「多発性骨髄腫の原因」はご存知ですか?症状・検査法も解説!【医師監修】
多発性骨髄腫の原因とは?Medical DOC監修医が多発性骨髄腫の原因や症状などを解説します。気になる症状がある場合は迷わず病院を受診してください。本記事では、多発性骨髄腫の原因について以下の点を中心にご紹介します!
- ・多発性骨髄腫とは
- ・多発性骨髄腫の症状
- ・多発性骨髄腫の治療
多発性骨髄腫の原因について理解するためにもご参考いただけると幸いです。ぜひ最後までお読みください。
監修医師:
中路 幸之助(医療法人愛晋会中江病院内視鏡治療センター)
目次 -INDEX-
多発性骨髄腫とは?
多発性骨髄腫は、血液中の特定の細胞、形質細胞が異常に増殖することによって生じるがんの一種です。この形質細胞は、通常、体を病原体から守るための抗体を生成する役割を持っています。しかし、がん化すると、機能しない抗体(Mタンパク)を過剰に生産し続けるようになります。この異常細胞やMタンパクの蓄積は、体内で多様な症状を引き起こす原因となります。
多発性骨髄腫は、血液がんの中でも稀で、日本では全がんの約1%を占めるとされています。主に高齢者に多く、若い世代ではあまり見られません。症状としては、高カルシウム血症、腎不全、貧血、骨の弱化や骨折などが挙げられます。しかし、症状が出ていない初期の段階もあり、その場合は治療の必要がなく、経過観察が行われることが多いです。
多発性骨髄腫の原因は?
多発性骨髄腫は、血液中の「形質細胞」という細胞のがんです。形質細胞は、免疫をつかさどる細胞の一種で、細菌やウイルスに対抗する抗体を生成します。この形質細胞ががん化すると、異常に増殖し、病気として現れます。
原因として、骨髄腫細胞には多くの遺伝子異常や染色体異常が見られることが知られています。しかしながら、これらの異常がどのようにして生じるのかは、明確には解明されていません。
多発性骨髄腫の症状
多発性骨髄腫の原因別の症状を以下に解説します。
Mタンパクの増加による症状
多発性骨髄腫の進行に伴い、骨髄腫細胞の増加は正常な血液細胞の場所を占領し、免疫機能を低下させて感染リスクを高める一方、大量のMタンパクの生成は血液の粘度を高め、「過粘稠度症候群」を引き起こし視覚障害などの症状をもたらすことがあります。さらに、Mタンパクの排泄は腎臓に負荷をかけ、腎障害を引き起こす可能性があり、また、Mタンパクがアミロイドという有害なタンパク質に変わると、多くの臓器に沈着し、機能低下の原因となる「アミロイドーシス」の状態が現れることがあります。
造血機能の抑制による症状
骨髄腫細胞の増加により骨髄内での正常な血液細胞の生成が抑制されるため、赤血球の減少による息切れや動悸を伴う貧血、白血球の減少による感染症のリスクの増加、そして血小板の減少による鼻血や歯茎の出血が増える出血傾向が現れることがあります。
骨の破壊による症状
多発性骨髄腫の進行に伴い、骨の代謝のバランスが崩れ、破骨細胞が活性化することで骨がもろくなり、骨折のリスクが高まる一方、骨の溶解により血中のカルシウム濃度が上昇し、口渇や意識障害、便秘、吐き気などの症状が出現することがあり、これらの変化は患者の日常生活に大きな影響をもたらす可能性があります。
診断するための検査
多発性骨髄腫の診断のためにはどのような検査を行うのか解説します。
血液検査
血液検査を通じて、赤血球やヘモグロビン、白血球、血小板の数を確認し、造血の状態を評価します。さらに、骨髄腫の進行状況や腎臓の健康状態を把握するため、免疫グロブリンやMタンパク、アルブミン、カルシウム、クレアチニン、β2ミクログロブリンの値も検査されます。
尿検査
多発性骨髄腫の患者の尿には、Mタンパクの一部として知られるベンスジョーンズタンパク(BJP)が見られることがあります。尿の検査では、このタンパク質の存在をチェックするとともに、腎臓の健康状態も評価します。また、24時間分の尿を収集して、尿中のMタンパクの濃度などを検査する手法も取り入れられます。
骨髄検査
骨髄検査は、血液やリンパのがんの特定や病状の確認を目的とした手法です。この検査では、腰部の腸骨という部位から骨髄液や骨髄組織が採取されます。具体的には、細い針を使用して骨髄液を吸引する「骨髄穿刺」と、特定の太い針を用いて骨髄組織のサンプルを取る「骨髄生検」の2つの方法があります。採取したサンプルは、骨髄腫細胞の種類や悪性の度合いを判定するために分析されます。さらに、細胞の特性を示すマーカーや染色体の異常も調査され、治療の方針や予後の予測に役立てられます。
X線・CT・MRI・PET検査
病気の全身への拡散や骨の健康状態を評価するために、いくつかの画像診断が実施されます。X線検査を用いて、骨における異常や病的な骨折を探します。より詳細な骨の異常や骨髄腫細胞の分布を知るためには、CTやMRIが選択されることがあります。また、近年では、体の他の部分に存在する異常を特定するためのPET検査も導入されています。
ただし、多発性骨髄腫の診断の際には、造影剤を使用すると腎機能に影響を及ぼす可能性があるため、造影剤を含む画像診断は基本的に避けられます。
PET検査は、がんの存在、拡散、他の部位への転移の確認や治療の判定、再発の確認などのための高度な診断法です。この検査は、がん細胞がブドウ糖を好む性質を利用して、放射性物質を結合させたブドウ糖を使用し、がんの位置や範囲を特定します。
多発性骨髄腫のタイプ
多発性骨髄腫には何種類かのタイプがあります。
- ・意義不明の単クローン性ガンマグロブリン血症 (MGUS):M蛋白や骨髄中の形質細胞が存在するが、症状や臓器障害はない。
- ・無症候性骨髄腫 (くすぶり型):M蛋白や骨髄中の形質細胞が存在するが、症状や臓器障害はない。
- ・症候性骨髄腫:症状が存在する。
- ・非分泌型骨髄腫:M蛋白は存在しないが、同様の症状がある。
- ・孤立性形質細胞腫 & 多発性形質細胞腫:骨や他の組織に骨髄腫細胞の塊が存在する。
- ・形質細胞性白血病:末梢血中に骨髄腫細胞が存在する。
そして、多発性骨髄腫の病期は進行度により、Ⅰ〜Ⅲまでの3段階に分類されます。数字が大きいほど病気が進行していることになります。
多発性骨髄腫の治療
多発性骨髄腫の治療にはどのような方法があるのでしょうか?
自家末梢血幹細胞移植療法
多発性骨髄腫の治療法として、自家末梢血幹細胞移植療法があります。この方法では、患者自身の造血幹細胞を事前に採取し、保存しておきます。その後、大量の抗がん剤を使用して腫瘍細胞を大幅に減少させる治療が行われますが、この過程で正常な血液生成能力が失われるため、保存しておいた造血幹細胞を再び体内に戻すことで、血液の生成能力を回復させます。
この治療法は、通常の化学療法よりも長期的な働きが期待できる一方、完全な治癒は難しいとされています。合併症のリスクも存在し、特に重症感染症のリスクが指摘されています。しかし、この治療法は現在、特に若い患者に対しての標準的な治療として推奨されています。治療後には、さらに病気の進行を抑えるための追加治療も行われることがあります。
薬物療法
多発性骨髄腫の治療には、近年いくつかの新規薬剤が導入され、治療の選択肢が増えてきました。ベルケイド、サレド、レブラミドはその中でも特に注目される薬剤で、さらにエムプリシティ、カイプロリス、ニンラーロなども新たに承認されました。
治療の選択は、患者の年齢や合併症、その他の治療計画などに基づいて行われます。初回治療では、ベルケイドやレブラミドと、ステロイドの一種であるレナデックスの併用が一般的です。また、ベルケイドは注射で、レブラミドは内服となるため、高齢者などの通院が難しい患者にはレブラミドが適しています。不十分な場合や再発した場合には、新規薬剤や未使用の薬剤が選択されることが多いです。
エムプリシティは新しい抗体製剤で、カイプロリスやポマリストも新たな選択肢として用いられます。治療の選択は、患者の状態や通院のしやすさ、副作用を考慮して行われ、新しい薬剤の開発も進行中で、今後の治療の進展が期待されています。
放射線療法
多発性骨髄腫の放射線治療は、骨髄腫細胞の放射線に対する高い感受性を利用して、腫瘍の縮小や痛みの緩和を目的としています。特に骨病変が限定的な範囲にある場合、少量の放射線照射で良好な結果が得られますが、脊髄を圧迫するような骨病変の場合は、放射線治療と同時にステロイド剤などの迅速な治療が必要となります。
多発性骨髄腫の予後
多発性骨髄腫は現在完全に治癒する治療法が存在しないものの、新しい治療法の導入により多くの患者が治療の結果を実感しています。近年の治療法の進歩により、患者の平均生存期間は伸びており、その期間は患者の状態や治療反応によって異なることが知られています。
特に、腎臓の状態や血中の特定タンパク質の濃度、形質細胞の遺伝学的特性などが予後の指標となります。また、骨の合併症を予防する治療や血球の生産を促進する薬、鎮痛薬の使用により、患者の生活の質が向上しています。しかし、長期の治療後には、白血病や骨髄の機能低下などの合併症が現れることがあるため、注意が必要です。
終末期のケアに関しては、患者、家族、医師との間でのコミュニケーションが重要であり、具体的なケアの方針や痛みの管理などについての話し合いが推奨されています。
「多発性骨髄腫」についてよくある質問
ここまで多発性骨髄腫の症状を紹介しました。ここでは「多発性骨髄腫」についてよくある質問に、Medical DOC監修医がお答えします。
多発性骨髄腫は遺伝的な疾患ですか?
根来 和輝 医師
多発性骨髄腫の原因は完全には明らかではありませんが、近親者間で多発性骨髄腫の発症が多いため、遺伝的要因が関与している可能性が考えられています。その他の要因として、ベンゼンなどの有機溶剤への接触や放射線への曝露も考えられる原因として挙げられます。
多発性骨髄腫の発症を予防する方法はありますか?
根来 和輝 医師
現在のところ、多発性骨髄腫の発症を特定的に予防する方法は確立されていません。しかし、健康的な生活習慣を維持し、有害な化学物質や放射線からの過度な曝露を避けることで、リスクを低減することは考えられます。
編集部まとめ
ここまで多発性骨髄腫の原因についてお伝えしてきました。多発性骨髄腫の原因の要点をまとめると以下の通りです。
⚫︎まとめ
- ・多発性骨髄腫は、血液中の特定の細胞、形質細胞が異常に増殖することによって生じるがんの一種である。
- ・多発性骨髄腫は、骨密度低下、血液異常、腎臓障害、血の粘度上昇などの症状を引き起こす。これらは異常な形質細胞の増加と関連している。
- ・多発性骨髄腫の治療は、骨髄腫細胞による臓器障害や症状が現れたときに必要とななる。主な治療法は、抗がん剤による化学療法で、骨髄腫細胞を減少させることを目的とし、適応がある場合、自家造血幹細胞移植が行われ、大量化学療法の後に移植が実施される。移植が不可能な場合は、通常の化学療法が続けられる。
「多発性骨髄腫」と関連する病気
「多発性骨髄腫」と関連する病気は2個ほどあります。
各病気の症状・原因・治療方法など詳細はリンクからMedical DOCの解説記事をご覧ください。
造血幹細胞は分化し、リンパ球性の白血病はリンパ球系、骨髄性の白血病は骨髄球系の異常増殖によるものです。悪性リンパ腫はリンパ球ががん化し、リンパ組織や他の臓器で無制限に増殖する病気です。
「多発性骨髄腫」と関連する症状
「多発性骨髄腫」と関連している、似ている症状は8個ほどあります。
各症状・原因・治療方法などについての詳細はリンクからMedical DOCの解説記事をご覧ください。
関連する症状
- 貧血
- 鼻血、歯ぐきからの出血
- 倦怠感や発熱
- 背骨などの骨折による痛み
- 高カルシウム血症
- 過粘稠度症候群
- アミロイド沈着
多発性骨髄腫の診断や治療に関する情報をしっかりと理解し、医師とのコミュニケーションを大切にして、適切な治療とサポートを受けることを心から願っています。正確な診断のためには、専門的な検査や評価が必要となります。上記のような症状が少しでも気になれば、早めに病院へ行き相談しましょう。