「乳がんで使用する抗がん剤」の副作用はご存知ですか?治療期間も医師が解説!

Medical DOC監修医が乳がんで使用する抗がん剤の種類・副作用・治療期間・抗がん剤以外の治療法などを解説します。

監修医師:
山田 美紀(医師)
目次 -INDEX-
「乳がん」とは?
乳がんとは乳腺に発生する悪性腫瘍です。日本では女性が罹るがんの中で最も多く、約9人に1人の割合で罹患するというデータがあります。乳がんは手術治療、放射線治療、薬物治療を組み合わせて治療します。薬物治療の一つが抗がん剤です。乳がんのタイプや進行度を考慮し、抗がん剤が必要な場合があります。抗がん剤は体のどこかに潜んでいる微小ながん細胞をたたき、再発リスクを下げるために行います。手術前の抗がん剤はさらに、進行がんを手術可能な状態にする、またはがんを小さくして部分切除を可能にする効果が期待できます。また、抗がん剤の効果が判断でき、術後の治療を考えることもできます。
乳がんで使用する抗がん剤の種類
乳がんの手術前または後に使用する抗がん剤についてご紹介します。基本はアンスラサイクリン系抗がん剤とタキサン系抗がん剤を順次使用します。乳がんのタイプや状況によっては手術後の再発リスクを下げるために、S-1やカペシタビンを使用することもあります。
アンスラサイクリン系抗がん剤
アンスラサイクリン系抗がん剤はがん細胞のDNAに作用して、増殖を止める強力な作用があります。ドキソルビシンやエピルビシンが代表的です。乳がんではシクロホスファミドと同時に使用し、AC療法またはEC療法として治療を行います。2週または3週毎に点滴の治療に4回通院します。アンスラサイクリン系は心臓の筋肉にダメージを与えるため、生涯投与できる総量に制限があります。
タキサン系抗がん剤
タキサン系抗がん剤は乳がん細胞の分裂を阻害する効果があります。ドセタキセルやパクリタキセルが代表的です。ドセタキセルは3週毎に4回、パクリタキセルは1週毎12回の投与を行います。また、手術後にアンスラサイクリン系を投与せずにTC療法(ドセタキセル+シクロホスファミド)を3週毎4回投与することもあります。タキサン系抗がん剤はHER2陽性乳がんでは抗HER2療法と併用します。トリプルネガティブ乳がんではカルボプラチンという抗がん剤と免疫チェックポイント阻害剤と併用することがあります。
フッ化ピリミジン系抗がん剤
フッ化ピリミジン系抗がん剤はがん細胞のDNA合成を阻害する作用があります。カペシタビンやS-1などの内服の抗がん剤です。S-1は再発リスクの高いホルモン受容体陽性HER2陰性乳がんに対して、内分泌治療と併用して使用します。カペシタビンは手術前に行った抗がん剤によってがんの完全奏功が得られなかったHER2陰性乳がんで使用します。
乳がんの抗がん剤治療期間
手術前後に行う抗がん剤治療の期間はアンスラサイクリン系抗がん剤とタキサン系抗がん剤をそれぞれ8〜12週行うことが多いです。手術後にS-1治療を行う場合は、1年間の内服、カペシタビン治療を行う場合は約6ヶ月行います。
乳がんで使用する抗がん剤の副作用
抗がん剤を行う場合、何らかの副作用を伴うことが多いです。副作用が出るか、どの程度出るかは個人差がとても大きいです。代表的な副作用についてご紹介します。
消化器症状(吐き気や嘔吐)
抗がん剤によって吐き気や嘔吐の症状が出ることがあります。抗がん剤を使用して24時間以内に起こる急性嘔吐、1週間以内に起こる遅発性嘔吐、薬を使用する前に予期して吐き気や嘔吐が起こる予期性嘔吐があります。アンスラサイクリンやエピルビシンでは頻度が中等度(30~90%)、タキサンでは軽度(10~30%)とされています。症状が起こるリスクに合わせて、予防的に制吐剤を使用します。
骨髄抑制(発熱、貧血)
抗がん剤の影響で白血球、赤血球、血小板を作る骨髄の機能が低下することがあります。白血球(好中球)が減少すると免疫が低下し、感染症にかかりやすくなり、38度を超える発熱が出ることがあります。日常生活において感染症に気をつけ、発熱した場合は抗生剤の使用や好中球を増やす薬を使用します。赤血球が減ると、貧血になりだるさや息切れが起こることがあります。場合によっては、輸血が必要になることがあります。また、血小板減少により、血が止まりにくくなることがあります。
脱毛
アンスラサイクリンやタキサンではほぼ100%の確率で脱毛が起こります。髪の毛だけではなく、眉毛、まつ毛、体毛なども抜けます。治療開始してから2週間で抜け始めることが多く、治療終了後数ヶ月で再び生え始めます。最近は頭皮冷却装置で脱毛を軽減する試みもあります。
心機能の低下
アンスラサイクリン系抗がん剤は心臓に対する副作用があります。息苦しさ、むくみ、動悸など心不全の症状が現れることがあります。定期的に心機能検査を行う必要があります。
末梢神経障害(手足のしびれや痛み)
タキサン系抗がん剤は末梢神経に対する副作用があります。手足のしびれ、ピリピリとした痛み、指先の動かしにくさなどの症状があります。薬の投与回数が増えるほど、症状が出やすくなります。症状が強くなった場合は、抗がん剤の減量や休薬をすることがあります。しびれの症状は半年程度で気にならなくなることが多いですが、長期間続くこともあります。
手足症候群(手足の赤みや腫れ)
カペシタビンやS-1では手足の副作用が出ることがあります。手のひらや足の裏の痛み、腫れ、赤み、乾燥や色素沈着などの症状があります。保湿クリームやステロイド軟膏で改善します。症状が辛い場合は、抗がん剤を減量や中断を行うことがあります。
抗がん剤以外の乳がんの治療法
乳がんの治療は手術療法、放射線療法、抗がん剤などの薬物療法を組み合わせて行います。薬物治療には抗がん剤以外にも、内分泌療法、抗HER2療法、免疫療法などがあります。乳がんの進行度やタイプによって治療の組み合わせはさまざまです。
手術療法
乳がんの手術は乳がんの広がりの程度に合わせて、乳房部分切除または乳房全切除を行います。全切除を行う場合は、乳房再建を選択することができます。手術前に脇のリンパ節に転移が疑われない場合はセンチネルリンパ節生検という検査を同時に行います。リンパ節への転移が明らかな場合は、腋窩リンパ節郭清を行います。部分切除の場合は4日程度の入院、全切除の場合は1~2週間程度の入院が必要です。
放射線療法
放射線療法は通院の治療で行います。乳房部分切除を行った場合は、温存した乳房に放射線照射を行います。全切除であっても、リンパ節転移があった、しこりの大きさが大きい場合は再発予防のために胸部やリンパ節領域に放射線照射を行うことがあります。4~5週間、平日に連続して通院することが必要です。
内分泌療法
ホルモン受容体陽性乳がんでは術後の再発リスクを下げるために5~10年内分泌療法を行います。乳腺科に通院します。閉経前の方はタモキシフェンの内服と場合によってはLH-RHアゴニストという注射薬を使用します。閉経後の方はアロマターゼ阻害薬を内服することが多いです。リンパ節転移があり、再発リスクが高い場合は、アベマシクリブという飲み薬を2年間併用することがあります。
抗HER2療法
HER2陽性乳がんでは手術前後に計1年間の抗HER2療法を行います。手術前にはトラスツズマブやペルツズマブを抗がん剤と併用して行います。抗がん剤でがんが完全消失しなかった場合は、術後の抗HER2療法はトラスツズマブエムタンシンという薬に変更します。これらの治療は通院で行います。
免疫チェックポイント阻害薬
トリプルネガティブ乳がんでは抗がん剤と合わせて免疫チェックポイント阻害薬を使用することがあります。手術前後に合わせて1年間の投与を行います。しこりが2cmを超えるまたはリンパ節転移陽性の場合に使用されます。免疫に関連する副作用が出る可能性があり、十分に注意して治療を行いますが、通院での治療が可能です。
PARP阻害薬
BRCA1/2遺伝子の病的バリアントがあり、再発リスクが高いHER2陰性乳がんの場合にPARP阻害薬を使用します。手術前後の抗がん剤治療を終えた後に1年間の内服治療を行います。乳腺科に通院して治療を行います。
「乳がんの抗がん剤」についてよくある質問
ここまで乳がんの抗がん剤などを紹介しました。ここでは「乳がんの抗がん剤」についてよくある質問に、Medical DOC監修医がお答えします。
乳がんはステージいくつで抗がん剤治療を行うのでしょうか?
山田 美紀 医師
どのステージで抗がん剤治療を行うかは乳がんのタイプによって異なります。ホルモン受容体陽性の場合は、ステージ3以上で抗がん剤を行いますが、ステージ1や2であっても再発リスクが高い場合は抗がん剤を行うことがあります。HER2陽性乳がんやトリプルネガティブ乳がんではステージ1であってもしこりが1cmを超えた場合、抗がん剤を行います。
乳がんの抗がん剤治療で一番きついのは何クール目なのでしょうか?
山田 美紀 医師
抗がん剤治療がつらいと感じるタイミングは個人差があります。だるさや吐き気は抗がん剤投与から2-3日目がピークのことが多いです。手足のしびれの副作用がある場合は、蓄積されるため、回数を重ねるごとに強く感じることがあります。
まとめ
乳がんの手術前後に使用する抗がん剤についてご紹介しました。抗がん剤は乳がんの進行を抑えるのにとても効果がありますが、さまざまな副作用を伴います。副作用にうまく対処しながら、治療を行います。治療中につらい症状がある場合は、我慢せずに医療者に相談しましょう。
「乳がん」と関連する病気
「乳がん」と関連する病気は1個ほどあります。
各病気の症状・原因・治療方法など詳細はリンクからMedical DOCの解説記事をご覧ください。
婦人科の病気
- 卵巣がん(遺伝性乳がん卵巣がん症候群の場合)
BRCA1/2遺伝子の病的バリアントを持つ場合は、乳がんだけではなく卵巣がんになるリスクが高いです。この場合、乳房や卵巣の予防切除を保険適用で受けることができます。
「乳がん」と関連する症状
「乳がん」と関連している、似ている症状は3個ほどあります。
各症状・原因・治療方法などについての詳細はリンクからMedical DOCの解説記事をご覧ください。
関連する症状
- 乳房のしこり
- 乳房の変形
- 乳頭からの血性分泌物
乳がんを自分で発見するきっかけとして最も多いのが乳房のしこりです。進行すると乳房の変形が起こる場合があります。また、乳頭からの赤や茶色の分泌物を自覚する方もいます。気になる症状があれば、早めに受診しましょう。




