率は85.4%です。
ステージIII
ステージ3は、がんが粘膜下層から下まで広がっており、なおかつリンパ節転移がみられる状態です。がんの深さ・リンパ節転移の数により、ステージ3はさらに3a~3cの3段階に分かれます。
同じステージの中でも3aの5年生存率は80.4%なのに対し、3bは63.8%と急激に5年生存率が下がるといわれています。
ステージIV
ステージ4は、がんの深度に関わらず遠隔転移がみられる状態です。
がんは臓器の外側にある漿膜まで広がり隣接する臓器に転移することもありますが、遠隔転移とはがん細胞がリンパ・血液の流れに乗って離れた臓器に転移することをいいます。ステージ4の5年生存率は19.9%です。
盲腸癌の治療方法
大腸がんの治療方法は、大きく手術・化学療法に分かれます。がんの進行度・手術前後の状態などを踏まえて、より効果的と考えられる方法を選択していきます。
手術
盲腸癌と聞くと、大腸の端に小さく飛び出した「虫垂」を想像して「盲腸癌でも、ほかの大腸がんと同じような治療ができるのだろうか」と疑問を抱く方もいるかもしれません。
虫垂炎のことを「盲腸」と呼ぶことがあるので混同されやすいですが、盲腸と虫垂は別の部位です。小腸からみて大腸の始まりの部分を盲腸と呼び、この盲腸から虫垂が出ています。
そのため、盲腸癌もほかの大腸がんと同じく粘膜下層の浅い部分にとどまっていれば内視鏡治療が適応となる可能性が高いでしょう。また、がんが粘膜下層の深い部分に及んでいる場合は内視鏡ではがんを取りきれないため、手術による治療が第一選択となります。
手術の主な方法は腹腔鏡手術・開腹手術です。手術では盲腸にできた腫瘍を取り除くだけでなく、転移の予防・検査のため周囲のリンパ節を郭清することもあります。
化学療法
化学療法は、抗がん剤などを使用してがん細胞を攻撃し、増殖を抑えたりがんの範囲を縮小させたりする治療です。化学療法の目的は下記の2つに分かれます。
- 手術ができない場合の症状緩和・延命
- 手術を終えたあとの再発予防
がんが広い範囲に広がり手術では取りきれない場合は、手術による負担が大きく、得られる効果に見合わないため「手術ができない」と判断されることがあります。このようなときに行うのが、症状緩和・延命をねらった化学療法です。
一方、手術で盲腸癌を切除した後であっても再発・転移のリスクが高いと判断された場合、再発・転移を防ぐ目的で「補助化学療法」を行います。化学療法は入院して行う場合もありますが、外来での化学療法も可能です。
また、点滴のイメージが強いかもしれませんが抗がん剤には内服するタイプもあります。
大腸がんの種類ごとの症状
大腸がんの代表的な症状としては腹痛・便通異常・腸閉塞・貧血などがあります。
では、部位ごとに特徴的な症状はあるのでしょうか。盲腸癌のほか、上行結腸がん・下行結腸がん・直腸がん・肛門がんについて症状をまとめました。
盲腸癌
盲腸は、大腸の中で最初に便が通る部位です。小腸から大腸へ送られた便は、大腸を通過するうちに段々と水分を吸収され、泥状から固形になっていきます。
盲腸を通過している便はまだ水分が多く、盲腸が腫瘍で狭くなっていても閉塞が現れにくいとされています。また、盲腸癌から出血があっても排便時には血液が確認しづらく、大腸がんの中では自覚症状が現れにくい部位です。
そのため、腫瘍が大きくなってから腹部のしこりとして自覚したり、気付かないうちに出血が続いて貧血が現れたりすることもあります。
上行結腸がん
大腸がんの部位ごとに現れやすい症状は、腹部の右側にある盲腸・上行結腸と腹部の左側にある下行結腸・S状結腸・直腸で異なります。
盲腸と同じく大腸の前半にあたる上行結腸では、盲腸癌と同じく通過障害は起こりにくく、腹部のしこり・貧血をきっかけにがんが見つかることが多いでしょう。
下行結腸がん
下行結腸と、その先にあるS状結腸・直腸は腹部の左側に位置する腸管です。下行結腸を通る頃には便が固形になっているため、腸管に腫瘍があると通過障害が起こりやすくなります。
その結果、下行結腸がんでは通過障害による腹痛・吐き気・嘔吐といった症状がみられる場合があります。また、便秘・下痢を交互に繰り返すのも左側大腸がんの特徴です。さらに、腫瘍から出血すると便の表面に血液が付いた状態で排便されるため血便が目立つようになります。
直腸がん
直腸は肛門に近いため、下行結腸がんよりもさらに下血・血便が目立ちやすいでしょう。また、頻回な便意・肛門痛など感覚的な症状を自覚する患者さんもいます。
さらに、便が細くなったり、通過障害により腹痛・吐き気・嘔吐などの閉塞症状が現れたりすることもあります。
肛門がん
肛門がんは、直腸から肛門までをつなぐ3~4cmほどの「肛門管」もしくは肛門周囲の皮膚に発生するがんです。肛門がんになると、腹部の症状よりも肛門痛・肛門周囲の違和感・腫れ・しこりといった「おしりの症状」として感じる患者さんが多いでしょう。
また、直腸がんと同様に排便時の出血が目立ちやすいので「痔ではないか」と自己判断し受診に至らない方もいます。
盲腸癌と虫垂癌の見分け方のポイントとは?
前述のとおり盲腸癌は自覚症状が出にくく、大腸がんの中では発見が遅れやすい病気です。一方「虫垂癌」では、腫瘍による内腔の閉塞・血流障害から虫垂炎に似た強い痛みが現れることも多いでしょう。
手術についての解説でも触れたとおり、盲腸と虫垂は別の部位になります。混同されることが多い理由としては、虫垂炎を「盲腸」と呼ぶことが挙げられるでしょう。これは、虫垂炎の原因が虫垂だと知られていなかった時代に「盲腸周囲炎」と呼ばれたなごりだといわれています。
虫垂癌は盲腸癌よりも自覚症状が出やすい病気ですが、画像検査では特徴的な所見に乏しく、虫垂炎だと思い手術をした後に組織生検で初めて「がんだった」とわかるケースもあります。
盲腸癌についてよくある質問
ここまで盲腸癌の予後を紹介しました。ここでは「盲腸癌」についてよくある質問に、Medical DOC監修医がお答えします。
盲腸癌の検査方法について教えてください
甲斐沼 孟(医師)
盲腸癌が疑われる場合に行う検査としては、血液検査・CT・MRI・注腸造影検査・大腸カメラなどがあります。血液検査では、がん細胞が作り出すたんぱく質を調べる「腫瘍マーカー」という項目が重要です。この検査をすることで、体内に腫瘍があるか・どの部位に腫瘍があるかを大まかに知ることができます。また、CT・MRI・注腸造影検査などの画像検査では、がんの位置・広がりを確認します。大腸カメラでは、カメラを通して腫瘍の様子を確認できるほか、必要に応じて組織を採取し生検も可能です。
盲腸癌の生存率を教えてください
甲斐沼 孟(医師)
記事の冒頭「盲腸癌の予後」でも触れたとおり、盲腸癌は早期に発見すれば5年生存率は90%以上と予後の良い癌です。しかし、ステージ3以上になると5年生存率は急激に低下し80%を切ります。このようなデータからも、早期発見・治療が非常に重要だということがおわかりいただけるでしょう。
盲腸癌の余命は?
甲斐沼 孟(医師)
余命とは、患者さんの年齢・性別・既往歴・全身状態・治療内容・ステージごとの5年生存率などを総合的にみて主治医が予測するものです。また余命の予測には明確な基準や計算方法がありません。そのため、患者さんを限定せず盲腸癌の平均的な余命を明示することは困難です。しかし、おおよその指標としては上記の「5年生存率」が役立ちます。
編集部まとめ
盲腸癌は、ほかのがんと同じくステージにより予後・5年生存率が大きく変わります。そのため、早期発見することが良好な予後につながるでしょう。
しかし、盲腸癌を含む大腸がんは初期症状が出にくいとされています。そのため、早期発見のためには、まず定期的に検診を受けることが大切です。
また盲腸癌では貧血がみられる場合もあります。腹部症状に限らず、気になる症状があれば早めに医療機関を受診することをおすすめします。
盲腸癌と関連する病気
盲腸癌と関連する病気には、下記の2つがあります。
各病気の症状・原因・治療方法など詳細はリンクからMedical DOCの解説記事をご覧ください。
盲腸癌は大腸がんの一種です。盲腸癌は大腸がんの中では珍しいため盲腸癌に限定した統計・情報は少ないですが、検査・治療方法はほかの大腸がんとほぼ同じです。
そのため、盲腸癌について知りたいときは大腸がん全体に関する情報も参考になるでしょう。また、虫垂炎は盲腸から出ている虫垂が炎症を起こす病気です。直接的な関連は明確ではありませんが、無症状の盲腸癌が虫垂炎をきっかけに偶然発見されるケースがあります。
盲腸癌と関連する症状
盲腸癌と関連する症状には、下記の2つがあります。
各症状の原因・治療方法など詳細はリンクからMedical DOCの解説記事をご覧ください。
関連する症状
- 貧血
- 腹部の腫瘤(しこり)
初期の盲腸癌は症状が出にくいですが、進行すると腫瘍からの出血が原因で貧血になったり、右下腹部に外から触れて分かるほどの腫瘤が触知されたりする場合があります。